山本興一の発言 (社会労働委員会)

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○山本参考人 私は、全日本自治団体労働組合に所属します山本です。
 私は、先ほど御発言されました高梨先生と同じに、中職審派遣事業等小委員会の末席を汚しながら、労働側の委員としてこの問題に対応してきたものでありますが、現在審議されております労働者派遣法案に基本的に反対する立場をまず明らかにしながら、その理由として、法案成立の暁に生ずるでありましょう心配な点、あるいは問題な点、それらについて以下幾つかの意見を述べたいと思います。
 まず第一に心配する点としましては、労働者派遣事業の法制化是非に関連する問題であります。言いかえれば、労働者派遣事業を制度上認めることによって生ずる多くの影響であります。
 御承知のように、日本の雇用失業状況は、先進諸国と比べて相対的には今よい状況にあるというふうに言われています。日本経済は一九六〇年代後半以降、世界に比類のない高成長を遂げて今日に至っておりますが、このような日本経済を支えてきた要因の一つは、特殊日本型とも言われるいわゆる日本的雇用慣行にあったことは間違いないと考えます。すなわち、年功序列体系、終身雇用制を中心とする慣行があったことが大きく貢献して日本経済を発展させ得たと考えます。
 当然のことでありますが、日本的雇用慣行にしても、それは一定不変ではなくて、事実として経済の発展に伴う産業構造の変化あるいは社会的条件の変化に対応して、少しずつ変化していることは当然です。しかし、現状における労使関係を規定している背景を考えてみますと、やはり依然として日本的雇用慣行が存在していると言えます。私は、労働者派遣法がこの日本的雇用慣行にかなり大きな影響を与えるものとして心配するのであります。
 具体的に言えば、従来の民間における会社には正社員がいる。そしてその他に一部の臨時の社員がいるという基本型が考えられたと思うのです。もちろん、この中には他社の従業員が請負としてその事業所内で仕事をしているという姿も想定されるでしょう。しかし、基本的な姿はやはりその会社の社員がほとんどであるという形だと思います。
 ところが、労働者派遣というものが一般的に行われる、それも事業として広く行われた場合には、会社の基本的な姿というものは変化せざるを得なくなると思うのです。他社の社員が事業所内にかなりいて、そしてその他社の社員に自社の社員同様に指揮命令する者がその他社の社員を使用することになります。さらにこの姿が一般化することになれば、従来の会社の姿はその基本が大きく変わることになるわけです。そうなると、従来の雇用慣行もいや応なしに大きく変化せざるを得ないと思います。事業所内の特定の業務分野については、他社の社員が業務を行うことになるわけですし、同じ職場で同じ人から仕事の指揮命令を受けていながら、実は雇用主が異なる労働者がいるという状態ができることになります。極端な場合では、所属する会社が異なる労働者で構成された職場、寄り合い世帯の職場ができ上がることになると考えられるわけであります。
 このような会社の姿、職場の状態というものが想定されるとしても、一挙に一般化するとは考えませんが、従来の雇用慣行なり職場における秩序といった企業経営の支柱となっている分野に対して大きな影響を及ぼす要因が急激に変化することになる、その契機に今回の労働者派遣法がなるのではないかという点をまず強調しておきたいわけであります。
 最近、労働者派遣事業といいますか、人材派遣会社が急増してきているという状況があるわけですが、その背景には行政の対応の不十分さがあったことも事実ですし、それと同時に、企業経営の立場でのコストダウン、省力化の追求といったことがあるわけであります。
 私が申し上げたい心配な点の二つは、経済合理性の追求が先行され、そしてそれが第一義的に考えられることになると、従来の雇用慣行が持っているいい点が押しつぶされてしまって、結果として、日本経済全体を見ると大きな損失になる、経済合理性の追求とも逆行することになる可能性、危険性があるのではないかという点であります。労働者にとってみましても、雇用不安などの問題に発展することになり、心配であるということであります。
 したがって、この労働者派遣法の検討は、慎重の上にも慎重を期してなされなければならないのではないかと考え、提案されている政府原案を拝見して、心配せざるを得ない点が幾つも目につくわけであります。この法律がこのまま制定されることは大きな問題だと考えているところであります。
 さて次に、法案上の具体的な問題点につきまして、限られた時間でありますから十分述べることはできませんが、主要な点に幾つか触れてみたいと思います。
 問題点の一つは、使用者責任の問題であります。
 現行の労使関係法では、使用者と雇用主は同一であることが前提で組み立てられていると理解をしています。労働者は雇用主である使用者から仕事について指揮命令を受けて働くことになっていまして、使用者としての責任の所在が明らかに労働者が認識できる形で労働者の保護が図られていると考えています。ところが、労働者派遣事業を法案のような規定によって認めるとしますと、雇用主と使用者が別人になることが認められることになり、労働者は自分の雇用主からは就業場所、就業時間、業務内容などの就業の条件については指示されますが、実際の労働についての具体的な指揮命令は、派遣された先でそこの使用者からなされることになります。すなわち雇用関係と使用関係が新たに分離されることになる点です。
 労働者の保護、労働者の基本的権利を擁護する立場から見た場合、このような雇用と使用の分離が行われること、実際には労働者を指揮命令する使用者が現行の法律上の使用者としての責任を負わなくてよくなることが労働者にとってはマイナスに作用するのではないかと危惧されるわけであります。
 問題点の二つは、労働力需給調整システムと営利事業との関係について触れます。
 法案第一条の目的に示されているように、「労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに」云々とありまして、労働者派遣事業は労働力需給調整の面で社会的な役割を果たすことが期待されるがゆえに民間事業であっても認めるようにしようということだと思います。
 ここで問題になるのは中間搾取との関連であります。現行の労働基準法第六条では「中間搾取の排除」を規定し、「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」こととされています。労働者派遣法をめぐっての論議で指摘されていることですが、労働者派遣事業を認めることは中間搾取を容認することであって、労働基準法第六条の空文化につながるという指摘であります。
 私は、労働者派遣事業が果たしている労働力需給調整の面での社会的役割を中間搾取の危険を冒してまでも公認すべきものであると評価するかどうかだと考えますが、この点は否定的な立場をとらざるを得ないわけであります。仮に労働者派遣事業が果たしている役割を積極的に評価するとしても、その事業活動を進める上で必要最小限度の範囲での手数料的なものの徴収は認められると考えますが、労働者派遣を事業として営むことによって利益をむさぼるようなことがあってはならないと考えるのが当然だろうと思います。不当な利益を得ることができるような事業はもちろんでありますが、中間搾取を規制できないような制度はつくるべきでないと考えます。
 むしろ現行法制のもとにある労働力需給システムの改善などによって需給調整機能を高める行政努力こそが今日重要なのではないかと感じております。率直に申し上げて、法案で言う一般労働者派遣事業につきましては民営職業紹介事業として位置づけるべきだと考えます。
 問題点の三つは、適用対象業務に関する問題であります。
 法第四条におきまして、一定の要件に該当する業務を政令で限定することとされていますが、第四条で規定してある要件というのは抽象的な規定あるいは一般的な指標であって、とにかく業務を適用対象として限定する場合の客観的な基準とはなり得ない規定であるという点であります。したがって、適用対象業務が容易に拡大される可能性があるということです。この点はあらかじめ中央職業安定審議会の意見を聞くことが義務づけられていますが、それだけでは業務の範囲を限定する方法としては万全なものではないと考えるわけであります。
 法案上の具体的な問題点としては、派遣先に対する規制措置として、海外への派遣や特定の企業にのみ派遣を行う事業は禁止されるべきであると考えます。また、派遣期間の制限や、派遣された労働者が請負業務で他の事業所に派遣されるような場合の規制措置などが、以上申し上げた以外にも問題点として指摘できるわけであります。
 最後に、どうしても申し上げなければならない問題があります。
 それは、この労働者派遣法が制定されたとして、この制度の目的に沿って適正な運用をどのようにして確保するのかという問題であります。
 派遣労働者の保護、雇用の安定を確保するためには、法の規定に照らして違法な行為は厳格に取り締まりを行う必要があると考えます。もしこのことが不十分であるとすれば、現行の職安法のもとにおける現状よりもっと複雑な労使関係をつくり出すことになると考えられるからであります。
 以上、私は、労働者保護の観点から今後における問題点を指摘しい今後における慎重な審議を希望して、私の意見を終わります。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 山本興一

speaker_id: 24192

日付: 1985-04-19

院: 衆議院

会議名: 社会労働委員会