前田勲男の発言 (本会議)
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○国務大臣(前田勲男君) 倉田議員にお答えを申し上げます。
まず、今回本法律案を提出するに至った経過と改正の趣旨についてでございますが、刑法につきましては、これまでも全面改正の検討を行ってきたところでございます。しかしながら、全面改正につきましては、その内容に種々の角度からの意見がございまして、その調整にはなお日時を要するところでございます。
さきの第百二十回国会におきまして、衆議院及び参議院の各法務委員会におきまして、刑罰法令の現代用語化、尊属加重規定の見直し等について政府は努力すべきである旨の附帯決議がなされております。
そこで、このような事情を踏まえ、かねて、その文章が難解で一般には理解しにくいことから、早期に平易な表現にすることが求められておりました刑法の現代用語化をまず行うとともに、あわせて尊属加重規定及び聾唖者の行為に関する規定を削除することを内容とする刑法の改正案を作成し、今回御審議をいただくこととなった次第であります。
次に、尊属加重規定を全部削除する理由について御説明を申し上げます。
まず、最高裁判所の違憲判決を受けている尊属殺規定につきましては、尊属に対する殺人に関しても二十二年にわたり通常の殺人罪が適用されてきたこと、その間の量刑の実情を見ますと、人倫にもとる非道な事案に対しては厳しい刑が言い渡されておる反面、被告人に酌むべき点が多く軽い刑が言い渡される事件が相当数あることなどにかんがみますと、通常の殺人罪よりも刑の重い尊属殺人罪を改めて設けた場合、現状を大きく変更することとなるとともに、その実情からして、事案の内容に応じた適正な量刑をなしかたくするものであり、適当でないと思われます。
そこで、尊属加重規定については、累次にわたり法制審議会におきまして慎重に審議された結果、いずれも全部削除が相当であるとの答申がなされていることも考慮いたしますと、やはり尊属殺人の規定を削除して、一般の殺人罪の法定刑の範囲内で事案に応じた適切妥当な刑を科するのが相当であると考えたものでございます。
その他の尊属加重規定につきましては、最も基本的な犯罪である殺人罪について尊属加重規定を廃止することとのバランスや量刑の実情を見ましても、尊属傷害致死につきましては、その半数以上が法定刑の下限に集中しており、殺人の場合以上に被告人に酌量すべき点が多い事件があると認められることにかんがみまして、あわせて廃止するのが相当であると考えたものでございます。
次に、聾唖者の行為に関する規定の削除の趣旨につきましては、現行刑法は聾唖者すなわち生まれつきまたは幼いときに聴力及び発語能力を失った人は精神的な発達がおくれていることが多いと考えられていたことから、一律にその行為は処罰しないか、またはその刑を減軽することとしております。
しかし、刑法施行後、特に戦後の聴覚障害者に対する教育の普及充実は著しく、手話の全国的統一も推進をされたために、聾唖者であっても一般に障害のない人と同様の社会生活を送っているとの観点からいたしますと、障害がある人のうち聾唖者だけを特別とする合理性が乏しく、これらの人についても、個別の事情に応じて責任能力に関する一般的な規定を適用すれば足りると考え、聾唖者の行為に関する規定を削除することとしたものでございます。
次に、今後の刑法の改正のあり方とスケジュールにつきましては、今回の改正により表記が現代用語化されましたら、刑法につきましてさらに種々の角度から御論議が活発になることが期待されるところでございまして、これらの御議論を踏まえまして、社会の状況に合致したよりよい刑法の実現を目指して、所要の作業を進めてまいりたいと考えております。
その際には、今回の改正が、明治四十年に制定された現行刑法の内容を基本的に維持したまま現代用語化するものでありますことから、刑法を全面改正することも検討課題となることも考えられますが、刑法は国民の生活にかかわりの深い基本法でございますので、なるべく大方の合意が得られる形での改正が行われることが望ましく、また、時代の進展と犯罪情勢に即応した形で改正が実現するように努力を重ねてまいりたいと考えております。
以上でございます。(拍手)