森英樹の発言 (予算委員会公聴会)

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○森公述人 お答えいたします。
 私の述べました中でも既に触れたことでもありますが、今の岸本先生のお話をやや法学部的に言い直しますと、刑法に用法上の凶器というのと性質上の凶器という概念が、法学部で勉強された方は御存じのように基礎的な知識としてございまして、先ほどの例ですと、例えば出刃包丁というのは用法上の凶器だけれども、殺人用のジャックナイフというのですか、ジャックナイフがどうかは知りませんが、要するに人を殺すための、殺傷のための道具というのは、これは性質上の凶器というふうに一応概念的に区分されますが、いずれも凶器概念として含まれるというのが刑法上のイロハとしてございます。
 私も申し上げましたように、そのことを念頭に置いてお話ししますと、戦力というのは、それ自体物的標識として武器弾薬が戦力かどうかというような議論をするべき性質の問題ではなく、先ほど岸本先生もおっしゃいましたように、それで私が申し述べた限りでは、これはもうどんな教科書にも憲法では書いてあるわけですが、例えば東京大学の樋口さんが書いておられる「注釈日本国憲法」という中にも書いてありますように、外敵との戦争、戦闘を目的とした人的、物的手段の組織体のことを戦力と呼ぶわけでありまして、それ自体が武器弾薬かそうでないかということの区分をすることが意味のある概念では戦力という概念はございません。したがいまして、さきに例も引きましたように、恵庭事件で通信線が、言ってみればその意味では「防衛の用に供する物」に含まれるがゆえに起訴されてきたといういきさつは参照になるかということで紹介をさしていただきました。その種の意味でそういったものを、したがって外敵との戦争、戦闘を目的とした人的、物的手段の組織体を支えるものはすべて戦費である、こういうふうに言わざるを得ないのが憲法解釈論としては当然のことであろうかと思います。それが自国である我が国においても憲法上禁止されている。
 先ほど中谷先生から、「前項の目的を達するため、」という限定があるんだという御議論がございましたが、それは憲法学界では大変少数説でございまして、それはいわゆる芦田理論というものでありますが、これら政府の有権的解釈でもそういう理解をしておりませんでして、戦力に至らざる云々という形で戦力すべてが禁止されているという立場は、これは政府の立場でもありまして、その中身の標識は私ども憲法学界の通説とは違うというだけのことですが、いずれにしましても、そのように憲法で自国で禁止されている戦力、それを支えるのが戦費、それはしたがって最も広い意味で私の言うウオーポテンシャルに含まれてくる、こういうことになろうかと思います。したがいまして、自国で禁止されているものを他国のためにあてがっていいということにはならない。
 問題はそうすると、今回の多国籍軍がいわゆる主権国家としての多国であるのか、それとも全く新たに登場してきた、いわゆる国連活動として出されているのかという標識が一つ問題になろうかと思いますが、私はあくまでもこれは、主権国家としてのアメリカを中心とする二十八カ国なら二十八カ国の主権国家が多国籍軍というのを構成し、主権国家連合としてイラクという主権国家と戦闘行為に入っている、国際社会においては、法形式論でいえばあくまでも私的、その意味では私的な、国連を公的としますと私的な戦闘行為である、こういうふうに理解をしております。
 ただ、仮にですが、仮にこれが国連活動であるというふうに措定いたしましたとしても、御存じのように国連に日本が加盟する際、あるいは憲法が制定される際、そしてこの間の協力法の議論の際にも、日本が国連軍なるものが創設された場合にそれに加盟する義務を負うのかどうかという点についてはかなり御議論がございまして、学界の方でも相当議論をしましたが、歴史的な経過等々から、日本は憲法を制定した当初から、国連軍が仮に創設されたとしても我が国はそれに加盟の義務を負う立場にないということ、つまり、仮に義務だとしてもその義務を履行できる立場にないということを内外に宣明し続けてきたといういきさつがございました。そのことを少し念頭に置きますと、仮にこれが国連の活動であると仮定いたしましても、それを支える戦費というものは自国の憲法上の規制から出せない、そういう国なんだいうことを国際社会に憲法は制定当初から訴え続けてきた、そういう立場は憲法の規範からして崩すわけにはいかないということを申し述べた、そういうことです。

発言情報

speech_id: 112005262X00119910216_021

発言者: 森英樹

speaker_id: 4900

日付: 1991-02-16

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会