田中善一郎の発言 (政治改革に関する特別委員会)
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○参考人(田中善一郎君) ただいま御紹介いただきました田中でございます。
まず、簡単な自己紹介から始めさせていただきたいと思います。
私、ただいま委員長から御紹介いただきましたように、東京工業大学におきまして政治学の研究をやっている者でございます。主として専攻分野は、政治理論及び現代日本政治の問題につきまして勉強させていただいておる者でございます。そういう私がこの国権の最高機関の一翼を担われている参議院のこの場にお招きをいただきまして、非常に光栄に存じております。また、その機会を与えてくださいました自由民主党の方に対して、厚くお礼を申し上げたいと思います。
なぜこのようなことを申し上げるのかと申しますと、私は実は、この政治改革の御議論がもうずっと進められているわけでありますが、進めていただいている中で私自身何か違和感といいますかちょっと話が違うんじゃないのかな、そういうような感じを持ちながら今日までつき合っていたわけです。
昨年の七月まではほぼ一年間アメリカのカリフォルニア州のスタンフォード大学で勉強しておりましたわけですけれども、やはり私の専門柄、常に日本の国会の動きの情報は入れていたわけでありますが、やはりどうも今おかしいのではないかということを感じつつおりまして、このまま政府案なりあるいは自民党案なりが通ってしまっていいのだろうかということを思っておりましたところ、こういうお話がありましたので出てまいったわけです。
ただ、じゃなぜおまえはそれまで黙っていたのかということでありますが、黙っていたわけではないんです。友達同士では話していたわけでありますが、話していますと何か、後でお話ししますが、私は今回の政治改革において、特に選挙制度改革につきましては大変批判的あるいは消極的な見方を持っております。そういう立場で私がもし発言しましても、そうすると田中は守旧派が、それからまた守旧派でなければ守旧的な自民党の手先なのではないかとか、そういうことを言われる可能性があるということがありまして、なかなか言いにくい土壌がこの一、二年間世上にございまして、少なくとも私はそう受けとめたわけでありますが、なかなかこういう御議論が出なかったのではないかというふうな感じを私は持っているわけであります。
また、本日は私は自民党御推薦ということで出てまいりましたけれども、私のような者がここでそういう形で出てまいりますと、もう田中は自民党のシンパであるというようなレッテルが張られまして、これからの私のつき合いにおいて時には非常なデメリットが起こるかもしれない、こういうことがあるわけです。ですから、小心翼々たる大学の一介の教師である私みたいな者にとりまして、きょうのような形で出てくるというのはよほどの決断があったということ、その中で出てきたんだということを諸先生方にはぜひ御理解いただきたいと思うわけであります。
前置きが長くなりましたが、そういうことで、私は主として選挙制度改革につきまして御意見を述べさせていただきたいと思うわけであります。
まず、今回の選挙制度改革の問題に関しましては、一番の問題点は、今日までさまざまな御議論が学問的な論証なしに進められてこの政府案なり自民党案が出てきているという点であります。
例えば、中選挙区制では政権交代がないというような御議論があります。これも実際に、これはもう既に御存じだと思いますが、さきの総選挙において起こったわけであります。あるいは中選挙区制ではお金がかかるということがありますけれども、これも後で御質問があればお答えいたしますが、日本の明治以来の議会制度、小選挙区から大選挙区、中選挙区、いずれの制度もとられているわけでありますが、お金がかかるということは常に言われていたことでありまして、中選挙区制度とお金がかかることは関係がないというふうに考えるのがまず学問的な良心であるわけであります。あるいは小選挙区制は政権交代があるとか、あるいは小選挙区制をとれば組織政党ができて政党の近代化ができるとか、あるいは比例代表になれば腐敗が省くなるとか、あるいは組織が強化されるとかいうようなのがあたかも学問的な真理であるかのごとく巷間に流布していて、そうした議論のもとで政府案あるいは野党案というものができ上がってきているというのを私は憂慮するわけであります。
もちろん、そういう方々には、政治家の方々あるいはジャーナリストの方々は別に政治学の専門家ではありませんからそういうのも結構であるわけですが、残念なことに、私の同業者であります政治学者と言われている人たちの中でもそういうような御議論をされる方がないわけではないわけであります。
そういうときに、先ほど言いましたように、私みたいに小心翼々たる者が申し上げるというのはとてももう心臓が張り裂けるような気持ちがあるわけでありますが、ただ、これはお話ししておかなければいけないのは、少なくとも学問的に良心的な人は、今回の選挙制度の改革の議論の前提に関しては、先ほど言いましたように大変問題が多いのではないかと考え、ただ申し上げると唇が寒い雰囲気があったのではないかということであります。そういう意味で、今回そういうことがあります。ですから、今までそういう議論が出てなかったとしましたら、あるいは少なくとも国会でそういう御議論がなされてないというならば、それはぜひここで申し上げておきたいという気がしたわけであります。
そういう形で、御議論の結果、さきの通常国会におきまして自民党からは小選挙区制、それから野党の主なところからは併用制、つまり基本的には比例代表制の制度が御提案されたわけですが、それはそれで私は一つの哲学があったと思っているわけです。
例えば小選挙区制ですと、これは強い政権政党をつくるという、ある一定の条件が必要なんですけれども、学問的にはそう言わなきゃいけないんですが、ある二足の条件が与えられますと強い政権政党ができるということが言われております。それは私は正しいと思っていますが、そういう意味で小選挙区制というのは一つの哲学があるんですね。政権を担うのには強い政権政党をつくらなきゃいけない、こういう御議論であるわけですね。
それからもう一方の、当時の主な野党が出されていた比例代表制、もう一度言いますが、併用制というふうに言われてますが、実質的には比例代表制でありますが、比例代表制は民意をなるたけパーセンテージで正確に表現していこうという意味で、これはこれまた哲学があったわけであります。
ところが、今回政府及び自民党から出された案は、それを二つあわせたまさに全く木に竹を接いだ並立制というものが提出されているわけでありまして、一体これはどっちを向いているのか全くわからないわけであります。そういう点が非常に問題であるということ。
それからもう一つは、並立制に関しましては、さきの七月の総選挙において各党がいずれも公約しなかった制度であります。そういう制度をその後の国会においてにわかに取り上げて国民の信任を得ずにやるということには、これは民主主義の手続において瑕疵があるのではないかと私は思っているわけでありまして、その意味でも慎重な審議というものが私は必要なのではないかと思うわけであります。
せっかく私は自民党御推薦ということで出てまいりましたので、ここでちょっと自民党を応援するような言い方をしておきますと、特に政府の当初案は五百議席で二百五十対二百五十ということでありますが、これはまさに足して二で割る方式でありまして、自民党の大先輩である大野伴睦先生が一番お得意だったやり方だったわけであります。ですから、まさに政府当初案は哲学がないというふうに言われても仕方がないんではないかと私は思っておるわけであります。
そこで、私思い出したのは第七次選挙制度審議会、一番直近の選挙制度審議会が第八次でございますが、第七次の選挙審議会の結論のときの資料を実は数日前に読んだことがあるんですが、その中で、もう先生方御案内のことだと思いますけれども、結局まとまらなかったわけですが、ただ第七次選挙審議会は並立制が多数案であるということは指摘して答申が終わったわけでございます。その中に、その第七次選挙制度審議会の委員として出られて、しかも私が大学時代に教えを受けたある先生、具体的な名前、これを言えば知っている人はすぐわかっちゃうんですけれども、申し上げませんが、その先生がどのような選挙制度がこれ望ましいのかという質問に対して、それは比例代表制か小選挙区制というふうに書いてあります。
私は、最初に読んだとき、これおかしいんじゃないの、まじめにやれと。我が尊敬する先生が比例代表と小選挙区両方とも挙げているわけですね。ある意味では水と油の関係の制度ですね。それだけれども、今お話ししたところからおわかりいただけると思いますけれども、多分その先生は、並立制というのは哲学がない、やるならばどちらかでなきゃいけないということをまずは主張されているんですね。議論が煮詰まったところで、多分どちらかの方を言われたんではないかというふうに私は思っているわけであります。
その意味で、やはり選挙制度というのは民主政治の根幹を形づくるものでございますから、哲学があるものであってほしいというふうには思われます。
それから第二点は、しかし、並立制というのは比例代表制と小選挙区制を組み合わせているわけですが、政党の全国化ということが前提とされるならば基本的には小選挙区制のタイプの選挙制度になります。これはもう皆さん各種の試算などから見てもそれが御理解いただけると思うわけでありますが、あるいはもしそういうふうに小選挙区制含みのタイプの選挙制度だというふうに並立制を理解するならば、自民党案の方がより筋が通っている。よいとは申し上げませんが、筋が通っていると私は思うわけであります。
自民党案の方は、三百と百七十一ということで小選挙区の方の比重が大きいということになるし、また選出母体が都道府県のレベルになっているということで、その意味では小選挙区制に近いというふうに理解することができるわけであります。その意味では確かに筋は通っていると思うわけでありますが、しかし、先ほど言いました問題点は免れないのではないかと私は思っております。
それから第三点は、これはもうしばしば指摘されているわけでありますが、政府案は現行参議院の選挙制度と非常に酷似している制度であるということであります。特に本院においてこのような案を通過させるのは自己の存在価値を否定することに通じるのではないかと私は非常に憂慮しております。
参議院、第二院、まあ参議院において第二院と申し上げるのが果たしてよろしいのかどうか私わからないんですけれども、参議院の存在価値に対してはさまざまな御議論があるのは私は承知しておりますけれども、仮に、憲法が規定するように参議院が必要だとするならば、選挙制度は衆議院のとはできるだけ異なるものにすべきであると私は確信するわけでありますし、多くの方は恐らく賛成されるのではないかと思うわけであります。その意味で、政府案は現在の参議院の選挙制度と大変似ているということでこれはまた問題になるのではないか。つまり、参議院の選挙制度改革の具体案が提出されていない段階でこの案を採決する、あるいは成立させるということには大いなる問題があると私は思っております。
それから第四点は、一票の重みの問題でございます。もう既に、衆議院の中選挙区制におきまして定数是正問題というのは一九六〇年代のころから大問題になっているわけで、全然解決ができていないわけであります。ようやく今回になって抜本改革の機運がみなぎってきたというのにかかわらず、出てきたものは何と驚くなかれほとんど格差が二を超えるような代物が出てくる。最も国民の中のエリートである国会がそういうことを出していいのであろうかと私は深く深く憂慮するわけであります。少なくとも限りなく一に近づけるような制度的保障を持った選挙制度を考えていかなきゃいけないのではないかと私は思っているわけであります。
そろそろ時間になってきました。もう少し時間があると思ったんですけれども、あっという間に終わってしまいましたが、そういうことで以上の点をまとめさせていただきますと、今回の議論は、各種の選挙制度についての政治学的な実証的研究に基づいてはいないという点、それから衆参両院のそれぞれの個性を考えた上でそれぞれにふさわしい選挙制度を考えるべきであるという点、それからもう三十年来の、四十年来かもしれません、四十年来の懸案であるところの一票の重みというものについての配慮が全くとは言いませんがほとんどないという点、そして最後に、選挙制度改革において哲学が感じられないという点において大変問題があると私は考えております。その意味では、先ほど言いましたように、筋としては自民党案の方が通っているのではないかと思います。
もう時間になりましたので終わらせていただきますが、もし私がどういう選挙制度が望ましいと考えているかにつきましては御質問がございましたらお答えさせていただく、その他政治資金関係、政治倫理関係につきましてはこれも御質問の中でお答えさせていただきたいと思っております。超過いたしましてまことに失礼しました。(拍手)