坂本福子の発言 (労働委員会)

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○参考人(坂本福子君) 弁護士の坂本でございます。
 本日は、本法案に対して意見を申し述べる機会が参考人としてありまして、そのことについて感謝いたします。
 私は、弁護士になって三十六年間、女性差別是正の裁判に一貫してかかわってまいりました。その一人の弁護士として、本法案に対し現場からの意見を述べたいと存じます。
 本法案の最大の問題点は、労働基準法の女子保護規定の削除にあると思います。現在、男性については協定を結べば何時間でも残業させることができ、深夜働くことも余儀なくされております。こうした中で長時間労働が野放しに広がり、そして過労死が多発しております。本法案が通れば同じような働きが女性にも強いられることになります。
 労働時間は命と健康の問題です。このことは、本日お手元に配付させていただきました政府関係の資料によっても明らかです。この資料は、七八年の十一月、労働大臣の私的諮問機関である労働基準法研究会第二小委員会が婦人労働の法制の課題と展望という報告を発表しました。その委員会が委嘱した医学、生理学、労働衛生学、心理学等の専門委員報告です。本報告では、多くの資料を引きながら、労働時間については残業を含む長時間労働の持つ問題点ということを指摘しております。そしてまた、深夜労働についても、深夜は女性のみならず男性にとっても社会生活上の不便を来すものだ、労働者の健康を害するということが述べられております。詳しくは資料をお読みいただければと存じます。
 本資料はある意味では古いと言われるかもしれません。しかし、基本的には人間の身体構造は変わるものではありません。しかも、労働密度は、人減らし、合理化の中で当時より現在の方がより厳しくなっていると思います。本委員会の審議、これは二月二十五日でございますが、太田労働省婦人局長は、要するに母性保護に係る専門家会議報告書、これをお引きになりまして、女子保護規定の解消について「妊産婦以外の女性の妊娠・出産機能に影響があるという医学的知見は見当たらない」とされているというふうに答弁しております。
 しかし、この知見の根拠は具体的に何一つ明らかにされておりません。配付した資料の専門委員報告によるような多くの資料に基づく科学的データは一切ありません。つまり、政府は具体的に長時間労働や深夜労働が労働者の健康にいかに害を及ぼすかということを調査していないのです。しかも、太田婦人局長の引用された報告書の中でも、はっきりとそのまま読ませていただきますと、時間外労働や休日労働が長時間に及ぶ場合、及び深夜労働は、労働者の疲労蓄積を媒介として、疾病、災害、能力低下と関連するだけでなく、健全な労働者生活の維持を図る上でも問題が多く、労働者に対して何らかの生理的影響があるとされているというふうに書かれております。長時間労働や深夜労働が労働者の健康にとって有害であることは医学的にも証明されているのです。
 その上、女性には家庭責任の負担がかかっているのが現状です。総務庁の統計によっても、就業が三十五時間以上の妻と夫、この場合に平日の家事労働時間の一日に費やす時間について、妻は三時間十一分、ところが夫はわずか十三分にすぎません。このことは男性の意識のおくれと言われるかもしれません。しかし、それはむしろ男性が深夜、長時間労働に追いまくられていること、これも大きな原因になっていると思います。
 我が国も批准したILOの家族的責任を持つ男女労働者の平等に関する条約百五十六号、そして同時に採択された勧告百六十五号では、男女ともに家庭責任を全うするには一日の労働時間及び残業時間の短縮という規定を具体的に定めています。男女ともに平等に働き、子供とともに人間らしい家庭生活を実現するために、今必要なのは男女平等の労働時間の規制をすること。具体的には、例えば残業については男女ともに年間百五十時間、あるいは公共上、公益上必要な事業を除いては深夜労働については原則禁止というようなことです。
 第三に、こうした男女共通の規制をしないで女子保護規定を撤廃するということは世界の流れにも反することです。政府は、諸外国では女子保護規定は解消されていると言っております。しかし、これはむしろ事実を偽っています。世界の多くの国では男女共通の規制がなされています。例えば、ドイツでは六カ月を通じて平均一日八時間労働である限り一日十時間までという規制になっております。
 本日お配りした資料で示されているように、ILOが昨年発表した世界各国の資料、これによりますと、百五十一カ国中実に九十六カ国で一日についての最長の労働時間が規制されております。その九十六カ国のうち、残業時間二時間という国が四十カ国と最も多くなっております。
 男女共通の規制がなくして女子保護規定が撤廃されたら、多くの女性はそういう中で正規労働者として働き続けられなくなると思います。
 私は、世界の日立と言われるあの大企業日立での女性に対する差別是正の裁判に取りかかっております。日立ては、四直二交代といって一日二交代の仕事に男性は組み込まれております。このシフトは、昼勤が朝八時半から夜の二十時四十分まで、夜勤が二十時三十分から朝八時四十分までです。このほかに日立ては三交代勤務や変則勤務もあります。もし女子保護規定がなくなったら、女性も当然このシフトに組み込まれることになります。原告たちは全員子持ちです。差別是正の前に働き続けることができない危機に直面することになります。
 もちろん、同じように多くの女性は正規労働者として働き続けることはできず、結局は退職して賃金の安いパートなどの不安定雇用とならざるを得ないのです。また、新たに就職しようという女性が深夜労働や長時間残業を望まなければ、不採用ということになってその入り口を閉ざされます。女性の職域拡大には決してつながりません。女子保護規定の撤廃は余りにも無謀だと思います。
 ここで、この女子保護規定撤廃とともに、同一法案として提出されている均等法について一言述べさせていただきます。
 この女子保護規定撤廃については均等法の改正が重要であり、それとの関係で撤廃やむなしとの意見もあります。しかし、均等法改正の内容は余りにも不備なものです。確かに配置、昇進等については禁止規定になりました。しかし、例えば転勤を理由に男性を基幹職、女性を補助職というように振り分ける、表面上男女が平等に見えても結果的には女性を差別するようないわゆる間接差別、この禁止については何ら触れられておりません。今職場ではこのような隠れみのを着た差別が多くなっております。そして差別是正を求めるには裁判以外にないのです。なぜならば、救済機関の不備です。
 本法案の救済措置は、女性少年室長の助言、指導、勧告にとどまっており、強制力ある救済規定は皆無です。また、勧告に違反しても単に企業名を公表することができるということだけであって、違反した使用者には罰則等を含む何らの制裁措置もついておりません。これでは差別是正には役立ちません。
 私は、弁護団の一人として、昨年十一月、女性に対する昇進昇格差別是正を争った芝信用金庫の事件で、女性たちを男性並みの資格まで引き上げ、男性と同じ賃金を支払えとの判決をかち取りました。でも、この裁判は一審まで実に九年半です。この裁判中に、判決を前にして原告の一人は定年で退職せざるを得ませんでした。そして、今高裁で争われ、最終確定まであと何年かかるんでしょうか。
 差別に苦しむ労働者とともに、こんな差別是正を一刻でも早く是正できる機関があったら、それを定めた法律があったらと長い間私は弁護士として思い続けてまいりました。しかし、そのささやかな願いすら満たしていない法律案なんです。こんな法律と引きかえに女子保護規定を撤廃するということは、余りにも道理に反すると思うんです。
 本国会でも、男女共通の規制がない限り女子保護規定を撤廃することについて憂慮されている議員の方々の意見も聞いております。しかし、現在、政府も財界も男女共通規制の立法をしようとしておりません。そうである以上、女子保護規定の撤廃をすべきではないと存じます。少なくとも、本法案の労基法改定にかかわる女子保護規定の削除部分は、男女共通の規制がない限り削除されるべきです。良識の府と言われております本院において、多くの国民の声に耳を傾け、そして男女共通の規制ができるまでは決して女子保護規定の撤廃はしないよう、慎重な審議を望みます。

発言情報

speech_id: 114015289X01519970603_010

発言者: 坂本福子

speaker_id: 18806

日付: 1997-06-03

院: 参議院

会議名: 労働委員会