殷宗基の発言 (法務委員会)

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○殷参考人 ただいま御紹介にあずかりました朝鮮民主法律家協会の殷宗基です。私は、まず、私にこのような機会を与えてくださいました諸先生方に心から感謝と敬意を表します。
 御承知のように、今、日本国会に提出された外国人登録法一部改正案は、永住者及び特別永住者、以下永住者と総称いたしますが、これらについて指紋押捺を廃止し、それにかわる手段として写真、署名、家族事項の登録を新たに導入することを趣旨としています。
 永住者に限ってとはいえ、指紋押捺義務の廃止を決めたことは、それなりの改善措置と言えないこともありません。だがしかし、それにかわる手段が新たな管理につながるおそれがあるだけでなく、とりわけ外国人登録証明書の常時携帯・提示義務と外国人登録法違反に対する刑事罰制度については、何ら手つかずで残されております。このことからも明らかなように、今回の改正によっても、朝鮮人を初めとする在日外国人管理という外国人登録法の基本的枠組みには変化がないと指摘せざるを得ません。
 したがって、私は、この機会に、その適用を受ける在日朝鮮人の立場から、外国人登録法が朝鮮人を含む在日外国人の人権保障にふさわしい内容に速やかに改められることを願って、意見を述べさせていただきたいと思います。
 改めて指摘するまでもなく、在日朝鮮人は、最近パスポートを持って日本にやってきた外国人労働者や短期在留者でもなく、かつての日本の植民地により渡日を余儀なくされた人々とその子孫であります。しかも、今では三、四世が大半を占め、日本に生活の基盤をしっかりと築いています。このような歴史的事情を考慮するならば、日本政府は、かつて朝鮮人民に及ぼした被害と苦しみに対する過去の反省と謝罪に基づいて、それにふさわしく彼らを処遇すべきでありました。ところが、日本当局は、そのような処遇をするかわりに、彼らを治安、管理の対象とみなし、その人権を抑圧する態度をとり続けてきたと言えます。その姿勢は、現在に至るまで基本的な変化はないと思っております。
 その具体的なあらわれの一つが、外国人登録法の諸規定に基づく運用における過酷な人権侵害であります。
 外国人登録法は、専ら在日朝鮮人を主たる適用対象として制定され、最後の勅令である一九四七年の外国人登録令施行以後一九九〇年までの間に、登録法違反を理由に、実に五十二万人もの在日朝鮮人が送致されています。単純化して言えば、この数字は罰則の適用を受ける十六歳以上の在日朝鮮人四十五万人すべてが一回以上送致されたことを意味しています。
 外国人登録法違反事犯の中でも、登録証不携帯が突出しており、またささいな手続上のうっかりミスに対してさえも過酷な罰則が科されています。私たちが一致して求めているのは、すべての在日朝鮮人からの指紋押捺制度の全廃とともに、登録証常時携帯一提示と刑事罰制度の廃止を中心内容とする外国人登録法の抜本的な改正であります。これは、在日全同胞の所属団体、立場を超えての一致した要求となっています。
 指紋押捺制度の廃止が永住者以外の朝鮮人や他の外国人にも適用されるように、人権尊重の面から再検討されるべきであります。
 さらに進んで、外国人登録証の常時携帯義務制度が廃止されなければならないと思います。
 私たちが登録証常時携帯義務制度の速やかな廃止を求める理由は、この制度が人権侵害の武器として最大限利用されてきたからにほかなりません。ちなみに、在日朝鮮人送致件数に占める登録証不携帯の割合は、一九八四年が七〇・二%、八五年は六四・六%に達しています。
 登録証常時携帯・提示義務を口実にした警察官による人権侵害は、老若男女を問わず、また時間を問わず、無差別かっ日常的に行われてきました。銭湯に行く際に、あるいは近くの八百屋に用足しに出かけた際に、マラソン中に、果ては民族衣装であるチマ・チョゴリ姿で歩いていたところ、登録証の提示を求められ、不携帯で取り調べられたなどという信じがたい事例まで起きています。これらの事例における特徴は、いずれも朝鮮人であることを知った上で登録証の提示が求められているというところにあります。
 在日朝鮮人は、外国人登録証明書をいつでも所持していなければならないという精神的負担と、いっ警察官から登録証の提示を求められ、いつ不携帯で取り調べられるかもしれないという不安と苦痛にさいなまれています。未成年者である年端もいかない十六、十七歳の子供も、六十、七十歳を超える高齢者も、同様の立場に置かれています。
 日本関係当局は、弾力的、常識的運用の結果、最近検挙数が減少したことをしきりに口にしているようですが、そのことは、これまでいかに登録証常時携帯・提示義務条項を用いて過酷な人権弾圧を行ってきたかを示すものであります。あえて減少を口にするのであれば、そもそもこの条項が必要でなく、在日朝鮮人いじめの条項でしかないことを反証するものと言えるでしょう。問題の本質は、検挙数の減少にあるのではなく、登録証常時携帯義務の規定そのものにあると思います。
 次に私たちが求めたいのは、外国人登録法違反に対する刑事罰制度を、日本国民を対象にした住民基本台帳法による過料程度に緩和してもらいたいということであります。
 それは、外国人登録法違反における罰則が余りに過酷であり、近代法の原則の一つである罪と罰の均衡にも著しく反するからにほかなりません。外国人登録法違反は、一年以下の懲役もしくは禁錮または二十万円以下の罰金に処されます。これは、刑法の賭博罪よりも過失致死罪よりも厳しいものです。
 外国人登録法では、うっかりミスや誤りの訂正さえも刑事罰の対象になっています。住所変更届や運転免許証切りかえの遅延など、うっかりミスはだれにでもあり得ます。ちなみに、日本国民の住所変更届の遅延は、行政秩序罰ともいうべき過料とされています。また、運転免許証の切りかえをうっかり忘れたところで、救済措置があります。ところが、在日朝鮮人が住所変更届や五年ごとの登録確認申請の遅延など、外国人登録法の規定に違反すれば刑事罰に処され、前科がつくようになります。現に、うっかりミスによる住所変更届や五年に一回の登録切りかえの遅延などを理由に、多くの人たちが処罰されております。
 ちなみに、埼玉では警察が、市役所の告発もないのに、居住地変更登録の違反を理由に、一時的に本人が住んでいた会社の寮と、母親が住む他の市内の実家まで家宅捜索しています。日本弁護士連合会では、救済の申し立てに基づき調査した結果、同事件を外国人登録法違反に名をかりた人権侵害と判断し、再びこのような人権侵害が行われないようにとの警告書並びに勧告書を当該警察にそれぞれ送っているほどです。
 兵庫・加古川では、うっかりして登録の切りかえがおくれたことを理由に罰金五万円、また大阪では、五年ごとの登録切りかえの遅延により罰金七万円の求刑を受けました。本人たちが不服を申し立てて法廷で争い、いずれの裁判でも減刑にされただけでなく、執行猶予一年がつく異例の判決が出ております。もともと起訴に値しないものが不当に起訴されたものと言わざるを得ません。
 また、東京では、住所変更届を期日内にしなかったという手続違反で、区役所の告発もないのに、当人の勤める学校や自宅が家宅捜索された上、逮捕までされました。それだけでなく、大阪では、本名が間違って登録されていたので正式名に改める登録を申請したところ、手続が遅いことを理由に罪に問われ、懲役六月、執行猶予一年の有罪を科されています。外国人登録法では、間違いを正すことすら罪に問われるのです。
 以上はほんの数例にすぎませんが、これらからも、外国人登録法がいかに過酷な人権侵害法であるかは明白であると思います。
 もはや、戦後の冷戦体制下につくられた外国人登録法の抜本的見直しは時代の要請であると言えます。平和と協調の時代である二十一世紀を前に、朝鮮と日本の関係改善のための努力が重ねられ、新しい政府関係が築かれようとしています。国交正常化のための朝日政府間会談でも、法的地位問題の論議の中で外国人登録法の抜本的改正、つまり指紋押捺の全廃とともに、とりわけ登録証の常時携帯と刑事罰の廃止が重要に提起されています。
 私は、新しい時代の要求にふさわしく、日本も在日朝鮮人を初めとする外国人を治安、取り締まりの対象とみなす冷戦思考から、今や完全に脱却すべき絶好の時期にあると信じてやみません。人権の尊重なくして朝日両国民間の信頼構築などはあり得ないと思います。
 日本は憲法の前文で「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてみる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と高らかにうたっています。今内外では、かつて日本が朝鮮半島出身者を初めアジア諸国の人々に対して行った強制連行、従軍慰安婦問題など、半世紀もこれらの問題を放置してきた日本の政府の責任が問われています。そのことは、とりもなおさず、このような強制連行者やその孫、ひ孫である私たちの人権を引き続き侵害する外国人登録法の存在そのものを問い直しているのです。
 既に、このような特殊事情を考慮して、昨年の出入国管理特例法で、在日朝鮮人に特別永住による在留の一本化などの措置が講じられました。私は、とりあえず、このような措置が外国人登録法についても講じられ、出入国管理特例法との整合性が図られるべきであると強く主張するものであります。
 繰り返しになるかもしれませんが、私は、何よりもまず日本によって歴史的な反省と謝罪、償いがなされなければならず、あわせて協調と人権保障という時代の趨勢にふさわしく、内外人平等、法のもとの平等を説く国際人権規約を初めとする国際法や日本国憲法の精神に照らしても、外国人登録法は、指紋押捺制度の全廃、登録証常時携帯制度の廃止、刑事罰を行政秩序罰である過料程度に改めることを中心に抜本的に改正されるべきであると確信してやみません。
 外国人登録法の抜本的改正は、二十一世紀を前に、朝鮮半島と日本列島で生きる両民族が善隣友好の関係を築く上で越えなければならないハードルの一つであり、日本が国際社会において名誉ある地位を占められるかどうかを占う試金石の一つであると考えます。私は、諸先生方が、国際的要請と時代の趨勢にふさわしく、外国人登録法を抜本的に改正してくださるよう強く訴える次第です。
 発言の機会を与えてくださり、どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 殷宗基

speaker_id: 33932

日付: 1992-04-07

院: 衆議院

会議名: 法務委員会