1997-04-09
衆議院
森本敏
日米安全保障条約の実施に伴う土地使用等に関する特別委員会
森本敏の発言 (日米安全保障条約の実施に伴う土地使用等に関する特別委員会)
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○森本参考人 委員長及び本委員会の委員の皆様、本日、参考人としてこの席にお招きいただきまして、大変光栄です。
私は、御案内いただいているように、過去三十年防衛庁と外務省に勤務をし、主として安全保障の仕事をしてきた者ですが、現在は一私人でございますので、やや今までの自分の経験というものと離れて、今日我が国が直面しているこの深刻な問題について所感を述べてみたいと思います。
今、特別措置法なるものが我が国の政治においてここまで大きな問題になってきている最大のゆえんは、私は、以下申し上げる一点にあると考えています。
それは、冷戦後における同盟の意義というものがよくわからなくなって、この冷戦後における同盟の意義というものについて、政府がまだ国民に率直にかつわかりやすく説明し得ていないというところにあるのではないかと思います。昨年四月の日米共同宣言においても、なお冷戦後の日米同盟の意義づけというものについては不明確である。これが、日米同盟がなくても何となく日本がやっていけるのではないかという錯覚を国民の一部の人が持つに至っており、そのことが今日この沖縄における米軍基地及び米軍基地の安定的使用という問題について国民的コンセンサスが得られていない最大の理由ではないかと考えています。もしこの事態が非常に厳しい冷戦期に起きておればこのような問題にはならなかったのではないかということを考えるときに、日本国家全体の安全と日米安全保障体制のもとで特定の県民の方々が負っている負担あるいは犠牲というものをどのように調和させるかというところに、いわば政策上の基本的な方針というものが存在すると考えています。
さて、このような状況を前提にして、私は、以下二つのことを申し上げてみたいと思います。
第一は、今回御審議いただいている特別措置法改正案というものについての考え方です。
言うまでもなく、我が国がさきの大戦後旧日米安保条約を結んだ際、我が国は独自の自衛力を持っていませんでした。したがって、米国に我が国の国家の安全保障、国家の防衛を一方的に依存するという形になって、旧安保条約のもとで米軍にその施設・区域を提供せざるを得ないという状況になり、そのことが、いわば昭和二十六年に制定された土地収用法を駐留軍用地に適用するという形で、昭和二十七年のいわゆる特別措置法が制定されたということであります。この当時の状態として、これはベストの選択であり、やむを得なかったと思います。
もちろん、この時期にこの特別措置法が沖縄における駐留軍用地に適用されたということではありません。この時点では、まだ本土における基地がこの特別措置法の適用の対象であったということは明らかであります。昭和四十七年、沖縄の本土復帰に伴って、当時防衛施設庁の方々が大変な努力をされて、沖縄における駐留軍用地をこの特別法に適用させるための手続について御努力になったわけですが、当時の状況はまさに、いろいろなところに明らかになっているように、戦争時における公図の焼失その他で境界や位置が不明確であるということから必要な準備が整わず、結局のところ公用地法という法律を適用することによって、昭和四十七年から十年間の準備期間を置いて、ようやく昭和五十七年になって沖縄における駐留軍用地が今日我々が知っているいわゆる特別措置法の適用になったということであります。
その間、旧安保条約から新安保条約に改定になったわけでありますが、考えてみますと、現在の特別措置法というものは、いわば国家の安全保障の用に供する駐留軍用地、あえて言えば、さらには我が国の自衛隊の施設といった著しく公益の用に供する土地等を米軍あるいは自衛隊に提供するに必要な法律の枠組みとして、この特別措置法を適用する際、昭和二十六年に決めた土地収用法をすべて適用するということにそもそも無理があったのではないかと考えます。
土地収用法というのは、法律の立て方からいえば、もちろん、特定の土地等を国及び公の用に供する際、国が使用もしくはおさめて用いるというためにつくった法律でありまして、これがある特定の県に、あるいはある特定の市町村にあるとはいえ、その軍用地あるいは防衛に関する施設は国全体の防衛の用に供しているわけです。したがって、ある特定の県の特性や県民の意見というものを反映させることはもちろん必要ではありますが、たまたまその基地がその場にあったというだけのことでありまして、いわば県の防衛の用に供しているということではありません。したがって、これらの土地あるいは建物等が、いわば国家全体の安全保障や防衛の用に供するという性格を持っているそのような土地を、土地収用法をすべて適用するという現在の特別措置法のあり方そのものに今申し上げたように無理があり、そのことが今日特別措置法の改正をここまで深刻な問題にさせてきたのではないかと考えます。
後で振り返れば、私は、旧安保条約を新安保条約にかえたときに、駐留軍用地とそれからその後つくられた自衛隊の施設をこの土地収用法の適用から外して、別の法体系をつくって、県の収用委員会ではなく、政府が国家全体の見地から土地の使用権原を取得できるという方法をとることが最も望ましかったのではないかと思いますが、しかしながら、六〇年安保前後の日本の国内政治はそれを許すことが結局できずに、今日に至っているということなのではないかと思います。
今回、この特別措置法の改正については、私は二つの問題があると考えています。
第一は、多くの方々の御指摘のように、いわば県の収用委員会の裁決に日本の国家の安全保障を依存するという形の法体系であるということはやや合理的でない面があり、しかも、県収用委員会の裁決が、多くの先生方が御指摘になっておられるように、極端に裁決期間が短いと、この特別措置法に基づく手続が短い期間に何度も繰り返されるということになり、このことは、基地の長期的な安定的使用あるいは安定的供給という原則にはなかなか合致しない面がある。これはむしろ、特別措置法の改正に問題があるというのではなく、根っこの現在の特別措置法そのものの構造に問題があると言ってもいいのではないかと思います。
さらに言えば、現在の特別措置法に基づく手続には、御案内のように、裁決申請書の作成あるいはその署名、押印及び裁決申請書の公告縦覧等の手続において、土地の所有者がその手続を拒否した場合、そして市町村長がなおこれを拒否した場合、最後に県知事が権限を振るうことができるようになっているわけですが、県知事が公の目的という観点からこのような署名、押印あるいは公告縦覧を拒否するということは、この法律をつくった時点では恐らく考えに入れていなかったのではないかと思います。したがって、現在の特別措置法そのものにはそのための救済措置が必ずしも十分にとられていないということも、今日我々が改正案をつくる際、もともと根っこの特別措置法が持っておる根本的な原因となっているのではないかと思います。
いずれにせよ、私が申し上げたい点は、特別措置法のあるべき姿とは、政府が国家の安全保障という見地から基地や施設の使用権原を取得できるようにする必要があり、そのためには、米軍のいわゆる軍用地のみならず、自衛隊の施設を含むあらゆる防衛施設の使用権原に関して、土地収用法に基づく収用委員会ではなく、国家の立場に立って処理できるようにするということを含め、現在の特別措置法の問題を根本的に見直して、これを是正するための措置を速やかにとるという必要がありましょう。
しかしながら、この措置は、相当に時間がかかり、また困難な政治的手順を踏むという必要があることから、当面、使用権原が切れる当該十三の基地と施設については、引き続きこれらの基地、施設の使用権原を延長することが日米安保条約の空白をつくらないという観点から不可欠であり、したがって、私が今申し上げたような措置がとられるまでの間、これらの基地、施設の暫定使用を認定するよう特別措置法を改正する現在の改正法案を通過させるということは、日米同盟という観点からも、そして我が国が基地を米軍のために安定的に使用させるという観点からも不可欠な措置であると私は考えます。
以上が特別措置法についての私の考え方です。
本来はこれで私の御説明を終わろうと思っていたのですが、今、田久保先生より、私が累次今まで展開している海兵隊撤退論についての非常に厳しい御批判の御意見もありましたので、このことについて、いささか弁解がましいのですが、私の考え方を一言だけ述べてみたいと思います。
現在の日本を取り巻く安全保障状況というものを考えてみれば、この厳しい北東アジア情勢の状況及び今後の推移にかんがみ、現時点で在日米軍のプレゼンスについて変更、修正を考えるべきではないことについては、全く私も同意です。
この点については、この数カ月の間、アメリカ側に非常に深刻な不信感を持たれるような状況になったことは、むしろ、この特別措置法の改正の審議とは別に、日本にとっての最も深刻な問題であると考えます。その意味において、来る日米首脳会談において、我が総理より、今若干傷ついた日米関係を健全なものに修復していただくような努力をしていただくということは、日本にとって非常に重要なことであろうと思います。
しかしながら、この特別措置法というものを通過させることによって米軍に基地を安定的に使用させるということと、それから海兵隊を含む在日米軍の兵力構成をどう考えるかということとは本来別の次元の問題でありまして、私は、むしろ、現在日米の両国政府で努力している日米防衛協力のガイドラインの見直しという作業を通じて日米同盟を強化する、このガイドラインというものと、それから特別措置法に基づく基地の安定的な供給という問題とをリンクするということが本来あるべき姿であろうと思います。
しかしながら、安全保障とは、そのときに置かれた安全保障上の環境に応じて最善の政策を立案するということが安全保障の基本でありまして、したがって、現在のように沖縄に米軍の基地の大半が集中するという事態を長期的に解決していく道を模索するということは、これは必要であろうと思います。
そのためには、北東アジアの情勢の変化に応じてこの在日米軍の兵力構成について柔軟に対応すべく日米で率直に協議を行うということはぜひとも必要であると思います。一部の方々に、現在行っているガイドラインの見直しの作業がすべて終わらないとこのような兵力構成について日米協議をするべきでないとの意見がありますが、私は、ガイドラインの作業というのはあくまで、我が国に駐留する米軍とそれから本土その他の地域から来援する米軍とが行う作戦と日本がどのような防衛協力を進めるかということを具体的にかつ現実の問題として協議するというのがガイドライン見直しの作業であるとすれば、このガイドライン見直しの作業とそれから兵力構成の協議を同時並行で進められると考えております。
他方、先ほどから申し上げましたように、沖縄を含む我が国に駐留する海兵隊は、半島有事の際極めて重要な役割を果たすということは明々白々でありまして、したがって、朝鮮半島事態が解決されるまでの間、海兵隊の駐留はぜひとも維持する必要があると思いますが、それ以降については、南北統一後の北東アジア情勢というものがどのようになるのか、いかなるプロセスを経て、いかなる性格の統一国ができるのか、そのときの北東アジア情勢がどのようなことになり、在韓米軍や在日米軍がどういう性格を持つのかということを念頭に置きつつ、日米で協議するということが必要であると考えます。ただし、沖縄の方々の負担を軽減するということであれば、現在、沖縄において海兵隊が行っている訓練の一部をどこかの地域に持っていくということは、日米で真剣に検討する必要があるとも考えています。
そういった、いわゆる海兵隊というものの存在が今我が国が直面する国家の安全保障にとって不可欠であるということは、それはそれとして、未来永久に海兵隊が要るなどという考え方に立って我が国の安全保障を考えるべきでないと考えます。あくまで安全保障とは、そのとき置かれた環境というものに応じて最良の政策を選択していくということでありまして、したがって、状況の推移というものを見ながら在日米軍の兵力構成を常に考えていくということが、これから我が国に問われている非常に重要な課題であると考えます。
いずれにせよ、私の結論は、在沖縄の米軍基地の安定的使用を維持して、日米安保体制の信頼性を確保し、今やや傷ついている日米同盟関係を修復して、沖縄の問題を解決しつつ我が国の安全保障を確保する。これをいかに進めていくかという観点から、今回御審議いただいている特別措置法を速やかに改正の手続を踏み、安定的に基地を使用するために最善の努力をする、これが我が国が今日置かれている一番重要な政策課題ではないかと考えます。
以上で私の説明を終わります。ありがとうございました。(拍手)