浅倉むつ子の発言 (労働委員会)

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○参考人(浅倉むつ子君) 東京都立大学の浅倉と申します。
 本日は、参考人として意見を述べる機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、労働法を専攻する者として、特に男女雇用平等をめぐる日本及び欧米の法律問題に関心を持って研究を続けてきた者としての立場から、本日、意見を述べさせていただきたいと思います。
 均等法は、一九八五年に制定されて以来、社会的に与えた影響ははかり知れないものがあるとは言えますが、しかし、強固かつ頑迷な男女差別に対処するには余りにも脆弱な仕組みしか持たない法律であります。そのために、制定当時期待されました行政的な男女差別救済法としての意味は極めて縮減されてしまったと私は思っております。
 その基本的な要因は、取りまとめてみますと、この法が勤労婦人福祉法の改正としての性格を有しているために片面的な効力しか持たないと解釈されてきましたことです。それから、募集、採用、配置、昇進という雇用ステージにおける最も肝心な行為に対する規制が努力義務であったことであります。そして第三に、紛争解決機能としての調停委員会がほとんど機能しない仕組みであったことの三点に絞られると思います。
 このような均等法を諸外国の法律に比較して遜色のない実効性のある立法に改正したいという希望を託しまして、私もこれまでに何回か論文を書くことによって提言し続けてまいりました。それに比較しますと、本日の均等法改正案はいまだ不十分と言わざるを得ないものであります。しかしながら、さきに述べました基本的な不備を是正する幾つかの改正点は今回の法案にも盛り込まれておりまして、私としてはこれらを積極的に評価することにはやぶさかではございません。
 この段階で改正案の枠組みを大きく変更することは望むべくもないと思うのですけれども、本日は、現段階でもなお改善可能な幾つかの提案を申し上げたいと思います。
 まず第一に、雇用の全ステージにおいて女性差別が禁止され、本法が福祉法としての性格を払拭した暁には、何が差別かについての従来の指針や解釈通達を全面的に改定されるように要望いたします。
 女子のみ募集、採用が許されなくなるということは既に明確にされておりますけれども、加えて、妊娠、出産を理由とする差別が均等法違反であるということ、募集・採用区分ごとの男女比較を前提とした男女差別概念にとらわれるべきでないということ、それから対価型のセクシュアルハラスメントを通じて女性のみが不利益をこうむる場合には五条から八条違反の可能性もあるということを指針によって明確にすべきだと考えます。
 第二に、調停委員会の開始要件が緩和されたこと、労働省が婦人少年室長の調停開始に関する裁量権を限定する方向を示されているということは評価したいと思います。
 しかしながら、現在の解釈通達が、調停とは法律に抵触するか否か等を判定するものではなく現実的な解決を図るのだと述べて、現に調停委員会が何が差別かについて判断を回避している実情には私は不満を持っております。調停委員会は、調停打ち切りの場合でも専門的な委員会として何が差別であるかの見解を公表すべきであります。東京都の苦情処理委員会は見解を公表しておりまして、たとえ調停が不調であっても委員会の価値を有意義なものとしていると私は考えます。
 第三に、二十六条による労働大臣の公表制度の創設は意味があるものと評価いたしますが、二十五条の勧告に従わない場合に限定されているということは、これが活用されないのではないかという懸念が残ります。
 第四に、ポジティブアクションに関する二十条の規定は、男女差別を禁止してもなお残っていく事実上の男女格差を解消するための措置として高く評価したいと思います。
 私としては、少なくとも百人以上程度の規模の企業に対しては、企業内部の雇用状況分析を公的な機関に提出するように義務づける措置が設けられるように希望いたします。自発的な企業活動の枠組みは、既に本年三月の労働省の研究会のガイドラインによって示されておりますので、行政がこれを社会に広く周知徹底しまして、企業がポジティブアクションを導入するように積極的に指導されることを強く要望したいと考えます。
 さて、労働基準法における女子保護規定の撤廃部分は、多くの働く女性にとって最大の関心事となっております。私自身は、理論的な筋道として、雇用平等原則に照らして母性保護規定以外の労働条件は男女平等のものであるべきだと考えております。なぜならば、女性は決して身体的、精神的に弱い性ではなく、また家庭責任は男女平等に担うべきだと考えるからです。
 しかし、理論上はそうであっても、現段階で女子保護規定撤廃に無条件に賛成することはできません。なぜならば、日本の労働条件基準が実態としていまだ相当の低水準にあり、しかも同じ共働き夫婦であっても男女の家事労働時間が一対六もの差があるというジェンダー格差の現実を無視することはできないからであります。現実の男性の働き方に女性を合わせることは到底不可能であり、もし女子保護規定を撤廃するならば、それにかわる男女共通のより質の高い労働条件基準が確保されることが不可欠であると考えます。
 必要な男女共通の労働条件基準としましては、深夜業従事者に対する法的な基準の設定、そして時間外労働に関する法的な基準の設定であります。
 まず、深夜業についてですが、本来、生体リズムに反する働き方であることから、深夜の業務そのものの制限が必要であり、加えて深夜業従事者に対する夜勤の頻度の制限、夜勤時間の上限制限等々の設定が必要と考えます。
 なお、一九八五年の労基法研究会の労働時間部会最終報告は、深夜業は画一的な規制にそぐわないと述べまして、国際的に見ても男女労働者の夜業に関するILO基準は存在しないとしておりましたが、この状況は変化しております。一九九〇年に男女労働者に対する夜業条約であるILO百七十一号条約が成立したからですし、諸外国でも、例えばドイツでは男女共通の深夜労働に対する基準が成立しております。
 第二に、時間外労働に関する法的な基準につきましては、本来、時間外・休日労働が臨時的なものであるということを前提とすべきであり、三六協定のみによる規制では不十分だと考えます。
 新たな立法上の基準設定の方法は幾つか考えられます。端的に残業拒否権を法制化するという方法、立法の中に時間外労働の上限規制を導入するというやり方、三六協定に対する目安時間の根拠規定を設けるやり方、割り増し賃金の引き上げと算定基礎の見直しなどの方法が考えられます。
 私としては、時間外労働の上限規制か、もしくは三六協定に対する目安時間の根拠規定を設けるかという方法が現実的で効果的ではないかと思っております。
 さらに、一般の男女労働者に対する共通の労働条件基準とは別に、家族的責任を持つ労働者に対する時間外労働と深夜労働を免除する規定を導入するということは極めて重要であると考えます。
 法案では、深夜業に関する免除規定が新設されることになっておりますが、この中に、時間外労働、休日労働の免除規定をも含むこと、適用から除外される労働者の範囲をもっと狭めること、昼間の労働への転換請求権として規定するということを要望いたします。
 最後に、例えば時間外労働、深夜労働について男女に共通の保護規定ができたとしても、それが現行の女子保護規定のレベルを何がしか割り込むということは十分に予測されるところであります。それだけに、最も法改正の影響を受けやすい家族的責任を持つ女性労働者に対して段階的に保護規定の組みかえをしていくということも緊急避難的な移行措置としてはあり得るのではないかと思います。
 いずれにしましても、今回の法改正はあくまでも男女雇用平等を実現するという目的に立った法改正であります。したがいまして、この法改正によって女性労働者自身が、どのような形であるにせよ不利益をこうむるということは決して許されないことであります。法改正においても不利益を回避するための手だてを組み込み、さらに法解釈や行政解釈を駆使しつつ、二重、三重にも女性がこの法改正によっていわれなき不利益をこうむることがないよう最善を尽くされますように、最後に強く要望させていただきまして、私の意見としたいと思います。

発言情報

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発言者: 浅倉むつ子

speaker_id: 32140

日付: 1997-06-03

院: 参議院

会議名: 労働委員会