野田正穂の発言 (予算委員会公聴会)

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○野田公述人 法政大学の野田正穂でございます。
 私は、平成八年度予算、その中でも、特にいわゆる住専破綻の処理に関する六千八百五十億円の財政支出について述べさせていただきたいと思います。
 まず、破綻した住専の処理につきましては、その破綻の原因及び責任を徹底的に究明し、筋の通る、道理にかなった処理をすることが、金融秩序に対する国民の信頼を回復する上で絶対不可欠であるというふうに考えております。
 特に、この住専は民間の企業でありますから、当然自己責任の原則、後で述べますように、住専は母体行の子会社でありますから、住専の自己責任の原則は同時に母体行の自己責任の原則、いわゆる母体行責任の原則に立って処理が図られるべきであるというふうに考えております。
 それで私は、母体行の責任を、住専の破綻はバブルに関係があるわけですが、このバブルを引き起こした社会的責任と住専を経営破綻に導いた経営責任との二つに分けて、これから述べさせていただきたいと思います。
 一九八〇年代後半の株式や土地、いわゆる資産価格の異常な高騰がバブルであったことは、今では万人の認めるところとなっております。土地について申し上げますと、八七年一年間だけでも実に三〇%という値上がりが起こったのであります。当初、学者の間でもバブル説と非バブル説がございましたけれども、その場合のバブルとは、理論価格から実勢価格が著しく乖離し、その開きが主として投機取引によるものである場合を指しておりますが、今ではバブル説が万人の共有するところとなっているというふうに思います。
 一九八〇年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカのローレンス・クラインは、資本主義の構造的な不安定をもたらしている要因といたしまして投機活動を挙げ、日本のバブルにも触れて、八〇年代以降、投機活動が経済の撹乱要因になっている場合が多い、このように指摘しているのであります。
 問題は、土地の投機取引は、株式やその他の投機取引と異なりまして、株式の場合の先物取引のように空売り、空買いができないということであります。すなわち、俗に土地転がしと言われている土地の投機取引は、取引の規模に見合った資金を必要としている。そして、それは主として土地を担保とした金融機関からの融資によって賄われているのであります。このことは、国土庁が九〇年に発表されました土地白書からも明らかであります。
 事実、八〇年代後半のバブルを通じて、金融機関の不動産関連の融資は、一般の融資の伸びを大幅に上回って増加しております。金融機関の不動産会社や建設会社に対する融資を見ますと、九一年末の残高は約五十八兆円という巨額に上っております。このような不動産関連の融資の拡大が投機的な土地取引を支えたことは明らかでありまして、この点で、住専の母体行を初め金融機関の社会的責任は大きく、また、不動産関連融資のいわゆる迂回融資のルートとなったノンバンク、特に住専も、同様の社会的責任を免れることはできないと考えます。
 なお、地価のバブルの結果として、国民、中でも中堅勤労者の住宅取得、マイホームの夢の実現が困難となっただけではなく、土地を持つ者と持たない者との間の資産格差が大きく拡大するといった、国民経済あるいは国民生活にも大きな被害をもたらしたことを一言つけ加えておきます。
 ところで、不良債権の増大と金融機関の破綻はバブルの崩壊に原因がある、バブルの崩壊がなければ不良債権の問題は起こらなかったという説もございますけれども、バブルは永遠に続くことはないのでありまして、必ず破裂する、バブルはバブルなるがゆえに崩壊する、これがバブルの自律的な運動であります。
 八〇年代後半の資産価格の異常な高騰がバブルであることが明らかになった九〇年ごろ、高騰した価格がどこまで低落するかについてさまざまな予測がなされました。五〇%、つまり半分に値下がりするであろうという予測もあり、三菱銀行系の調査機関は、五〇%に下落した場合の国民経済に対する影響についてのレポートを発表しております。当時、三重野日銀総裁は、二〇%の低落が許容限度であると述べましたが、その後の経過は、二〇%をはるかに超える低落が起こり、不動産関連の融資を拡大した住専その他の金融機関に四十兆円あるいは五十兆円と言われる巨額の不良債権が発生した、これが現実であります。
 以上のように、八〇年代後半のバブルは、公定歩合が二・五%という歴史的な低金利、金余りと言われた金融緩和を背景に、住専を含む金融機関が不動産関連の融資を大幅に拡大したことの結果であります。
 本来、金融機関は、その公共的性格からいいまして、高いモラルと節度が要求されているのでありますが、銀行がサウンドバンキングの原則、資産の安全性、流動性を図るという健全経営の原則から逸脱し、土地の投機取引に深く関与したことは重大であります。また、これを許した金融当局の責任も重大であると考えております。
 次に、子会社である住専の経営に対する母体行の責任について述べたいと思います。
 簡単に住専の歴史を振り返ってみますと、一九七〇年代、銀行などが住宅ローン専門のノンバンクの設立に乗り出した当初、日本長期信用銀行のように、単独で住専を設立する、これは東京住宅ローンという会社でありますが、そういう銀行もございましたけれども、多数の住専の設立による過当競争を排除し、住専の経営の安定化を図ることを理由に、複数の同種金融機関による共同設立を原則とするという大蔵省の強い指導によりまして、住専の設立は八社に集約されたのでありますが、その結果、住専八社の信用力は著しく高まり、規模も大きく拡大することになりました。他方、このことが大蔵省からの役員の受け入れ、いわゆる天下りを容易にしたと言われていることも見逃すことはできません。
 住専は、もちろん母体行とは法人格を異にしておりますけれども、以上のような設立の経緯、資本関係、役員の構成、資金の調達、経営方針の策定、あらゆる点から見まして、母体行とは一体の子会社であり、また、今回、法人税法基本通達の無税償却が母体行に認められたことからも、住専が子会社であることは明らかであります。
 また、住専は、行政上、大蔵大臣の直轄会社の指定を受け、その監督下に置かれる一方、銀行だけに認められていた住宅抵当証書の発行も認められるなど、銀行並みの扱いを受けてきたことも周知の事実であります。そして住専は、母体行や大蔵省から金融業務に精通した専門家を役員として受け入れただけではなく、母体行の信用力、その広大な店舗網を利用して業務を順調に拡大し、八〇年代初めまで大きな利益を上げてきたのであります。
 もっとも、住専の住宅ローンにつきましては、金利は銀行よりも二%以上高く、また期限前の返済に違約金を徴収するなど、利用者の間の不満も少なくなく、七七年二月、この委員会におきまして住専問題が取り上げられたことは御存じのとおりだと思います。
 その後、八〇年代半ばになりますと、折からの企業の銀行離れ、金余りの中で、銀行などは住宅ローンを初めとする個人向けの融資や中小企業向けの融資の拡大に乗り出し、住宅ローンの借りかえ競争が起こったのであります。銀行などからねらわれたのは、もちろん金利の高い住専の特に優良な顧客でありまして、逆に、問題のあるリスクの大きい顧客を住専に紹介することが始まりました。
 このような融資の紹介は、住専が不動産関連の融資へと傾斜を強める中で、個人の住宅ローンから不動産会社などへの融資に持ち込まれ、特に九〇年三月の総量規制以降、問題の多い紹介融資が大幅に増加することになりました。大蔵省の調査によりますと、昨年六月末で一兆七千二百八十七億円、実にその九一%が不良債権となったのであります。
 以上、住専の歴史を簡単に振り返ってみたのでありますが、一言で申し上げますと、当初は長期プライムレートを基準とした金利での住専向けの資金供給で安定した収益を上げた母体行は、八〇年代後半以降は、住専の顧客を横取りするだけではなく、母体行が当然負担すべきリスクを転嫁する、あるいは新たなリスクを持ち込む、いわゆる俗に言うごみ箱としてこれを利用し、住専を破綻に導いたのでありまして、この点で、住専と一体となった母体行の責任、その経営責任も重大であると言わざるを得ません。
 この間、金融の常識からは想像を絶する放漫融資、過剰融資、乱脈経営が行われたのでありますが、このバブル期の金融機関の過剰融資は、何も一〇〇%という担保掛け目に象徴される不動産向けだけではなく、個人に対しても、節税対策のリースマンションの建設など、返済能力を超える過剰融資が行われ、バブルが破綻した後、返済不能に陥った個人から過酷な取り立てを行い、生活破壊、中には自殺にまで追い込むなど、現在、消費者の金融被害、銀行の貸し手責任の問題として裁判に持ち込まれるなど社会的にも問題になっていることを一言つけ加えておきます。
 次に、ノンバンクの破綻の処理につきましては、従来母体行責任の原則がとられてきましたし、また現にそれがとられていることを指摘しなければなりません。金融機関以外では、子会社の破綻に対して親会社が有限責任の限度を超えて子会社の損失を負担することは当然のこととされており、法人税法基本通達でもその損失負担を無税扱いとしております。
 金融機関の場合、母体行責任の原則が行政上も明確にされたのは九一年十月のことでありまして、当時、静岡信用金庫の子会社である静信リースの破綻に関連しまして、大蔵省は、銀行系ノンバンクについては、最終的に親銀行がその経営に責任を持ち最悪の事態を防ぐ必要があるとしたこと、この点からも明らかであります。
 ところが、昨年三月、大阪、福徳、阪和の関西系三行がそれぞれの系列ノンバンク合計十一社を整理した際、母体行以外の金融機関にも負担を求める残高母体行責任、いわゆる修正母体行責任の方式が導入されたのであります。当時大蔵省は、これはあくまでも銀行の自主的な経営判断によるものといたしましたが、三行はいずれも日銀と大蔵省から役員を受け入れており、また三行が期せずして足並みをそろえたことからも、大蔵省の強い指導があったことは疑う余地がありません。この方式の導入が住専処理に向けた金融当局の布石というのが金融界の常識となっております。
 しかし、この修正母体行責任は、従来からの母体行責任方式による損失の負担が母体行の負担能力を超え、母体行自体が破綻することが客観的に明らかな場合の例外措置でありまして、その後も、銀行系ノンバンクの不良債権処理につきましては、従来どおり母体行責任が踏襲されております。
 私は、以上の三点、住専が破綻に至った経過の中での母体行の社会的責任と経営責任、そして銀行系ノンバンクの破綻に対する母体行責任の三点から、住専についても母体行責任による処理が当然かつ合理的であると考えます。
 政府が策定した処理スキームは、財政資金を投入し、農林系の元本を保証するという点で、修正母体行責任のさらなる修正というふうに見ることができますが、当面、このスキームを前提にした上で母体行責任の原則に立つとすれば、財政資金六千八百五十億円は母体行の負担とすることとして、予算から削除することを求めたいと思います。
 既に九二年以降、金融機関の不良債権処理のため、さまざまな形態での公的支援や公的資金の投入がなされており、特に金利の低目誘導による低金利がもたらした巨額の業務純益の増大、雑誌「東洋経済」は、九五年度の大手二十一行の業務純益は史上最高の四兆四千四百六十五億円に上るであろうと予測しております。また、郵便貯金や簡易保険など公的資金による株価のてこ入れ、いわゆるPKOは既に八兆円を超えておりますが、これによる含み益の増大も見逃すことができません。その他、巨額の内部留保もございます。
 以上勘案いたしますと、母体行には十分な負担能力があるというふうに考えております。もちろん、母体行といっても、住宅ローンサービスのように都市銀行七行が母体行となっている場合と、地銀生保住宅ローンのように地銀六十四行と生保二十五社が母体行となっている場合がありまして、住専を同列に扱うことには問題があるとは思いますが、全体としては、六千八百五十億円を案分して負担することは決して不可能ではなく、十分可能であると考えます。
 なお、国会の御審議によりまして乱脈経営の実態などがかなり明らかになりましたが、住専破綻の原因と責任を究明するという点では、なお多くの点が残されております。
 例えば、暴力団が関与したと言われる実態もほとんど明らかにされておりませんし、また特に重要なのは、住専破綻以降の母体行と住専との間の資金の流れ、大変不透明でありますが、この資金の流れも明らかにされておりません。一部地銀による資金回収の例が報道されておりますが、ほかにそのような例がなかったかどうか、ぜひともこの国会におきまして徹底的に究明されるようにお願いしたいと思います。
 最後に、平成八年度予算の全体について一言申し上げたいと思います。
 一方で住専処理のために六千八百五十億円の財政資金が計上される反面、中小企業対策費は四年連続の減少でわずか千八百五十五億円、私が所属しております私立大学に対する経常費補助は、私学振興助成法成立の際の二分の一助成という参議院の附帯決議の水準をはるかに下回る二千八百七十五億円、また、高齢者対策の新ゴールドプランも六千九百九十六億円ではありますが、甚だ不十分であります。
 国債残高が今年度末で二百四十兆円に上るという財政危機を打開するため、国民生活の向上、福祉と教育の充実、内需拡大による景気の回復、そして当面、阪神大地震の被災者の皆さんに対する救援を主眼にして、本年度予算の抜本的な組み替え、特に五兆円近い軍事費の削減を初め抜本的な組み替えを強くお願いいたしまして、私の公述を終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 野田正穂

speaker_id: 18203

日付: 1996-02-23

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会