稲田寛の発言 (法務委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○稲田参考人 日本弁護士連合会の事務総長、稲田寛でございます。参考人ということではございますが、弁護士会の立場としまして、今回の綱紀粛正の問題を厳粛に受けとめ、日弁連としての決意を中心に申し述べさせていただきたいと思います。
初めに、最近の相次ぐ弁護士非行、不祥事によって、国民の皆さんの弁護士に対する信頼並びに期待を裏切り、また、多くの関係者の皆様方に御心配をおかけしておりますことにつきまして、心からおわびを申し上げます。
日弁連土屋公敵会長を初め執行部は、このような事態を深刻に受けとめ、去る十月十二日、土屋会長は副会長でもある佐伯弘東弁会長ともども記者会見を行い、市民の皆さんに深くおわびするとともに、全国会員を招集し、自粛を促し、自戒を誓い合う決議を行いたい旨を表明いたしました。
これを受けた日弁連理事会は、十一月十五日、相次ぐ弁護士の不祥事は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の倫理に著しく背くもので、極めて遺憾であり、国民に対し深くおわびするとともに、綱紀・懲戒手続をさらに厳正かつ迅速に遂行するとともに、弁護士倫理の高揚と不祥事の再発防止に一層の努力をする旨を誓い合う決議をいたしました。次いで十一月二十二日、日弁連総会におきまして、全会員により同趣旨の決議をいたしました。
また、日弁連は、理事会決議に先立ちまして、全国各単位会に対しこの決議に賛同する旨の組織的決定を要請し、例えば東京弁護士会におきましては、十一月七日、常議員会におきまして同種の決議を行い、さらに十二月一日には総会決議を行う予定となっております。
加えて、日弁連執行部は、不祥事の再発防止策の徹底強化のため、綱紀委員会に対し、弁護士綱紀の粛正のために日弁連が今後とるべき方策を早急に検討し、答申するよう求めております。また、既に行ってきている各弁護士会等による弁護士倫理研修、新人研修の充実強化とともに、特に倫理研修の義務化を検討するよう名会に要請いたしております。
今回、相次ぎ逮捕または告発され、本年九月から十月にかけて報道をされました四人の弁護士につきまして検討いたしますと、先ほど参考人の鈴木先生のお話にもありましたが、その罪名等は横領二、脱税二となっておりますところ、その非行の行われた期間はいずれも一九九〇年から一九九二年にかけてのことであり、またその対象とされている金額が億単位に上っている点に共通点が見出されるものであります。しかも横領の契機が、不動産や株式等に多額の投資をした上へ回収不能となり負債に追われた結果であったり、株式投資で得た莫大な所得隠しであったり、マスコミにも報道されましたように、弁護士自身がバブルに巻き込まれ、非行にまで及んだと言わざるを得ない事例であります。
従来の懲戒処分の理由として典型的なものは、弁護士の職務解怠や受任権限の逸脱といった事例や双方代理等の禁止違反といった職務一般に関する規律違反を理由とするものが比較的多く、また横領事例でありましても、今回のごとき多額の事案は極めてまれでございました。
しかし、一部の事例にせよ、バブルの影響であるとして看過し得ない点は、本来、バブルに翻弄され、事件に巻き込まれたり破産状態に陥った人たちの相談相手であるべき弁護士が、プロフェッションとしての自覚を忘れ、金銭感覚に麻痺し、みずから金銭のみを追い求め、弁護士としての倫理感覚が欠落していたものと言わざるを得ない点にあります。こうした事態を踏まえまして、当該会員に対し、所属弁護士会において除名という最も厳しい懲戒処分に付したことはもとよりでございますが、日弁連としましては、既に申し上げましたように、全会員に対し、弁護士倫理の高揚を訴え、改めて弁護士としての自覚を促し、会員もまたこれにこたえようと誓っているものであります。
日弁連並びに各弁護士会において今日まで取り組んでまいりました弁護士非行の防止策を大別いたしますと、一つは非行の一般的予防ということであり、二つ目には非行の早期発見とその対応でございます。そして三つ目に、懲戒請求事件の厳正迅速処理ということに類型化できるかと思います。
まず、弁護士としての品性と教養を保持するとともに、非行の一般的予防の見地からも、日弁連として長年にわたり取り組んできましたのは、会員教育としての研修制度の継続的実施と弁護士倫理研修の充実強化ということであります。
日弁連は、一九九〇年三月総会におきまして三十五年ぶりに弁護士倫理全文を改定し、これを会員に周知徹底するため、事例設問式の研修教材である「事例集・弁護士倫理」を発行したり、あるいは「弁護士倫理研修マニュアル」を編集し、さらには、現在では「注釈弁護士倫理」を編さん中であり、近々発刊の予定になっております。
こうした倫理研修の一層の強化徹底策の一つといたしまして、日弁連は、このたび各弁護士会に対し、新人研修の義務化とともに全会員に対する弁護士倫理研修の義務化を呼びかけたわけでございます。
また、今後の課題といたしましては、倫理規定にとどまらず、業務規準の明瞭化や執務体制の正常化についても関連委員会等で検討の上、会員の業務処理に当たってのきめ細かい指導要領を策定し、会員の非行予防に役立てていく方針であります。
他方、残念ながら生じてしまった非行事例につきましては、その事案の内容を公表することによって他の会員の戒めとし、同種事例を防止するために、一九九一年十月より、懲戒処分があったときはそのすべてを日弁連の機関誌である「自由と正義」に理由を付して掲載し、事案によってはこれを記者会見等で発表いたしております。
非行の早期発見に努めることも、非行を未然に防止するとともに、大きな事件や継続的事件を誘発させないために重要であると認識し、日弁連としましては、名会に対し、会員が非行に及ぶおそれがある場合は弁護士会は積極的に指導に当たらなければならないとし、そのために非行の予防ないし早期発見に努めることを事務局職員に周知徹底するよう求めております。
その具体的な対策の一つとして、市民の人たちから寄せられる会員に対する苦情処理の強化とその迅速な処理ということが挙げられます。去る九月三十日、札幌で行われました司法シンポジウムでも、市民の相談窓口の設置推進が検討され、席上、福岡県弁護士会で積極的に市民の苦情受け付けを行いましたところ、苦情申し立ては大変増加したけれども、紛議、懲戒の申し立てがなくなったという例が報告されております。
日弁連が全国の弁護士会職員を集めて毎年行っております職員研修におきましても、今年度は苦情処理についての事務局体制の整備を検討いたしております。
今後弁護士会におきましては、むしろ市民の人たちに対する広報などにおいて、苦情受け付けや紛議の調停を弁護士会が積極的に行っていることを呼びかけ、苦情相談を広く取り上げ、その迅速な処理をしていくことにより、会員の非行のおそれがあれば未然に防止し、また非行を早期に発見すること及び適切迅速な処理を会としても指導し、解決を図ることに努めなければならないと考えております。
また、会員が弁護士業務や私生活の面で適切な助言を必要とする場合に、相談に応じ得る会の体制のあり方の検討も今後の課題の一つであろうと思っております。
こうした取り組みにもかかわらず、残念ながら非行を行った会員に対する懲戒処分の厳正迅速な適用は、自治団体としての日弁連並びに各弁護士会にとってみずからに課せられた責務であります。
日弁連としましては、綱紀委員会を中心に会員の綱紀粛正のための諸施策を検討しておりますが、各弁護士会の綱紀委員会に対しては、綱紀委員会の調査期間を原則として六カ月以内とすることの日弁連指針を示し、この指針は名会においても会則化するように指導しております。また、懲戒処分に関しましては、既に述べましたように公表制度が採用されておりますが、加えて業務停止処分の執行強化を図ったり、あるいはさらに懲戒委員会の審査を原則として一年以内に行うよう迅速指針を示しておりますのも、綱紀・懲戒手続の適正迅速化の一環であります。
日弁連におきましては、各弁護士会の綱紀委員長を集めて定期的に協議会を行っておりますが、たまたま本年度協議会はきのうからきょうにかけて日弁連で開催されております。そこでは弁護士会による苦情処理と綱紀保持についてであるとか、懲戒請求事件の適正迅速な処理についてといった協議事項が検討されております。
私どもは、数年来、市民のための司法改革を提唱し、そのためにも自己改革の必要性があることを訴えてまいりました。私どもの提唱している司法改革も、市民の人たちの信頼を得てこそ初めて実現し得るものであります。
また、弁護士の人権擁護と社会正義の実現という使命遂行のために、弁護士会に与えられている弁護士自治をみずからの責任において維持するためには、弁護士一人一人がその責務の重要性を改めて認識し、今までにも増してみずからの行動を厳しく律していかなければならないと痛感いたしております。そのためには、弁護士倫理研修や会員の継続的研修の一層の強化もさることながら、弁護士会会務への積極的参加と会務を通じての公的使命の自覚の高揚が何よりも大切であろうと考えております。
刑事当番弁護士や法律相談事業あるいは法律扶助などの弁護士活動を一層推し進め、活性化することによって、市民の人たちの信頼を回復させ、弁護士に対する信用の維持増大に努めなければならないことを大半の弁護士は自覚し、公的活動に積極的に取り組んでおりますことをどうか御理解いただきたいと申し上げまして、私の陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)