山口巌の発言 (商工委員会、外務委員会、農林水産委員会、科学技術振興対策特別委員会連合審査会)

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○参考人(山口巌君) 全中の山口でございます。
 先生方御案内のとおり、最近、日本と米国あるいはEC諸国との間の貿易摩擦問題が顕在化するにつれまして、これら諸国よりわが国の農産物市場開放の要求が一段と強まってまいっております。特にアメリカ政府並びに議会筋は、前回の東京ラウンド以来の関心品目でございます牛肉、オレンジ等に対するわが国の輸入割り当て制度に対しまして、日本市場の閉鎖性のシンボルであるというとらえ方をいたしまして攻撃を繰り返しておるわけでございまして、その全面開放を要求をいたしてまいっております。
 そこで、貿易摩擦問題と農産物貿易問題との関連、並びに農産物貿易に対する私どもとしての考え方につきまして、これから申し述べさしていただきたいと思います。
 まず貿易摩擦と農産物貿易の関連でございますが、このアメリカのわが国に対します市場開放要求、これを正当化しまする論拠として、二つの理由をアメリカは挙げておるわけでございます。
 第一の理由は、日本からの自動車、鉄鋼、電気製品等の輸入により多額の貿易収支の赤字を生じておるので、貿易収支改善のために、農産物市場を開放しろということでございます。事実、日米間のこの一年の貿易収支の状況を見てみますと、一九八一年には約百八十億ドルの赤字でございました。一九八二年の暦年、一月から十二月の実績を見てまいりましても、アメリカ側の発表によれば百八十九億ドルの赤字になっております。しかし、この貿易赤字の解消の手段として農産物市場を開放するということになると、現在彼らが要求しております牛肉、オレンジ等のいわゆる残存輸入制限品目——二十二品目ございますが、これを全面開放したところでせいぜい五億ドルないし八億ドル程度の収支改善にしか役立たないというのが実態でございます。そういうわけでございますので、ここでアメリカの要求を受け入れるということは、次には貿易赤字解消を理由といたしまして、現在国民生活安定のために法律で守っております米麦、主要乳製品を全面開放しなければならない羽目に追い込まれることが危惧されるわけでございます。
 御案内のとおり、現在農産物についてはわが国は二つの国境措置をとっておるわけでございます。
 一つは、行政措置でやっておりますIQ物資と称するいわゆる残存輸入制限品目でございます。輸入割り当て制度を実施をいたしておるわけでございます。もう一つは、法律に基づきまして国が貿易を管理している品目でございます。これは食管法に基づく米麦、それから加工原料乳生産者補給金等暫定措置法に基づく主要乳製品でございます。そういう二十二品目の残存輸入制限品目で貿易収支改善に役立たないということになりますと、次にはいわゆる国家が管理しております米麦、乳製品に要求が及んでくることを、われわれは非常に心配しているわけでございます。
 なお参考までに申し上げますと、アメリカの米の生産量は、近年とみに増加してまいりまして、一九八一年には八百二十八万トンに達しております。わが国の米の生産量は、いま生産調整をやっておりますが、千百万トン水準でございますので、ほぼその水準に近づいてまいっておるというのが現状でございまして、なおアメリカは米が過剰なので昨年から一五%の米の作付制限を実施をいたしておる現状でございます。
 また、乳製品を見ますると、バターで十万トン以上のアメリカは過剰在庫を抱えておりまして、最近におきましてはエジプトに二万トンのバターをいわゆるダンピング輸出をいたしまして、ECとの間に物議を醸しておることは御案内のとおりでございます。
 アメリカの自由化要求の第二の理由は、日本の輸入割り当て制度が、ガット協定に違反するということでございます。しかし、アメリカ自体の実情を見てみますると、アメリカはいち早く一九五五年に農業調整法二十二条に関連いたしまして、ガットのウエーバーを取りつけておるわけでございます。日本ではすでに自由化しておりますチーズ等を含めまして、非自由化品目は、いわゆるウエーバーを取りつけておる冊日は十三品目にも及んでいるわけでございます。また、これとは別にいわゆる精製糖、砂糖でございますが、これを現在もアメリカは残存輸入制限品目として輸入割り当てを行っておるのが実態でございまして、また牛肉、ヤギの肉、羊の肉、それから牛肉調整品につきましては、食肉輸入法に基づきまして輸入制限を実施をいたしておりまして、昨年の十二月から豪州、ニュージーに対しまして自主規制を求めておるのが実態でございます。
 ガットの残存輸入制限品目は、わが国のガット加盟がおくれたために、そのときの加入の状態といたしましてウエーバーを取りつけられなかったために、やむを得ず残存輸入制限品目として残しておるわけでございます。日米両国の行っている輸入制限がガット上合法なものか違法なものかという違いは、いわば歴史的な偶然によって決定したものでございまして、米国のウエーバーがガット上合法であり、わが国の残存輸入制限が違法だということは、全く形式的な論議にすぎないと考えるわけでございます。
 以上のように、アメリカの主張はまことに私どもから見ますと身勝手な一方的な論理に終始しているというふうに考えられるわけでございます。しかし、最近アメリカは日本がもしわれわれの要求に応じないならば、日本からの工業製品の輸入に対し、たとえば自動車に対するローカルコンテント法案のような保護主義立法を、これを国内で通せという声を抑えることができないという、一種の恫喝に等しい姿勢で農産物市場の開放を迫っておるのが最近の姿でございます。私どもは、このようなアメリカ側の姿勢に非常な反発を感じておるものでございます。
 その理由は、農産物貿易に関する限り、わが国はアメリカの最大の顧客であるという事実があるからでございます。一九八一年の対米貿易を農林水産物と非農林水産物、まあほとんどが工業製品でございますが、これに分けてみますると、農林水産物では九十八億ドルの輸入超過でございます。非農林水産物では二百三十二億ドルの輸出超過でございます。農産物のわが国の輸入というのがアメリカの貿易収支に大きく寄与しておることは事実でございます。アメリカの世界に対する農産物の輸出総額の実に一五%以上を日本は一国で輸入をいたしておるわけでございます。また、日本の農産物輸入全体に占めるアメリカのシェアは四二%にも及んでおります。特に小麦につきましては五七%、トウモロコシは八九%、グレーンソルガムは九〇・四%、大豆に至っては九五%を占めておるわけでございます。農業物貿易に関する限り、われわれはアメリカから感謝こそされ非難される筋合いは何一つないわけでございます。
 また、日本ほど私は農産物市場開放を行っている国はないと考えます。FAOの統計によると、わが国の一九八〇年での実績で、ソ連、西ドイツを上回り世界第一の農産物の純輸入国となっております。純輸入総額が百六十九億ドルに達しておるわけでございます。このように考えてまいりますと、現在言われている貿易摩擦とわが国の農産物貿易は何らかかわりのない問題でございますが、アメリカがかくも執拗に市場開放を求める背景は、御案内のとおり、一九三〇年以来と称する不況にさらされておりますアメリカの農業者の目を国内問題から対外問題に転じさせるためのレーガン政権のこうかつな企図と断ぜざるを得ないわけでございます。私どもはこのような企図に対しまして、最近アメリカの国内からもこれに対する批判の声が上がっているということを聞くわけでございます。特に、ファーマーズユニオン等の農民組織はこのアメリカのレーガン政権の姿勢に対して強く反発をいたしまして、機関紙等で公表をいたしておるわけでございます。
 次に、農産物貿易のあり方について申し述べさしていただきます。
 第一に、私どもは農産物の貿易に関する限り、完全自由化には反対であるということでございます。
 農産物の自由化は、御案内のとおり生産性におきまして比較優位に立つ国の農産物というものが、他の国の当該農産物の生産を破壊、駆逐するというのが実態でございます。このことはわが国の例を見ましても、自由化をいたしました飼料穀物あるいは大豆、なたね、あるいは最近におきましてはレモン、この例を見ても明らかでございまして、安いコストのものが入ってまいりますれば、相手国の高いコストの農産物の生産を駆逐をいたしてまいるわけでございます。
 問題は、それでいいのかという問題でございます。工業原料としての農産物は別といたしまして、農産物の大部分というのは御案内のとおり、直接食べるかあるいは家畜の腹を通して人間の食糧といたしておるわけでございまして、食糧問題に重大なかかわりがある産品でございます。私どもは食糧問題を考える場合には、二つの前提が大切であると考えます。
 その一つは、長期的な視点でこの問題は考えなければならないということでございます。
 第二には、地球的な規模でやはり食糧問題は考えていかなければならないという問題でございます。
 最近、世界各国の調査機関の発表によりますと、西暦二〇〇〇年に向けての食糧需給に関するいろんな調査をそれぞれ行っておりますが、たとえばFAOでは二〇〇〇年の農業、米国政府ではカーター政権のときに二〇〇〇年の地球研究、OECDはインター・フューチャーズ・プロジェクト、それから農林水産省は昨年二〇〇〇年までの食糧需給予測等を発表しておりますが、共通しております点は、今後の食糧需給をめぐりましてはさまざまな不安定要因があるということを指摘をいたしておるわけでございます。それは発展途上国における人口の急減な増加であるとか、あるいは気象による収量の偏差であるとか、あるいは中進国におきまする飼料穀物需要の増大の問題であるとか、あるいは世界全体におけるこれからの農地造成の困難さであるとか、こういうことを指摘をいたしておりまして、二〇〇〇年に向けまして国際需給の先行きは必ずしも楽観を許さない、むしろ需給はきわめてタイトに推移をするであろうということが大方の予想でございます。このような予想のとおり、仮に食糧の絶対量の不足が生じた場合に、日本が貿易立国でドルを持っておるからといって一方的に食糧を買い占めることができるかどうか考えてみましても、その保証は全くないわけでございます。その意味においては、世界各国が農業生産力をこれ以上落とさない、現状維持を落とさないという努力をすることが何より肝要でございます。したがいまして食糧はできる限り自国でつくる、不足するものに限り輸入するという考え方をわれわれは農産物貿易の原則として考えておる次第でございます。事実、世界各国とも自国の農業を守るために懸命な努力をいたしておるのが現状でございます。アメリカの例は先ほどの事例で申し上げましたが、ECにおきましては御案内のとおり、共通農業政策で輸入農産物についてはきわめて高額な課徴金を課し、国内農業の保護に努めておることは御案内のとおりでございます。
 また、われわれは、貿易問題を考えるに当たりまして、農業と国民生活との多面的なかかわり合いについて、これを重視していかなければならないと考えるものでございます。
 その第一は、食糧の安全保障の問題でございます。現在、穀類の自給率は三三%を割り込んでおるというのが実態でございまして、カロリーでいきますと、五三%は輸入食糧によって賄われておる、国民が摂取するカロリーの五三%が輸入食糧によって賄われておるというのがいまの実態でございます。これ以上自給率を落とすわけにはまいらないぎりぎりのところに日本は来ておるというのが私は実態ではなかろうかと考えるわけでございます。
 第二には、国土と自然環境の保全の問題でございまして、農業は緑と水を守る重要な産業でございます。この農業を自由化によってこれ以上荒廃させることは、日本の国是として、私は当然とるべきではないと考えるわけでございます。
 第三点は、農村は日本社会の原点であるという問題でございます。
 地域社会の共同と連帯のもとに農業というのは営まれておるわけでございます。水を一つとりましても、自分だけで農業用水を確保しているわけではございません。地域の財産でございます。みんなで共同いたしまして、農業生産というものは、地域の連帯感、人と人との結びつきの中に成立をいたしておる、それが日本の社会を形成している一番大きな基礎になっているというふうに私どもは考えるわけでございます。
 特に、工業製品の輸出におきまして日本が非常に輸出力を持っておる、国際競争力を持っているというのも、いわゆる労使関係がきわめて円満にいっている、きわめて勤勉である、こういういわゆる勤労者がおるからでございまして、こういう人間をつくり上げている基礎は農村社会である、まさに農村社会というものは日本の社会の原点であるというふうに私どもは考えておるわけでございます。
 このような観点から、われわれは日本農業を滅ぼすような農産物の自由化には絶対反対するものでございます。
 以上、農産物貿易のあり方について率直な意見を申し述べたわけでございますが、最後に、われわれはこのような情勢の中で、農業者として何をなすべきかについて申し述べたいと思います。
 端的に結論を申し上げますと、与えられた条件の中で、より良質でより安価な農産物を国民に供給するため最大の努力をしなければならないということでございまして、私ども農業協同組合は昨年十月の第十六回大会におきまして系統農協としての農業振興方策を決定いたしましたが、その内容は、分散錯圃の状態にございます農地を共同の力によりまして集積をいたしまして、また担い手として地域営農集団を組織化いたしまして、土地利用型農産物のコストを今後十年間で二〇%低減するという目標を打ち立てたわけでございます。
 御案内のとおり、日本の農家一戸当たりの経営面積はわずか一・二ヘクタールでございます。アメリカの百八十二へクタール、フランスの二十六へクタールとは比較にならない狭さでございます。また、農地価格もアメリカの四十倍、フランスの七倍の高さでございます。この国土的制約を経営の努力によりましてどこまで圧縮できるかということがわれわれに課せられた国民の期待であり、貿易摩擦問題との関連におきまして、農産物を犠牲に供しない国民的な合意を得る唯一の道であると私どもは考えておるわけでございます。そのために最善の努力を今後払うことをお誓いいたしまして、私の意見開陳といたします。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 山口巌

speaker_id: 32789

日付: 1983-02-23

院: 参議院

会議名: 商工委員会、外務委員会、農林水産委員会、科学技術振興対策特別委員会連合審査会