稲本洋之助の発言 (土地問題等に関する特別委員会)
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○稲本参考人 私は、東京大学で法律学を研究している者であります。そのような観点から、多少ともお役に立つと思われる事柄を述べたいと考えております。
お手元の書面に六点ほど書きましたが、時間の許す範囲でそのうち何点がお話をしたい、こう考えている次第であります。
我が国の土地問題、これはしばしば諸外国と比較されますが、私たちは、全体の状況を見ますと、どうも土地所有権の観念自体に諸外国とはかなり違うものがあるのではないだろうか。ここに「建築の自由」という、これはドイツ語の翻訳でありますけれども、こういう言葉をまず掲げまし
た。平たく言えば、自分の土地は自分のものだという考え方です。
この考え方自体は何の不思議もないように思いますが、自分の土地が自分のものであれば、使っても使わなくてもよい、利用するとしても利用の仕方も自由である。ただ、現に存在している法律に反してはならないから、その限りでは制約は受けるが基本的に自由で、法律は例外的にそれを制限しているので、建築は本来自由だ。
こういう考えなんですが、これが例えば一九六〇年代においてはまだドイツで信じられていましたが、六〇年代の後半から七〇年、もう最近に至れば、ドイツ、フランス、いずれの国におきましても建築は都市において不自由である。ところが、我が国については、まだ基本的に自由なんだが法律にひっかかるからやむを得ない、こういう考え方があるように思います。
第二は、土地の値段が上がれば自分の財産がふえた、こう考える、これもまた無理のない考え方でありますが、これを簡単に「増価の取得」というように書きました。言いかえれば、開発利益は自分のもの、こういう考え方なのでありますけれども、この点でやはり諸外国の認識と我が国のそれとの間にはまだ差があるように思います。
私は今ここに二点目を書きました。三番目をあえて書きませんでしたが、この三番目は、平たく言えば、税金を払っていれば怖くない、この三つなのです。要するに、自分の土地は自分のものだ。土地の値段が上がれば自分の財産がふえた。税金を払っていれば怖くない。さあ、この三点いずれを考えましても、土地についてそれはやはり社会、公共のものだという意識が我が国においては非常に薄いのではないだろうかと思います。
この点で、平成元年に制定されました土地基本法はかなり大きな考え方の変更をもたらすものでありまして、その前提として憲法二十九条がございます。二十九条の一項では「財産権は、これを侵してはならない。」二項においては「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と言っています。三項は省略をいたしますが、この一項があくまでも原則であって、財産権は不可侵である、二項によって例外的に制限されるのだという、これが憲法二十九条の一般的な意味、内容でありました。このこと自体に間違いはありません。しかし、これが事土地に関してそのまま無条件に適用されるようになる場合、しばしば思わぬ結果に至ると思います。
土地基本法は、第二条において「土地については、公共の福祉を優先させるものとする。しという規定を設けました。このような土地基本法が憲法二十九条のもとで成立し、施行されているということを考えますと、憲法二十九条一項、二項と土地基本法二条は矛盾する関係にはない、むしろ二十九条の趣旨を土地に関しては土地基本法二条が補完した、より具体化した、こう考えるのが正しいのではないか。
この公共の福祉の優先の中身をさらに分けて考えていけば、まず第一には、土地は計画に従って利用されなければならないということで、すなわち建築の自由に対するという考え方に対してそれを改めるべきだということを三条で述べたものと私は考えます。
さらに、これに先立つ土地臨調の答申などに見られました国民の基本認識、あのような宣言的文書に立ち戻れば、土地の所有には利用の責務が伴う。だから、使うか使わないかは私人の自由とは言っていられない。基本的に使うべきである。さあ、どう使うべきか。勝手に使うのではなくて、例えば一つの地域、一つの市町村においてどのように使ったら最適かということを示す計画がなければならない。これがこれから新たな意義を持ってあろう土地利用計画であり、また都市計画法を初めとする諸法律の定めるところでございます。
また、他面、この受益に応じた負担ということを第五条でうたいましたが、これこそその開発利益の一部を社会、公共に還元すべきであるということになりましょう。
以下、この二点を三、四においてパラフレーズして若干お話をしたいと思います。
昨年六月に都市計画法の改正がなされました。皆さん方の大変な御努力の結果というように考えまして、私はこの改正を大いに支持したいし、歓迎したいと考えております。昭和四十三年の都市計画法以来二十数年ぶりの大改正でありましたが、私はその中でもマスタープラン、それから詳細計画という組み合わせになった都市計画のあり方が今回の改正によって抜本的に強化された、内容を豊かなものにされたというように考えております。
まず、都道府県知事が定める都市計画、これは言ってみれば国の事務の委任を都道府県知事が行うのでありますけれども、マスタープランとして整備、開発または保全の方針を大いに充実させようということになります。そのもとで、御承知のように用途地域を八種から十二種にふやす改正が行われました。用途地域の詳細化といいますが、言葉を多少かえで言えば、用途の純化ということでありました。この地域にはこういうものしか建てられない、そういうものを建てればよりよい都市になるという積極的な方向を示す用途地域制度が、今回の改正でより輪郭を明確にしたと言えると思います。
他方、市町村には独自の都市計画権限があっていいはずだという考え方が今回の改正で打ち出されました。市町村のマスタープラン、これは都市計画法上の言葉では別の表現でありますけれども、一般には簡単に市町村のマスタープランと言っていいでしょう。これを定めるものとするというように市町村に対する義務づけを法律で行ったことは御承知のとおりでございます。そのもとで、そのマスタープランに従って地区計画を、これも市町村の権限でございますが、地区計画の策定を促進しようということであります。
従来の我が国の都市計画の考え方は、原則自由、例外禁止でありますから、してはいけないことだけを定めて、それ以外は自由、こういう考え方の枠がありましたが、今回の改正によりまして、例えば地区計画においては積極的にすべきことを定める、考え方の方向が変わってきたと言えるんではないかと思います。
他方、開発利益の還元については、これは大変難しい問題でありますし、どのように利益が、どの所有者に生じ、それをどのように還元をさせるべきか、難問だらけでありますけれども、やはりこの際、そういう考え方が真っ当なんだ、すなわち、公共的な資金によって社会資本の整備が行われ、そのおかげで自分の土地の価格が二割上がった、五割上がったというとき、それを全部自分のものとしないで、何らかの還元、見返りを行うべきだ、少なくともそういう観点に立って物事を見ていこうというわけであります。
ただ、これを、受益があるんだから、それから当然に開発費用を一部出せという、ぎしぎしやりますと、我が国の財産制度全体に影響を与えますから、そこは、しばらくの間は、多様な方法で考えていくべきだろう。私の考えでは、社会資本整備の費用をそこから回収するということを前面に出すよりは、ある人に特に、その人の働きによらずに財産がふえ、他の者にはふえていない、こういう場合に生ずる社会的な不公正、不公平の観念をなくす、薄める方向でのさまざまな申し出があっていいだろう。そのような、申し出という平たい言葉を使いましたが、都市環境の整備への貢献を評価するシステムをつくるべきであろうと私たちは考えているのであります。
さらに、もうちょっとよろしいようでございますので、第五点、第六点についても述べたいと思います。
第五点、年収の五倍以内での住宅の取得という、よく言われていることですが、私たちは、初めはこういうことはどこかでスローガンとして言われることであって、余りこう言うと不遜でありますけれども、学者がこれをまじめに検討課題とするというようなことは先の課題であろうと思っていましたが、やはりそういいかげんな態度をとっているわけにもいかなくなりました。
他方、私たちが、昨年施行されました借地借家法の中の諸制度、この年収五倍以内の住宅取得の考え方に合わせて、その活用の方法を組み立てることができないかということを検討を始めました。東京大学における私の主宰する研究会において幾つもの具体的な試算ができていますが、その一部、ごく簡単に御紹介いたします。
定期借地権という方法で用地を確保してその上にマンションを建てた場合、これには年限の制限があることは否めませんけれども、そのような場合に、大体東京でいえば、三鷹市、武蔵野市あたり、通勤の電車の時間で三十分、前後合わせて一時間以内でというところで年収の五・一倍という数字が出ています。ただし、この場合の平均年収はやや高目にとってありまして、年収八百三十万円という線で計算をしました。しかし、これが同じようなところで、土地を所有権として取得してマンションを建てた場合、七十平米のマンションを取得するためには八・三倍の用意がなければならない。このように、定期借地権を活用すれば大体四割方土地に関する費用を節減できるということになれば、こういう制度を大いに促進するための努力を、またしてみたいというように私たちは思います。
もとより、東京の郊外の元農家、土地を所有しておられる方々はなかなか土地を提供してくれませんが、これにも私たちの側でなすべき努力がまだまだあるように思います。私の考えでは、用途規制をもう少しやや強めて、その上でさまざまな優遇措置、奨励措置、具体的な例えば地区計画という枠組みにおさめた上での規制の緩和、このようなことを組み合わせていけば、現在の土地所有者が宅地並み課税のもとで安心して土地を提供するであろう。所有権で難しければ、先ほど言いました借地権、定期借地権の道が十分にあるのであります。
最後に、今日の地価の動向を見ておりますと、公共用地の取得または公共事業のための代替地の取得という点で、この十数年ない、そういう意味では好条件に今恵まれているように思われます。既に、国においても地方自治体においてもこのような計画を立てておられることは十分に承知をしておりますが、常に財源の問題がございます。先ほど長谷川参考人は、国民への減税に充てよと言われまして、これも識見の一つだと私は思いましたが、私は、この地価税をむしろ公共用地の取得の、もちろん適正な価格における取得でありますけれども、その資金の一部にすべきではないか、このようにして土地をある意味では大法人企業から国へ移転するということになるのかもしれませんけれども、それでも、それは重要なことではないだろうか。
さらに言わせていただければ、都市計画税についてその使い方を再検討せよということを臨調答申で言っておりますし、今日に至るまでそれが重要な課題ですが、このような地価税や都市計画税をもってやはり公共用地を取得し、公共事業を大いに展開していくような条件づくりをすべきではないかというように思います。ただ、最初にお断りしましたように、私は経済学に暗い、ただの法律の研究者でございますので、それ以上のことはここでは、最初の発言としては控えさせていただきたいと思います。(拍手)