川野秀之の発言 (行財政機構及び行政監察に関する調査会)

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○参考人(川野秀之君) 玉川大学の川野でございます。本日は参議院の調査会の場にお招きいただきまして大変ありがとうございます。大変光栄に存じております。
 それで、本日の課題につきまして私の見解を述べさせていただきたいと思います。私はこの二十五年余りの間オンブズマン制度を中心にして研究を進めてまいりました。基本的なテーマといたしましては、行政の力が非常に強くなっている、実際上の力というものが相対的に上回っているという、いわゆる行政国家化現象の中におきまして、国会の権威を高め、さらには国民のいわばデモクラシー、民主政治についての力を強めるためにはどうすればいいのか、そういうことを考えてきたわけでございます。
 そこで、二十五年前にふとしたことから出会いましたのがスウェーデンにおいてつくられておりましたオンブズマンの制度であったわけでございます。その後二十五年、結構長い月日がたちました。二十五年前からしますと、このようなところに呼ばれて意見を述べるということ自体まず考えられないことであったわけですが、その点におきましても時代の変遷、あるいは政治状況の変化というものが非常に大きかったということをつくづく感じております。
 そこで、私は諸外国におけるオンブズマン制度というものの導入状況といったようなものを研究してまいりました。基本的には外国の制度についていろいろ研究し、その上で我が国においてどうなのかということを考えていこうという姿勢であったわけでございます。
 それで、状況というものがごく最近になって非常に大きく変わったということが言えるかと思います。つまり、過去におきましてこのオンブズマン制度の導入をめぐりまして最初に国会で議論されましたのは、御承知のようにロッキード事件ということでありました。その段階においては、国民はどちらかというと政治家の方にいろいろな意味合いにおいて懸念をお持ちになっていたと考えられます。ところが、最近二、三年の状況を考えてみますと、先ほど小林先生が指摘されましたように、官官接待でありますとか薬害エイズの問題でありますとか、いわば行政の内部にさまざまな問題が存在している。逆に、国民の側からすると、そういったものについて最終的に期待できるのは国会の証人喚問しかないといったようなことを述べられる人もおられるようでございます。
 結局、国民が国の政治に対して信頼性を確保するためには、現在におきましては国会にオンブズマンを置く方が行政部内に置くよりもよろしいのではないか、このように考えを改めるようになった次第でございます。高級公務員の倫理観が厳しく問われるようになりまして、また国民の政治不信というものから行政不信というものまで発展してくるようになったのが現状だと言っていいと思います。
 したがいまして、もう既に十年前あるいは十五年前ぐらいのところでオンブズマン制度を行政部内に導入されたのであるならば話は違っていたかもしれませんが、現状におきまして、必ずしも制度が完全に整備されていないという状況において、政府の側が国民に対して誠意を示すためには、国会にオンブズマンを置くということが一番賢明なあり方なのではないか、このように考えるわけでございます。
 それで、基本的な問題は、これも先ほど指摘芦れた点でございますけれども、現在の行政に対する立法的統制というものは必ずしもシステムが整備されていないというふうに考えられます。つまり、時間の制約というものが大変厳しいということでございまして、質問して答えを受ける、あるいは文書によって検討するということでございますけれども、その内容について、現状においては完全な意味合いにおいて必ずしも国民の期待にこたえることはできないのではないか。そこで、より機能的で実質的な制度を構築することが急務であろうかと思います。
 またもう一点、ここ二年間ぐらいの状況でございますが、全国でいわゆる市民オンブズマンと呼ばれる新しい市民運動が高まってまいりました。これは、各都道府県等の情報公開条例を利用していろいろな成果を上げていらっしゃっております。特に、最近の状況におきましては、監査委員の官官接待の問題等々、いろいろな問題を提起されておられるわけでございます。しかし、このような運動を展開しなければ行政の運営が是正できないということ自体、それが大きな政治問題になってしまったということを意味するのではないかと考えるわけでございます。
 したがいまして、現在の総務庁におきます行政監察制度あるいは行政相談制度さらに行政相談委員の制度、あるいは会計検査院の制度というものが、実はこのオンブズマン論議が高まるにつれまして、かってに比べますとかなり活発に機能すろようになりましたのは事実であり、それはそれとして高く評価できるものでございますが、同時に、それぞれの制度には本来的な限界があることも事実でございまして、それが逆効果になるということもあるのではないか。また、どのような場所におきましても少数の不心得な人々がいることはやむを得ないことでありますけれども、一人の人間が大きなミスを犯すことによりまして信頼はすぐに失われ、逆に、失われた信頼を取り戻すということにはかなり長い時間かかるということもいわば一般的な事実であると思います。
 そこで、その意味からしましても、実は今は一種の非常事態であるのではないか。国会にいたしましても、あるいは行政にいたしましても、いわばかなえの軽重を問われているのではないか。それが明示されていないだけかえって問題は厳しいのではないか。したがいまして、お互いどっちの顔を立てるといったような状況ではなくて、双方が協力し合って難局を切り抜ける方策を検討すべきであると考えられます。
 そこで、一つの問題は、多様な制度を組み合わせることはむだであり、なるべく一元的な制度をつくる方が国政の簡素化に役立つという意見もあるわけでございますけれども、現状におきましては、個別の制度を網羅すると同時に、いわば全体に網をかけるような管轄範囲の広い制度があることが重要ではないかと考えるところでございます。もちろん、制度というものは生きているものでございますから、必要がなくなった制度はその時点で廃止あるいは統合することは当然であります。
 したがいまして、国会にオンブズマンというものを設置し、また総務庁の行政相談制度あるいは行政相談委員制度を強化するということは必ずしも重複ではない同時にそれを行うことによりまして、むしろ救済の網から漏れることのないようにすることの方が重要なのではないか、このように考えられるわけでございます。
 そこで、憲法上の問題点ということが出てくるわけでございますが、実際問題といたしましてどうなのか。基本的に、オンブズマンをつくるということはより民主政治を効果的にするということであり、また人権についてのさまざまな問題をなくするということに役立つというふうに考えられます。つまり、本来からいいますと、日本の憲法の趣旨に沿った制度であるというふうに考えられます。
 一つの問題は、憲法においていろいろなことが規定されているわけでございますが、そのうちの特に人権に関する規定というものが完全に現状において保障されているのかどうか。要するに、条文として決められていましてもそれが実際の効力があるかどうかということでございます。したがって、その効力を保障するためにそれを見守る人間が必要なのではないか、その見守る人間といたしましてオンブズマンというものが重要なのではないか、このように考えているところでございます。
 憲法上可能かということでございますが、その根拠といたしましては憲法第六十二条の国政調査権というものが妥当なのではないかと考えられます。もちろん、国会は国権の最高機関でございますから、その限りにおきまして行政に対する監督権というものも保有しているというふうに考えられます。
 国政調査権の及ぶ範囲というものは、国の行政は当然といたしまして、もちろん若干例外的な事項があるかもしれませんが、地方公共団体の行政、あるいは国会が制定した法律によって設置された法人、いわゆる特殊法人等の運営にまで及ぶと考えられますので、行政部内の監督機関よりもかなり広い範囲をカバーすることができるのではないか、このように思います。
 オンブズマンというのは何なのかということの本質でございますが、これは国会が制定した法律が遵守されること、守られることを確認する機能を持つものである、このように考えます。また、オンブズマンの機能というものは、基本的には証人の証言とか記録の提出といったようなもの以外の強制手段は持たない。したがいまして、犯罪の捜査とか裁判所が持っているような各種の強制手段はございませんし、また与えるべきでもございません。
 したがいまして、この限りにおきまして、行政権に不当に介入するわけではない、このように考えます。要するに、勧告をするあるいは意見を述べるということでございますので、国会が行政に対して勧告をするあるいは意見を述べるということは、基本的に国政調査権の範囲内のものであるというふうに考えられます。
 そこで、具体的にどのような形でつくるべきかということに若干言及させていただきたいと思いますが、ここで私は四つほどの考え方を提示いたしました。どれがいいのかということにつきまして、現時点において必ずしも定まった意見はございませんが、ただ一つ言えることは、今の国会の機能というものを考えてみた場合に、基本的に衆議院と参議院の違いというものが当然に存在する。
 一つは、衆議院は第一院である。それを基本的に証明することは、憲法上は内閣総理大臣は国会議員であるということが規定されているにとどまっているわけでございますが、現実問題としては内閣総理大臣は衆議院議員から選ばれると、こういうふうになっているわけでございますね。衆議院議員から選ばれるということは、これは必ずしも憲法上の要件ではないけれども、現実にはそうであると。ということからしますと、逆に、国会にオンブズマンを持つと規定して、それの実際の仕事を担当するのが参議院であるとしても必ずしもおかしいことではないのではないか。
 理由といたしましては、オンブズマンが仕事をするためにはかなり長期の任期が必要である。したがいまして、途中で解散の可能性のある衆議院よりは、六年間同じ議員の方が基本的に半数はいらっしゃる参議院の方がそういったものを統制するためにより大きな力を持つのではないか、このように考えるわけです。
 それともう一点は、第三者を置くことがもし憲法上に問題があるとするならば、参議院議員の中からオンブズマンといいましょうか、そういった仕事をする人を現実につくり、その方につきましては議長さんあるいは副議長さんといったような方々と同様に、必ずしも同様ではないのかもしれませんが、会派から離脱していただいて無所属という立場で仕事をしていただければ、国民の側からいたしましてもそういったオンブズマン職に対する信頼性というものをより一層高めることができるのではないのか、このように考えるわけでございます。
 そこで、四点をかいつまんで申し上げますと、一つは、実は現在ドイツの連邦議会に請願委員会という委員会がございますが、この委員会は、国際オンブズマン協会という会がございますが、そこでいわゆる立法府型オンブズマンとして今日認められているものでございます。つまり、国民からの請願に対してこたえる、調査すると。これはドイツ連邦共和国の基本法の第四十五条のCという改正でつくられたわけですが、連邦議会は、「連邦議会に提出された請願および苦情申立てを処理する義務を負う請願委員会を設置する。」と、こういったような委員会制度が一つ考えられる。
 これにつきましては、当然現在の国政調査権というものをより効率的に常設の委員会で常時監督するということでございますので、憲法上の問題はないというふうに考えられます。
 それから二点目は、オンブズマンの監督をする委員会を置いて、その附属機関としてオンブズマンをつくる。オンブズマンは権威はあるわけですけれども、制度上は委員会の高級な調査員として国政の調査を行わせ、その結果を委員会に報告して、それを踏まえて委員会で審議し、法律の遵守について問題があるときは国会や内閣に対して勧告するといったような形もとれるのではないか。
 それから三番目には、事務総長と並ぶ役員としてオンブズマンを置くということが可能なのかなという気もいたすわけですが、これは若干法律上詰める点があろうかと思います。
 それから四番目に、先ほど申し上げましたように、議員の中から選任する複数のオンブズマンというものを置くことが可能なのではないか。これは参議院議員の任期と同様に任期六年、もちろん複数という意味は、半数あるいは少数を三年ごとに改選するということになろうかと思いますが、複数のオンブズマンを置くことはいかがかと。
 その理由といたしましては、先ほど申し上げましたように、解散のある衆議院議員では長期間の身分保障ができないということが一点。それから第二点としましては、事実上衆議院議員から内閣総理大臣が選任されるということからいたしますと、それにバランスをとる必要からしまして参議院にオンブズマンを置かれる、参議院議員の中からオンブズマンを選ばれるということをされたとすれば、ある意味で参議院の機能強化にも役立ち、なおかつ国会による行政の監督にも役立つのではないか、このように考えられるわけでございます。
 なお、行政部内にオンブズマンを置くということ、これが絶対的にだめだということではございませんけれども、ただ現実問題として、行政部内に置く場合におきましても行政委員会的なものになるべきだとするところからいたしますと、行政委員会というものをなるべく今設置されないという方針があるとするならば、どちらに置く方が早くできるのかということについては、むしろ国会あるいは参議院に置かれた方がより早い時期につくることができ、その結果国民にとっても満足できることが大きいのではないか。特にそれをいろいろな意味で報道しPRすることによりまして、先ほど小林先生も申されましたような知名度と権威性が得られるのではないか、このように考える次第でございます。
 そういうことで、私の見解といたしましては、国会あるいは参議院にオンブズマンを置くことは、いろいろな方策をとり、もちろん法律は整備しなければいけませんけれども、法律、規則を整備することによって十分可能である、このように考える次第でございます。

発言情報

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発言者: 川野秀之

speaker_id: 1008

日付: 1996-05-23

院: 参議院

会議名: 行財政機構及び行政監察に関する調査会