山口二郎の発言 (政治改革に関する調査特別委員会)
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○山口二郎君 山口でございます。
政治改革の中で、特に選挙制度や政治資金の問題に一般の議論は集中しておりますが、私はまずここで、腐敗はなぜ起こるのかということを広い視野から考えて、政治改革の本当の課題は何かということについて少し考えてみたいと思います。
今の日本の統治の仕組みを見ておりますと、よほどの聖人君子でない限り、どうしてもこの腐敗に陥りやすいわながある。そのわなというのは何かといいますと、行政府、中央政府の官僚機構における巨大な権力や許認可権限や情報の集中ということであります。そしてもう一つ、日本の行政機構は非常に大きな裁量を持っておりまして、許認可や補助金の箇所づけ、さらには建設公共事業における指名競争入札の指名といったような、さまざまな場面で大きな裁量を持って利益の配分や利害の調整を行っております。この裁量の大きさと資源の集中という二つを前提とすれば、どうしても行政から特別な恩義や便益を受けたいと思う業者が、政治的な手づるを使ってその資源にアクセスしようとするのも当然であります。
まさに金丸前自民党副総裁の建設スキャンダルが教えることは、そういった肥沃な腐敗の土壌の中で、特定の企業が行政からの便益を求めて自民党の有力な政治家にアクセスをする、それが今や日常化しているということであります。国民の税金であります建設公共投資のお金が、不正なやみ献金という形で特定の政党の政治家にキックバックされるということは、大変ゆゆしい問題であります。
もちろん、選挙の仕組みや政治資金に関するいろいろなルールづくりも大事ですけれども、国会議員が一体何をするのかということを根本的に考えることなしに政治改革はできないと私は思うわけであります。その意味で、行政の過程におけるさまざまな利害調節や利益配分の中から政治家が引っ込む、そして政治家は国会において広い見地から国全体の政治的な課題について討論をするという本来の政治家のあり方に戻るということが、私は究極的な政治改革の課題ではないかと思います。そういった観点から、選挙や政治資金の問題も考えられるべきだと思います。
それで、やや本題からはずれるのですけれども、政治改革の中でそういった腐敗の土壌というものにどうやってメスを入れるかということもあわせて議論していただきたいと思うわけであります。つまり、選挙や政治資金の問題を変えたら即腐敗がなくなるということではありませんで、いかにして先ほど申し上げた中央の官僚機構における権力の集中や閉鎖性にメスを入れるかという制度の改革も必要であろうと思います。今、政府は行政手続法をこの国会に提出しようとしておりますが、こういった新しい法制化によって、まず利害調整のプロセスを透明化するということが第一歩であろうと思います。それから、参議院で議員立法によって情報公開法の素案がこれから提出されようとしておりますが、こういった法制化もまた政治腐敗の防止にとって極めて重要な意味を持っております。そういった法制化に加えまして、中央権力の分権化ということもあわせて政治改革の中で議論されるべきだろうと思います。
今、与党、野党は政治改革のいろいろな案についてお互いの相違点を盛んに力説しておられますけれども、私は、国権の最高機関である国会を構成する議員として、共通の基盤というものを発見することの方が大事ではないかと思います。実際の日本の政治のあり方を見ておりますと、基本的な政策の主導権というものは、残念ながら中央官庁の官僚機構がまだまだ持っていると言わざるを得ないわけであります。何と申しましても、議員立法というのはほんのわずかでありますし、また、重要な政策問題について政府の中でさまざまな法制度の原案をつくり、それに対して国会で質疑とか行いますけれども、これも極めて形骸化している、国会の討論の中で新しい制度や政策が生まれてくるということは極めてまれであります。
それから、国会議員、政治家という一つの職業集団の中で、国権の最高機関を構成するという自覚がどこまであるかということも一つの疑問であります。つまり、弁護士であれ医者であれ、社会から尊敬を受けております一つの専門的な職能集団というものには、必ず職能集団の自己規律、内部自治というものが存在するわけでありまして、その職能集団の名誉や威信を傷つけるようなことがあれば、それは例えば弁護士会の懲戒処分といったような形で、いわば内部的に一定の水準を確保するというメカニズムが存在するわけであります。まさに国会議員というものは、今こそ国権の最高機関を構成する一員であるという自覚を持って、政治倫理の問題やあるいは政治資金のコントロールに関する仕組みをつくっていくべきではないかと思います。その意味で私は、政治資金のコントロールにしても、行政府の中に監査機関を設けるのではなくて、国会の附属機関としてそういった政党のお金の面に関する監査やチェックの機関というものを設けることがどうしても必要なことではないかと思います。
そういうことで、腐敗の土壌についてこれからさらなる制度化が必要であるということを申し上げた上で、少し具体的な今の政治改革の議論について私の意見を申し上げてみたいと思います。
しばしば自民党の方から野党に対して、政権交代の意欲を持てということがこの一連の議論の中で言われております。実際、今の国会というものは全く政権交代を前提としていない議会の運営であり、政党の行動様式というものが存在しております。例えば、野党というものは、先ほどどなたかのお話にもありましたように、自民党が政権をとるという前提でいわば揚げ足取り的な質問を行う。あるいは予算の提出をいつにするかとか、審議日程をどうするかといったような、政策の本体とは全く関係ない手続の次元で自民党に抵抗し、影響力をつくり出すということで、議会の運営を日々行っているわけであります。
他方、野党が政治腐敗の防止や政治責任の追及のために、例えば国政調査権を発動して証人喚問や資料の提出を求めようとしても、疑惑の張本人がかつて所属していた自民党が、そういった国政調査権の積極的な発動に抵抗するという形で、国会としての積極的な腐敗の追及活動が十分できないという問題もあります。つまり、自民党の側も野党の側も、まさに国会という一つの共通の基盤で活動する共通の感覚というもの、共通性というものを意識していないわけであります。自民党が将来野党に回るかもしれない、そのときに野党としてどうやって議会活動をしていくのか、あるいは野党が将来政権をとった場合、どういう形でその政権を担っていくのかということを、いわば立場をかえて考えるということも、政権交代を本当に可能にするためにどうしても必要なステップであります。
その意味で、これも今の政治改革の本題とは余り関係ありませんけれども、例えば国政調査権の発動に関する要件をもっと緩和して、これを日常的に発動する、そのかわり、例えば予算委員会で予算を人質にとって自民党から譲歩を引き出すというような、いささか不健全な議会運営のルールというものも考え直す、そして今政治改革特別委員会で展開されておりますような、与野党間のそれぞれ自分の意見や案というものを持った両方向的な討論というものを日常化していくというような工夫を行うことも、重要な課題ではないかと考えております。
次に、本題であります選挙や政治腐敗に関する具体的な制度の検討に移っていきたいと思うのであります。
私は、基本的には社会、公明両党提出のいわゆる併用制というものに賛成であります。しばしばイギリスの例を引き合いに出して、小選挙区制にすれば二大政党が生まれ、政権交代が起こるという議論がされておりますが、それはいささか議論の飛躍であります。イギリスの場合、六百の選挙区がありますけれども、保守党、労働党というものがそれぞれ極めて強い地域的な基盤をある程度持っております。そして、その中間に草刈り場的な選挙区があり、その帰趨が政権の行方を決めるということになっておりまして、いわば二つの政党がたまたま歴史的、地理的な偶発的な要因によって安定した基盤を持っているから二大政党制がある、決して小選挙区制が二大政党制を生んだわけではないと私は考えております。
今の日本の小選挙区制の議論で、政権交代というもののイメージは、要するに勝った政党が四百とって負けた政党が百しかとれない、そういう極めてドラスチックな議席の移動というものが小選挙区制の最大の効用であるという議論があります。しかし、そういった四百対百というドラスチックな変化が選挙のたびに起こるということで本当に安定した政党政治が営めるのかというのが、大きな疑問と言わねばなりません。つまり、百しかとれない政党が次の選挙までどうやって生き延びていくのかというのは、これは結構大きな問題であります。その意味で、イギリスの例を単純に引き合いに出して、小選挙区制にすれば政権交代、二大政党制、安定した政権というふうに結びつけるのは短絡だと思います。
それから、私は、二大政党制というものをそんなに理想化してよいのかということについても疑問を持っております。つまり、今国民の意識は非常に多様化しておりまして、安全保障、経済、教育、福祉、いろいろな争点についてさまざまな意見を持っておりますが、それを無理やり二つの政党の中に押し込めるということがよいのかという問題であります。つまりある人は、自民党の経済政策には賛成であるけれどもこの安全保障についてはどうか、あるいはある人は、社会党の福祉政策には賛成だけれどもこの安全保障についてはどうか、そういう形の、いわば留保を持って政党の政策を今見ているわけであります。無理やり二大政党制をつくり出していって選択肢を二者択一にするということは、いささか国民に対してその選択肢を制限するということになるのではないかと思うわけであります。その意味で私は、やはり多様な民意を反映するための比例代表制というものを選挙制度の基本的な前提として支持したいわけであります。
比例代表制にすると小党分立、連立政権で不安定になるという批判も多々ありますけれども、これも、二大政党制が安定で小党分立は不安定だ、あるいは連立政権は不安定だというのは事実の裏づけを欠いたドグマであります。つまり、ヨーロッパの各国を見れば、スウェーデンやドイツやオランダやオーストリアや、いろいろな国で安定した連立政権というものがあります。私は、今の日本の政党システムを前提として小党分立、連立政権不安定という危惧を抱かれる議論については、理解はできますけれども、だからといってこの比例代表制というもの自体を欠陥品だと言うことはできないと思います。要するに、比例代表制の導入とあわせて政党そのものの変革、つまり、党内における候補者選定過程にかかわる党内民主主義の徹底でありますとか、あるいは連合政権論議に臨む政党としての基本的な論議の仕方、マナーというものを身につけていく、そういった政党そのものの自己変革と相まって比例代表制というものが日本の政治風土に定着し得るのではないかと考えます。
それから、選挙制度のあり方を考える上でどうしても重要な論点は、選ぶ側と選ばれる側の距離という問題であります。今の日本においては、選ぶ側と選ばれる側の距離が余りに近過ぎる。したがって、国会議員であっても、選挙区のさまざまな公共事業でありますとか補助金でありますとか、そういった非常に小さな利害にかかわる調整を地元の支持者から要請され、そういった小さな争点にかかわる日常的な世話をやっていないと次の選挙では危ないという構図があります。私は、政治腐敗を正す、あるいは政治家をして国全体の問題について広い見地から議論をさせる自由を与えるためには、少し国民と国会議員との距離を広げる必要があるのではないかと思います。
小選挙区制は全く逆でありまして、人口二十五万程度の小選挙区でもって国会議員を選挙いたしますと、例えばこの札幌市では一つの区が単位となります。この区を単位に国会議員の選挙をいたしますと、今以上の細々した争点や利害をめぐる選挙が戦われる危険が非常に大きいだろうと思います。比例代表制というものはその意味で、政治家をいわばそういった地域の矮小な利害から解放し、国全体の大きな課題について広い視野から高い見識を持って議論させることにふさわしい制度であります。その意味でも、これからの二十一世紀の日本には、比例代表制こそ必要とされていると私は信じております。
それから政治資金の問題でありますけれども、これは私は自民党案も社公案もそれほど本質的な違いはないと思います。私は、個人的には企業献金というのは廃止した方がよいと思います。企業というのは自然人と違いまして、要するに実体がないわけであります。そういった実体がない、いわばフィクション、擬制が政治に対して大きな影響力を持つということは、要するに国民主権、つまり実在する自然人が政治に参加するという憲法の原理からしても、大きな疑問と言わざるを得ません。
ただ、現実問題として、先ほどのどなたかの話にもありましたように、今すぐこれを全廃するかといえば、それはやはり自民党の側も反対するわけで、将来的に時間を区切って、例えば十年後には企業献金を全廃する、それに備えた新しい政治資金の調達方法を考えるといったような過渡的な措置を講じた上で、当面企業献金も必要悪として認める、しかしそのお金の流れについて徹底した透明化を行い、また違反があった場合は厳しい罰則を科すということが最も現実的な対応ではないかと考えます。その意味で、政治資金の面については、自民党と野党との間で早急な妥協をし、速やかな制度化を行うことを心から念願したいと思います。
いずれにいたしましても、政治改革というのは極めて大きな課題でありまして、さまざまな論点が含まれております。このさまざまな複雑な論点について、一度の対応でもって全部処理をするということは不可能であります。これから必要なことは、政治改革、特に選挙制度について試行錯誤を重ねてよりよい制度を求めて、これから当分我々は模索をしていくという心構えではないかと思います。その意味で、政治改革を求める国民世論の高まりは大変歓迎すべきことではありますけれども、しかし今の政治改革論議に余り過度な幻想を抱くべきではない。国会議員の方々も、いわばこの国会の議論というものを出発点として、これからさまざまな論点に関する着実な改善の試みを続けていくことを心から期待したいと思います。
以上で私の話は終わります。(拍手)