原田稔の発言 (科学技術振興対策特別委員会)
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○政府委員(原田稔君) 従来のP4の説明につきましてあるいは若干の混乱があったかなという感じを私も持っておりますが、やや長くなりますが、少し詳細に御説明申し上げたいと思います。
P4建設の目的は、一言にして言いますと、遺伝子組みかえ研究につきまして、やや専門的になりますが、新しい宿主—ベクター系を開発していく、これはまた後で申し上げますが、これが非常に遺伝子組みかえ研究にとって大事な基礎的な研究でございますが、それの安全性をそこでしっかり確かめるというのが一つの目的でございます。それからもう一つは、日本全体としての遺伝子組みかえについての基礎的な研究を行う。あるいは、産学官とよく申しておりますけれども、そういう関係の共同利用施設的な色彩を持つ。こんなところに目的があるわけでございます。
御案内のように、遺伝子組みかえについての研究というものは、各国でいま盛んに行われております。ヨーロッパ各国、先進国その他で競って行われておりまして、それはやはり今後の科学技術の一つの非常に将来性のある分野である。しかもそれはがんの撲滅ですとか、あるいは食糧の増産ですとか、あるいは食糧の改良ですとか、そういった面で将来非常に有力な手段を提供する、こういう期待が大きいからでございまして、特にアメリカではかなり進んでいるという状況のようでございます。そういった世界的な状況に対応するというのもこの施設の一つの目的であるわけでございます。
御案内のとおり、この遺伝子組みかえ作業を大ざっぱに分けますと、二つの部分に分かれるわけでございます。
一つは、DNAというものを、これは遺伝子でございますが、それを供与する、それを与える、そういう部分と、それからもう一つの部分は、それを受け入れます、たとえば大腸菌ですとか、あるいはたとえば枯草菌ですとか、現在遺伝子組みかえ指針の中で認められておりますそういったごく一般的な菌あるいは微生物、それが受け入れて、そこで遺伝子の働きによってインシュリンをつくるとか、あるいは将来にわたってはがんに対する有劾な薬、そういったものをつくる、こういったような二つの部分に分かれるわけでございます。
DNAを供与する供与体といたしましては、御案内のとおりいろいろな細菌があるわけでございますが、その中にはもちろん人間のDNAというようなものも含まれておりますし、あるいはDNA自身は化学物質でございますから、それを人工的に化学的に合成するということも考えられております。理研が取り扱う施設、このP4施設におきまして、DNAを供与するその細菌と申しますか、微生物はどの段階のものかと申し上げますと、これは現在、厚生省のたしか国立予防衛生研究所でございますか、いろいろな細菌、微生物を危険性の度合いに従って分類いたしております。分類はおおむね四つの段階に分かれておりますが、その中がまたさらに細かく分かれているわけでございます。その中での2bクラスと申しますから非常に弱い細菌、ごく一般的なこういった微生物関係の研究所で取り扱われているような、そういうクラスの微生物からDNAを取り出す、そういうものはDNA供与体として直接に扱いましょう。それから3aクラスのもの、これはたとえば私は結核菌などが3aクラスではないかと思いますが、結核菌からのDNAを出すというわけじゃないわけでございますけれども、このクラスのものはDNAとして取り扱いましょうと。これは化学物質でございますから、危険性のあるなしというのは問題外でございます。それ以上の危険分類のものは、そもそもこの施設で研究をする必要がないものでございますから、これは取り扱いませんと、こういうことになっております。
それから第二の、宿主、そのDNAを受け入れて、それを自分の体内に入れましてインシュリンなどを生産するような宿主—ベクター系でございますが、現在は御案内のとおり大腸菌とか枯草菌とか、動植物の培養細胞とか、四つのものがDNAの遺伝子組みかえ指針の中で認められております。大体はそれを使うわけでございますが、新しい宿主—ベクター系を開発する、より能率のいいインシュリンを生産するようなものはないか、あるいはがんを制圧するような、そういう有効な成分を出すような組み合わせはないか、そういうものを研究するために、たとえば発酵工業で使われているような微生物等々が対象になる場合があり得るわけでございます。これらはもちろん、一般のそういういろいろな工業なり研究所等で取り扱われているものでございますから、別段の危険はないわけでございます。
そこで私考えてみまして、従来どうして混乱があったのかなと、こういう感じがいたしますが、まず第一は、DNA供与体としての微生物、細菌、先ほど申し上げました2bクラス、これは通常の微生物を取り扱う研究室ですと、P2クラスで扱い得るわけでございます。そのP2クラスで扱い得るようなものをわざわざP4で扱おうという点がおかしいではないかと、こういう点が一つの誤解の源泉であったかなという感じがいたします。
それでは、なぜP4でやらなくちゃいけないか、こういうことでございますが、それは、先ほど申し上げましたDNA供与体あるいはDNAそのもの、あるいはそれを受け入れる宿主—ベクター系、この組み合わせが現在の遺伝子の組みかえ指針の中では、こういうものはこういうクラスで扱っていいよということで一応の基準ができておりますが、新しい組み合わせにつきましてはその基準外であるわけでございます。新しい組み合わせにつきましては、あるいはこれは個別にどういうクラスで扱うかというのをこれは科学技術庁の方で審査するわけでございますが、新しい組み合わせということになりますと、恐らく多くの場合にP4クラスで扱わなければならないようなことになるのではないかと思います。
それはなぜかと言いますと、別にそこで取り扱われる菌自身が危険であるということではなくて、たとえば通常の発酵工業などで使われているような微生物を新しい宿主—ベクター系として選んだ場合に、そこで入れられたそういう微生物というものがたとえば動物の体内に入った場合にどういうような作用を営むのであろうか。大体のところは提供されるDNAの性格というのはわかっております。それから受け入れる宿主—ベクター系の性格もわかっておりますから、大体の見当はつくわけでございますけれども、しかし、動物の体内に入った場合にどういうような影響を与えるか。場合によると発がん性があるかもしれない、あるいは動物の体内にすみついてしまうかもしれない。それがあるのかないのか。なければもちろんいいし、あるとすれば一体どの程度のものなのかということを試験して確かめないといけないわけでございます。試験して確かめる場合にはやはりP4でないといけない。
なぜいけないか。それは、そういうテストをするためにはたとえばマウスなどを用いますが、無菌動物を使わないとわからないわけでございます。普通の動物ですと動物の体内に、腸内等にばい菌がいるわけでございますから、その作用と新しく入れられたそういった微生物の作用とが区別できない、そういった問題。あるいは万々が一何かあるかもしれない。それはもう万々が一のことであるわけでございますが、そういった安全性も考慮いたしましてP4という厳重な施設で取り扱う、こういうことになっているわけでございます。
恐らく従来の厚生省を含めての説明の混乱が仮にあったとすれば、先ほど申し上げたように、DNA供与体における問題、あるいは宿主—ベクター系、受け入れた場合のそういった実験のやり方につきまして、やや説明が余り専門的であり過ぎたために一般に御理解が十分でなかった点があるのかな、こういう感じがいたすわけでございます。
それから、最後の先生の御質問の、外部に出るか出ないかという問題でございますが、これはP4の建設に当たりまして、御案内のとおり計画局長の私的な諮問機関といたしまして、この設計に当たりまして何遍か相当厳重な審査をいたしてきたつもりでございます。また、先生もすでに御案内のとおり、P4と申しますのは、外部にこれを出さない。
たとえばその実験室に入る場合に、入る人は、まず裸になりましてシャワーを浴びて洗って、特別の作業服に着がえて室内に入る。その室内は、陰圧と申しまして、外部の圧力に比べてやや低い気圧になっております。したがって空気が外へ漏れるということはあり得ない。それから外部の換気につきましても、非常に性能の高いフィルターでその空気をこして出すことになっております。それからそこで使われた作業衣等につきましては、あるいは熱湯でこれを消毒する、熱湯で滅菌する、あるいは熱湯を使えないようなものは、ガス、特殊な、ホルマリンでございますか、そういったガスを使って滅菌する、こういうことで処理をいたしまして、万々が一にも出ないように措置を講じております。それから廃水につきましても、これは常時外に流すのではなくて、ある程度ためておいて下水に流す。下水に流す段階では、これを試験してちゃんとチェックする。全体の管理の状況は、これはどの施設でも行われておりますが、中央の管理室でしさいにこれを監視できるようなシステムになっておるということで、私どもといたしましては万々が一にも出ない、こういうような形で施設を設計、建設いたしております。
ただ、これは万々が一ということで、あるいは非常に少ない確率で、出る可能性が絶対ないかと言われるとそれはある場合もあるかもしれませんが、しかしその場合であっても、まずこれはないことでございますけれども、ここで扱われる細菌の種類からいきまして、通常の自然状態の中では生息し得ないわけでございます。大体もう死んでしまうわけでございますから、そういった意味におきましても私どもといたしましては、万々が一にもそういった困った事態、住民の方々に不測の不安を与えるような事態は起こらない、かように確信をいたしているわけでございます。