井形昭弘の発言 (厚生委員会薬害エイズ問題に関する小委員会)

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○参考人(井形昭弘君) 井形でございます。
 私は、現在、国立中部病院・長寿医療研究センターの院長を務めておりますが、参考人として御指名をいただきまして、現在大きな社会問題になっている薬害エイズの問題につき、私の経験から若干の意見を申し上げたいと思います。
 この問題は、先生方が御議論になっておられるように、結果的に多くの犠牲者を出したわけでありまして、二度と繰り返してはならないということは言うまでもなく、私どもを含めて大いに反省を要するところでありましょうが、今回の場合は明らかに対策の誤りがあったということは私たちも痛感しておるところであります。当時の知見の中でいかに的確な判断ができたか、どうすべきであったか、お薬はメリットとデメリットがあるわけで、その時々によって情報の正確度も変わっておるわけでありますが、それを的確に判断し対策をとる態度が、あるいはそれを保証するシステムが絶対必要であるということを痛切に感じています。
 私は、実はスモンという薬害、これも二度と繰り返さないという厚生大臣のお約束で和解が成立したいきさつがございますが、に関係しておりました。
 昭和二十九年ごろから約一万名の犠牲者が出て、結局昭和四十五年にキノホルムという整腸剤が原因であることが決定する前に、薬事審議会は疑わしきは罰するという法則で、当時は石館守三という会長さんだったんですが、この方のすぐれた英断によって即座に中止が決定しまして、その後の発症を見事に食いとめた経緯があります。これは当時の新聞にもかなり高く評価されたことは先生方の御記憶にあるとおりであろうかと思いますが、これに当たりまして、私どももキノホルムが原因だということは論文でも発表いたしましたし、それを受けて、もう亡くなられました新潟大学の椿教授は、直接に厚生省に対して危険であるから即刻販売を停止すべきであるという提言をされたわけであります。
 これを受けまして、厚生省は直ちに中央薬事審議会に諮問されて、いろいろ調査は行われたわけでありますけれども、まだそのころはビールス説も生きており、結論が決定しない。大体クロという空気ではありましたけれども、正式結論が出ないうちに薬事審議会では販売停止を決定して、それを通告されたわけであります。これで多くの方が救われた。
 こういう出来事を見ますと、スモンの問題と比べますと、新聞にも論評されたとおり、厚生省の中でも責任を十分感じ、しかも薬事審議会が、厚生省の諮問だけを受けるという受け身でなくて、積極的にこの問題に対処されたということは、言うならばやればできるというシステムで、今回のエイズの問題と比較しますと非常に際立ったコントラストが見られるように思います。この種の英断は今回のエイズの問題では見られなかったことは非常に残念だと思っております。
 もう一つ私が経験しておりますのは、昭和四十六年に東京大学から鹿児島大学へ赴任いたしまして、そこで従来見たことのない新しい脊髄疾患を発見したわけであります。結局、紆余曲折を経ましてHTLVI、当時はエイズのことをHTLVⅢと呼んでおりましたが、レトロビールスによって起こるということを発見いたしまして、これが世界の奇病、熱帯痙性麻痺と同じ疾患であるということがわかりまして、世界のトピックになったわけであります。
 我々がこの患者さんをたくさん診ておりますうちに、どうも手術の経歴の人がいやに多い、四〇%にも達するということを感じまして、調べてみますとやはり輸血が原因であると。そうすると、ビールス説で、ビールスによって起こる。これは、本来は成人丁細胞白血病という血液のがんを起こすビールスであったわけでありますが、学者もびっくりしたわけです。がんを起こすビールスが、障害部位も経過も全く違う神経疾患を起こすということでびっくりしたわけです。
 こちらの成人丁細胞白血病の方はビールスによって起こりますけれども、潜伐期が非常に長いので、禁止したことによってどういうメリットが出たかということについてはまだはっきりはわかりませんが、脊髄疾患の方は輸血を受けましてから平均して二・七年に発病するということがわかっておりました。そこでこのことをランセットに発表いたしまして、なおかつ厚生省にお届けし、そして厚生省に的確な情報をお伝えしたわけであります。
 当時は生物製剤課長が高橋透先生、京都大学を出られた先生でありますが、この方がその情報を聞かれて、即座に決断されて、その日のうちに、これは間接的に聞いたことですけれども、厚生次官までの了解を取りつけて輸血、献血のすべてにHTLVIの検査を実施するということを決定された。結果としては、昭和六十二年以降の輸血によるHAMの発病がゼロになった。非常に際立ったあれを経験しております。
 もちろん絶対数が少ないですから、今日のエイズほどの大きな問題ではありませんけれども、こういう経験を見ますと、私どもから見れば、とにかく正確な情報が保証され、そして責任感ある人が立場に立てばいろんなことが先手先手と予防ができると。
 ただ、すべてそれを善意に頼っているだけでは今回のような事件が起こるわけでありますから、したがって私どもは、こういう経験から言いますと、厚生省やあるいは学者の中から出た貴重な提言というものをそのまま受けとめて、しかも的確な判断ができるシステムが絶対不可欠で、今回の場合は研究班の性格も責任も不明確のまま過ぎましたし、現在もまだ責任の所在は私どもには余りはっきり見えてきておりませんが、そういう意味ではこのシステムの確立を強くお願い申し上げたいと思います。
 もちろん、当時はスモンの後には薬剤の副作用防止基金もできましたし、それなりのいろいろ対策が講じられました。製薬会社の中にも、利益を上げるよりもむしろミスをしないということが会社の発展につながるという倫理観というか、そういうものが非常に強くなった時期があったと思いますが、これもやはりシステムでもっと保証しておくべきであったということを感じております。
 厚生省は国民から預託された健康を守る責務とあれがありますから、そういう意味ではこれを保証する責務を担い、そして権限を付与したシステム、私はちょっと細かいことがよくわかりませんけれども、石館会長の英断から見れば、現在の中央薬事審議会にそういう権限と、それから諮問を受けるだけでなくて積極的にこの問題を何とかすべきだという提言権といいますか、もちろんいろいろあり得ることはあり得るんですけれども、そういうものを何かシステムとして保証しておけばこういう問題は起こらなかったんではないかというようなことを強く感じております。
 それで、特に情報の収集ということについては、今コンピューターが発達しておりますから、副作用に関する情報は比較的早く、以前よりもずっと早く我々の耳に達します。ですけれども、やはり日本のシステムは、先ほど高久参考人が言われましたように、アメリカのFDAに比べますと非常に見劣りがする段階です。したがって、現在でもとにかく我々は副作用の情報を知る責務があるんですけれども、これを受けまして、非常に容易にいつでも必要な副作用情報を我々が入手できるというシステムが必要だと思いますが、ぜひシステムを入手していただきたいというふうに思います。
 それから、私が申し上げたいことは、私自身の経験から申し上げて、もしかスモンのときの英断とそれを保証するシステムがあれば今回の薬害は少なくとも何分かは防止されたということを思いますし、またそれをやっておくべきだったということを強く感じておる次第であります。
 終わります。

発言情報

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発言者: 井形昭弘

speaker_id: 19834

日付: 1996-06-03

院: 参議院

会議名: 厚生委員会薬害エイズ問題に関する小委員会