中山太郎の発言 (安全保障特別委員会)
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○中山国務大臣 衆議院安全保障特別委員会の開催に当たりまして、我が国の安全保障について所信を申し述べたいと思います。
安全保障に万全を期することは、国家の独立と繁栄を維持し、国民の生命財産を守るために必要不可欠な条件であり、外交の基本的課題であります。私は、我が国の安全保障政策遂行の任に当たる者の一人として、その使命と責任を全うすべく全力を尽くす決意でございます。
昨年八月のイラクのクウェート侵攻に端を発する湾岸危機は、国際社会にとって一つの大きな試練でありました。幸いにして、危機への対応に当たっては米ソの協調関係が基本的に維持され、また国連の権威と米国の強力なリーダーシップのもと、我が国を含む各国の一致した協力により、国際社会はこの試練を乗り越えることができました。
しかし、湾岸危機が一応の終結を見たとはいえ、イラクでは敗戦を機に反政府活動が活発化し、トルコを初めとする周辺諸国への難民流出が新たな問題として浮上しており、我が国としても、関係各国や国際機関と協力しつつ、これら周辺諸国への医療チームの派遣を含めてその対応にできる限りの努力を行っているところであります。
また政府は、一昨日の安全保障会議及び閣議において、我が国船舶の航行の安全を確保するために、ペルシャ湾における機雷の除去及びその処理を行わせるため海上自衛隊の掃海艇等を派遣することを決定いたしました。この措置は、船舶の航行の安全を確保し、被災国の復興等に寄与するという平和的、人道的目的を有する人的貢献策であると同時に、その成果は我が国のみならずアジア・太平洋地域全体にも裨益するものであり、今般の決定について皆様の御理解と御協力をお願い申し上げる次第であります。
さらに、湾岸危機後の中東地域全体の安定化は、それ自体国際社会が協力して取り組むべき大きな課題であります。
湾岸危機を乗り越えた国際社会は、今日、ソ連の国内問題の深刻化というもう一つの不安定要因に直面しております。これは変化に内在する不安定性のあらわれとも言えますが、近年の東西関係の好ましい変化をもたらした主たる要因の一つが新思考外交の展開を初めとするソ連の変化であっただけに、ソ連情勢の不安定化は国際社会にとって特に重要な意味を有しております。ソ連情勢の不安定化による影響は既にさまざまな形であらわれており、本年一月のバルト諸国への武力行使や、ソ連によるウラル以東への兵器移転問題を初めとするCFE条約に係る問題、さらにはSTART条約交渉への影響等、これまで続けられてきた米ソ関係の安定化や欧州における新たな安全保障の枠組みに向けての努力に対する不確実性を高める要因となっております。
東欧においては、これまで東西対立の陰に隠れていた民族問題を初めとする各国の歴史的な諸問題が顕在化しつつあり、ソ連情勢の不安定化と相まって、欧州の安全保障を考慮する際の重要な問題の一つとなっております。
また、アジア・太平洋地域におきましても、中ソ関係の正常化、南北朝鮮間における対話の進展、韓ソ間の国交樹立等に見られるような一定の好ましい方向への変化が見られつつあるとはいえ、朝鮮半島における対立、カンボジア問題、日ソ間の北方領土問題等、この地域の安全保障にとって重要な問題の構造的な解決は依然として見られておりません。また、北朝鮮は核不拡散条約を締結しているにもかかわらず、同条約上の義務であるIAEAのフルスコープ保障措置を受け入れる協定の締結をいまだ行っておらず、このことが国際社会において北朝鮮の核兵器開発に対する大きな疑念を醸成する結果となっております。極東ソ連軍についても、量的には削減傾向が見られるものの依然として膨大な軍事力が蓄積されており、質的な向上も継続されております。
以上のように、今日の国際情勢は、新たな国際秩序の構築へ向けての努力が続けられつつもなお多くの不安定性を抱えており、国家関係の安定化のための積極的な外交努力を推進すると同時に、実力に裏づけられた効果的な抑止力を維持することが引き続き重要であることを示しております。
このような国際情勢の中にあって、我が国の平和と安全を確保するためにまず重要なことは、日米安保体制の堅持であります。
日米安保体制は、アジア・太平洋地域の安定要因となっている米国のプレゼンスを維持していく上で極めて重要であるのみならず、アジア・太平洋地域の安定と発展のための重要な枠組みとなっております。
日米安保体制はまた、日米双方において日米関係の基盤として認識されており、日米両国間の強固なきずなとしての役割を果たしております。
政府としましては、このような意義と重要性を有する日米安保体制の信頼性の向上と効果的な運用を確保していくために、自主的にできる限りの努力を払ってきているところであります。そのよ
うな努力の一環である在日米軍駐留経費特別協定が、先般皆様の御協力により今国会の承認を得て発効の運びとなったところであります。
我が国の平和と安全を確保するために、日米安保体制の堅持と並んで重要なことは、みずから適切な規模の防衛力を整備することであります。我が国は、平和憲法のもと、専守防衛に徹し他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、文民統制、非核三原則を堅持しつつ、効率的で節度ある防衛力の整備に努めてきております。昨年末、安全保障会議及び閣議において決定いたしました新中期防衛力整備計画は、このような基本的な考え方に立ったものであります。
国際社会が新たな秩序の構築へ向けて動きつつある今日、安全保障政策のもう一つの柱としての外交の重要性はますます高まっております。そして私は、アジア・太平洋地域の長期的安定の確保のための方途についての国際的なコンセンサスを形成するために、我が国が積極的な役割を果たしていくことが重要であると考えております。
さきの外交演説でも申し上げましたとおり、この地域の長期的安定を確保するための道程が欧州の場合と異なることは当然であります。なぜならば、この地域の地政学的な条件や安全保障上の環境が欧州とは大きく異なっているからです。
第一に、アジア・太平洋地域では域内の多くの国が開発途上国であることもあって、各国の最大の関心事は経済発展であり、核戦争の脅威を含む軍事的な緊張の緩和を最大の関心事項としてきたこれまでの欧州とは大いに異なっております。
第二に、従来の欧州ではNATOとワルシャワ条約機構の二極に集約された形での東西関係が存在していたのに対し、アジア・太平洋地域では、中国の存在を含めて東西関係では律し切れないようなさまざまな要因があり、国際政治上の力関係が多極的であります。この地域では同盟関係は二国間のものがほとんどであり、また各国の利害の対立及びこれに伴う脅威認識も多様であることから、全体として安全保障の構図が複雑であります。
第三に、欧州においては戦後の国境問題等の解決という過程を経た上でいわゆるCSCEの作業が始められたのに対し、アジア・太平洋地域においては依然として朝鮮半島における南北対立、カンボジア問題、日ソ間の北方領土問題などの未解決の紛争や対立が存在します。
そして第四に、欧州ではEC統合の動きを中心として政治的にも経済的にも統合に向かう大きな流れがあるのに対して、アジア・太平洋地域では、むしろ国家、地域の政治的、社会的、文化的な多様性や経済発展段階の相違を基礎としつつ、経済的な相互依存関係が追求されております。
このようなアジア・太平洋地域の特徴を踏まえその平和と安定を確保していくためには、まず朝鮮半島における対立、カンボジア問題、北方領土問題等の未解決の紛争や対立の解決を図り、その過程を通じて、北東アジア、東南アジア等の地域ごとにそれぞれの地域の長期的な安定を図るための対話や協力関係を強化していくことが重要であります。
より広い範囲の地域協力については、域内諸国の安定のために経済発展が重要であることにかんがみ、経済面での協力を中心に進めることが重要であります。具体的には、ASEAN、ASEAN拡大外相会議、アジア・太平洋経済協力閣僚会議、太平洋経済協力会議等の既存の枠組みを十分活用して、この地域の政治、経済両面にわたる諸問題についての対話と協力を拡大していくことがこの地域に最もふさわしい方法であると考えます。
アジア・太平洋地域の平和と繁栄を確保するためには、日ソ関係の改善も不可欠の重要性を持っております。先般のゴルバチョフ大統領訪日の際、共同声明において歯舞、色丹、国後、択捉の北方四島が平和条約において解決されるべき領土問題の対象であることが明確に確認されたこと等は我が国の一貫した対ソ外交がもたらした成果でありますが、領土問題の解決に向けて今後なお一層の努力が必要であることは言うまでもありません。
以上、我が国の安全保障政策につき所信を申し述べました。国際社会が変革期を迎えつつある中、我が国は国際関係全般にわたってこれまでにない大きな責任と役割を有しており、世界の平和と安定のため積極的に貢献していかなければなりません。今後も、安全保障問題に精通され多年にわたってこれに真剣に取り組んでこられた本委員会の皆様の御指導と御鞭撻を引き続き賜り、外務大臣の重責を十分果たせますよう、皆様の御協力をお願い申し上げます。