奥村洋彦の発言 (予算委員会公聴会)
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○奥村公述人 御紹介にあずかりました奥村でございます。本日は、国際経済情勢に関しまして、我が国から見て重要な事柄と考えられる四つの問題を御報告さしていただきます。
世界経済は今大変重大な局面にございまして、日本がそれに深くかかわっておりますので、こうして御説明さしていただく機会をお与えくださいまして大変ありがたく存じ上げています。
第一の問題は、世界経済は今大きな歴史的な変革期にあり、対応を誤りますと重大な禍根につながるおそれがあるという点であります。アメリカの学者でキンドルバーガーという教授がおられますが、世界経済で力の移行期に危険なことが発生しからであると指摘しておられますが、今はまさにそうした時期に当たっていると思われます。
大きな変革が二つ進んでいます。一つは、アメリカの経済力の後退であります。もう一つは、東ヨーロッパと旧ソ連における体制の変更でございます。
まず、アメリカの経済力の後退につきましては、八〇年代にとりわけ目立ってまいりましたが、最初は、とりわけ八三年から八八年にかけましては、外国からの借金で支えられまして高度成長を図っていたために問題が糊塗されていましたが、八九年春以降、成長率がアメリカの潜在成長能力を下回ってくるにつれ、次第に表面化してまいりました。
例えば、製造業の国際競争力について見ますと、現在、家電でテレビをつくっているメーカーは一社にすぎません。シェアは一二%でございます。工作機械は、かつてはアメリカで使いますものほとんど自国で生産しておりましたが、現在は半分は輸入しなければいけない。世界におけるアメリカの工作機械のウエートは、第六位の六・七%に低下しているわけでございます。なお、日本の世界におけるシェアは二三%で、第一位でございます。自動車も、御承知のような事態になりまして、現在アメリカのメーカーは、自国のシェア、約三分の二に落ち込んでおります。こうした家電、工作機械、自動車における経済力の後退はよく知られているところでございますが、今、飛行機におきましても、ボーイング社の最新鋭の飛行機777をつくろうといたしますと、設計図上は二一%は日本製という事態になってきております。
アメリカでも競争力の弱体化につきましては、その原因が何によるものか種々議論されているところでございますが、決定的な点は、設備投資が現在一人当たり日本の半分しか行われていないという点でございまして、設備投資が行われない国では研究開発投資も行えない、したがって競争力も強くなれないという悪い循環に陥っているわけです。日米問題は、よく指摘されますが、こうしたアメリカの問題につきましては日本で問題にしているだけではございませんで、他のアジア諸国、中東諸国、ヨーロッパ諸国でも同様にアメリカの問題を指摘しているところであります。
アメリカについてはまだ後ほど触れさせていただきますが、世界の大きな変革のもう一つの点は、東ヨーロッパと旧ソ連の体制変更であります。このうち、東ヨーロッパにつきましては、現在はまだトンネルの中にありますが、次第にトンネルを抜け出る時期を模索する明るい段階に入りつつあります。旧ソビエト地区につきましては、東ドイツ、ポーランドの実験から、この後成長率が大きく落ち込み、失業率は恐らく二五%程度に達する可能性がありますので、旧ソ連につきましては、今後大きな問題になってまいります。社会主義体制から市場経済へ移行いたします場合に、これまでなかった流通、金融、情報通信、運輸といったインフラをまず整備しなければいけないわけですが、このインフラについては外国の民間の資金に依存するわけにはいきませんので、外国の公的な資金をまず取り入れてインフラをつくり、その後世界から民間の資金を招くという段取りが必要でございますが、現状ではまだ順調な展開を見ていないところであります。しかし旧ソ連、東ヨーロッパともに前進する以外道はないわけでございますので、今後数年にわたりましてかなり苦しい場面を経験して、中期的に明るい道につなげるものと位置づけておくことができます。
四つの問題をきょう申し上げようと思っておりますが、第一は、今申し上げた歴史的な大きな変革でありますが、第二の問題は、こうした大きな流れの中でことしの世界経済がどのように動いていくかという、足元の問題でございます。
現在、世界経済で明るい方向を向いている地域、低迷を続ける地域と、二分することができますが、このうち明るい方向を向いているものは、中東地域、東ドイツ、チェコ、ハンガリー、ポーランド地域といった旧東欧地域、そしてラテンアメリカのうちメキシコ、チリ、アルゼンチンといったところであります。しかし、こうした国は世界経済にとりまして中核になっている国とは必ずしも言えません。
世界経済の中核地或であります。アメリカ、ドイツ、旧ソ連地域は、ことしも低迷する状態が予想されるわけであります。とりわけアメリカについては大変懸念すべき状態にありまして、マイナス成長こそ脱しつつありますが、ことしアメリカに期待できる成長率はせいぜい一%前後でございます。
アメリカの成長率がなぜ低いのかにつきましては、表面的には消費者の政策に対する信頼がないとか、不動産不況、コンピューター不況だとか、あるいは州、地方政府も赤字に陥っているといったことが挙げられておりますけれども、これらはあくまで表面的な理由でありまして、アメリカ経済低迷の根因は、八三年から八八年にかけまして外国の借金を多く取り入れ、借金経済に陥る中で無理な高成長を図ってきたということであります。現在、その債務づけのまさに渦中にあるわけでございます。
ドイツにつきましては、旧東ドイツがかなり高い成長率になる。一部には一〇%近い高い成長を遂げるだろうという予測がございますが、これを織り込んだといたしましても、旧西ドイツを合わせたドイツ全域といたしましては、成長率は昨年の三%前後から、ことしは一%程度下がった二%程度しか財待できないという状態でございます。
私ども日本にとって、ドイツを見ます場合にもう一つ重要な問題は、ドイツの経常収支は昨年の赤字に続きましてことしもまた、米ドルにいたしますと百億ドルを超える赤字になるということでありまして、現在世界の各地が資金を求めているときに、ドイツからお金がたくさん出ていくということは期待できなくなっている点が日本にとっても重要な点でございます。旧ソ連につきましては多くのことが霧の中にあるわけですが、現在世界の金融市場で旧ソ連についてわかっていることは、今後二、三年ソ連の混乱は解消できないという点だけでございます。とりわけ、失業率が二五%程度まで上がってまいりますと、旧ソ連で二千万人を超える失業者が出るのではないかということになってまいりまして、こうした点をドイツを中心とする西側諸国は非常に恐れているわけであります。ドイツ・マルクに対して外国から投資が行われておりますけれども、もしソ連でこういった混乱が発生いたしますとドイツ・マルクも急落するのではないかというおそれすら抱かれているところであります。
このように、世界経済で明るい地域と低迷する地域とございますが、どちらかといいますと低迷する地域のウエートが高いわけでありますので、私ども日本の政策がこのバランスをとる上で大きなかぎを握ってまいります。
極めて今日的な問題で、アメリカの株高について一言触れさせていただきます。
現在ニューヨークの株価は続騰いたしております。しかし、アメリカ経済は大変な不振でございます。現在のニューヨークの株価は八五年ごろから上昇し続けたものでございますが、この七年間で約三倍の高さになっております。七年間で三倍もの高さに経済不振の中でアメリカの株価がなってきているということはかなり異様なことでございまして、世界的に政策を誤りますと、私どもが八七年に経験したようなことが起こらないとは言い切れない状態でございます。とりわけ今回のアメリカの株高は、アメリカ政府が思うように景気が回復いたしませんので短期の金利を非常に下げてまいりまして、二十七年前の一九六四年、強かったアメリカの水準まで短期金利を無理に下げております。現在アメリカで預金をいたしましても、預金金利はほとんど物価上昇率と同じくらい、つまり実質金利はゼロでございますので、個人の資金がかなり預金から株に移って株高が発生しておりますので、私どもはアメリカ経済は先行き明るいので株高になっていると必ずしも楽観視しておくことはできないわけでございます。
第三の問題といたしまして、このアメリカの構造的な低迷と日本とのかかわりについて申し上げたいと思います。
八〇年代に入りましてから日本は黒字を累積いたしました。今、八〇年から昨年に至るまでの日本の経常収支の黒字を足し合わせてまいりますと約五千二百億ドルの金額になりますが、この間、アメリカの経常収支の赤字の累計は八千九百億ドルに達したわけでございまして、現在日本とアメリカとで八〇年以降発生させました金融ギャップは一兆四千百億ドルを上回っております。私どもが、アメリカの債務、日本の債権ということで、両者の差額が八〇年以降一兆四千百億ドルに達していることを考えますと、アメリカ経済はなぜ容易ならざる事態に陥っているかがはっきりするわけでございます。
こうしたアメリカの債務の累積がなぜ可能であったか、なぜアメリカで八〇年代に外国の借金でもって高成長を図ることができたかということが現在のブッシュ大統領の政策を見ていく上で大事なポイントになるわけでございますが、この間、日本は本格的に外貨建て資産を蓄積する初めての段階でございましたので、初めはアメリカを中心にして積極的にジャパン・マネーを海外へ出していったわけでございます。しかし、八九年ころになりますと、日本の金融機関を初めとして日本の投資家はかなり腹いっぱい外貨建て資産を蓄積し終えた段階に入ってまいりまして、いわば外貨建て資産蓄積の第一段階から第二段階に移ってきたわけであります。
第一段階のときには、アメリカ政府は容易に外国の借金に依存して高成長を達成できましたが、ジャパン・マネーが第二段階に入りますと、アメリカ政府にとりましては簡単に外国の資金を取り入れて高成長を果たすことができなくなってまいりました。このことは、今アメリカの連邦政府とかアメリカの企業の借金状態を考えますとはっきりするわけでございます。今アメリカの連邦政府と民間企業のネットの借金残高をGNPで割ってみますと、現在は六六%、八〇年末には三三%でございましたから、八〇年代でほぼ倍増させました。朝鮮動乱を終えてからの四十年間で平和時最悪の借金状態に今アメリカは陥っているわけでございます。ジャパン・マネーは一時はこうしたアメリカの政策を助けていたわけでございますが、現在はそうすることができなくなっておりますので、アメリカにとりましては日本のお金とのかかわりで非常に困難な局面に入っている。
グリーンスパン・アメリカ中央銀行の総裁に当たる方が十二月十八日になりまして初めて、アメリカは債務づけに陥っているので思うように景気回復ができないとお話しされているわけでありますが、私どもにとって注意すべきことは、こうした借金をし過ぎるとおかなか経済回復はうまくいかないということを昨年の十二月十八日になって初めて議会で中央銀行総裁に当たる方がお話しされるという状態でございます。
第四の最後の点でございますが、このような世界経済、とりわけアメリカ経済の構造的な問題を念頭に置いて、世界最大の債権国であります日本の国際的責務について一言申し上げたいと思います。
日本は今、世界経済の中で大変高いウエートを占めており、かつ金融面ではほとんど最大の債権国になっているわけでございますから、世界経済に対しては日本は重大な責任があります。日本経済は自由な貿易と自由な資本移動という戦後のガット・IMF体制、そして変動相場制のもとで繁栄しているわけでありますから、このような舞台が変わるような事態に持っていくのは日本にとっても望ましくないわけでありますが、現在、世界の物差しで正本を見ますと、日本とアメリカの間で、先ほど申し上げましたように巨額の一兆四千百億ドルを超える金融ギャップがある。その上に日本の経済成長率は現在実力以下に低迷してきておりまして、かつ経常収支の黒字が七百億ドルを超えるという状態でございますので、私どもは一九二〇年代に当時の債権国アメリカが誤った政策をとって世界経済が混乱した、こういった経験を十分学んで日本の経済政策を適切に運営して、アメリカ及び世界経済を助けるといった姿勢もぜひ必要になってきているのではないかと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)