坂上正道の発言 (予算委員会公聴会)
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○坂上公述人 坂上でございます。
本日は、平成四年度の予算案の審議に関連をいたしまして、医療の問題につきまして見解を述べる機会が与えられまして、大変光栄に、またうれしく存じております。六年間、病院長それから看護学部長を併任いたしました体験も交えまして見解を述べさせていただきたいと思います。
まず、私どもの国の医療の現状でございますけれども、戦後の公衆衛生対策、それから経済の発展、それから社会基盤の充実というようなものが裏づけになったと思いますが、加えまして医療技術の進歩によりまして、私どもの医療の状況というのは世界的に見て第一級の数字になっております。
数字が一つの論理でございますので、数字を申し上げますと、御存じのように平成二年に寿命が男性において七十五・七、女性において八十一・五というのはまさに世界一であります。それからなお誇るべきは乳児の死亡率でございまして、これが四・六ということでございまして、まさに世界最低であります。ちなみにアメリカが九、ドイツが七でありますから、これは大変な数字でございます。
それから医療の制度でございますが、現在提供されております医療内容は欧米諸国と比べて遜色のない水準にあると思います。この水準に達しているという内容は、医療のアクセシビリティーと申しますか、医療を受けやすいというその安易さ、それから医療の水準、それから医療保険の適用範囲が非常に広い、こういうことが言えようかと思います。
ただし、ここで申し上げたいことは、医療費でありますが、これは国民医療費という言葉が俗な言葉であるそうでありますけれども、かって五年前に平成元年を二十二兆二千億というふうに読んでおりましたけれども、実績が二十兆六千九百億でございました。すなわち一兆五千億ぐらい、単純な俗を言葉で申し上げますと抑え込まれているわけでありまして、そのことがよいことか悪いことか、またどこに原因があるのか、それから何らかのひずみをそれがいざなっていないかということは考えるべき問題であります。ちなみに平成二年は二十一兆七千二百億というふうな想定でございますけれども、これが予想値からどのくらい、また単純に申し上げる言葉では抑え込まれるかということは、数字上の一つの分析すべき問題であろうかと思います。
次に、医療を取り巻くさまざまな情勢の変化でありますが、当然御存じのように疾病構造が変化をいたしまして、感染症から成人病、非感染性の慢性疾患に疾患構造が変化をいたしまして、現在の三大死因は悪性腫瘍、それから脳血管障害、循環器疾患の三つでありまして、これが三大死因であります。したがいまして、がんの問題その他を伴いまして、入院生活の長期化というようなことが問題であります。なおかつ、御案内のように、人口の高齢化によりまして、老人医療というものが大きなウエートを占めてまいりました。これが在宅医療につながる問題、それから末期医療における医療のあり方ということにつきまして大きな問題を投げかけているわけであります。
国民の側から見ますと、医療ニーズの多様化が起きてまいります。したがって、多様な医療に対応する必要が医療機関にも必要であります。それと同時に、根本的に治療中心から予防、リハビリというようなことで、医療概念に変化が生じてまいりました。
これを担うべき医療技術でありますが、医療技術につきましては、先端高度技術というものが医療分野にも応用されまして、いわゆる脳死、臓器移植というようなことが問題になりましたことは御存じの点であります。しかしながら、高度技術が医療に応用されるということに伴いましては、それを制御する人間的な配慮というものが必要でありまして、したがって、医療が人間的な温かみを持つこと、医の心というものが尊重されまして、医療担当者と患者との間の会話、コミュニケーション、信頼関係が成り立つということが極めて大事な問題になったと思います。これがインフォームド・コンセントという言葉、これを説明と同意というふうに日本医師会は訳しておりますが、要するに患者さんに対して十分な情報を提供いたしまして、そして同意を得ながら医療を進めるという医療が近代の医療では必要であるというような変化をいたしているわけであります。
それから、それに対応する医療機関の整備でありますが、これは量的な整備に関しましてはほぼ目的を達しているだろうというふうに言うことができます。すなわち、ベッドが既に百二十六万床ございますが、これは医療計画制度の導入による病床規制というようなことを行ってみますと、現在数字におきまして十万床既にオーバーしておりますので、量的には目的を達しているということが言えるかと思います。しかしながら、なお僻地問題その他がございまして、同じように健康保険の費用を払いながら、また税金を納めながら、僻地の方々が医療を受けられないということは大変問題でありまして、量の充実の中に僻地問題などの医療の偏在という問題を問題にいたしたいというふうに存じます。
それから、質的な充実でございますが、これは、先ほど申し上げましたように、人口の高齢化、疾病構造の変化、あるいは医療技術を取り入れるというようなことでございますが、このために、現在存在しております量的には満ち足りました医療施設機能というものを体系化いたしまして、医療資源を有効に使うという意味から、医療を適切に提供できる体制の整備ということが必要であろうかと思います。これが、議会で継続審議になっております医療法の改正という問題につながるかと思いますが、この医療機能の体系化というものは時間のかかる問題ではありましょうが、私は早速に手をつけるべき問題であろうというふうに考えております。
それから、医療を支える医療従事者の対策でありますが、これは医者の問題につきましては、御存じのように一県一医大というような問題で医師がたくさん養成されまして、既に平成二年、人口十万に対して百七十一というレベルに達しておりますので、医師は既に十分な量に達しているということが言えようかと思います。むしろ平成七年に向かいまして一〇%削減という手が打たれておりまして、これは医師の養成のために必要な一つの計画であろうというふうに存じております。
しかしながら、この数のそろいました医者におきましても、やはり質の向上ということは問題でございまして、私も医学教育を行う立場からいいましても、今後の医者のあり方に関しましては、大変重大な問題があると思っております。すなわち、現在の若い医者は臓器専門というものに向かいまして、人間全体がわかるという医者になっていかないおそれがあります。もちろん臓器専門家の存在も必要ではございますけれども、そういう能力を持つと同時に、全人的な医療が行えるという医者の養成が必要であろうというふうに存じます。そういう意味では、医学校を卒業いたしました直後の初期臨床研修というものは極めて大事であるというふうに存じております。これが、インターン廃止以後、努力規定のままとどまっておりまして、臨床研修の制度の整備がおくれているということにつきましては、大事な問題でありまして、今後充実させる必要があるということを痛感いたしております。
それから、ナースの問題でありますが、看護職は非常に大事な仕事でございまして、皆様が御病気になってごらんになればすぐわかることでありますが、医師と患者との間に立ちまして、その両方の中間の位置を担ってくれる、しかも病者の傍らにありまして常にケアをしてくれるのは看護職であります。ケアという言葉は、ギリシャ語のカーラーから来たそうでありまして、カーラーというのは悲しみをともにするという共感の意をあらわします。そういう意味におきまして、ナースが患者の傍らに常にいてくれる、そして共感をしてくれるというところから医師もまた医療情報、患者の情報をとらえることができるわけでありまして、大事な位置にある職であるということを強調いたしたいと思います。
国でもこの需給計画は計画を立てておられまして、平成二年度末では八十三万人というような数でございますけれども、この計画に対しましては、なお十万近い不足がございまして、看護婦の数の充実ということは大事な問題であります。ちなみに、平成十二年、紀元二〇〇〇年には百十六万人へ持っていこうというのが第四次につくられましたナースの養成計画であります。
このナースの確保に当たりましては、医療が非常に高度化している、今後在宅ケアが進むであろうという環境の変化に対応いたしまして、質の高い看護職員の確保が大切であるというふうに存じます。さりながら、若年人口というものはいよいよ減少するわけでございまして、その中からナースのマンパワーを確保するということは大変な問題でありまして、いわゆる三Kというようなイメージの語る言葉が巷間言われておりますけれども、その辺の解決をぜひする必要がある。これによりまして、看護婦不足による医療機能が落ちるということのないようにしていただきたいと思います。
この点につきましては、この予算案を拝見させていただきますと、大幅な予算の増がなされておりまして、今回の医療費の改定におきましても、引き上げ五・〇のうち看護関連に二・六%というような改定がなされておりますことは評価することができると思います。しかし、これが先ほどのキャンペーンに動かされまして単発的になされたということではなくて、ぜひ中長期的な視点に立ちまして、看護婦の養成、待遇の改善ということを進めるようにお図りをいただきたいと存じております。
なお、しかし、この看護業務の中には改善すべき点も種々ございまして、現在は厚生省の中の検討会に私も参加いたしておりますが、業務そのもののあり方の改善ということにつきましては、なお工夫を凝らしてまいりたいというふうに存じております。
総括いたしますと、現在日本の医療というものは、数の上においての充実はなされておりますけれども、質の上での充実というものが考えられるべきであるということになろうかと思います。
以上をもちまして、私の公述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)