木下昌雄の発言 (科学技術振興対策特別委員会)
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○木下参考人 ただいま御指名いただきました日立造船の社長の木下でございます。主として産業界の立場から意見を申し上げることになろうかと存じます。
私は、かねてから世界のエネルギー事情、特に石油供給の量的不足並びにその価格高騰の問題、なかんずく石油資源が、戦略物資ないしは政略物資として国家間の不当な要求押しつけの道具として使用されることに対して深い関心を持っておりましたが、今回、去る四月二十六日から一昨々日、五月十一日まで、ロンドンを初め西欧数カ国を歴訪いたしまして、その間、四月二十八日と二十九日の両日、ロンドンで開催されましたコール・ファイアード・シップス・コンファランス、すなわち石炭だき船の国際会議に出席いたしました。ただ一人のシップビルダーとしての立場から、本問題に関する見解を講演する機会を得ました。私と前後して同じく講演されましたイギリスの前総理大臣のヒース氏の、政治的立場からの見解や、また世界の大船主や海運業者や英国政府の石炭庁の専門家の方々等の多角的な立場からの見解を聞くことが同時にできまして、その討議に加わることによりまして、最近、北海油田の開発成功によって新しく産油国の側に加わることになりました英本国やノルウェー等でも、かえってわが国以上に石油にかわるべきエネルギー源に深い憂慮と関心を持って真剣に検討し、実質的な研究開発を進めている実情を私は目の当たりに見、はだで感じることができた次第でございました。さしあたってすぐに実用化し得る代替エネルギーは石炭でございますが、その次には、必ず現状よりもさらに安全化された核分裂による原子力平和利用であることにつきましても、私ども話し合うことができましたし、また有識者の一致した見解でございました。
海運界及び造船界を含めまして、わが国産業界の原子力船開発の意義並びにその必要性に関する考え方につきましては、お手元の昭和五十四年二月二十八日付の日本原子力産業会議によります「原子力船懇談会報告書」という中に、その一ページないし三ページに詳しく述べておるとおりでございます。
詳しくは省略さしていただきますが、要するに、原子力船の開発は、単に石油資源の節約のみにとどまらず、一たん装荷されました核燃料のすぐれた持続性のために、石油供給の不安等緊急時においても、原子力商船によりまして、国民の生活必需物資の円滑な輸送を確保しまして、国内に生じるおそれのあるパニック状態を未然に防ぐ、すなわち、広義のナショナルセキュリティーのためにも意義が大きいと考えておる次第でございます。
一方、わが国の海運界は、従来、常に船舶の大型化、専用化及び高性能化を図りまして、世界第二位の船腹量を保有するに至っております。また、わが国の造船界は、常に新しい技術の開発向上に努めまして、多年にわたって世界第一位の建造実績を堅持してきております。
このような海運、造船界の技術革新が、わが国の経済の発展にきわめて重要な役割りを果たしてまいりましたことは、衆目のひとしく認めるところではなかろうかと存じます。しかし、過去数年間にわたりまして、世界の海運、造船界が深刻な構造不況に苦しみましたことも、また御承知のとおりでございまして、そのため、特に造船業界において、中長期的な視野に基づく原子力船等の研究開発に対する人的、物的投資を幾分差し控えざるを得なかったことは事実でございます。確かに、最近は多少クールダウンしておったことは、この構造不況に悩んでおりました期間、認めざるを得なかったことでございますが、しかし、長期的な展望におきましては、世界貿易の拡大と、それに基づく海運、造船界の発展につきましては、何ら疑いを差しはさむ余地のないところと信じておりますので、造船各社とも、原子力船の研究開発と人材、費用等の面で、決して火種を絶やすことなく温存し続けて、いつ何どきでも、必要とあらばこの火種をもとに急速に燃焼拡張せしめる準備を整えておる現状でございます。
今後、わが国の海運、造船界が先進工業国に伍しまして発展途上国の造船業を援助しつつ、今後とも安定した発展を遂げますためには、高付加価値の技術集約型船舶に活路を求める必要がございます。原子力船の開発がその重要な柱となることは明白と存じます。
さて、米国、ソ連、英国、フランス等における原子力艦船——軍艦でございますが、その建造実績の積み重ねが原子力商船建造技術に応用され得ることを考慮いたしますと、西ドイツとともに原子力平和利用に徹しておりますわが国といたしましては、これら国情の違いから来る彼我の技術格差を克服するためには、国を挙げて、官学民真に一体となって研究開発及び関係技術者の育成を強力に推進いたしまして、十分に国際競争力のある原子力商船の建造、運航の技術基盤を早急に確立しない限り、今後のわが国の海運、造船市場の発展はおろか、現状維持すら期しがたいことは明らかと存じます。
また、日本と同じく原子力平和利用に徹しておりながら、官民一致の努力によりまして、独自の原子力商船オット・ハーン号を完成、運航させることに成功いたしました西ドイツにつきましては、かつて日独共同で八万馬力の原子力コンテナ船の試設計と、その経済性の評価作業を、二年間にわたりまして実施いたしたことがございますが、当時オット・ハーン号は、すでに就航いたしておりました。わが「むつ」は、盛んに建造中で、船台で建造しておるという状態でございました。
私は当時、日本郵船、大阪商船三井、三菱重工、石川島播磨重工及び日立造船の五つの会社から成ります日本側チームのチェアマンといたしまして、この共同作業に当たった者でございますが、その当時、原子力船に関する彼我の技術力の格差は、ごく限られた一部につきましては、確かにわれに五年ないし十年の立ちおくれが見られたのでございますけれども、総体的に見ますと、彼我の知識、技術は、互いに補完し合う状態でございました。共同試設計、共同評価に際しましても、まことに彼我対等のきわめて気持ちのいい共同作業ができた次第でございます。
これらの事実から類推いたしますと、米ソ、英仏を含めたいわゆる原子力船先進国との間の技術ギャップも、とうてい追いつけないほどの大きなものではなくて、今後のわが国における官学民の一致協力体制及びその運営によろしきを得ますならば、比較的容易に追いつき得るほどのものと確信を深めております。
今後、わが国におきまして行われる原子力船開発の目標といたしましては、海運界が在来船以上に大きな制約を受けることなしにその運航する船隊に加え得るような原子力商船の実用化を図ることでございます。原子力船だからといって特別の配慮、何か特別のことをしないで従来の船隊にそのまま加え得るような船を、原子力船をつくること、これが究極の目的でございます。
そのためには、細かい技術的な説明は、先ほど竹村参考人からも若干ございましたし、時間の関係上省略させていただきますが、とどのつまりは、安全性、運航性及び経済性において全く疑念の余地を残さない原子力船を建造し、運航する技術をソフト及びハードの両面で確立することでございます。
そのためには、まず信頼性のある舶用炉の技術開発、安全性確保のための船体構造等の開発及び運航技術の確立などを、幅広くかつ整合性をもって行う必要がございます。そのためには、ぜひとも自主技術の確立に重点が置かれた開発姿勢が必須の要件と存じます。
次に、原子力船研究開発のスケジュールについて申し上げますと、冒頭において、さしあたりは一部特定の航路に石炭だき船時代が来ることは必至であると申しました。その次に原子力船時代になるとの予想を申し上げました。すなわち、お手元にございます「原子力船研究開発専門部会報告書」という昭和五十四年十二月二十日の日付の報告書によりますと、二十一世紀に入りますころには、三万馬力程度以上の出力の商船の分野で原子力商船実用化時代に入るとの予想を立てているのでございますが、この報告書完成後生じましたイラン紛争及びその後の経過をあわせ考えますと、その時期は相当繰り上がってくるのではないかと予想されるのでございます。したがって、それに備えて、造船界さらには海運界が何どきでも設計し建造し運航し得る体制を、いまから整えておくことがぜひとも必要となってまいりました。
これらを勘案いたしますと、今日ただいま直ちに改良舶用炉プラントの研究開発に着手するとともに、「むつ」の総点検、改修を、関係企業、事業団の労使間で安全確保その他に関して事前に十分な検討、合意が得られました上で、全力を挙げて急いでいただき、機能試験、出力上昇試験並びに実験航海を、若干繰り上げてでも完全かつ急速に行うことがぜひ必要と考えられるのでございます。
最後に、原子力船の研究開発を推進いたすためには、長期にわたる総合的な研究開発と多額の資金、人員が必要でございます。したがって、わが国の原子力船の開発に当たりましては、他のいわゆる先進工業諸国におけると同じく、その安全性、経済性が実証され、実用化の見通しが得られます段階までは、国が主体となって研究開発を推進することが望ましいと存ぜられます。造船界、海運界、原子力機器産業界等を初め、民間産業界におきましては、当面主として人材の面、技術の面、この両面において積極的にこれに協力いたしまして、実用原子力船建造の見通しを得ました後は、内外の諸般の情勢を勘案しつつ、国の適切な援助のもとに、今度は民間主導によって開発を進めるという筋書きが適当ではないかと考えられます。
私は、今後、わが国の恒久的な研究開発機構として、原子力船の研究開発機構として、技術ノーハウの蓄積伝承が完全に行われ、若い大学卒業生が競って入所を希望し、また民間企業が心から喜んでその人材を出向派遣し得るような、また研究開発の分担にも喜んで応じられるような、そして本当に企業の経営者も企業内の研究者、技術者もひとしく心から協力し得るような民主的運営がなされる新しい原子力船研究開発機構ができますことを心から期待しておる次第でございます。
以上で私の陳述を終わります。(拍手)