田久保忠衛の発言 (外交・総合安全保障に関する調査特別委員会)

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○参考人(田久保忠衛君) 田久保でございます。
 民主政治、民主主義というのは、言論の多様性を認める制度でありますが、私、これは大変貴重な制度だと思うのであります。ただし、右か左か、これは私はイデオロギーの問題と思うのでありますが、国を守ることについて正反対の意見がこれほど存在することは、大変不思議だと思うのであります。実は前田参考人、長谷川先生、私尊敬している両先生でありますけれども、これから述べます見解はいささか違う角度から申し上げたいと思いますので、御了承願いたいと思うのであります。
 軍事力を持つ、あるいは防衛でございますが、これはすべて相対的な問題ではないかと思うのであります。つまり、軍事介入がないという一〇〇%の保証がない、いささか危険がある、そのために防衛政策が必要になる、こういうことでございます。この危険があれば、これを芽のうちにつぶすあるいは危険が生じたら、これを外交措置で何とかする、最後の最後の手段として防衛というものが問題になるわけであります。ただし、この最後の手段の防衛というものは、国家の存立過程からこれはなくてはならないものだというふうに私は思うのであります。
 それから今の、突然ショッキングなことを申し上げますけれども、日本の防衛政策でございます。選択が幾つか理論上は考えられると思うのであります。私理想は、はっきり申しますけれども、武装中立だと思うのであります。これはアメリカ、ソ連、中国あらゆる国と平和外交をやり、いざというときには武装を持っていると大変な軍事力になる。ただし、これは私は不可能、いまの段階では不可能だと思うのであります。また、そういう必要もなかろうと思うのであります。この武装中立をやるのであれば第一経済がどうなるか。いまGNPの一%以下でございますが、ここでも大問題になっている。これを二〇%、三〇%と何十年間続けるということになると、一体どういうことになるのか、国民もなかなかこれを認めまいと思うのであります。
 それから武装中立の前提はきちんとしたシビリアンコントロールであります。このシビリアンコントロールは単なる背広ではなくて、軍事問題に精通した、しかも哲学、見識を持った大政治家がいなければいかぬと思うのであります。さらに、日本が今の状態で武装中立をすれば、周辺国家にいかなるインパクトを与えるか、こういうことを考えますと、周辺国家だけではなく、アメリカに対しても大変なインパクトを与える。アメリカが第一これに対して大変な反発を示すであろうということでございますから、まず第一のオプションはルールアウトしてよかろう、こう思うのであります。
 次に、非武装中立てございます。これは大変いろいろな議論が最近盛んになっているわけでございます。特に中曽根政権成立以後、石橋社会党委員長の御意見もありまして、大変この議論がかまびすしくなってきているということでございますが、結論から申しまして、私の立場では非武装中立というのは、これはとらないということでございます。世界に例を見ない意見でございますね、これはとらぬということでございます。
 三番目でございますが、アメリカ以外の国と結ぶ。例えばこれは荒唐無稽と思われるのですが、日ソ安保条約とか日中、日韓とか、いろんなコンビネーションがあると思うのでありますが、これも常識で考えまして、今のオプションにはなり得ない、こう思うのであります。
 最後のオプションでございますが、日米安保条約、これはせざるを得ない、容認せざるを得ない、こういうことでございます。なぜであるかは、これはもう戦後の歴史的な関係ということがございます。それから経済。アメリカと手を切って日米関係が悪くなって日本の経済が成り立つかどうか、こういうことでございます。
 それから最後に、最も重要な問題でございますが、いろんな保険屋さんにかかっている。中国、ソ連、アメリカ、いろんな保険屋がいるわけでありますが、日本が独自で自分の安全を守れないとするのであれば、一番安全な保険屋にかかる以外はないだろう。これは西側の盟主と申しますか、いわゆる西側陣営のリーダーであるアメリカと手を結ばざるを得まい、こういうことでございます。これがそろばん勘定で最も経済的で、今の日本の置かれた立場では現実的で、しかも確実、安全の確度が高い、こういうことだと思うのであります。
 以上のようなことを申し上げた上で、西側の一員、つまりアメリカと結ぶということは、アメリカは欧州諸国、先進工業国と結んでいる。アジアでは日本と結んでいる、あるいは韓国、いろんな国と結びつきを持っているわけでありますが、日欧というのは、これは三角形の底辺でありますが、結びつきは余り強くない、希薄であります。ただ、日本は米欧と組まざるを得ない。西側というのは、私ははっきり言うと先進工業国の結びつきだと、こういうふうに思うのであります。
 実は私、レーガン政権が登場する前にアメリカのある研究所にいたわけでございますが、そこのある研究員でございます、いま実はレーガン政権の高官になってしまったわけでありますけれども、彼が、西側の一員でこういう説明をしたことがございます。つまり野球に例えたわけであります。ソ連チームとアメリカチームが対峙しているわけである、野球をやっているわけである。今から二十数年前でございますが、アメリカにはジョン・F・ケネディという剛球投手がいた。三球三振で当時のフルシチョフ、これは一九六二年、例のキューバ事件を言っているわけでありますが、フルシチョフを三球三振で打ち取った。以後、二年後にブレジネフが登場いたしまして、十八年間、ソ連を大変なチームに仕立て上げてしまった。第一級の超軍事大国に仕上げてしまった。その間にアメリカが二つの大失敗を犯した。一つはベトナム戦争である。第二は、これは二十年前にアメリカ人がたれ一人想像もしなかったほどアメリカの経済ががたがたになってしまった、こういうわけでございます。したがって、西側の一員としてNATO諸国あるいは日本に守ってもらわなければいかぬ。ところが日本から来る総理大臣は、例外なく西側の一員であるとワシントンで言うが、帰るとどうもこれがうやむやになってしまうということでございました。私は、このときには大分この人とけんかをしたわけでございますが、実は基本的には認識は一致しているわけでございます。
 西側の一員としてみんな、つまりバッターを見ているわけでありますが、日本だけは正当な、つまりチームの一員としての交際費を払っているかどうか。この点に関しましては、私は甚だ疑問に思う。
 この西側の一員というのは一体何かということでございますが、例えばショートストップを日本が担当する、これは経済あるいは政治、あるいは軍事、ここで一つの役割を果たさなければいかぬだろうと思うのであります。
 軍事は、これは冒頭に申しましたように、日本で正反対の意見がある。国を守るか守らないか。これはイギリス労働党左派でも、核配備をするか、認めるか認めないか、大いに議論がありますけれども、イギリスの国防について、これをやらなくてもいいという議論はないと思うのであります。ここのところが日本がどうも大きく開き過ぎているということでございます。
 したがいまして、経済、政治、防衛――防衛のところはちょっとおくといたしまして、金で解決のつく経済であります。これは必ずしも西側の一員としての役割を果たしていないのではないか。例えば、パリのOECDの下のDACであります。今、ただの金は十七カ国中十四番目か五番目である。ところがGNPのパーセンテージを掛けておりますから、必ずしも額でいいますと恥ずかしいものではないかもしれませんが、OECDのDACから絶えず毎年のように日本に対する非難が行われているということでございます。大変私は恥ずかしいことだと、こういうふうに思うのであります。つまり、金で片のつくことに十分な役割を果たしていない。もう一つ、利子のつく金でございますが、これは十七カ国中最も質の悪い援助をやっているということでございます。今回の予算で九・五%ほどODAは実現したわけでありますが、私はこれでも少な過ぎるのではなかろうか、このかなりの部分が利子補給とか赤字の穴埋めに使われているということでございます。この点はさておくといたしまして、経済の面でも西側の一員としての役割を果たしていないではないか。
 二番目、政治の面であります。
 これも口で言うだけでございまして、政治的に何をやったか、これは甚だ恥ずかしいと思うのであります。つまり西側の一員としての役割がまだ足りないと私は思うのであります。
 そこで、西側でございますが、いい例はサミットだと思うのであります。これは先進工業国――米、英、仏、独、伊、日本、カナダあるいはECが入ります。七カ国のサミットでございますが、一九七五年にこのサミットがつくられたわけであります。以後、これはやることが決まっておりまして、申し上げるまでもないことでございますが、経済成長率、通商、通貨、エネルギー、南北問題、こういう経済ばかりを取り上げてまいりましたので、これをエコノミックサミットと言っているわけでございます。
 ところが、これがだんだん変質してまいったわけでございます。これは一九七九年十二月二十七日、例のアフガニスタン事件でございますが、その翌年にイタリアのベネチアで開かれましたサミットでございます。ここではエコノミックサミットから若干色合いの違った宣言が採択されているわけであります。つまり国際テロの問題、これは当時イランの人質の問題がございました。それからアフガニスタンからの撤兵を要求する宣言、こういうものがつけ加えられましたので、エコノミックサミットが私は政治サミットになり始めたという診断を当時下したわけであります。
 この後、カナダのオタワで開かれたサミットであります。これはトルドー首相が政治声明というものを出したわけであります。ここでソ連を脅威と決めつけた、こういうことでございます。
 その後でございますが、フランスでおととし開かれましたサミットでございますが、ここではソ連に対する天然ガスのパイプライン、あの設備等に対する輸出規制をレーガンが強く唱えまして、フランスのミッテランがこれに反対する。この議論は単なる経済の論議ではなくて、政治あるいは安全保障にかかわる問題だろうと思うのであります。レーガンの言い草、これは必ずしも当時私は賛成しなかったわけでございますが、この施設をソ連に提供すると天然ガスのパイプラインが西側に出てきた場合に、年間百億ドルの金がソ連のポケットに入る、これが軍事に転用された場合に恐ろしいことになるということで彼は反対を唱えたわけであります。フランスで開かれましたサミット、これも私は純然たるエコノミックサミットではないというふうに思うわけであります。
 それから今回、つまり去年でございますが、ウィリアムズバーグ・サミットは経済サミットとは申せ、最大の目玉はSS20の問題だったのではなかろうか、こう思うのであります。
 戦後の日本の総理大臣といたしまして、安全保障をエコノミックサミットの場で論じた人はいなかった、中曽根首相一人であります。この評価はさておくといたしまして、日本は好むと好まざるとにかかわらず、経済、政治、軍事、こういう西側の一員である限りこれを論ぜざるを得ない、こういうところに、だんだん入ってきている。ここで私は西側の一員としての自覚が必要であろう、こう思うのであります。これが嫌であればサミットを脱退しなければいかぬであろう。サミットを脱退した場合に、日本の生きる道はあるのか、これは大変なことになるだろうというふうに思います。私は、サミットが大変重要な場になってまいった。大きなX軸、Y軸の中で、日本が占めているポジション、これは明瞭だ、こういうふうに思うのであります。
 今申し上げたことから、西側の一員として巻き込まれ論というのがあるわけであります。私は、こういうところからすると、腰を落ちつけて、巻き込まれていないと日本の安全は危ないのではなかろうか。これからさしたる計算なしに飛び出すと、えらいことになるのではなかろうか、こういうふうに思うのであります。
 そこで、少し論点を変えたいと思うのであります。
 先ほど抑止論という問題が出たわけでございます。私は抑止理論をここで申し上げるという、そういう専門家でもございませんが、つまり今の国際情勢全体の中で日本を考えますと、硬軟両様の構えといいますか、一つは抑止、大きな力というものがあって、その反面で交渉あるいは平和的な話し合い、こちら両方を見ていないと単眼になってしまう。何と申しますか、ダブルトラックと申しますか、そういう両面を頭に入れておかないと日本も今後の進路を誤るんではなかろうか、こう思うのであります。
 今の国際情勢で私は最も重要なのは中距離核戦力の問題、削減交渉の問題である、INFの問題だと思うのであります。この点につきまして若干触れさせていただきたいと思うのであります。
 実はこのSS20、中距離核兵器が配備されましたのは、これは日本では七七年と言われておるわけでありますが、私の調べたところでは七六年からソ連の欧州部に配備が開始されている。これで当時最も頭を痛めましたのはドイツの社会民主党のシュミット首相であります。彼は大変これに対処するために悩んだわけであります。これを無視するのか、抗議するのか、あるいは自分で核を持つのか、四番目はアメリカの核を持ってきて向こうの核を中和する、それに基づいてソ連に対して徹底的な平和外交をやるんだというようなことを彼は考えたわけであります。一九七七年、その翌年でございますけれども、ロンドンのIISS、国際戦略研究所、これは初代の所長がアルステア・バカンという人であります。このバカン記念講演会というものをIISSは毎年一回やっているわけであります。世界の戦略家と言われる人を毎年連れてまいりまして、ここで記念講演をさせるわけであります。この間亡くなりましたレイモン・アロンとかキッシンジャーがここで登場したわけでありますが、七七年にこのアルステア・バカンで演説いたしましたシュミット首相は、現在の国際情勢は恐怖と平和が共存しているんだよ、平和だけを求めて恐怖に目を向けない、これはおかしいのではなかろうかと。彼は恐らく地獄の底を見るような思いで悩みに悩んだ結果、バカン演説をぶったと思うのであります。脅威に真正面から対抗する、同時に西ドイツ外交、社民党外交は平和を求めて進むのだということをここでぶったわけであります。その後ボン・サミット、その後東京サミットが開かれましたけれども、そこで日本の総理大臣にシュミットがいろんなことを聞いたわけでありますが、ここで満足な答えが得られなかったというのは、私は日本が核に対して、非核三原則も大いに結構でございますが、勉強だけは怠ってはならないにもかかわらず、大した勉強をしなかった、そういう結果だと思うのであります。
 そこで、アルステア・バカン演説でシュミットが示した下敷きでございますが、これはアメリカにシュミットは要求するわけであります。ところが、アメリカは潜水艦発射ミサイルその他を持っているので、西ドイツその他五カ国にパーシングH巡航ミサイルを配備する必要はないということで逃げるわけでありますが、シュミットの説得にカーターも納得いたしましてOKする。これは一九七九年十二月のNATO理事会におけるいわゆるダブルトラックの決定でございます。西ドイツ、オランダ、ベルギーそれからイタリー、イギリス五カ国にパーシングⅡ巡航ミサイルを配備する、同時にソ連と徹底的な軍縮交渉を行うのだということでございます。つまり、これは横綱同士のどうも力の差があり過ぎる、これをとんとん水が入ったような状況にしておいて一段二段と話し合いをして軍縮の方向に持っていこう、こういうことだと思うのであります。つまり、この考え方というのは私は今の国際情勢の中の支配的な考え方であろう、こう思うのであります。
 先ほどちょっと触れましたように、私はレーガン大統領、必ずしもいい感じは持っていないわけでございますが、彼が一九八二年、二年前の五月、あれはユリイカ大学――日本語ではユーレカ大学と言っておりますが、ユリイカ大学で演説いたしました彼の対ソ政策、これはまことに見事な政策だというふうに今でも信じているわけであります。
 どういうことかと申しますと、五本の柱からなっているわけであります。
 まず第一が力のバランスを保つこと。それから二番目、これは先ほどの天然ガスのパイプラインの問題でございますが、ソ連に経済的なある限度以上の力をつけさして、これが軍事に転用されることを極力防ぐ。つまり経済であります。三番目、第三世界において不安定な地域をなくす。不安定な地域があったところに必ずソ連が影響力を伸ばしてきた。一九七五年以降七九年までの国際情勢を眺めてみると、これは自明だと思うのであります。これが三番目であります。四番目が軍縮の勧めでございます。それで五番目、これは対話。あらゆるルートを通じて対話を行うのだと、こういうことを言っているわけであります。
 以上五つの柱の上の二つでございますが、これは大変強い政策であります。クレムリンに対して大変厳しい強力な、硬軟の便の方の政策を推し進める。傍ら四番目と五番目の政策でありますが、軟の政策であります。これはNATOのダブルトラック、先ほど申し上げました七九年十二月のダブル・トラック・ポリシー、これを理論化したものであろうと私は思うのであります。こういうことでございますから、一方的な軍縮、私は軍縮は大変いいことだと思うのでありますが、一方的な軍縮ではなく、反面に力を伴った政策がなければ、今の国際情勢では意味をなさないということを申し上げたいわけであります。いろいろ申し上げることがあるのでございますが、あっという間に時間がたってしまいました。
 そこで、日本の立場でございますが、先ほどちょっと申し上げましたように、例えば今のSS20の問題にしましてもシュミットが気がついたときに日本は気がついていたか一気がついていなかったわけでございます。これは去年の一月でございますか、西ドイツ、ドイツ社民党のフォーゲルという首相候補がモスクワに参りまして、先ごろ亡くなったアンドロポフ書記長と話し合いをした。日本では首脳会談というとミカンとか牛肉等の話が出るのでありますが、西ドイツは野党の首相候補がモスクワに行って、まず最初に取り上げましたのがINFの問題であります。SS20をどうしてくれるかということをアンドロポフ書記長に迫ったわけであります。そのときアンドロポフ書記長は、一部は廃棄する、一部は極東に持っていくという発言をしたわけであります。これが大きく取り上げられまして、日本では大騒ぎになった。その後でございますが、一月、ちょうど中曽根首相が訪米している最中でありますが、グロムイコ外相がボンを訪問いたしましてゲンシャー外相と会った。そのときにグロムイコは極東の地図を掲げまして、この沖縄近辺には第七艦隊が核を持っているんだと。これに対抗するために我々は欧州から一部極東に核を、SS20を移駐させなければいけないということを説いたわけであります。それから去年の四月でございますが、モスクワの記者会見でグロムイコは同様の見解を述べた。これで日本は大騒ぎになったということでございます。
 私に言わせれば、この三海峡封鎖、シーレーンあるいはいろいろ日本の防衛というものを地域に限定しているわけでありますが、大きく国際情勢全体の中で何を考えなければいけないかと、そういう視点に少し欠けているんではなかろうかというふうに思うのであります。これは何もめちゃくちゃな大軍備をしろと言っているんじゃなくて、一応INF交渉の本質はどうなのであるか、米ソ関係の本質はどうなのであるか、その各論として日米関係あるいはそのまた各論として防衛政策がどうなるかというようなきめ細かい検討がなされていないのではなかろうか、かように思うわけでございます。
 時間が参りましたのでこれでやめておきますけれども、X軸、Y軸の中で日本が置かれている地位がどこであるか、そこで一番安全な方法は何であるか、こういうことを私は考えなければいけないというのが、きょう私ここに参上して申し上げたかったポイントでございます。
 大変失礼いたしました。

発言情報

speech_id: 110113945X00319840222_010

発言者: 田久保忠衛

speaker_id: 4757

日付: 1984-02-22

院: 参議院

会議名: 外交・総合安全保障に関する調査特別委員会