中西輝政の発言 (予算委員会公聴会)
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○中西公述人 中西でございます。
少し風邪を引いておりまして、お聞き苦しいところが途中あるかと思いますが、どうか御容赦いただきたいと思います。
私は、日本外交の背景になる条件等について、この九三年度という年を見通してみまして幾つかの問題、それから日本外交上、日本外交の選択として重要な問題点あるいは政策的な私の見地というものをお話しさせていただこう、こういうふうに思っております。
時間の方も限られておりますので、かなり大きな形でまず要点をお話しさせていただきまして、後ほど各点について御質問等をいただければというふうに思っております。
まず第一に、現在の国際情勢の全般的な認識というものが大事だろうというふうに思っております。特に、ベルリンの壁が崩壊してかれこれもう三年数カ月になるわけですけれども、冷戦後の世界が一体どういう世界になるのかということについて、この期間非常にいろいろな考え方が錯綜いたしまして、現在に至るまでクリアな、明瞭な将来像、世界秩序イメージといいますか、そういうものがまだ生まれていないということであります。これは、やはり非常に大きな世界秩序の構造が崩壊した、まさにベルリンの壁が崩壊しましたように、その他もろもろの、さまざまな秩序を支える有形無形の諸条件が崩壊していくという、そういう過程が今現在も続いておる、こういうふうに認識すべきかと思います。
したがいまして、現在、大きな外交上の背景といたしまして、流れ全般には国際情勢、まだこうしたさまざまな崩れといいますか、秩序構造の支柱になっておったようなものが、つまり古い秩序がすべて崩壊してその後に新しい秩序が生まれる、このようなわけではないのですけれども、しかし、やはり古いものが壊れなければ新しいものは生まれない、自明の原理であるかもしれません。しかしその中に、壊れては困るような安定化の要因も同時に壊れていくということで、現状を考えてみますと、冷戦後の新秩序の形成という、こういう大きな流れが今かなり不透明になっているということが一つの結論として申し上げられると思います。
ただ、私は、この九三年度という年を見通してみまして、恐らくことしの後半あるいは年末等にかけまして、世界情勢の大きな流れは、非常に微妙な形ではあっても、いわゆる引き潮が一つの底を打って満ち潮に転じてくるような、そういう変化の兆しというものを幾つかの点で予見しておるわけであります。
そういう意味で申し上げますと、現状というのは私は、幾つかの点で中くらいの均衡状態、中間状態というものが現在生じつつあるというように見ておるわけですが、どれもしかし安定化の大きな条件にはなっていない。
例えて申し上げますと、最近のロシアにおける改革の流れというものは非常に大きな不安定、潜在的不安定を伴っております。あるいは国連の平和維持活動等もさまざまな点で大きな問題点を抱えております。また、ヨーロッパの統合問題ということも、マーストリヒト条約で予想されたような画期的な統合というものが、今中間的な、中くらいの成果の中で均衡状態、一時的な均衡状態に置かれておるわけであります。あるいはガットのウルグアイ・ラウンドといたしましても、やはり妥結の見込みが少し先延ばしになっておる。ほかに、中東和平問題あるいは旧ユーゴスラビアのボスニアにかかわる国連とECのあの和平案、こういったものを見てみますと、国際情勢の現状が非常に典型的にあらわれておるように感じております。
したがいまして、こういう中間状態、中くらいの安定というような、安定と言えるかどうかわかりませんが、そういう均衡状態にひとつ向かっている。この中間状態をより大きな安定に至らしめ得るのかどうかというところが、私は日本外交にとってもこの九三年度、非常に重要な方向というふうに見ることができると思います。
幾つかの条件を考えておりますが、特に世界情勢とのかかわりで日本外交上重要な問題点というのは、やはり一つはアメリカの新政権が誕生いたしました。この新政権の方向、対外政策の方向と日米関係の新しい協力の構築がうまく進むかどうかというところが重要かというふうに考えます。
アメリカの政権につきましては、恐らく、いろいろな分析が出ておりますが、私といたしましては、このアメリカの政権の今後というものは非常に、これまでの政権と違って幾つかの点で、よく言えば幅があるといいますか、さまざまな考え方、いろいろな立場の政権関係者が政権に入っておるわけであります。それが、ただ、現状におきまして政権の基本的な方向が固まるのにはこれまでのような、つまり冷戦時代のような短期間で一つの方向性が見出せるということはなかなか難しいかもしれません。そういった意味で、やはりことしの後半にかけてアメリカの新政権の方向が見えてくる、そういう場合に、日本の対応ということが非常に難しくなる可能性は確かにあると思います。
ただ私は、この日米関係、また現在の状況の中で重要な点として二つほど挙げられると思いますが、一つは、日米のこれまでのより狭い意味合いで我々がとらえてきた二国間関係というものから、もっと広い多国間関係の中にこの日米関係を置くという方向性が重要になってこようかと思います。
二つ目の点として、私は、今後の日米関係は、幾つかの点で日本側の対応というものが非常に重要になるだろう。それは、恐らく通商貿易問題その他で、日本側の対応が、アメリカの新政権が政策が固まっていない状況の中で出てくる対日政策等に対して、過剰反応しないということが一つ重要な心得であろうかというように思っております。二つ目は、非常に要約して申し上げて恐縮でございますが、この二つ目の中の注意点ということで、今最初に過剰反応するなということを申し上げましたが、二つ目に、この日米の新しい相互主義、開放された、開かれた前向きの相互主義、お互いの市場をそれぞれの開放度に見合って開放していくという考え方が、どうしてもアメリカから出てくるわけであります。その場合に、これをいかに建設的な方向に向けていくかという努力が重要であろう。
三つ目には、アジアにおける日米関係という次元を考えていく必要があるだろう。通商貿易以外に、外交、安全保障その他、より広い意味でこれまでになかった日米関係の重要なタイメンション、次元といいますか、それはやはりアジア・太平洋という大きな枠組みの中にこの日米関係を置くということであります。私はその場合にアメリカのアジア化というような言葉を使っておりますが、やや端的な表現かもしれませんが、アメリカの利害の中にアジアという視点を一つ大きく築いていく、そういう方向に日本の日米関係のアプローチを見出すということの大切さであります。
アメリカ以外、日米関係以外に、もちろん日本外交を取り巻く重要な課題というものは、現在の世界、山積しておることは言うまでもありません。その中の大きな問題点はもちろんロシア情勢ということでありますが、先ほども申し上げましたとおり、非常に中間的な改革路線が宙ぶらりんの形で今大きな困難に直面しておるということは、皆様御承知のとおりであります。
ただ、このロシアの問題を考えるときに、支援の問題等含めましてさまざまな議論が昨年度から引き続いて行われておるわけでありますが、多分この九三年度、新しい次元として考えていかなければならないのは、ロシア外交が恐らく、従来の八〇年代末から進んできた新思考外交という考え方から、やや独自な路線に方向を変えてくる可能性があるということであります。その場合に、恐らく、日本の対日政策といたしましても、そのことをどのように取り込んでいくか、新しい考慮が必要になるかもしれません。
それ以外に、時間の関係がありますので、幾つかの問題、まだ列挙したい問題がありますが、例えばガットの行方、あるいは欧州情勢全般、さらには中東あるいはイスラム圏の動向というようなものも、世界情勢全般にますます大きな関心を持たざるを得ない日本外交といたしまして、決して過小評価できない要因であることは論をまたないわけでありますが、ごく簡単に申し上げて、最初の私の見方、つまり、この九三年度という年に世界情勢が一つの中間的な意味合いで一時的な安定状態に向かう可能性というものを、その兆しを指摘することはできるかと思うのですが、ただ、より大きく見ますと、幾つかの点で非常に大きな問題をもたらすような諸条件も依然として潜在している。それは、例えばイスラムの原理主義が中東地域に広がってくる可能性等々でありますが、こういった民族紛争、地域紛争的な問題では、また後ほど御質問等がございましたら敷衍さしていただきたいと思います。
最後に、こういった大きな流れの中で日本外交の対応ということになろうかと思いますが、私はこれを三つぐらいの大きな項目に分けて申し上げたいと思います。
まず第一は、やはり新秩序、世界の今申し上げたような中間的な状態で宙ぶらりんの形になって、きちんとした安定状態に移行するかどうかが非常に重要な踊り場の年としてのこの九三年、そういう中で日本の役割といたしまして、この新秩序の形成にいかに貢献するかということがとりわけ重要な意味合いを持ってくる、そういう年であろうと思います。したがって、この中間状態をより大きな安定に至らせるという上で、まず第一に、グローバルな秩序安定の枠組みに貢献していかなければならない。その一つは恐らく国連の枠組みであります。あるいはガット・ウルグアイ・ラウンド等を中心にした世界経済の新しい秩序をいかにして確立させるかという問題。この次元が、このレベルの問題として重要な課題だろうと思います。
二つ目に私が重視しておりますのは、やはりこのアジア・太平洋の協力関係を拡充していくこと。これもやはり、経済、政治、安全保障、各問題の分野が考えられるわけでありますが、このアジア・太平洋協力というものは、恐らくこの九三年度、アジア情勢全般、中国を含めましてこれまでにない新しい動きが出てくるだろう、あるいは、先ほどのアメリカの新政権が国内の経済改革に一段落つけたときに大きな新しいイニシアチブを発揮してくる可能性がある等々、このアジア・太平洋情勢も、これまで我々が見て、これまで経験しなかったような大きな動きが起こってくる可能性があると思います。
三つ目の領域といたしまして、やはり日米関係の再構築という課題がどうしても重要だろうというふうに考えられます。
以上、三つのレベルに分けて申し上げたわけですが、もう少しこれを具体的に政策的な分野にブレークダウンして、分類して申し上げますと、多分このグローバルなレベルで、国連やガットという場で日本外交の選択というものは、今さまざまに議論がされておりますが、現在中間的な安定が得られるかどうかというぎりぎりのところに来ているこの世界情勢ということを踏まえて考えてみるならば、国連に対する一層の協力、それからガットのウルグアイ・ラウンドの早期妥結ということ、これは日米関係を含めてアメリカ議会の対応を働きかける必要等がございます。それから、アジア・太平洋協力にいたしましては、特にAPEC等を中心にした新しい協議の枠組みづくりということが非常に大切な選択になろうと思います。三つ目に、恐らく先進国の協力関係、いわゆるG7、東京サミットを控えまして、日本外交の一つの正念場がここに見出されるという気がいたします。
このように見てまいりますと、恐らく日本外交全体の構図がことし一年大きな分岐点に差しかかるさまざまな問題があるわけで、そのような観点から大きな視野で、恐らく冷戦後になかった初めての重要な選択の年になるのではないだろうか、そういうやや大きな視野で日本外交を考えていく、そういう必要性を強調して、私の公述とさせていただきたいと思います。(拍手)