富田俊基の発言 (予算委員会公聴会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○富田公述人 御指名をいただきました富田俊基でございます。
 「平成八年度の総予算について」という表題のもとに、日本経済と財政運営のあり方について意見を申し述べさせていただきます。お手元の資料も御参照ください。
 バブル崩壊後にさまざまな問題が発生しまして、それに国民の耳目が集中している間に、世界経済は大きな構造変化を遂げてまいりました。そのきっかけとなったのは冷戦の終えんです。
 冷戦の終えんは、東西の壁を崩壊させ、同時に南北の壁をも消滅させました。計画経済のもとにあった国々は、市場経済への移行を進め、二十数億人もの人々が世界経済に参加し始めたからであります。これによって、労働集約的な財の生産が世界で急拡大しており、世界は歴史的な構造変化を遂げようとしております。特に東アジアでは、中国経済の改革・開放、その加速を中心としてアジアの全域で急速な生産力の拡大が起こり、日本を含むこの地域の産業構造は大きな変貌を遂げつつあります。
 この世界的な構造変化が、我が国では景気の低迷となってあらわれてきたと思います。
 図の一にごらんいただきますように、輸入の増大が顕著です。景気のボトムであった九三年十-十二月期から九五年七-九月の間に、実質ベースで内需が二%の増加であったのに対しまして、輸入はその十倍ものテンポで拡大を遂げてまいりました。この結果、実質国内総生産、GDPはこの二十一カ月で一・三%の拡大にとどまりました。
 また、図の二に見ますように、景気の回復局面、過去と比較しましても、今回の輸入拡大のテンポは極めて顕著で、GDPに対する輸入の比率が急速に高まっております。
 製造業の生産について見ますと、景気のボトムから昨年十-十二月期までの二年間で、全体で七・四%の増加であるが、図の三に見るように、アジアと競合する耐久消費財の生産は一・七%減少しております。この一方、技術集約的な資本財の生産は二八・七%も拡大しております。このように、冷戦後の新しい国際分業に向けて、日本でも産業構造の転換が進みつつあります。
 これらの財政政策へのインプリケーションについて述べてみたいと思います。資料の二ページ目をごらんいただきたい。
 第一は、景気判断が悲観的に偏りがちだということであります。
 これまで合計六回、事業規模にして六十四兆円に上る景気対策が発動されました。これは、景気低迷の要因として、バブル崩壊という需要サイドの問題を強調するが余り、冷戦後の世界経済の構造変化という供給サイドの問題が見過ごされがちであったことにも原因があります。
 また、日本が他国に対して比較優位を持っております資本・技術集約的な産業で生産が拡大する一方、エマージングエコノミーズから激しい追い上げを受ける産業では生産が減少します。このため、すべての産業で全般的に日本経済が回復するというのは起こりにくいということでございます。このため、とかく悲観論が台頭いたしまして、財政政策を絶えず絶えず拡張的なものにしてきたのではないかと思います。
 第二は、国際資本移動の活発化、そして先ほど述べました輸入の増大によりまして、公共投資と減税の波及効果が従来よりも一層低下してきたことであります。
 過去六回の大規模な景気対策は、景気の底割れは防いだとしても、波及効果は著しく乏しかったわけでございます。さらに、財政による需要刺激策は、現在の我が国が直面する供給サイドの問題、これに非力であるばかりか、古い産業構造を温存しかねないという問題を持っております。
 第三は、貿易黒字、貯蓄超過というこれまでの日本経済の体質が急速に変化を始めたということであります。
 表の一にごらんのように、アジアからの輸入急増が著しゅうございます。過去三年間、輸入と輸出の伸びは、ドルベースで見てそれぞれ年率で一三・三%、九・三%でありました。このテンポが続くという機械計算を行いますと、昨年の一千七十億ドルもの貿易黒字は、七年後の二〇〇三年には赤字化いたします。過去二年、つまり九四、五年のテンポが続くとなりますと、さらに目前の二〇〇〇年に貿易収支は赤字に転落いたします。
 こうした対外黒字の縮小傾向は、高齢化に伴います家計貯蓄率の低下と表裏一体をなした動きでございます。六十歳以上の世帯の貯蓄率は、壮年層に比べて低いわけでございますけれども、今後の高齢化に伴いまして日本全体の家計貯蓄率が低下するという傾向は不可避でございます。
 総務庁の家計調査報告を見ますと、八〇年から九四年までの十五年間の平均で見まして、三十歳から五十歳代の家計の黒字率、これが二三・九%であったのに対しまして、六十歳以上の世帯の貯蓄率は一七・二%でありました。このため、今後の急速な高齢化、特に団塊の世代と言われるベビーブーマーズが第一線から退き始める二〇〇五年前後から、貯蓄率は急速に低下する可能性があります。
 このように、我々がいつも前提としておりました貯蓄超過というのは、過去の幻影のように消え去ろうとしております。したがって、現在経常収支が大幅黒字であるといって大規模な景気対策が必要だという考えは、妥当性を失いつつあります。
 日本にとって必要なことは、冷戦後の新しい国際分業の中に我が国経済を位置づけ、結果として成長率が高まることであります。冷戦の時代に形成されたキャッチアップ型の経済システムの成功神話に固執し、公共投資と減税の継続によって成長率の数字を何が何でも人為的に高めるということにどれだけの意味があるのか、私には疑問であります。
 また、景気が全般的に回復した時点で財政支出の抑制を始めればよいという旧思考、古い考えにこだわっておりますと、国債が火だるまのように累積し、国債の負担の重圧によって、日本経済は長期衰退の道を歩んでしまうかもしれません。
 資料の三ページにお移りください。
 国債の負担がもたらす第一の問題は、国債費の増加です。国債費は、他の予算費目とは異なりまして削減の対象とはなり得ない唯一例外の費目であります。
 今から三十年前の昭和四十年度の予算ではほとんどゼロであった国債費が、その後の国債発行によって拡大を続け、平成八年度予算では税収の三二%も占めております。その結果、財政の自由度を著しく束縛しております。この経緯は、国債の増発が景気拡大に功を奏さず、税収もその結果伸びなかったことを示しております。特に、利子率が成長率を上回る状況は、事態を深刻なものにいたします。
 国債の負担がもたらします第二の問題は、世代間の不公、平をもたらすことです。
 国債は税金に比べて負担がないという錯覚に陥りまして、例えば、景気対策という名をかりて、国債増発により現世代がメリットを享受しようという傾向に傾きがちであります。この財政錯覚は、歳出拡大に対します歯どめを失わせます。この結果、現在選挙権を持たない人々は、みずからの意思とは無関係に、国債の元利償還のために税金を支払うという不条理な状況に置かれることになります。
 第三は、金利上昇による民間投資の締め出し、クラウディングアウトであります。
 これまでの日本は貯蓄超過であったこと、また財政拡大と同時にパッケージとして公定歩合が引き下げられてきたことによって、この問題は余り顕在化しませんでした。しかし、先述しましたように、他の先進国と同様に、財政赤字の弊害が顕在化する危険が高まってきております。
 昨年、IMFは、先進工業国全体の国債残高がGDP比で一%ふえると、世界の実質金利が約〇・二%も上昇し、中期的に世界の経済成長を阻害するという研究レポートを発表いたしました。これは、一九七〇年代後半のいわゆる機関車論が百八十度間違っていたことを示唆しております。この観点から、冷戦後世界での国際協調は、財政の健全化を前提としたものでなければなりません。既に、EU、ヨーロッパ連合諸国及び米国では、財政の健全化が進められております。
 平成八年度の予算は、これらの観点から検討されねばならないと思います。
 国債発行額は、八年度予算で二十一兆円に拡大いたしました。このうち赤字国債は、構造赤字が一挙に表面化し、十二兆円に達しました。十五年もかけてやっと赤字国債から脱却できた平成二年度の決算と比べますと、国債は十四兆円の増発です。この最大の要因は、税収の減少です。平成二年度の六十兆円から九兆円ほども減少いたしました。この半分は、先行減税によるものであります。また、平成二年度との比較で歳出を見ますと、全体で五兆八千億円増加しました。うち、国債費が二二兆円、一般歳出は五兆四千億円増加しております。一般歳出のうち、社会保障費が二・七兆円、公共投資が二・六兆円、文教科学振興費が〇・七兆円増加しております。なお、この間に恩給関係費、食糧関係費などは減少しております。
 このように、過去六年間に赤字が拡大した要因は、景気後退によります税収の落ち込み約四兆五千億円、国債費と社会保障費の増加四兆九千億円、そして景気対策によります増加、これには公共投資の拡大と先行減税、これによりまして七兆円分赤字が拡大しております。
 さらに過去にさかのぼりますと、歳出が傾向的に拡大してきたにもかかわらず、たびたびの減税実施の結果、租税負担率がほとんど上昇していないことがわかります。平成八年度の国民所得に対する一般会計税収の負担率は、昭和四十九年度あるいは昭和五十五年度という二十年前後も前の水準とほぼ同じであります。また、ついに平成七年度には、厚生年金などの社会保険料が一般会計の税収を上回っております。
 平成八年度予算が置かれた状況は、その姿を将来に投影することによって浮き彫りにすることもできます。一月二十六日に発表されました「財政の中期試算」で示されましたように、七年後に赤字国債の発行をゼロにするには、国債と地方交付税を除いた一般歳出を向こう七年間にわたって少なくとも横ばいにしなければならないということであります。
 七年後の平成十五年とは、さきに述べましたように、過去三年間の輸出入の伸びが継続するという機械計算によって、貿易収支が赤字化し、日本に超過貯蓄がなくなるという年であります。という意味で、財政再建の目安になる年として、一応の合理性はあるように思います。
 しかし、一般歳出を七年間も横ばいにすることは可能でありましょうか。過去、七年間で一般歳出は九兆円も拡大しました。今後は、高齢化の進展によって、さらに財政需要は増大するでありましょう。このため、「財政の中期展望」が我々国民に選択肢の一つとして示した一般歳出を七年間も横ばいにすることは、ほとんど実行不可能かと考えられます。
 また、四ページにごらんのように、中期展望の検討に際しては、これまで毎年試算されてきた
「財政の中期展望」には、税収の過大見積もりというバイアスがあったことに留意すべきです。
 表の二にありますように、例えば三年前の中期展望では、この平成八年度の税収を七十一・四兆円と展望しておりました。八年度予算では、それよりも二十兆円も少ない五十一兆三千億円の見積もりとなっております。また、歳出も、当初予算で抑制されても、補正予算で大幅な追加が繰り返され、結果として、中期展望の歳出には過小見積もりというバイアスがありました。つまり、中期展望には、歳出、税収の両面に財政赤字を過小に見積もるという傾向がありました。
 五ページにお移りいただきたく思います。
 税収の過大見積もりの原因は、成長率の過大な見通しにありました。それを避けるには、冷戦後の世界経済の構造変化という現実を踏まえる必要があります。労働、資本、技術進歩という中期的な成長要因を検討いたしますと、日本も他の先進工業国と同様な環境に置かれるようになったということを認識しなければなりません。
 経済企画庁の新しい経済計画には、二〇〇〇年までの年平均成長率一・七五%というケースがあります。それは、規制緩和、構造改革が進まないケースと呼ばれています。それを前提にして延長しますと、たとえ二〇〇三年まで一般歳出を横ばいに保つとしましても、年々一兆円から三兆円もの増収策を実施しないと、二〇〇三年に赤字国債をゼロにすることはできないということになります。
 また、平成八年度予算の制度、施策を前提とした一般歳出が年率三・八%増で拡大する場合には、図の四にごらんのように、十年後の二〇〇六年の国債発行額はGDPの八・三%相当の四十九兆円、国債残高は同九二%相当の五百四十兆円にも達してしまう。その時点で財政再建、財政構造改革を叫んでも手おくれであります。数年後に何かをするから当面は減税といった議論が現在も見られます。しかし、将来世代に負担を先送りする、旧思考の先楽後憂の議論はもう許されません。
 現段階では埋めようがない巨額の歳出入のギャップが存在することを考えますと、平成八年度予算は、補正予算を組まないということを前提に成立することを期待します。
 構造的な財政赤字は、八年度予算で巨額の赤字国債として表面化しました。それが今後、安易な歳出拡大につながらないように、そして、選挙権を持たない人々とまだ誕生していない将来世代に巨大な国債の負担として先送りされて、新世紀を担う国民の選択と行動の自由を奪うことにならないように、財政健全化への取り組みを着実に進めていかねばならないと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 113605262X00219960223_004

発言者: 富田俊基

speaker_id: 4641

日付: 1996-02-23

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会