林宜嗣の発言 (地方行政委員会,大蔵委員会連合審査会公聴会)
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○公述人(林宜嗣君) 関西学院大学の林でございます。
本日は、このような場で意見を述べる機会をいただきましたことを感謝いたしております。
税制改革の前に行政改革だといったようなことで、私自身、福祉を初めといたします行政につきまして御意見を申し上げたいことがたくさんございますけれども、時間の都合上税制に絞らせていただきたいと思っております。
そこで、まず今回の税制改正を総論的に評価いたしまして、続いて各論に入りたいと存じております。
税制改革を行う際の視点でございますけれども、私は三つあるのではないかと思っております。一つ目は高齢化社会への対応、二つ目は地方分権への対応、三つ目は経済活力を維持するあるいは強めることへの対応でございます。もちろん、こういった三つの視点はそれぞれが相互に密接に関連をしておりますので、総合的な視点が必要とされますし、ある意味ではバランス感覚がより必要とされる、このような私は認識をしておる次第でございます。
まず、高齢化社会は高負担社会である、こういうことをだれもが知っているにもかかわらず、どうもこれまでの税制改革論議では負担の増加を見て見ないふりをしていたというように私は思っております。今回の一連の税制改革論議におきまして、高齢化社会の負担増にどのように対応していくべきかが国民の前に前面に押し出されてまいりましたことにつきましては、私はかなりの前進だと思っております。
それから、地方分権につきましても、地方消費税の創設ということで第一歩が踏み出されました。これまでの税制改革は、公平だとか効率だとかあるいは簡素、こういった税の一般原則に照らして国税、地方税の区別なく対象となってまいりました。しかしながら、実際には改革の中心は国税に置かれ、その過程で地方税源の侵食が生じたわけであります。こうした過去の税制改革あるいは論議に比べますと、消費譲与税とどこが違うのか、こういう批判はあるかとも思いますけれども、地方税の改革に一歩を踏み出したということで評価をしたいと思っております。
今回の税制改正では、三つ目の我が国の経済活力をどうするか、これは具体的に申しますと、我が国の国際競争力の強化をどう果たすのか、あるいは国際競争力を維持するのか、あるいは経済や産業の空洞化に税制としてどう対応すべきかという点につきましては触れられておりません。
しかしながら、これまでの税制改正の歴史を振り返りますと、昭和四十年代の後半以降には、所得税減税でありますとかあるいは財政再建上の要請とかが出てまいりますたびに、法人税の増税によって財源が賄われてまいりました。その結果、我が国の法人所得課税の負担は、欧米先進国と比べますとドイツと並んで高い水準となっております。したがいまして、所得税減税や高齢化に伴う今後の財政負担の増加を法人税ではなくて消費税で賄うという方向は極めて妥当な選択だと私は思っております。
一九八〇年代に入りまして、我が国の海外直接投資は急増しております。円高とか人件費とかこういった要因で海外直接投資がふえてきているわけでありますけれども、法人所得課税と経済の空洞化の関係につきまして、私たち研究者といたしましても今後研究を進めてまいらなければならない、このように思っておりますけれども、税制改革の次のステップとして、今回直接的には触れられませんでした法人所得課税のあり方につきましてぜひとも取り上げていただきたいと思っております。
以上、総論でございます、
それでは、各論に入らせていただきたいと思います。
まず、所得税でございますが、中堅所得層の負担の累増感を緩和するために、例えば二〇%の税率が適用される課税所得の上限を六百万円から九百万円に引き上げる、こういったいわゆるブラケットの拡大、これにつきましては私はかなり評価をしておるわけでございます。
ただ、人的控除の引き上げによって課税最低限を引き上げるということにつきましては、広く負担を求めるために消費税を導入する、こういう趣旨からしますと、私自身は本当に課税最低限の引き上げが必要であったのかどうか、これは若干疑わしく思っております。ただ、少額納税者への配慮としてやむを得ざる措置であった、私自身はこのように自分自身を納得させてはおりますけれども、こういう感想を持っております。
次に、消費税でございます。
私は、消費税の量的充実というのは次の三つの点で必要だと考えております。
第一は、効率と公正という常にトレードオフの関係にあります二つの目標のバランスを確保するということでございます。
OECDの国々のデータを使って検討いたしますと、高齢化が進んで社会保障給付費の国民所得に対する比率が高くなればなるほど税収総額に占める消費課税のウエートが高くなっている、こういう傾向が明確に読み取れるわけであります。つまり、社会保障は先ほどの効率と公正というところからまいりますと公正を達成しようとするものであり、消費課税は所得課税に比べて効率面ですぐれております。
先進諸国の経験から申しまして、財政支出のウエートが公正にかかってくればくるほど財政収入面は効率に比重がかかってくる、こういう傾向がうかがえるわけであります。この傾向は決して偶然ではなくて、収入と支出の両面を含めた財政全体で効率と公正のバランスを確保しようという努力のあらわれではないかと思っております。今後高齢化が進み、財政支出が公正に比重を移していく我が国におきましては、税体系はできるだけ効率面を重視した消費税に移行すべきではないか、私はこのように思っておる次第でございます。
消費税を量的に充実する必要性の第二の点は、世代間の負担の公平性の確保でございます。
税制改革が、それが特に所得税減税と消費税増税とがセットで提案されますと、必ずと言ってよいほど出てまいりますのが所得階層別に見た損得勘定でございます。今回も、例えば年収七百万円が損得の分かれ目である、こういった試算が新聞各紙で取り上げられたわけでありますけれども、私はこの記事を見て少々うんざりしているわけであります。
しかしながら、このような短期の視点からのみ税制改革を評価することは、ライフステージにおける負担の平準化でありますとか、あるいは生涯税負担の世代間の公平性、こういった重要な問題を見えなくしてしまうおそれがございます。所得税を消費税に振りかえるという税制改革につきまして、やっと所得税の負担から解放されてこれからは楽になると思っていたのにまた増税かと、こういう高齢者世代に対して極めて厳しいのではないかという声を聞くことがございます。しかしながら、この考えは今後急速に進みます人口構成の高齢化とそれによる国民負担の増加を考慮しないものではないかと私は思っております。
年金の世代間の不公平、こういう問題が指摘されているところでありますけれども、この世代間の不公平の問題は財政支出全般についても発生するわけでございます。
私のグループで計算をしておりますので結果だけを簡単に御紹介をしたいと思います。前提は、厚生省がお出しになられました福祉ビジョンによる社会保障負担の予測をベースにして、この財源を二つの税制のシナリオで賄う、このときに世代間の負担がどう変わるか、こういう計算をいたしました。
まず、財源を現行の制度をそのまま延長する、つまり所得税重視型の税制で賄うと想定しました場合には、一九三三年生まれの現在六十一歳の方、この方の生涯税負担率は八・一七%になります。これに対しまして、一九六三年生まれの現在三十一歳の方の負担率は一五・二〇%でありまして、この両世代の間に約七ポイントの差がございます。ここで、現在の所得税の対国民所得比率を一定に保ちながら財源不足分は消費税の増税で賄う、こういう消費課税移行型の税制で賄いますと、三三年生まれの税負担率は八・六二%に上昇いたします。そして、六三年生まれの世代は一四・五五%に低下します。そして、両世代の格差は約六ポイントに縮まるわけであります。
このように、消費課税の充実は高齢化社会への移行期におきまして世代間の公平性を確保する上でも必要であります。消費税へのバランスの移行が必要な第三の理由は、財政民主主義上の要請でございます。
ヨーロッパでの付加価値税の税率引き上げの経験から、付加価値税はマネーマシンではないか、こういうように言われることがございます。確かにそのような面があろうかと思いますけれども、しかしながら私は、税収弾性値が大きくて知らないうちに税負担が増加している所得税に多くを依存するよりも、むしろ税収弾性値が低くて必要な都度税率の引き上げの選択を国民に求める、こういう消費税の方が望ましいという面もあることを指摘しておきたいと思います。以上の三点から、私は今回の税制改正で消費税の充実が図られようとしている点を評価したいと思っておりますし、今後さらに所得税から消費税への課税バランスのシフトを進めていただきたい、このように思っております。
続きまして、地方消費税に話を移したいと思います。
高齢化社会におきまして、福祉を初めといたしますさまざまな行政サービスの直接の担い手はやはり地方である、こういう点を考えますと、地方税を充実することが私は必要なことではないかと思っております。
地方消費税は当初の案とは幾分異なったものとなっておりますけれども、私はこれでよかったのではないか、このように思っております。当初の考えでは、企業が地方行政から受ける利益は最終的に消費財への価格の引き下げという形になって最終消費者に帰着するのであるから、消費者が支払った税が企業活動の規模に応じて地方団体に配分されるのは別におかしいことではないのではないか、こういうことであったように記憶しております。私はそのときに、これでは現行事業税の外形標準課税化と一体どこが違うのだろうかという、そういう疑問が私の頭から離れませんでした。
今回創設されます地方消費税は府県間の配分を消費に関連した指標に応じて行う、このようにされております。これからの福祉社会におきまして地方財政支出が増加し、そのための地方財源が必要である点を考えますと、私はむしろ今回の配分の方がよかったのではないか、このように思っている次第でございます。
ただ、地方消費税をこのように考えますと、企業が行政から受ける利益に対する対価を求める、こういう事業税の問題が未解決のままに残されることになります。つまり、赤字企業は事業税を色担しないという問題でございます。赤字企業に税を負担してもらうということは極めて困難な政治的な選択を迫られることになりますけれども、ぜひとも事業税の外形標準課税化を今後の税制改革の中で取り上げていただきたく思っております。
現在の事業税は、企業の利潤を課税ベースにしております関係上、税収の年度間の変動が極めて大きくなります。高度経済成長期のように高い成長率が維持できるような場合には税収がどんどん入ってまいりますけれども、現在のように低い水準でしかも上下するというような時代には事業税の収入が対前年度比でマイナスになる、こういうことが起こるわけでございます。つまり、現行の事業税というのは大きく伸びない上に変動が激しい、これでは安定的な地方行政が行えない、このように考えております。事業税の外形標準化は今後の地方税改革の一つのポイントではないか、このように思っておる次第でございます。
以上、今回の税制改正につきまして、総論、所得税減税、消費税増税、地方消費税、この点に限りまして私の意見を述べさせていただきました。
経済社会構造の大きな変化の中で、税制改革をこれまでの制度の延長線上に位置づけるということはもはやできなくなっていると私は認識をしております。今回の税制改正はこうした抜本的な改革に第一歩を踏み出したものとして評価したいと思います。
今後、できるだけ多くの改革の選択肢を国民に提示していただき、よりよい税財政構造を築いてくださいますようにお願いしたいと思います。
以上でございます。