内山達四郎の発言 (予算委員会公聴会)
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○内山公述人 総評の内山でございます。
たくさんのことを申し上げたいのですけれども、時間の制約がありますから、今後の予算の審議に当たって、労働団体の立場からどうしてもこれだけはという点にしぼって私の考えを申し上げたいと思います。
いま日本の勤労者、労働者が一番大きな関心を持っているのは物価と税金、この二つであると言っても過言ではないと思うのです。昨年の秋、総評は百十一万人の組合員を対象にしてアンケート調査を行いましたけれども、制度、政策にかかわる問題でぜひ取り上げてもらいたいというのは、この二つがトップを占めました。したがって、五十六年度の予算の中でこの二つの動向いかんは、いま安定していると言われております企業の労使関係にもかなり大きな影響を及ぼすのではないかというふうに考えます。
御承知のように実質賃金は、昭和二十七年以来初めてマイナスを記録いたしました。昨年の春の賃上げで、私どもは、物価春闘と言われるほど、物価問題を重視をいたしました。賃上げの要求基準を、かなりの反対があったにもかかわらず八%というふうに定めたことにも、それは反映をしていると思うのです。残念ながら、私どもの力が弱かったために、六・九%程度の賃上げしかとれませんでしたから、春闘が終わった後も、労働団体は政府に対して、何とか物価安定のために対策を強化をしていただきたいということを申し入れました。昨年の十一月二十六日に労働四団体の代表は直接総理にお会いをして、五十六年度予算編成に当たっての労働団体としての考え方をお話し申し上げたわけですけれども、その時点で総理は、五十五年度の消費者物価の上昇率を六・四%に抑えることは決して不可能ではないというふうに私どもに申されました。ところが、それから一月もたたないうちに政府は七%に修正をされ、さらに最近では七・七%とか七・八%という数字が出ておりますことは御承知のとおりだと思います。
七五年の賃上げは、前年に比べますと半分以下、第二次石油危機の影響を受けて一三%程度になったわけですけれども、それでも七五年の実質賃金は前年に比べますと二・七%上昇しております。その当時の実質成長率は御承知のようにマイナスを記録しておりましたし、労働生産性も企業の利益も軒並み低下をしておりました。その中で二・七%実質賃金が上がっております。七六年から七九年までも、労働組合の立場に立ちますと賃上げはうまくいかなかったわけですけれども、それでも七七年の〇・五%増を除けば、大体二・五%程度は実質賃金はふえております。したがいまして、いまの経済情勢、景気にかげりは見えておりますけれども、実質成長率は五%程度の水準を維持しています。あるいは労働生産性も二けた台の上昇を示している。三月決算は多少落ち込むことはあるでしょうけれども、しかし、昨年の九月までは企業の経常利益は連続六期増収増益という状況の中で、〇・九%とはいえ実質賃金の低下を見ているということは異常なことではないかというふうに私どもは考えております。
昨年の九月十六日に、臨時国会を前にして労働四団体は政府に対して、実質賃金の目減りが続いている状況の中では何とか臨時国会で物価調整減税をやってもらえないだろうかというふうに申し上げましたし、十一月二十六日の総理との会見のときにもそのことを申し上げたのですけれども、官房長官なり総理は、物価調整減税をやらないでも済むように物価対策を強化をするというふうに申されました。
そうした状況を考えますと、物価問題について果たして政府の政治責任はないと言えるのかどうかということを、私どもは率直に申し上げなければならないと思うのです。したがって、五十六年度の予算編成に当たっては何よりも物価対策を重視をしていただきたい。もちろん政府もかなりの対応をされておりますけれども、たとえば私たちが繰り返し強調しております四月以降の公共料金の値上げについては何とか極力抑制をしていただけないだろうか、あるいは円高差益の社会的還元について何らかの方途を講ずることはできないものだろうか、あるいはまた、いま物価についてのモニター制度がありますけれども、これは行政管理庁が指摘をされましたように必ずしも効果を上げておりません。したがって、勤労者なり消費者が参加をする物価監視委員会を設置する、所定の調査権なり査察権を与えて国民全体が参加をして物価を抑制する、物価を安定するような制度的な措置もぜひとも講じていただく必要があるのではないかというふうに私どもは考えておるわけでございます。
二番目は、税金の問題でございます。
財政再建問題が大変に重要な問題になっていることは、私どもも十分に承知をしております。国会の予算審議の状況を聞いておりますと、やはり財政再建を理由にして、政府は減税要求について厳しく拒否をされております。しかし、財政再建が本当に国民が納得いくように行われるためには、不公平税制の是正であるとか、あるいは行政改革による歳出のカットというものが前提条件として必要だと私は思うのですけれども、これについての政府の対応は、外からの印象ですけれども、必ずしも明快なものがないように私どもは感じております。率直に申し上げまして、どうしても足りないから取り立てるんだ、しかも取りやすいところから取り立てるのだというような思想が、どうもいまの政府の答弁をお聞きいたしますと、私どもは感じられてならないのでございます。
総理は、たしか施政方針演説に対する質問の御答弁の中で、総理が日ごろ強調されておられる和の政治というのは公平の政治でもあるというふうにおっしゃられましたけれども、果たして増税で公平の原則というものが貫かれていくのかどうかということについて、私はかなりの懸念を持っております。
これも昨年の予算編成の前に、労働四団体の代表が渡辺大蔵大臣にお会いをして、減税問題についてお話をいたしました。そのとき、大蔵大臣は、所得減税をやることはいまの財政事情ではできない、一部では投資減税をやるべきだという意見も出ているけれども、所得減税をやらない以上投資減税もやることはできない、やらないというふうにお答えになったのですけれども、率直に言って、空前の大増税の一方で、所得減税はやられませんけれども、エネルギー対策上効果があるという理由で投資減税がやられている、このことについても、私は公平の原則から言って疑念を持つというふうに言わざるを得ないのです。
〔金子(一)委員長代理退席、委員長着席〕
詳しく申し上げる必要はございませんけれども、いま日本の勤労者の生活を苦しめているのは、実質賃金の低下と同時に税金や社会保険料の負担が増大をしている、いわゆる非消費支出の増大が勤労者の生活を圧迫していることは、もう詳しく申し上げる必要はないと思うのです。課税最低限が三年間据え置きになっていることからこの状況は生まれているわけですけれども、そういう状況の中で、夫婦子供二人の四人家族の場合には二百一万五千円という課税最低限ですから、この階層というのは最低生活すら維持できないような状態に置かれていると言っても過言ではないと思うのです。
ことしの春闘で、いろいろ紆余曲折はありましたけれども、労働団体は一致して一〇%、大体二万円前後の賃上げを実現しようではないかということを申し合わせました。一〇%賃金が上がると、税金や社会保険料負担は一体どのぐらいふえるのかという計算をいまいろいろやっておりますけれども、たとえば十九万八千円の月収で四人家族の場合には、一〇%賃金が上がりますと、一万九千八百円賃金が上がるわけです。ところが、所得税と地方税で二千二百六十円引き上げられます。それから雇用保険、健康保険、厚生年金で千九百七十円の負担増になります。合わせると四千二百三十円、税金と社会保険料で持っていかれてしまいます。そうしますと、一万九千八百円賃金が上がっても、実際は一万五千五百七十円しか賃金が上がらない。つまり、一〇%の賃上げであっても、二・一三%は税金と社会保険料によって差し引かれてしまうというのが現実の状態になるのではないかと思うのです。そうしますと、先ほど申し上げましたように、物価の方は七%の線が崩れて七・七%とか七・八%というふうに言われているわけですから、これに二・一三%加えますと、果たして、一〇%の賃上げをやっても、勤労者の実質生活水準が維持できるのかどうかという疑問を持たざるを得ないのです。ただ、ボーナスを計算をいたしますと、ボーナスは厚生年金の掛金の対象になりませんから、五カ月程度のボーナスが出ると仮定をいたしますと、二・一三%は一・五六%ぐらいに下がるわけですけれども、これは年収大体三百二、三十万ぐらいの階層です。年収六百万円ぐらいの階層になりますと、四月から健康保険の報酬の上限が上がってしまいますから、一〇%賃金が上がってもやはり二%ぐらいは持っていかれてしまうのではないか。
たしか、この三年ぐらいの間に家計支出に占める非消費支出の割合は、八・七%から一三・一%ぐらいに上がっていますけれども、所得減税が行なわれないで、あるいは社会保険料の負担がいまの政府原案のままに通りますと、五十六年度の家計支出に占める非消費支出の割合は恐らく一五%を超すことになるのではないかというふうに私どもは考えています。
そうしたところから、労働団体の一〇%、二万円前後の要求は低過ぎるという批判、不満が職場から起こっております。総評のアンケートの結果では三万円以上の賃上げというのが六〇%近くを占めていたわけですけれども、率直に言って、そういうものを含めて全部企業の側に要求をしていいのかどうかという問題点も残ります。
そういう状況を考えますと、政府は厳しく拒否をされていますけれども、何とか課税最低限を上げるという措置が必要ではないだろうか。それと同時に、俗にトーゴーサンとかクロヨンと言われておるような税制上の不公平の問題について何とか改善することはできないだろうか、率直に言って、私どもはこの考え方を持っております。
一昨日、労働四団体は政策委員会を開きまして、現在四人家族で二百一万五千円の課税最低限を二百十八万円程度に引き上げられないものか、自民党を含めて各政党にお願いしようということになりましたけれども、ぜひ今後の国会審議の過程で、この所得減税の問題についてはひとつ真剣に取り上げていただきたいということをお願いいたしたいと思うのでございます。
率直に言いまして、七五年以降労働組合は、賃上げの面でもあるいは減量経営、合理化の面でも大変な譲歩をしてきたと思うのでございます。したがって、いま申し上げましたような物価やあるいは税制上の対策が講じられませんと、どうしても賃金闘争の方向にそれが向けられてしまいますから、いままで安定していると言われていた労使関係がこの春闘を契機にして基盤が揺らぐようなことになるのではないか。そういう立場に立ちますと、多くを申し上げたいんですけれども、一番大切なことは、一人一人の勤労者が将来に希望を持って生き生きとして働いていく環境をどうやってつくっていくのか。そのための予算的措置をどうするのか。このことを今後の予算審議に当たってぜひとも最大の焦点にしていただきたい。その面では、防衛費を別枠に扱うというような今度の政府原案に対しては、私どもは率直に言って不満を持っていることを申し述べまして、簡単ではございますけれども、私の公述を終わらしていただきます。(拍手)