北村謙一の発言 (安全保障特別委員会)
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○参考人(北村謙一君) 委員長、ありがとうございます。
北村でございます。
本論に入る前に、この問題に取り組むに当たっての私の基本的な態度を明確にしておきたいと思います。
わが国の防衛論議におきましては、とかく憲法問題が先に立ってあれもできないこれもできないと自衛隊の装備や行動に制約を課しておるのでありまするが、それで果たして国の防衛が成り立つのかどうかということが議論されない。また、日本にはできることとできないことがあるとよく言われます。それは事実であります。しかしながら、できないことがあるという言葉の裏には、できることだけやっておればあとはアメリカが何とかやってくれるだろうというアメリカに対する甘い期待があるのではないかと思われるのでありますが、果たしてこのような甘えが今日も許されるかどうか、こういうことも議論されません。しかし、有事においては国の防衛とかあるいは国民の生存、これは国家の総力を挙げて守らなければならないものであると、できる範囲でやっておればよいということで済むわけではないというのが私の基本的な考え方であります。
以下、シーレーン防衛の本質と問題点について申し述べますが、私は軍事戦略の専門的な立場から申し上げることにいたしたいと思います。
ただいま海原参考人の方からNHKのこの本の紹介がありましたが、その中に私も入っておるのであります。私はこの中で申しましたが、シーレーン防衛の目的、これは航路帯そのものを守備することではない、そこを通る船舶の安全を図ることだというよりは、その船に積まれておる品物が無事目的地に届くように敵の攻撃からこれを守ってやることだと、私はこのようにとらえておるのであります。四人の陳述が皆ばらばらであったと指摘されましたが、表現そのものはばらばらでありますけれども、考え方は根底においてはみんな同じような考え方を持っておるのであります。したがいまして、言うまでもなく、シーレーン防衛は日本が外国と戦争状態に入った状態において起こってくる問題である、平時における問題ではないということを私ははっきり申し上げたいと思うのであります。
次には、ところでこの政府の防衛計画大綱によりますと、わが国に対する小規模かつ限定的な侵略を対象事態としております。しかしながら、日米安保体制が有効に機能しておる限りほかの地域が平和なときに日本だけを侵略してくる国はないだろうと思うのであります。もし日本に対して武力攻撃が行われるとするならば、それはたとえば中東の湾岸産油地帯をめぐって米ソ間に本格的な軍事対決が起こる、それが局地的に解決することができずして北東アジアあるいは北西太平洋方面にまで拡大されてきた、そういった事態ではなかろうかと思うのであります。これがわれわれが真剣に備えなければならない事態であります。シーレーン防衛が現実の問題となるのはこのような状態においてであると私は考えておるのであります。
一たんこのような事態が起こりましたならば恐らく事態は短期間に収拾されることはないでしょう。相当期間続くことが予想されるわけであります。その間、海上におきましては西側のシーレーンに対して、もちろん規模においては起伏の差はあれ継続的に攻撃が加えられることを覚悟しなければならない。というのはソ連には現にそれをなし得るだけの能力がありますし、西側諸国は程度の差こそあれ防衛の継続と国民の生存のためにはシーレーンを確保しなければならないからであります。もし、このような事態が起こるならばこれは重大かつ深刻であります。したがって、われわれは何とかしてこのような事態が起こらないようにしなければならない。もちろんこれは日本単独でやるわけではありませんが、やはり西側全体としてそのような抑止体制をつくらなければならない。とするならば、われわれとしても日本の自衛のための努力を通じて西側全体の戦争抑止体制の形成に貢献するように努力する必要があると考えるのであります。
ところで、このシーレーン防衛の意義でございます。
まず最初に申し上げておきたいことは、日本が行おうとしておる三海峡の防備あるいは本土から約千海里以内のシーレーンの防衛は、これは日本自身のためであってアメリカのためではないということであります。有事には、アメリカの経済にとってはこの海域のシーレーンは死活的に重要ではないからであります。
アメリカが日本に対してこの海域におけるシーレーン防衛能力の向上を強く求めておるのは、第一義的には、西側の重要な一員である日本が生き残るためにシーレーンの防衛が必要であるからであると、私は考えるのであります。もちろん、それは結果的には、後から申し述べますように、アメリカの太平洋戦略に大きく寄与いたします。しかしながら、それを主目的としてアメリカは日本に対してシーレーン防衛の能力の向上を求めているのではないと、私は見ておるんであります。
ところで、まず、その三海峡防備の意義でございます。
ソ連の艦艇部隊の外洋進出を海峡地域において抑制することができるならば、次のような意義を持ってきます。
それは、第一は、日本のみならず、西側諸国の外洋におけるシーレーンの安全に大いに寄与するであろうということです。第二は、日本のみならず、日本より南にある西側諸国の安全保障に対しても間接的ではありますが、寄与するということであります。これほどこの海峡防備というものは日本のためではありますが、結果的には西側全体の安全保障、太平洋戦略にとって非常に大きな意義を持っておる。
次は千海里以内のシーレーン防衛の意義でございます。
本土から千海里以内は日本に向かいあるいは日本から出ていくすべての船舶がここを通過します。また、日本の防衛を支援する米軍の多くは、この海域を通って日本の方へやってくるか、あるいはこの海域から作戦行動を行います。したがって、この海域は日本の防衛及び生き残りの上で最も重要な海域であります。したがって、ソ連としてはこの海域が最も重視すべき海域となるはずであります。しかも、この海域はソ連のいろいろな基地から近いところにある。
以上から、この海域におけるシーレーンの防衛は、次のような意義を持ってまいります。
第一は、この海域はシーレーンにとって最も危険が大きい海域である。それだけに、この海域におけるシーレーン防衛は重要であり、もし、これに成功するならば非常に効果的であるということであります。第二は、結果的に北東アジアの防衛を支援する米軍の安全と行動の自由に寄与する、これはそのまま日本の安全保障に返ってくるわけであります。
ところで、問題点でございますが、まず第一が海峡防備の問題であります。
三海峡、特に宗谷海峡はソ連にとっても戦略上非常に重要であるということは申すまでもありません。このため、ソ連はわが国の宗谷海峡の防備をあらゆる手段によって妨害しようとするかもしれません。状況によっては北海道、特にその北部地域に対して積極的な行動に出るかもわからないわけであります。したがって、海峡防備は、単にシーレーン防衛のための海上自衛隊だけが行う作戦ではなくて、陸海空三自衛隊の統合作戦になる、また状況によっては米軍との共同も必要になってくるといったような性格を持っておるんであります。
次には、アメリカの要請によって海峡を封鎖しますならば、米国がほかの地域でやる戦争に日本は巻き込まれると言って心配する向きがあります。が、日本が巻き込まれると心配するけれども、それは私をして言わしめれば、因果関係が逆であります。たとえアメリカがほかの地域で軍事介入しておりましても、それが米ソ間の本格的な軍事対決に発展しない限り海峡防備の問題は起こってこないはずであります。もし、米ソ間に本格的な軍事対決が起こり、それがこの地域にまで拡大して初めて海峡防備の問題が起こってくるんであります。
また、この事態においては、ソ連が北鮮を支援して韓国に侵入させることにより第二戦線をつくるのみならず、地上作戦の進展に応じて対馬海峡の制圧、支配を企てるかもしれません。こうなりますというと、現在のところは宗谷海峡の防備を真剣に考えておるのでありますが、同様に対馬海峡の防衛というものもそれに劣らず重視しなければならない。これもまた宗谷海峡の場合と同じく陸海空三自衛隊の統合作戦となり、情勢によってはアメリカとの共同作戦となるかもしれないわけであります。
次は、千海里以内のシーレーン防衛であります。
外洋におけるシーレーン防衛には、広範囲にわたって行う哨戒とか防空とかあるいは潜水艦に対する阻止とか掃討、並びに船舶そのものの護衛、いろいろな作戦があるわけであります。このシーレーン防衛というのは、単に一つの方法だけによってその目的を達成することができるものではなくて、基地の攻撃、海峡の防備、外洋におけるいま申し上げましたような作戦、あるいは本土の港湾、水道における掃海とか、そういったもの全部の作戦を並行的に行い、その相乗効果によって成果を上げようとし、またそれをある期間継続することによって時間的な累積効果を上げようとするわけであります。そのような相乗効果、累積効果の結果として、逐次船舶の安全を高めていこうというのがわれわれの構想であります。したがいまして、何らかの形による船団護衛は依然必要であり、また、それは最も効率的また効果的な方法であります。ただし、この場合は遠方からミサイル攻撃が可能な潜水艦あるいは大型爆撃機からいかにして船舶を防衛するかということが問題になっております。
後で御質問いただくかもしれませんので簡単に申し上げますが、潜水艦に対しましてはP3Cの直接支援のもとに護衛艦やヘリコプターが曳航する聴音式のセンサーを活用する、あるいはヘリコプターを活用する等によって、従来考えられていたよりもはるかに広い範囲を効果的にカバーすることができるようになりました。また、大型爆撃機に対しましては、護衛部隊自体の防空体制の整備はもちろん必要でありますが、それとともに、付近に広範囲にわたって散在しておる船舶をカバーし得るような防空体制が必要であります。これにつきましては、せんだってフォークランド付近において海空戦が行われ、実際に生きた教訓が与えられましたので、それを大いに研究して将来の装備体系に活用する必要があると思うのであります。しかしながら、イギリスの報告にもすでにありますように、結論は大体出ておるのであります。それは、部隊自身が要撃用の戦闘機、まあ海軍でしたら垂直離着機でございますが、それを持ち、また早期警戒機の協力を得る。したがって、自衛隊としてもその方向に進む必要があると見ておるのであります。
いま申しましたのは主として作戦部隊についての問題でありますが、政府レベルにおきましては、これは前々から言われておりますように、有事における船舶の運航統制を行うための法令あるいは組織、そういったものを平時から準備しておく必要がありますが、それはできておらない。それよりも先に、有事に果たして船員が船に乗って危険な航海をやってくれるかどうか、有事に船員にそれをやってもらうためにはどうすべきであるか、こういった対策も全然講じられておらないのであります。もし日本の船が出ていかなければシーレーン防衛というものは無意義になります。もちろんこのシーレーン防衛は、有事における緊急物資の輸入計画、それから国内の生産、国内の備蓄、そういったものと整合して、必要最小限度のものをどこから、何を、幾ら運んでくる、というような政府の基本計画があって初めて防衛庁においてどれだけの兵力を整備するという答えが出てくるわけでございます。
以上をもって一応終わりますが、最後にシーレーンの防衛努力は有事日本にとって死活的に重要であるとともに、大きな立場から言いますならば、西側としての東側に対する軍事バランスの維持に寄与する。こうして、米ソ間の本格的な軍事対決が起こらないようにそれを抑止する、それに寄与するものであるということを繰り返して申し上げたいと思うんであります。こうして、もしそのような事態が起こることを抑止することができるならば、よその戦争に巻き込まれるといって心配したり、あるいはそういうことをやるのは集団的自衛権の行使に当たるから問題だといって国会で騒ぐ必要もないわけであります。
ころんだ後のことをとやかく心配するよりは、ころばぬ先のつえの用意が肝心であると申し上げて私の陳述を終わります。