野口悠紀雄の発言 (大蔵委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(野口悠紀雄君) 野口でございます。本委員会におきまして意見を述べる機会をお与えいただきましたことを、光栄に存じております。
 私は、次の二点について意見を申し述べさしていただきたいと思います。
 第一は、今回その改正が御審議中でございます土地税制の問題でございます。それから第二番目は、やや一般的な問題ですが、インフレーションのもとでの課税原則の問題ということについて、意見を申し述べさしていただきたいと思います。
 まず最初に、土地税制の問題でございますが、譲渡益課税の変更が土地の売却を促進するかどうか、あるいはさらに、それが地価の水準や地価上昇率にどういったような影響を与えるかという問題は、実はかなりむずかしい問題でございまして、経済学者の間でも、この問題について必ずしも一致した意見があるわけではございません。税制調査会における議論でも、必ずしも同じような意見だけだったというわけではないということを伺っております。
 大ざっぱに申しますと、譲渡益課税の強化がどういったような影響をもたらすかということについては、二つの異なった見方があると思います。
 譲渡益課税を仮に強化した場合に、それが土地の売却を促進するかどうかという点に関して、まずそれが売却を阻害するという意見があるわけでして、これは結局、譲渡益課税で手取りが少なくなれば、それだけ土地を売ることが魅力を失うために売却量が減ってしまうという、いわば譲渡益課税の強化による土地の凍結効果を主張する考え方がございます。
 これに対して、全く逆の効果があるという意見もあるわけでして、それは仮に、土地を売る人が一定の税引き後の手取り額を得ることを目的にして売却をするのであれば、その場合には、税金が高いほど手取り額が少なくなるわけですから売却量を多くしなくてはいけない、したがって譲渡益課税を強化すると土地の売却が促進される、あるいはまた、その譲渡益課税を強化した場合には、財産としての土地の価値が低下するために、持っていることの魅力が低下して売却が促進されるというような意見もあります。
 そういったようなことで、譲渡益課税の強化が土地の売却に対してどういう影響を与えるかということに関して正反対の考え方があるわけですけれども、一般的には最初に述べました考え方、つまり土地税制の強化は土地売却を阻害する。したがって、譲渡益課税を緩和すれば売却がふえるという考え方を主張する方が多いようでして、実際、従来でも、分離課税の上限が二千万円だったことから、地主は一度に多くの量を売らないで、譲渡益が二千万円になるところまでしか切り売りしないというようなことがよく言われております。
 仮にそういう考え方をとるとしますと、今回、分離課税の上限が二千万円から四千万円に引き上げられたということで、売却がそれだけ促進されるという評価も可能ではないかと思います。恐らくこの改正は、そういったような考え方を基本にして提案されているのだというふうに思いますが、しかし、もう少し考えてみますと、実は事態はそれほど簡単ではございませんで、いまの議論は、土地の税制を変化した場合にそれが土地の売却価格とか、あるいは将来の地価上昇の予想に対して影響を与えないという前提に立って売り手の行動を議論しているわけですが、しかし実際には、土地の売却価格とか、あるいは将来の地価上昇の予想というのは税制によって影響を受けるわけです。
 たとえば、税制が強化された場合には、税引き後の手取り額が一定になるように地価が上がってしまうということは十分考えられるわけでして、もしそういうことがあるとしますと、譲渡益課税を強化すると、その分だけ地価が上がるという現象が生ずることになります。
 実はこの問題は、税をかけた場合にその負担がどこに帰着するかという土地税制だけの問題ではありませんで、税一般に対して存在する帰着と言われる問題で、実はかなりむずかしい問題でございます。土地についても、土地に対する需要と供給の弾力性がどうなっているかということで、いま申しました結果が影響を受けるわけですが、一般に土地の場合には、供給の弾力性がかなり低いというふうに考えてよろしいかと思いますので、その限りで考えますと、譲渡益課税を強化した分だけ地価が上がってしまうと、そういう結果が生ずる可能性はかなり強いというふうに考えざるを得ないわけです。
 実際、土地とその他の金融資産との間の裁定という問題を長期的に考えますと、資産としての土地とその他の資産との間には、一種の裁定関係が成立するということが考えられます。
 若干込み入った議論になりまして恐縮でございますけれども、いま仮に、ある一定額の資産を持っている人が、それを土地という資産の形態で運用するか、あるいはほかの金融資産で運用するかという選択があったというふうに考えますと、長期的な均衡の状態においては、両者の税引き後の利回りが同じになるということが考えられるわけです。いま仮に、金融資産に対する利子その他の収益に対する課税を無視するとしますと、税引き後の土地の収益と金融資産の収益が一致するという条件が成立することになります。
 よりもう少し詳しく申しますと、地価上昇率に一から譲渡税率を引いたものを乗じたものが、金融資産の利回りに等しくなるという関係が長期的には成立するというふうに考えられるわけです。
 で、そういったような裁定条件が長期的に成立するというふうに考えますと、譲渡税率を高くすると、その分だけ実は地価上昇率が上がってしまうという結果が生じ得るわけです。現在、土地の譲渡益に対する課税は、短期保有の場合には住民税と合わせますと五〇%を超える水準になっておりますので、先ほど申しました公式で考えますと、地価上昇率というのは利子率の約二倍の水準になって均衡するということになります。短期保有の譲渡益課税を現在のように非常に高率なものに設定したときの理由は、土地に対する投機を防止するということが立法の趣旨だったと思いますが、それはそういう税制によって地価上昇率が影響を受けてしまうということを無視した考え方であるわけです。
 いま申しましたように、長期的に地価上昇率が税制によって影響を受けて均衡が成立するということを考えますと、譲渡益課税が高くなることの結果というのは、結局、地価上昇率が高くなるということにあらわれてしまうことになります。
 ところが、いま申しましたのは、資産を持っている人が土地か、あるいは金融資産で運用するという場合でしたけれども、実は土地に関してはそういったような選択とは違う選択をする人がいるわけでして、二つのグループがその例外になっております。
 一つのグループは、すでに土地を持っている人でございまして、たとえば市街化区域内で先祖伝来の農地を持っているというような人の場合でございます。そういうような人の場合には、選択は結局いま持っている土地を持ち続けるか、あるいはそれを売って金融資産に乗りかえるかということが資産選択の代替案になるわけです。その場合には、いずれにしても譲渡益課税を免れることはできないわけですから、先ほどの裁定条件がどういうことになるかと申しますと、地価上昇率と利子率が等しいというのが裁定条件になります。
 ところで、先ほど申しましたように、地価上昇率が利子率の約二倍の水準になっているというふうにしますと、そういったような人たちにとっては裁定条件が成立しないということになるわけですから、土地を持っていることの方が有利になってしまう。したがって、そういう人たちは土地を売らない。いわゆる売り惜しみが発生するという現象が生じます。
 それからもう一つのグループは、居住用財産の買いかえをする人たちでございます。居住用財産を買いかえる場合には、特例措置によって譲渡益課税を免れることができるわけですから、この場合にも、やはり現在金融資産を持っていて将来不動産を買うか、あるいはいま仮に条件が悪くても不動産を買って将来それを買いかえるかという二つの選択を比較してみますと、どちらが有利になるかという裁定条件は、やはり地価上昇率と利子率が等しいという条件によって与えられることになります。
 この場合にも、やはり地価上昇率が利子率の二倍の水準になっているとしますと、金融資産を持っていて将来土地を買うよりは、現在土地を買ってしまった方が有利になるということで、居住用財産を買えるだけの資力を持っている人は、それを金融資産で運用することはしないで、条件が悪くても土地ないしは住宅を買ってしまうという、いわゆる買い急ぎの需要が発生するわけです。
 私は、実はこの土地の売り惜しみと買い急ぎという問題は、現在の大都市における土地問題においてきわめて重要な問題であるというふうに考えますが、その基本的な原因は、短期保有の譲渡益課税が、ほかの資産に対する課税に比べて高過ぎるという点にあるというふうに理解できるのではないかと思います。
 ただ、ここで誤解のないように申し加えたいと思いますのは、私のいま申しました意見は、譲渡益課税の税率を下げた方がいいということを言っているわけではありませんで、そうではなくて、土地政策のために税制を使って政策的な誘導を行おうとすると、当初の意図とは全く違った効果が生じてしまう場合があり得るということです。
 いまの短期保有の譲渡益の場合も、先ほど申しましたように、立法の趣旨は騰貴を防ぐということであったかと思いますが、実際にはいま申しましたような土地の売り惜しみと買い急ぎを助長してしまうという結果を生ぜしめているという点であるわけでして、したがって、そこから得られる結論というのは、結局、土地の税制を土地政策のために使う場合には非常に慎重である必要があるということでございます。
 基本的には、土地の税制というのは、ほかの資産に対する課税と同一の課税を行う必要がある。つまり、資産の選択において、税制が中立性を確保する必要があるというふうに考えられます。ですから、これは譲渡益課税の税率を高くしろとか低くしろとかということを言っているわけではございませんで、ほかの資産課税と同じような課税を行って、中立性を確保する必要があるということでございます。
 そういったような観点から考えますと、先ほど一河参考人からも御指摘がございましたように、少額貯蓄が非課税になっているとか、あるいは有価証券のキャピタルゲインが原則的に課税されないという点は、非常に大きな問題であろうかというふうに思います。一河参考人は、この問題を公平の観点からお述べになったわけでございますが、資源配分における中立性の確保という観点からしても、重要なことではないかと思います。
 私は、基本的には、土地問題の解決には税制は補助的な手段であるべきであって、本来の土地対策というのは、それとは別の観点から考えられる必要があるのではないかというふうに思います。これに関して私は私なりに考え方を持っておりますが、この問題は、直接にはこの委員会の御審議の対象とは外れますので、もし御質問がございましたら後で申し述べさせていただきたいと思いますが、ここでは省略させていただきたいと思います。
 それから、時間が若干超過しまして恐縮でございますが、簡単に第二番目の、インフレのもとでの課税の原則について申し述べさせていただきたいと思います。
 インフレーションというのは、申すまでもなく所得分配にいろいろな変化を引き起こすわけでございます。たとえば、債権者と債務者の間での所得分配に変化が生ずる。いわゆる債務者が、実質債務が減少することによって得をするというような状況が発生します。これはこの問題だけではなくて、インフレーションはほかのいろいろな点で所得分配を撹乱していくわけですが、そういったような問題に対して課税が中立性を確保すべきではないかという議論がございます。これは所得税、法人税についてそういうことが言われるわけですが、アメリカではここ数年、ことに税制の問題に関しては、こういうインフレーションに対する中立性の問題について、さまざまな議論がなされております。
 具体的な点を申しますと、たとえば在庫品の評価ないしは減価償却の計算において、歴史的なコストではなくてインフレーションでその価値、資産を再評価したものを用いるということであるとか、あるいは先ほど申しましたような借り手と貸し手の間の所得分配に対して課税を行う、具体的には借り手のキャピタルゲインに対して課税を行うというような問題等が指摘されております。
 この問題につきましても、誤解がございませんようにつけ加えさせていただきたいと思いますが、いま申しましたのは、いわゆる物価調整減税の立場から所得税を減税しろということを言っているわけではございませんで、税収の総額と申しますのは、いま申し述べましたような中立性の観点ということのほかに、財政全般の事情を考慮して決められるべきものであろうかと思いますので、私の申し述べたいと思います意見は、総額の問題として減税をしろ、あるいは増税をしろということではなくて、税構造の問題として、税制がその当初予期していなかったような効果をインフレーションによって引き起こすことのないような調整が必要になるのではないかということでございます。
 わが国におきましては、ここ数年間はインフレーションの率がそれほど高くはありませんでしたので、いま申しましたような問題はそれほど深刻な問題ではなかったかと思いますが、今後は、かなり重要な問題として考えなければならなくなってくるのではないかというふうに考えております。
 以上で私の意見を終わります。

発言情報

speech_id: 109114629X00719800326_007

発言者: 野口悠紀雄

speaker_id: 18563

日付: 1980-03-26

院: 参議院

会議名: 大蔵委員会