森井忠良の発言 (社会労働委員会)

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○森井議員 私の記憶では、野党案を提出いたしまして与党から御質問をいただくということは初めてでございまして、きわめて光栄に存じます。
 御質問がずいぶん長うございましたから、正確に全部お答えできないかと思いますが、骨子につきましては明確にお答えしたいと思っております。
 与党の方では、現行二法を年々充実をしてかなりな成果を上げているじゃないか、こういう御指摘がございました。私もそれを否定するものではありません。すでに厚生省の原爆関係の予算も九百六十億に近くなってまいりまして、対前年の伸びもたしか一四%ぐらいでございまして、それなりに努力をされました跡については私どもも一定の評価をすることにはやぶさかでないわけでございます。
 しかし、何といいましても根底にあっております考え方が、やはり社会保障でございます。先ほど今井委員御指摘のような原爆基本問題懇談会の答申が出されまして、広い意味での国家補償ということがうたわれましたけれども、もしそうだとすれば、わずかしか残っていない所得制限を受けている人の、せめて所得制限ぐらいは撤廃をしてしかるべきだ、こう考えておりましたけれども、残念ながら七人委員会の答申を受けた後の政府提出の特別措置法の改正案にはそれが盛られておりません等々、やはり国家補償の見地からすればまだ現行二法では足りない部分が非常に多いという認識をいたしました。その結果、原爆被爆者等援護法案を提出したわけでございます。
 次に、そういたしますと、いわゆる国家補償というのは一体どういうことなのか、国家補償しなければならない積極的な理由は何なのか。具体的な質問ではございませんでしたけれども、意見の中で出てまいりました。議員立法ですからある程度討論的な御答弁になると思うわけでございますけれども、やはりまず第一に挙げなければならないのは、日本の政府が起こした戦争がいわゆる侵略戦争であったということでございます。当時国民を欺瞞をいたしまして、あたかも日本が起こした戦争が正当なものであるかの宣伝を国民にされまして、率直なところ一億国民すべて日本の軍国主義に欺瞞をされておった、だまされておったという認識をしなければなりません。現にアジアの諸国におきまして、いまなお日本軍国主義の植民地政策あるいは侵略戦争による数々のつめ跡が残っておることをお考えいただけば、十分御理解がいただけると思うわけでございます。
 二つ目は、そういった軍国主義が起こした戦争に対して、結果としてアメリカの原爆投下を招いたわけでございます。アメリカの原爆投下の行為につきましては、私どもは明確に国際法違反だという認識をいたしております。ですからこそ、日本政府も原爆が投下された直後、昭和二十年八月十日にあえて政府声明を出しまして、へーグの陸戦法規その他を対照しながらアメリカ政府を糾弾する政府声明を出していることから見ても明らかでございます。
 なるほど原爆というものは、その当時の戦時国際法におきまして、禁止兵器の中に明確に原子爆弾という言葉は使ってありません。毒ガスでありますとかあるいは生物化学兵器でありますとか、そういった大量無差別に殺戮をする兵器については禁止がされておるわけでございます。しかし、毒ガスですら禁止されておったわけでございますから、それ以上の悲惨きわまりない原爆が明らかに国際法違反であるということは当然であります。
 先ほど今井委員は、昭和四十三年の最高裁判決を引き合いにお出しになりましたけれども、その前に昭和三十八年に東京地裁の判決が出されておりまして、原爆は明確に国際法違反だと断定をしているくだりがあるわけでございます。そのほか、判決の引用についてお願いをしたいのは、たとえば昭和五十三年三月三十日の孫振斗事件に対します最高裁の判決をむしろお読みをいただきたいと思うわけでございまして、今井委員御指摘の判決につきましては、なるほどその判決があったことは認めますが、大方の日本でいままで出されました判決の流れを見ますと、国が国家補償しなければならぬ、こう書いてあると私どもは理解をいたしておるわけでございます。
 いずれにいたしましても、原爆は国際法違反であったという私どもの認識の上に、そういたしますと、アメリカに対して日本国政府は、国際法違反ですから損害賠償の請求をしなければならぬ。しかし、昭和二十七年のサンフランシスコ条約におきまして、一切の対米請求権を日本国政府は放棄をしておるのです。
 ここで今井委員に御理解いただきたいわけでありますが、損害賠償の請求権を日本政府は放棄をいたしましたが、広島や長崎を中心といたします全国の被爆者が損害賠償をしなくてもよろしいと言ったのじゃないわけでございます。あくまでも政府が独断で損害賠償の請求権を放棄したわけでございますから、放棄した日本国政府に対して被爆者やその遺族の皆さんが国家補償を求めるのは当然だという理解をいたしておるわけでございます。
 次に、七人委員会の意見書について言及をなさっておられまして、今井委員は全面的に七人委員会の答申は正しいというふうに認識をしていらっしゃいます。残念でありますけれども、ここが違うわけでございます。私どもも、審議に当たりましては七人の先生方に御期待を申し上げておりましたし、そして一年半に及びます審議の経過については敬意を表しています。しかし、残念ですけれども中身につきましては、被爆者あるいは死没者、その遺族、そういった皆さんの気持ちからすれば耐えられないほどかけ離れた、期待を裏切るものであったというふうに私どもは認識をいたしておるわけでございます。したがって七人委員会の答申は、私どもとしては残念ながら認めるわけにいかない。
 たとえば先ほどもちょっと話が出ましたけれども、いまになって被爆者援護法、野党案のとおり実施をするとすれば国民的な合意を得てきなさい、こういう言い方になっています。しかし申し上げるまでもなく、あの日本が起こした太平洋戦争を終結したのは、原爆投下が大きなきっかけになったことは間違いありません。そして、もちろん戦争犠牲者はすべての国民にわたりますけれども、その中でも、今井委員御認識のとおり、特に原爆被爆者の被害というものは、熱線、爆風あるいは放射線といった史上初の、しかも他に類例を見ない悲惨なものでございました。したがって、とりあえず原爆被爆者から救済をしていかなくてはならぬということになるわけでございますが、もし政府が戦後三十六年たった今日まで放置していなければ、つまり原爆が投下されてなるべく早い時期に被爆者援護法をつくっておれば、いまさら被爆者援護法をつくることについて国民的な合意が必要ということはなかったはずであります。直ちにできたはずでございます。戦争体験も風化した今日になって国民的なコンセンサスを得ろということにつきましては、私は非常に大きな抵抗を感じています。
 いずれにいたしましても、そういうことからいたしまして、七人委員会の答申につきましては、残念ながら私どもは賛成をするわけにいかないという立場で、改めて被爆者援護法案を提出したというふうに御理解をいただきたいと思います。
 答弁が長くなりますから、この辺で具体的にお尋ねをいただきました点について御答弁をしたいと思います。
 国の戦争責任につきましては先ほど申し上げましたが、それではすべての被害について損害賠償しろというのかということでございます。
 実は私どもいろいろ考えましたけれども、きわめて控え目でございます。戦争被害について、たとえば在外資産等を補償した例がございます。しかし私どもは、受けた被害の中で財産被害はこの際言いたいけれども言わない。命と健康の被害に限って被爆者援護法に盛り込もうじゃないか、こういう思想に基づいていまして、したがって財産被害はこの際問わないが、亡くなられた方に対する弔慰あるいは遺族に対します年金等々、また健康被害を受けていらっしゃる方には十分な医療と所得の保障ができる、そういうことに限っておるということを申し上げておきたいと思うわけでございます。
 二つ目は、他の戦争犠牲者との関係があるじゃないか。まさにそのとおりでございます。たとえば亡くなられた方に関しまして申し上げますと、あの静岡や浜松のように艦砲射撃で亡くなられた方あるいは障害を受けられた方、それから三月十日は東京の大空襲でございましたけれども、そういった空襲によって全国主要都市ほとんどが焼かれたわけでございますけれども、そういった一般戦災者の方々、特に死没者と障害を持たれる皆さんに対する国家の補償につきましては、私どもは、悲惨さにおいて原爆被爆者が優先をいたしますが、同時に他の一般戦災者の皆さんも救済をしなければならぬ、こういうふうに考えていまして、余談にわたりますが、参議院から戦時災害援護法案を提出いたしておるところでございます。
 三番目の御質問は、野党案が成立をした場合に一体幾ら金がかかるのだ、それは国民の負担にたえられるのか、こういう御質問でございました。実は私どもも、たとえば昭和四十九年ごろやはり全野党で提出をしたことがございますけれども、その当時は五千億ないし六千億の予算を組んでまいりました。あるとき、いまは行管庁長官をしていらっしゃいます中曽根さんが広島へお見えになりまして、援護法案をつくれといっても一遍に五千億も六千億も金がかかる、とてもこれでは政権政党として負担にたえられない、こういう意味の発言をしておられます。私どもは、いま国の財政がきついことも十分理解いたしまして、良識を持って被爆者等援護法案を提出いたしました。先ほど申し上げましたように、政府の予算もかれこれ一千億になろうとしておるわけでございます。私どもも要求をうんと縮めまして、たとえば弔慰金でありますとか遺族年金でありますとか、そういったものを支給したい気持ちはやまやまありましても、特別給付金でかえるなどいたしまして二千三十六億五千万円、政府の額の約倍というところに抑えたわけでございます。この点十分御理解いただきまして、むしろ与党の皆さんも積極的に、すでに政府案も一千億に近くなった、野党案も二千億、かつての五千億、六千億の考え方をこの際放棄しています。勝手でございますが、共同提案者の皆さんの御理解が得られれば、二千億が千五百億でも与党の皆さんと話し合いによっては応ずる用意があることをこの際明確に申し上げておきたいと思うわけでございます。
 以上で私の答弁を終わります。

発言情報

speech_id: 109404410X01119810423_022

発言者: 森井忠良

speaker_id: 6858

日付: 1981-04-23

院: 衆議院

会議名: 社会労働委員会