丸尾直美の発言 (税制改革に関する特別委員会公聴会)
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○丸尾公述人 慶応大学の丸尾です。こういう機会をいただきまして、大変光栄に思っております。
資料にありますように、私の考えは、今回の税制改革全般についての評価と福祉ビジョン実現との関係の問題、それから国債発行、世代間分配に関する問題、三点に関しまして意見を述べさせていただきたいと思います。
まず第一に、今回の税制改革は、欧米諸国において、アメリカのレーガン政権下、イギリスのサッチャー政権下、スウェーデンの保守中道政権下等々で行われてきました税制改革の方向に沿うものであり、所得税の簡素化と累進度の緩和、タックスベースの拡大、勤労者資産形成への税制上の助成等の税制改革が欧米諸国では行われてきましたけれども、その背景には、市場機構の機能の回復、政府の市場への規制の緩和、勤労意欲の回復、税制の国際的コーディネーションなどへの要請がありました。我が国の場合にも、同様な要請を持っている以上、この方向への改革ということは必要であり、賛成であります。
このほか、日本の場合には、所得税、消費税、資産税の構成比の不均衡を是正すること、世界に例を見ない今後の人口高齢化に対処するための財源の確保というねらいもあるものと理解されます。
以上のような国際的動向を考慮し、また図表一にありますように、我が国の場合、所得税はOECD主要国中最も高く、最も高くというのは構成比ですね、税に対する比重が最も高く、税に対する消費税の構成比が最も低いといったことを考えますと、消費税の構成比を所得税に対して高くする今回の税制改革は妥当な方向への改革であると思います。
次に、次のページを見ていただきますと、しかし、所得と消費の税のバランスの是正という点はこれでいいかと思いますが、資産との関係のバランスがほとんど考慮されなかったという点が遺憾であります。
資産は、確かに税全体の中での構成比は特に低いわけではございませんし、低下しているというわけではございませんが、図表二にありますように、GDPを一としてそれに対する比で見ますと、資産の方は顕著に上昇しています。それに対して消費支出の方は、一九六〇年の五八%から九三年五七%とほとんど動いていないわけです。
そういう点を考えますと、資産のウエートというものがGDPに対して非常に高くなっているということですね。そういうことを考えますと、税の構成比が高まらなくていいのかという点につきまして若干問題があるということですね。バランスの公正とは、税の中での構成比が一定なのか、それとも税の対象となる対象物が非常に大きくなれば、むしろ構成比は変わってもいいんではないか、そういうことです。
しかし、かといって、現在は資産不況であり、逆資産効果と、そして企業におきましても資産の価値低下が不況の原因になっておりますから、こういうときにはむしろ資産に関しては減税が必要かもしれませんが、長期的には資産課税に関しましては、まさに私が言いましたような意味での均衡を回復するような税制上の改革が必要であるかと思います。
資産に対する税制上の不公正を是正するもう一つの対策は、資産に課税するというよりも、資産を持たない人に対して資産を助成するというやり方であります。レーガンの政権下でも、サッチャーの政権下でも、所得税の平準化をして累進度を下げた、その見返りとして、勤労者に対する資産形成を税制上助成しています。特にサッチャー政権はそうです。日本の場合は、そちらが欠けているという点において、欧米の流れに沿っているとはいえ、そういう肝心なところで欠如しておるということを感じます。
そのほか、若干の評価をしますと、企業、特に赤字企業と公益法人に対する課税上の不公正に関して是正政策がまたも見送られたのは遺憾であるということ。税制上の不公正として問題とされる消費税の益税の問題に関しては、具体的に対応策がとられたことは評価したいと思います。
年金課税に関しまして、今高山公述人が年金に関しても税金を課してもいいんではないかということですが、私も方向としてはそれでいいと思います。
しかし、その場合には、今回の年金改正法で改正されましたスライド基準に関しまして、三ページ目の式に書いてあるように、スライド基準を改めなければならない、つまり、賃金上昇率から賃金の可処分所得の変化率を引くだけではなくて、それに今度は年金の可処分所得の変化率を品さないと、その場合は年金改革法と整合しなくなります。今回の年金スライドがどういう方式でそこまで考慮して行われているかどうか知りませんが、年金の税率が高くなる場合、社会保険料含めてですね、その点を考慮することが必要であるということを申し添えておきます。
それから、今回の税制改革は、短期的には所得税減税に伴うその財源を埋めるために景気回復を待って消費税率を引き上げるということであります。そのための消費税率の引き上げということが要請されているわけでありますが、しかし、所得税減税がどちらかといいますと、税金をある程度以上たくさん払っている方に有利になり、他方、消費税引き上げの方は、すべての人にかかりますし、低所得者の方が相対的に消費の比率が高いから、そういう意味で逆進的だということがよく言われます。
その点を相殺するという意味もありまして、福祉ビジョンがつくられ、相対的に低所得者や高齢者にとって有利な政策を行うというそういうセットになっているわけですね。それに加えまして、規制緩和と行政改革、こういった四つの政策が今回の政策ミックスであると私は理解しておるわけですが、その問題のセットとして行われる福祉ビジョンが、今回の消費税率引き上げで十分かどうかということに若干の疑問があるということであります。
当初七%の消費税率を議論されていたようですが、それが五%になるという過程で、あるところの議論によりますと、その二%は行政改革と規制緩和とで公的支出を抑制することによって捻出するということで、それはまことに結構なことで、それができれば一番結構でございますが、どうもそれを具体的に納得させるような改革の見通しが見えていない。国の税調会長の加藤寛慶応大学名誉教授も指摘されておりますように、行政財政改革の効果というのは数年間でそんなに大きく出るものではない。そういうことを考えますと、結局消費税率引き上げは所得税減税の穴埋めをすることで終わり、福祉ビジョンの実現ということが結局ネグレクトされていくおそれがあるのではないか。
そうしますと、三点のセットで、所得税減税、消費税率引き上げ、福祉ビジョンの実現という三点セットで納得を得ている今回の税制改革に対する大変な約束の違反になるのではないかと心配するわけです。今年度は何とか予算上の措置が新ゴールドプラン等についてついているようでございますが、この点について懸念があるということです。
恐らく財源が福祉ビジョンの実現に足りなくなります。福祉ビジョンの中で中心的なものは老人介護ですけれども、恐らくこの点で消費税の引き上げ分を回さないで済ます一つの方法は、介護保険化することであります。しかし、これを介護保険化してしまって、そこで公費が回らなければちょっとうそを言ったことになりますから、仮に介護保険化する場合には、少なくとも介護保険の公費負担分を五〇%以上消費税引き上げ等によって捻出される財源から出すということをはっきりとさせていただきたいと思います。
それから、今回の所得税減税、それを埋めるための消費税引き上げは景気の回復を待ってから行うというのは、これはマクロ経済政策として当然のことであります。そのために国債発行が必要になるわけでございますが、国債発行は、人口高齢化等に伴う国民負担率の上昇等と相まって、後の世代に大きな負担を負わせるおそれがあります。そこで、将来の税の負担の上昇等々を考慮に入れて、現代世代と将来世代との分配上のバランスを十分に考慮しておく必要があると思います。
ただ、私の考えでは、五ページにありますように、国民負担率が、二十一世紀福祉ビジョンのケースーⅡですと五〇%以上になる可能性が非常にあるということ、社会保障給付費の対国民所得比も二八%から三〇%を超す可能性があるということ、これは二〇二五年ですね。そういう点から計算していきますと、勤労世帯に対する税・社会保険料の負担も現在の一六%程度から三〇%近くなる可能性があるわけです。
そういう場合に、果たして勤労世帯は税金や社会保険料を払った以後も豊かになっていくだろうか、現在の世代と比べてどうであろうか、そういうことを示したのが五ページの図表です。
それによりますと、今のような場合ですと、大体年平均で実質賃金の上昇率と手取りの実質賃金の上昇率との差額は〇・五五一%になります。ですから、賃金が一・五%で実質上昇しましても、手取りは一%切るわけです。しかし、それでも上昇をし続ける。この計算には消費税率の上昇を考慮に入れておりませんので、ここでは少し多目に見て、消費税率が将来一五%になるという、今の考え方じゃ大変なことですけれども、そういうことを想定して計算も出しておりますけれども、それでも手取りは、実質賃金が一・五%ずつ平均上昇していけば手取りは〇・六二%上昇するという計算になります。このプリント、けさ仕上げてコピーしてきたものですから若干ミスプリがありますけれども、大体今言ったような計算になります。
そういったようなことをある程度頭に置かれまして、税制改革を行う場合には世代間の分配の公正というものを十分考慮する。私の言う公正は、例えば年金に関しまして、払った分と将来の給付の比率がすべての世代について同じにならなくてはならないというようなことではありません。動態的基準と私は呼んでいますけれども、要するに現世代に対して将来世代が実質所得の上で手取り。でも十分豊かになっていく、そして資産も生活の質も向上していくならば、それは決して世代間の不公正ということにはならないという考えですけれども。
少なくとも、そういう観点から見て、将来の世代を窮乏化させないように、将来の世代が着実に実質手取りの所得や資産をふやしていく、そういう展望を十分に明示した税制改革にしていただきたいというふうに思っております。
以上です。(拍手)