池田勝彦の発言 (予算委員会公聴会)
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○池田公述人 大阪学院大学の池田と申します。
私は、昭和五十六年度予算の性格と財政再建と税制の問題について述べさせていただきたいと思います。
昭和五十六年度政府予算案は、一口に申しますと、財政再建の道を歳出の徹底的な見直しによる経費の節減合理化によるよりは、むしろ増税、しかも戦後史上空前と言われる増税路線を選択したことにあるというふうに思います。
そう申し上げても、一般会計規模の伸び率が九・九%といった一けたにおさまったのは二十二年ぶりでございますし、そのことから財政規模縮減に相当の考慮が払われているということが認められると思います。また、二兆円の特例公債発行額減額により、公債依存度は二六・二%と四年ぶりに二〇%台になったわけです。
先ほど増税路線を選んだと申し上げましたが、税制改正による増税は、先生方御存じのごとく、直接税では法人税率の二%上昇、間接税の増税につきましては酒税、たとえばビール、ウイスキーの二五%、清酒は一五%になっております。物品税における課税対象の拡大、これは新たに課税対象を二十四品目拡大する、それから有価証券取引税の税率アップ、印紙税の引き上げを内容とするものでございます。
法人税の税率アップ、それから有価証券取引税、それから印紙税率の引き上げ等は、財政再建のためには企業にも応分の負担を負わせることを志向したものであるというふうに言えます。法人税の基本的仕組みの改革による負担増加ではなく、つまり配当軽課、受取配当免税引き上げ等といったふうな現行企業税制の問題となっている点につきましては触れられずに、税率の操作によって増収を図ったというふうに考えられると思います。この法人税率二%上昇で基本税率は四二%となりまして、実効税率は五二%台となったわけです。これは欧米の水準並みになったわけでございます。例を挙げますと、西ドイツの実効税率は五六%でございますし、イギリスは五二%でございます。以上のごとく、税制改正による増税額は、御承知のごとく一兆三千九百六十億円でございます。法人税が六千三百四十億円で増税のうち約四五%、間接税が約五五%となっています。
法人税の上昇で問題となるのは、次の二点であろうかと思います。
一つは、税率上昇が法人の競争力を弱体化させるのではないかという点。この点につきましては、西ドイツの実効税率は五六%でありますから、そう著しく企業の競争力弱体化の作用はないというふうに見られております。
もう一つは、軽減税率も二%一緒に引き上げられたわけでございますけれども、そうしますと、軽減税率適用企業による税負担もまた比例的に二%直に増加するわけです。これは法人税の転嫁が可能な大企業においては恐らく企業負担とはならないかもしれませんが、軽減税率適用企業においては実質的な企業負担となるのではないかというふうに考えるわけであります。
次は、所得税の問題でございます。昭和五十五年の消費者物価上昇率は七%から八%の間だというふうに認められておりますが、所得税は減税なし、課税最低限据え置きということになっております。課税最低限は、昭和五十三年度以来据え置かれたままになっているわけです。
御承知のごとく所得税は累進税率をとっていますから、貨幣価値の下落による名目所得の上昇は税負担の増大をもたらしまして、実質的には増税と同じ効果を持つわけでございます。また、所得税納税人口の下方への一層の拡大を意味しますから、たとえばある統計では、この四年の課税最低限の据え置きによりまして納税人口は六百二万人増加するということになっております。これは昭和五十六年度の納税人口の約二〇%に当たるというふうになっております。したがって、実質的な増税、しかも低所得層ほど負担の増大を強いられるということになるかと思います。
住民税の課税最低限は所得税のそれよりもかなり低く決められているのは先生方御承知のとおりでございますが、そのため、今回の政府案におきまして生活保護の扶助基準額が引き上げられましたから、これが住民税の課税最低限を上回ってしまった事例が生じてしまっております。これは東京都の標準家族の例でございますが、そのため昭和五十六年だけ、ごく小規模の減税をしなければならないというぐあいになっております。生活保護基準が、元来、生活するのにぎりぎりの線で考えられていることを考えますと、課税最低限の引き上げは必要であろうかというふうに私ども国民は考えます。
さて、今度は公共料金の問題でございますが、公共料金の値上げが昨年度に相続いてなされておりまして、しかも、昭和五十六年度政府予算においても、消費米価、それから麦価、それから国鉄運賃、それから国立学校入学料、それから塩、それから郵便料金の値上げ、それが盛り込まれております。これらは消費者物価を押し上げ、国民の家計を圧迫します。その上、物品税の増徴がございます。こういうことは、言うまでもなく物価上昇の要因となるわけです。こうして租税負担の増大と物価上昇の双方から国民生活を圧迫するようになるのではないかというふうにいまから予想されるわけでございます。
それから今度、歳出面における特徴は、第一に、軍事費の伸び率が社会保障のそれを上回ったということ。それから第二には、公債依存度が四年ぶりに二〇%台になった。第三に、公共事業の伸び率が昭和五十五年度に引き続きましてゼロになった。その他エネルギー対策費、経済協力費の伸び率が非常に大きいということが特徴とされます。
まず第一の点でございますが、伸び率において軍事費が社会保障費を上回るという事態は戦後初めてのことであり、このことが国民に防衛か社会福祉かということを考えさせる事態を生ぜしめます。
そこで、防衛費についてもう少し述べさせていただきますと、一般会計から公債費と地方交付税交付金を除いた一般歳出に占める防衛費の割合というのは前年度は七・二六%であり、今回の政府予算案では七・四%となっています。今回の防衛予算はそういった意味で優遇されておるわけでございますけれども、その優遇措置によりまして、中期業務計画はすでに二年目にして約四〇%の達成率を示すのではないかというふうに言われております。
今回の予算案では、先生方御承知のごとく、防衛費に占める正面装備、艦艇とか航空機それから戦車等の割合が昨年度よりも大きくなっております。昭和五十六年度の政府予算案で新規調達の認められた兵器の総額は七千五百二十五億円であり、そのうち本年度に計上された金額は約四百五十億円ということになりますから、残りは継続費または国庫債務負担行為という今後何年かにわたって支払っていかなければならないということになっておるわけでございます。そういうことですから、防衛費の伸びは昭和五十七年度以降は大幅に上昇するのではないかというふうに考えられます。一説によりますと二けたの伸びになるのではないかというふうになっております。
もっとも、防衛費の伸び率が大きいということにつきましては、防衛費の絶対額がそもそも小さいこと及び諸外国との比較において、GNPに占める比率ですが、これが小さいということから、必ずしも防衛予算を優先したわけではないという説もございます。しかしながら、これらの点につきましては、わが国の防衛費は、たとえばNATO諸国の軍事費に含まれている日本の海上保安庁費、それから旧軍人恩給費、遺族、留守家族援護費などというものが、わが国の防衛費では除かれております。それをNATO基準に合わせて計算しますとGNP比が一・五六%になります。そういたしますと、絶対額においてもフランス、イギリス並みの水準ではないかというような指摘もなされております。
次は、社会保障費の問題に入りたいと思います。
社会保障費は、昭和四十九年までは著しい伸び率を見せていた費目なんですが、昭和五十年度以降鈍化の兆しを見せ、一般会計における構成比においても低下傾向を示している費目であります。そして昭和五十六年度においては、伸び率において軍事費に抜かれたわけでございます。
昭和五十六年度予算におきましては、厚生年金、国民年金の物価上昇分のアップ、これは従来どおりでございますけれども、原爆被災者手当、障害福祉年金等、従来よりも、福祉の面から申しますと前進を見ている費目もございます。しかし、その反面、健康保険掛金の引き上げ及び健康保険自己負担金の引き上げ、これは初診料と入院料でございますが、それから児童手当制度における所得制限の強化等、福祉的に言えば後退とも言える改変がなされております。児童手当の場合、昭和五十六年度の改正によりまして約十万人以上が対象がら外されるようになるという指摘もございます。
第三の公共事業費でございますが、昭和五十六年度予算においてはこれは横ばいであります。従来優先された道路整備、港湾等のいわゆる産業基盤整備がマイナスに抑えられ、住民対策、下水道、環境整備等の生活基盤整備に重点が置かれているのが特徴であると思います。もっとも、道路につきましては財政投融資計画に回されております。わが国の公共事業政策というのは、高度成長期においては道路、これは産業道路でございますけれども、これの中心の時期から、昭和四十年代後半より生活基盤の整備に重点を置くように変化してまいりましたが、その傾向は、本年度予算においてもずっと続いているというふうに思われます。
それから最後に、財政再建計画と税制の問題について申し上げます。
財政再建の方法というのは、結局は経費の削減とそれから増税との二つしかございません。財政再建にはその双方が必要であるというふうに考えます。
経費削減について申し上げますと、歳出構造及び歳出規模というのは、そのときどきの政治経済情勢を反映しながら積み重ねられてきておるものでございますから、一朝一夕にこれをすぐ変えるというわけにはまいらないと思います。しかし、今日のように財政が肥大化しているような状況にあるときには、財政の合理化、効率化は徹底的にやる必要があるように思われます。
考えますと、なぜこのように肥大化したのかということなんでございますが、よく言われておりますのは予算の方式の問題、つまり、従来の予算方式は前年度の実績をもとに予算を増分する、いわゆる増分主義と呼ばれているものでありますが、これは各グループの利害の調整という点ではメリットがありますが、総花主義になりやすく、したがって財政規模を大きくさせる要因になる、そういうデメリットを持つとされています。財政再建を図っていくには効率的な観点から歳出項目を徹底的に洗い直す必要があるというふうに主張されておりますが、この点については賛成でございます。そして財政再建の問題になりますと、これは短期間に達成できるというようなものではございませんし、数年間にわたる長期的な計画が必要になろうかというふうに考えられますが、そのためには従来の予算編成の方式を改める必要も出てこようかというふうに考えられます。先ほど大川先生がお話しくだすったPPBSなどというのもございますし、それからイギリスの例もございます。しかし私は、予算編成を合理化するという点については賛成でございますけれども、行政府主導の予算改革というのは、たとえばアメリカの例におきますように失敗するというふうに考えております。むしろ議会が主導権を持って改革を進めていく必要があるように思われます。
それから次に、財政再建と増税の関係でございますが、比較的短期間のうちに大量の国債を減らし、さらに償還していくというためには、前にも申し上げましたように、経費の合理化、節減のほかに大規模な増税を必要とするわけでございますが、今回は法人税、間接税の増徴という形、つまり既存の税目で増徴するという形になったわけでございます。しかし、これだけでは、昭和五十七年度以降さらに一層の増税が必要であるにもかかわらず、それが十分には期待できないということから、たとえば新聞、雑誌等では、新しい形の一般消費税なるものが準備されているというふうにうかがえます。しかし、それには、何か新税を考える前に、いわゆる不公平税制、たとえば利子配当の軽減措置、それから所得捕捉の問題などというような、そういった不公平税制に対する税制措置が先決ではないかというふうに思います。
以上でございます。(拍手)