大来佐武郎の発言 (安全保障特別委員会)
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○大来国務大臣 衆議院安全保障特別委員会が開催されるに当たりわが国の安全保障問題につき所信の一端を申し述べます。
本年は現在の日米安全保障条約が昭和三十五年に締結されて以来二十周年に当たります。この条約の締結二十周年目に際会し、また、安全保障問題の重要性が最近の国際情勢に照らし内外でも改めて認識されているこの時期に、国民の総意を代表する国会において安全保障問題に取り組むための本委員会の発足を見たことはまことに時宜を得たものであると考えます。
今日の国際社会において国家が独立を維持し、自主的な外交を進めていくためには、何よりもまずその安全が確保されていることが不可欠であります。そして国の安全は本来、まずそれぞれの国が自分で守るよう努めるべきは当然でありますが、現在の世界において独力で自分の国の安全を確保することは困難であります。そこで、再び軍事大国の道を歩まぬことを誓ったわが国としましては、自衛に必要な限度の防衛力を整備するとともに、米国との安保条約によってわが国の安全を確保することとしております。
もとより、国の安全を守るための努力はひとり軍事力の分野のみに限られるものでなく、紛争を軍事的に抑止するための軍事力とともに、紛争を政治的に抑止し、また、資源・エネルギーの確保を含め総合的な安全を確保するための積極的な外交努力が必要であることは言うまでもありません。この意味で軍事的抑止力と右のような積極的な外交努力とはわが国の安全にとっては、車の両輪のごときものであると考えます。
政府といたしましてはこのような考え方に立って安全保障政策の柱として第一に、日米安保体制の円滑で効果的な運用、第二に、わが国の自衛力の質的向上、第三に、アジアを初めとする世界の平和と安全のための日本の積極的な外交努力という三つの分野において努力してきておりますが、この機会に第一の柱である日米安保体制の現状につき一言御説明申し上げたいと思います。
日米安保体制については、わが国内においていろいろな論議のあったことは御承知のとおりでありますが、戦後わが国が今日までの平和と繁栄とを享受できましたのは、日米安保体制を基礎とする揺るぎない日米友好関係があったからであることについては、いまや異論のないところと考えます。最近の官民を通ずるほとんどあらゆる世論調査を通じて、安保体制への支持が過半数を優に上回っていることは御承知のとおりでございます。
さらに、近年安全保障の分野における日米両国の協力関係はかつてないほど良好に進展しております。
第一に、日米防衛協力に関する基本的枠組みとなる「日米防衛協力のための指針」が一昨年十一月の日米安全保障協議委員会で了承され、現在これに基づき共同作戦計画の研究を中心とする具体的研究が自衛隊と米軍との間で進められております。
第二に、わが国には現在約四万五千の米軍が駐留しており、米国はそのための経費として毎年十数億ドルの支出を行ってきております。政府としてはこの経費の面において地位協定の枠内でなし得る限りの協力を行ってきておりますが、このことは安保体制の安定的運用の面で大きな役割りを果たしております。
次に、日米安保体制の円滑で効果的な運用を期する上において米軍によるわが国施設、区域の安定的な使用が重要であることはいまさら指摘するまでもありません。このためには国民の理解、なかんずく施設、区域の周辺地域の住民の方々の理解と支持を得ることが不可欠であります。このため政府としては従来より施設、区域の整理統合計画を推進するとともに安全対策、騒音防止等各種の施策を通じ、周辺環境への影響を最小限にとどめ得るよう努力してきている次第であります。
さらに、日米安保体制は、今日広く国際政治の与件として定着し、現在のアジアにおける国際政治の枠組みの重要な柱としてわが国の安全保障のみならず、アジアひいては世界の平和と安全の維持に寄与するものとなっていることも指摘しておきたいと思います。
さて以上に申し述べた安全保障政策はわが国の直面する国際情勢についての的確な判断に基づいて進めて行くことが必要であります。そこで次に最近の国際情勢について申し述べたいと存じます。
今日の国際関係は、多元化への傾向を見せておりますが、安全保障の観点から見る限り、国際情勢の帰趨に最も重要な影響を与えるのは、依然として米ソ関係を中心とする東西関係であります。
米ソは基本的には核戦争回避の点で利害を同じくしており、そのための相互の関係の調整の努力が行われてまいりました。SALT交渉はその典型的な例であります。
その間にあって最近、注目されているのはソ連の軍事力の着実かつ著しい強化であります。ソ連は過去二十年間一貫して核及び通常戦力の双方の分野において、軍事力強化の努力を続けていることは周知の通りでありますが、これに対し、米国及び他の西側諸国は軍事バランスが西側に不利とならないよう、防衛努力の強化を図るに至っております。
ソ連は一方で国際緊張緩和を唱えつつ、他方でこのような軍事力の強化をも背景としてアジア、アフリカ、中近東などの地域に対する影響力の拡大を試みており、最近のアフガニスタンに対する軍事介入もかかる観点からとらえることができると考えられます。米ソを中心とする東西関係は対立と協調の二面性を有していますが、最近では以上のごとく対立の側面がクローズアップされるに至っております。
このような東西関係の推移と並んで現在の国際政治においては、最近イランを初めとする中東地域、アフリカ、さらにインドシナや中南米等世界各地において不安定な情勢が見られるごとにも注目する必要があると思います。
わが国の安全にきわめて重要な地位を占める東アジア地域においては、米国のプレゼンスが同地域の平和と安定を支える基本的な要素でありますが、米国は在韓米地上軍撤退計画の凍結、米比軍事基地協定の改定、マニラ条約に対するコミットメントの再確認等この地域に対する米国のコミットメントを遵守する意向を明示しております。
他方、ソ連はグローバルな軍事力強化の一環として、アジア地域においても軍事的プレゼンスを強化しており、ベトナムに足がかりを築かんとする動きを示しつつある一方、特に極東においては、わが国固有の領土たる北方領土においてもその軍備を強化していることはわが国として重大に受けとめざるを得ないところであり、潜在的な脅威が増していると言わざるを得ません。
中国は、現在国の近代化を最大の国家目標としてこれに全力を傾注しております。対外的には近代化を進める必要性もあり、わが国を初めとする西側諸国との交流、協力を深めつつありますが、これに対し、ソ連及びその後押しを受けたベトナムに対しては強い対決姿勢をとり続けております。
朝鮮半島においては、南北間の対立という現実に基本的変化は見られないものの、米韓両国による有効な抑止力の維持向上の努力、また、わが国及び米国、中国等の関係諸国間の対話の努力等もあり、大規模な軍事衝突の危険性はそれほど大きくないと見られます。
また、東南アジアにおいては、ASEAN諸国が連帯と強靱性強化への自主的努力を着実に進め、地域の安定勢力としての地歩を固めつつある一方、インドシナ情勢については、今後の関係国の出方いかんにもよりますが、安定回復までには時間を要するものと思われます。このように、東アジアにおいては平和と安定を目指す動きとともに、紛争と対立をはらんだ厳しい不安定要因が並存、錯綜していると申せましょう。
以上に申し述べたとおり、国際情勢はソ連の世界的な軍事力強化とイラン情勢にも示されるような世界各地における不安定な情勢の増加により厳しさを増してきております。このような国際情勢に効果的に対処し、国際の平和と安全の維持を図っていくためには、守るべき共通の価値と利益を有する先進民主主義諸国が協調しつつ、それぞれが与えられた条件のもとでなし得る最大限の努力を払っていかなければなりません。米国及び西欧諸国において、現在国防努力強化の必要性が官民一致して強く叫ばれているのはこのような事情によるものです。そして、今日主要先進民主主義諸国の一員としてのわが国に対し国際的に期待されているのも、まさにこうした努力にほかなりません。わが国は、現在わが国が置かれているこうした状況を直視し、このような状況においてわが国として何をなすべきかをわが国自身の問題として真剣に考えるべきであります。いわゆる日本有事の際、米国はわが国に来援するかという点について最近時として疑問が呈せられておりますが、この問題は、いま申し上げたわが国の努力という文脈で考えられるべき問題であると思います。政府としては、わが国が民主主義という米国と同じ政治信条を共有しており、また、現在の日米友好関係、貿易、経済を初めとする各分野における緊密な両国関係の米国にとっての意味を考えれば、米国は、米国が日本を守るのは米国の国益でもあることを十分認識しており、したがって、米国が日本に来援することを確信しております。ただ、この確信をより強固なものとするためには、わが国としては、一朝有事の際、米国が来援しやすいような体制をふだんから整備しておくこととともに、米国がわが国を守ることは米国の基本的な国益に沿うものであることを、米国民にふだんから認識させ得るような日米関係の実体を確保する努力をする必要があるということであって、その意味では、この問題は、わが国の努力のあり方にもかかることであると考えるものであります。政府としては、このような観点からもわが国の自衛力の整備を進めるとともに、日米安保体制の一層円滑かつ効果的な運用を図るための自主的な努力を今後一層真剣に進めていく決意でございます。
以上わが国の安全保障問題につき所信を申し述べました。
国家の安全保障を効果的に図っていくためには、変遷していく情勢に対応しつつ長期的な視野に立って、一貫した、かつ、持続的な努力を行っていくことが必要でございます。このような努力を行っていくに当たり国民の不断の理解と支持が不可欠であることは改めて申すまでもありません。この特別委員会において、坂田委員長を初め委員各位が、その高い識見と豊かな経験に基づき、わが国の直面する国際情勢を踏まえ、安保・防衛問題について自由濶達にして建設的な審議を行われていくことにより、これらの問題に対する国民各位の理解と認識が一層深まり、これを通じ、この特別委員会が国民の総意に基づく安全保障を確保していく上で重要な役割りを果たしていくことを強く期待する次第であります。(拍手)