田久保忠衛の発言 (予算委員会公聴会)

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○田久保公述人 田久保でございます。
 私は、最近の国際情勢を顧みまして、観察いたしまして、日本の外交、防衛、これはどうあるべきかという観点からいろいろ意見を申し述べたいと存じます。
 まず、最大の今の問題でございますけれども、米ソ関係であります。米ソ関係は、INF全廃条約に昨年の十二月、レーガン、ゴルバチョフがワシントンで調印したわけでございます。これで国際情勢が一挙にデタントの情勢に入った、したがって国際情勢は緊張緩和の方に向いている、よって日本の防衛もこれは余り重視しなくていいんだというような、そうとも受け取れる御議論が私はあったように見受けるわけでございます。現に日本の一部にもそういう意見があるように考えるわけでございます。これは間違いではないかというふうに私は考えております。
 それはゴルバチョフ外交をどう評価するかという一点に尽きるわけでございますが、これはスタイルが変化したのかあるいはサブスタンス、態様が変化したのかあるいは実体が変化したのか、この判断がなかなかつきにくいということだと思うのでございます。全核兵器の四%弱が全廃される、これはそれなりに大いに意義がある。それから検証、これも画期的なものであるというふうに思うのでございますけれども、何が変化して何が変化しなかったのかというところから考えますと、これはよく慎重に考えていかなければいけないのではないかというふうに思うのでございます。
 私は、INF全廃条約が結ばれましたプロセスを見ておりますと、これはつまり反核・平和の運動が成功してこうなったのであろうか、そうではないんではないかと思うのであります。反核・平和の運動も確かに意義のあるものだと思うのでございますけれども、これはやはりレーガンの力の政策あるいは西側の団結というものが大きな役割を果たしたのではないか。
 私は四つ問題を挙げたいと思うのであります。レーガンの軍事費でございます。八〇年度から八五年度までのアメリカの軍事費、実質三二%の増、これが第一でございます。二番目は、欧州にアメリカの中距離核を展開した、この既成事実がございます。それから三番目に、まだ海のものとも山のものともわかりませんが、SDI。これは八三年三月二十三日、レーガンが構想を公表したわけでございますけれども、これがいつの間にか政治的あるいは外交上の武器になった、これが私は三番目の強さだと思うのであります。それから四つ目は、米日欧、この西側の団結。これは八三年の例のウィリアムズバーグ・サミット、中曽根前総理が少なからぬ役割を果たされたわけでございますが、あの政治声明を見ておりますと、西側の安全保障は不可分であると、すこぶる重要な一句が盛られている。これがゴルバチョフを交渉の場に引き出した大きなてこになったのではないかなというふうに私は判断しているわけでございます。
 もちろんソ連の内部事情もございましょうが、こういう交渉事になりますと、片方の手でパンチ力がある、その上に立って右の握手をする二路線方式、この左のパンチを忘れた場合にはこういうINF全廃条約というものは実現できなかったのではないかなというふうに考えているわけでございます。
 さて、INFが全廃された後の国際情勢はどういうことになるか。これは、私は、通常兵器、通常兵力の重視ということに相なろうか、こう思うのでございます。例えば欧州でございます。INF全廃、これが大きなインパクトを与えている。例えば西ドイツとフランスでございます。これは一月二十二日でございますけれども、西独・フランス安全保障協議会というものができたわけでございます。ここで仏独合同旅団四千二百人編成が決まっている、こういうことでございまして、通常戦争にどう備えるかということが欧米の大きな関心事ではないかなというふうに私は判断しているわけでございます。
 時間がございませんので急ぎますと、日本でございますけれども、一九七八年の指針に基づきまして、防衛庁も盛んに日米間の戦術的協議を進めておられる。私はこれは大変結構なことだと思うのであります。共同作戦計画、シーレーンの防衛計画、インターオペラビリティー、それから今回一月に防衛庁長官がカールッチ米国防長官との間でお話しになられた有事来援の問題、次から次へとこういうところで、日米間大変亀裂が深まっておりますけれども、安全保障面では非常に関係が強まっている、結構なことだなというふうに思うのでございます。
 そこで、ここで私が少し注文をつけさせていただきますと、戦術面の協議が行われている。しかし国際情勢というのはかなり劇的に変わっているのではないか。例えば一月十二日でございますが、例のイクレ国防次官、ウォルステッター前NATO司令官、この二人が幹事になりまして十三人の専門家がつくった「選別的抑止力」という報告書がございます。一月二十日にレーガンが「アメリカの国家安全保障戦略」という報告書を出した。前者は兵器技術、この劇的な変化でございます。世界が変わっていて、どうやら脱核兵器時代、この到来を告げたように私は感ずるわけでございます。
 いずれも通常戦争が改めて重視され始めたということだと思うのであります。それからレーガンの戦略に関する報告書、これもきちっと国際情勢を踏まえた上での報告書だと私は思うのであります。こういう面で日米間に戦略上の話し合いを持ったらどうか。もっともっとこれから強化すべきは戦略上の話し合いではないか。二十一世紀をにらんだ日本の防衛政策、九〇年以降のことも大いに考えていただきたいというふうに思うのでございます。
 それから、以上のことから申しますと、来年度の予算でございますが、五・二%の増、極めて妥当である。むしろ、私の考えからいたしますと、少な過ぎる感もあるのではないかな、こう思うのであります。いずれにいたしましても、現在の国際情勢にかんがみまして、日本は粛々と自衛力の整備に努めるべきだ、これを逆戻りさせるような理由は皆無であるというふうに考えております。
 二番目に申し上げたいのは、西側の一員としての自覚でございます。自覚と責任ということでございます。
 これはいろんな数字があるわけでございますけれども、日本経済は考えられないぐらいに大きなものになった。一九四五年、日本のGNPなんというのは、これはゼロに等しかったのだろうと思うのであります。六〇年、世界に占める日本のGNPは三%。これが八〇年になりますと一〇%。今円高でございますから、換算、これをどうするかいろいろ難しいわけでございますけれども、一説によりますと、一五、六%という数字が出る。これだけのGNPを持った国が国際的責任をどう果たすか、ここのところが重要ではないかなと思うのでございます。
 一方、アメリカのGNPでございますけれども、戦後これはどんどんどんどん落ちる一方である。先ほど六〇年の数字を申し上げましたが、世界に占めるアメリカのGNP、六〇年三三%でございますね。八〇年になりますと二二%。これはどんどん下がっていって、日本がどんどん上がるというふうには考えられませんが、どうも日米間に経済の力で地殻変動が見られるということでございます。これで経済摩擦が起こるのはむしろ当然でございます。
 これを解消するということから考えますと国際化。後から国際化ということを考えて、やはり日米摩擦あるいはほかの国との摩擦がなかったら国際化という議論は起こらなかったと思うのであります。それで国際化、物、金あるいは人、これは重要でございますけれども、いろいろ難問がございますけれども、どんどん進めなければいかぬだろう、こう思います。
 それからODA、これももう諸先生方大変御努力なされて、円高のせいもありますけれども、百億ドルを突破した。私はすばらしいことだと思うのであります。ただ、これを推し進めていくだけでいいのか。やはり経済大国としての責任、これをどういうふうに果たすかということでございます。私は大きく行動で示さなければいけないだろうというふうに思うのであります。例えば、これは余り明るみに、まだ公表されていないわけでございますけれども、大来佐武郎先生がやっておられる民間の日本国際フォーラムというものがある。ここで実は大変な報告書が近々出るわけでございます。
 これは「日本、アメリカ、アジアNICS間の構造調整」という答申でございます。民間でこれだけのものができている。つまり、日米間の構造調整をする。経済摩擦をなくす。そのかわりアメリカには財政赤字の削減を強く要請する。そのかわり——そのかわりがたくさんあるわけでございますけれども、そのかわり日本は、アメリカ側の赤字削減、これを本格的にやりますとデフレ効果を生むのではないか、あるいは縮小均衡の状態になるのではないか、これをアブソーバーとして日本が内需振興で大いにやる。NICSをアメリカの経済が直撃する、あるいは中南米を直撃する、その間に日本が大きな国際的役割を果たす。二十一世紀に伸びる私は心意気を示したものだ、こう思うのでございます。こういうような思い切った措置をこれからどんどんとっていかなければいけないのではないかな、こう思うのでございます。
 そこで、経済の部門、これは今申し上げたようなことでいいと思うのでございますけれども、問題はそれだけで済まないことがある。例えば昨年大いに問題になりましたペルシャ湾の問題でございます。西側の一員——私は自民党の推薦でここに出まして自民党に注文をつけるようで大変恐縮でございますけれども、西側の一員と大きな声で言って、その役割をどうするかが問われたのが私はペルシャ湾の問題だと思うのです。西側の一員、これは例えばアメリカがクウェートのタンカー十一隻を防衛する。これはなかなか我々にできるものではない。アメリカが協力要請したときサッチャーも断った。当然だと思うのであります。
 ただし、公海上、オマーン沖でアメリカのテキサコ・カリビアン、大型タンカーが触雷した、そのときにイギリス、フランス、イタリー、ベルギー、オランダ、これはみんな掃海艇を派遣しているわけであります。ところが日本は何もしない。行動では少なくとも何もしない。西ドイツでありますけれども、西側の一員、西ドイツはNATO地域以外の地域に派遣、海外派兵できない仕組みになっておりますが、地中海に三隻の艦艇を派遣した、これでパトロールを受け持った、こういうことでございます。
 日本は行動では少なくとも示していない。西側の一員というアパートがあって、門に火がついた。一番力の強い男がバケツを持ってこれに水をかけている。今度は玄関に火がついた。これはみんなが火を消している。西ドイツは水道の蛇口と現場をバケツのリレーをしているわけであります。日本はまだ部屋にいる。こういうことで西側の一員としてのロジックが通るだろうかどうか。これは憲法の枠内でできるという政府の見解もあるわけでございます。今の体制でできるぎりぎりの行動による誠意、これを示さなかった。今後こういう同じような例が出た場合にどうするのか。私は、ここでひとつ大きな心意気を示していただきたい、これは軍国主義の復活とかなんとかとは全然別個の問題だというふうに考えるわけでございます。
 それから、私が最後に申し上げたいのは、どうも今の国際情勢、世界のバランスが変わりつつあるのではないかな、こういうことでございます。
 最近のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン、一月二十七日、八日両日に紹介されておりますけれども、エール大学のポール・M・ケネディ教授、歴史学の大家であります。彼が、今のアメリカの情勢というのは、一九〇〇年、二十世紀への曲がり角を曲がったばかりのイギリスに酷似している。実に似ている。以後、イギリスは衰退の一途をたどったわけであります。これはボーア戦争、ドイツと対抗した。今のアメリカはベトナム戦争、ソ連と対決している。実に似ている。経済はがたがたである。
 そこでポール・ケネディ教授は——私はこの点は余りポール・ケネディ教授と意見は一致しないわけでございますが、アメリカが一挙に衰退するなんということは考えられない。なだらかに坂道を下がっていくだろう。五十年とか六十年、曲折はあっても大きな没落、衰退というものはなかろうと思うのであります。ただし、世界のバランスは徐々に変わっていくという認識を持たなかったらいけないのではないか、こういうことでございます。アメリカも徐々に手じまいの状態に入っていくだろう、こう思うのでございます。
 実は、最近気になりますのが、レーガンの特別顧問をやりましたドーグ・バンドーという人がおる。これがCATOという研究所で在韓米軍の段階的撤兵という論文を十二月に書きまして、日本の新聞にも一部紹介されたことがございます。これは五年以内に撤退する、その後、日韓で安保条約を結んだらいいじゃないかというようなことをこの結論のところでちょっと言っているわけでございます。これは今の状態だと荒唐無稽ということになると思います。それから、十二月二十六日付のエコノミスト、このエコノミストでアジアの安全保障という特集がございまして、この結論のところで、中国も軍事的に強くなるだろう、その場合に日本が中国との間で安全保障条約を結んだらどうかというようなことをちょっと書いているわけでございます。
 私は、エコノミストの記事も前のバンドー氏の論文も、これは今のところ現実離れがしているけれども、いずれも、大きく国際情勢、バランス・オブ・パワー、一種の均衡が崩れていくのではないか、二十一世紀に崩れていくのではないか。経済の次元だけをとりますと、これはもう二極構造というのはなくなっている。日本のGNPがソ連を抜いてしまった。日本のパーキャピタ、一人当たりにいたしますと、アメリカのGNPを抜くところまで来ている。EECは、これはEECだけでGNPはアメリカを抜いてしまった。つまり、米ソ二極というのは経済の次元に関する限りない。こういうところで、この中で政治、軍事、このバランスがどう変わっていくか。二十一世紀に目を凝らした対策が私は必要ではないかな、こういうふうに考えるわけでございます。
 いろいろ申し上げたいことがございますが、つまり、私が申し上げたいことは日本の責任ということでございます。今までの受動的な対応でいいのかどうかということなんでございます。
 それは、竹下首相が一月の十三日でございますか、レーガンと会談いたしました後、ナショナル・プレス・ビルディングの記者会見に臨まれた。そこで、「世界に貢献する日本」ということを言われて、私は大変これはいいことだなと思ったわけでございます。
 実は、私の記憶ですと、八一年五月五日に、当時の鈴木総理でございますが、ニューヨークのジャパン・ソサエティーの演説でこういうことを言われた。日本は、従来の受動的受益者から能動的創造者になるんだ、行為者になるんだ、第三の開国を迎えましたということをおっしゃった。私は、一種の感慨を持ってこの発言を拝聴したわけでございます。しかし、以後七年たつわけでございますけれども、これは行動で、西側の大国としての、あるいは一員としての行動をお示しになったかどうか、私は、これは心もとないと思うのでございます。
 この点を竹下総理はお気づきになったかどうか知りませんが、「世界に貢献する日本」ということを言われた。いよいよ言葉ではなく、行動で西側の一員を示す時期に来ているなというのが私の結論でございます。
 ちょうど二十分になりましたので、これでやめておきたいと思います。御清聴ありがとう存じました。(拍手)

発言情報

speech_id: 111205262X00119880215_002

発言者: 田久保忠衛

speaker_id: 4757

日付: 1988-02-15

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会