田口晃の発言 (政治改革に関する調査特別委員会)
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○田口晃君 田口でございます。
私はヨーロッパ政治史の研究をしておる者でございまして、その立場から、議会制民主主義の制度と運用の経験という点からいえば、これが最も豊富なのはヨーロッパでございますので、そこから今でも多くを参考にできるのではないかと思い、一言意見を述べさせていただきます。
限られた時間でございますので、ここでは与野党の違いが最もはっきりしている選挙制度についてだけお話しすることにしたいと思います。それも、細かい技術的な問題は議員の先生方が知恵を絞って詰めていただけると思いますので、その制度の持っている意味というようなことに力点を置いてお話をしてみたいと思います。
この間の日本の国民各層の政治不信、これはいろいろな柱があると思うのですが、その政治不信の柱の一つとして、今の政治制度は不公平ではないか、そういう柱があるかと思います。この不公平もしくは公平さという観点からこの選挙制度を見ますと、これは国民各層の意見が公平に反映されているかどうかということでございますから、小選挙区制の場合には死票が多いということになりまして、比例代表制の方が望ましいという結果になります。現にヨーロッパの場合は、大部分の国が過去のいろいろな経験を踏まえながら、そういう比例代表制を採用しているわけです。もちろん、小党乱立とかその他比例代表制に伴う欠点も指摘されているわけであります。
そこで、ここでは御参考までに、ドイツの選挙制度の成立過程について御紹介したいと思います。ドイツの選挙制度については、いろいろな方が議論されていますので皆様よく御存じかと思いますけれども、どうしてそれができてきたかということですね。実は、現行の制度の原型は北部の州、一番現行に近いものはニーダーザクセン州のものと言われておりますが、この州の選挙法は一九四七年の初めにできたものです。これはどうしてできたかというと、この地域はイギリスが占領していた地域でございまして、イギリスが占領の中で改革を進め、その一環として選挙制度の検討もしたわけですけれども、イギリス占領軍の側から見ますと、それ以前ドイツで行われていた比例代表制というのは、政権が不安定になって、それからもう一つは選挙民と議員の距離が大き過ぎる、つまりリストのメンバーの選択を政党の幹部がやるという形になっているということで望ましくない、したがってイギリス型の小選挙区制を導入しようということで、そういう制度改革をしようとしたわけですね。
ところが、これに対しては、占領されているドイツ人側が非常に強く反発しました。つまり公平さを欠くということです。非常に頑強に抵抗しまして、その結果出てきたのが四七年の北部の州の選挙法であります。結局、一つには議席の半分を小選挙区で選び、残りは全体が比例代表制になるように配分するということです。しかしながら、それでは小党乱立のおそれがありますので、それを避けるためにパーセント条項を入れるという現行の制度ができたわけであります。ですから、これはドイツ型というよりは、ドイツの制度とイギリスの制度を合わせた、公平さを保証しながら比例代表制の欠陥を補うという、大変よく考え抜かれた制度であろうと思います。
ただ、もう少し突っ込んで考えますと、そういうドイツ型の選挙制度をヨーロッパのほかの国が全部採用しているわけではありませんで、それぞれいろいろなタイプの比例代表制を導入しているわけです。ですから、もう少し考えますと、比例代表制が持っている欠点と言われるものが本当にそうかどうかということも、問題として各国の事例に照らして見る必要があろうかと思います。
巷間非常によく言われる議論として、比例代表制では政権が不安定になるという議論がございますけれども、これはもう少し突っ込んで考える必要がある。これは二つの段階を区別して考える必要があろうかと思います。一つの段階は小党乱立ということですが、小党乱立の一番極端な形を政治学では原子化多党制、原子のようにばらばらになってしまう、そういうふうに呼んでおりまして、これは二つの特色があります。一つは、政党の数がやたら多くなって、しかも小さい党ばかりになってしまうということですね。それからもう一つは、対立が非常に激しい。そうしますと、これは議会での多数派形成が非常に困難になりまして収拾がつかなくなってしまう。
こういう事例は一つだけありまして、これは第一次世界大戦後のポーランドでありました。ポーランドの場合はそこから独裁体制にいってしまうわけですが、それ以外の国について見ますと、大部分はそうはならないわけですね。なぜかといいますと、それは、それ以前に存在していた政治勢力が大体そのまま出てくるわけであります。例えば、これは小国ですから余り知られてないかと思いますが、オランダの場合ですと、これは言ってしまえば全国一区でパーセント条項を持たないという完全な比例代表制ですけれども、選挙をやりますと議会にせいぜい政党は十ぐらいで、しかもそのうち五つの党で議席の八〇%を占めるというようなことですから、極めて安定的な議会ができる。こういうふうに見ますと、日本の場合にも、比例代表制を導入したとしても原子化多党制になるおそれはほとんどない、政党が五十にもなって連合が組めないというおそれは全くないということです。
それから、比例代表制が政権を不安定にするかどうかという問題を考える場合に必要な二番目の段階としましては、連立政権というのはそもそも不安定なのかということでございます。連立政権あるいは連合政権というような呼び方をしていますが、といってもこれは実にさまざまなやり方が各国で行われておりまして、それを安定させるというのは、まさにプロの政治家の先生の腕の見せどころになっております。全体としては実は極めて安定しておりまして、不安定なケースの方が少ない。これはちょっと手前みそになりますけれども、十年ほど前に私どもで共同研究をしまして、「連合政治」という研究をしましたので、そちらを見ていただけると、具体的などういう連合の、連立のやり方があるかということはおわかりいただけるかと思います。
それからもう一つの、ちょっと離れますけれども、連立政権は国民の意思を直接に反映しないのではないかという議論がございますが、これは連合政権協定というのを政権を構成する政党が結ぶわけでして、その過程はどこの国でもよくわからないのですけれども、出てくる協定そのものははっきりしている。任期中に一体何と何を行うということを国民に責任を負うか、これは非常にはっきり出されるわけです。そうしますと、それがやられたかどうかということは事後的には判定できるわけでありまして、したがって国民に隠されたところでその政策決定が行われるということでは必ずしもないということです。
というわけで、話をもとに戻しますと、比例代表制のもとでは政権が不安定だという言い方は、第一段階で確率が十分の一、第二段階でも確率が十分の一としますと、せいぜい確率が百分の一というのがこれまでの経験則だと言ってよろしかろうと思います。
それから最後に、この全般的な政治改革は、今当面の問題はもちろんありますけれども、将来的にこれからどういう政治社会を日本の中でつくっていこうとするのかという視点がやはり必要かと思います。その点から申しますと、価値観の多様化というようなことが言われますが、単に価値観だけではなくてさまざまな意見それから利害、こういったものがますます多様化していく可能性がかなり高い。そしてさまざまな少数グループが、現在では自分たちを少数グループというふうに自覚していないグループもいずれ自覚してくるというようなことが出てくるわけでありまして、そういうさまざまな多様化に対応していくためには、しかもそれを議会という場で非常にオープンな形で表明していくためには、別な言葉で言えば、もっと自由な政治社会を構成していくためには、やはり比例代表制の性格の強い制度の方が望ましいのではないかというふうに考えております。
以上でございます。(拍手)