二宮厚美の発言 (財政構造改革の推進等に関する特別委員会)

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○二宮参考人 神戸大学の二宮でございます。
 時間の関係がありますので、財政構造改革法案の問題点、これは多面的に議論しなければいけないと思いますが、差し当たり、私は、国民生活の視点に絞って、以下二つに分けてお話を申し上げたいと思います。
 その一つは、法案の全体の形式と申しますか、法案の言葉を使って申し上げますと、全体の構造にかかわる問題点、それからいま一つは、国民生活の視点から見て特に重要と思われる個別的な論点、この二つに分けてそれぞれ三点、問題点を指摘したいと思います。
 まず、法案の全体構造にかかわる問題点の第一でありますけれども、今回の法案というのは、よく読んでみますと、その内容に即して言えば、これは財政再建のための方策ないし赤字財政からの脱却の手だてというのを並べたもので、厳密に言いますと、財政の構造全体を見直すといった性格のものではないというのが第一印象であります。
 ちなみに、私、広辞苑で調べてまいりましたけれども、構造というのは、その辞書によりますと、諸要素の相互依存ないし対立、矛盾の関係の総称、こういうぐあいに説明をされておりますけれども、これを財政に当てはめて構造改革ということを考える場合には、国家財政全体を構成する諸要素、その相互依存だとか対立、矛盾の仕組みを変えるものでなければならない。
 例えば、日本の国家財政につきましては、今の佐高参考人の発言にもございましたように、土建国家であるとかあるいは公共事業優先型とか中央集権型とか、こういうような特徴づけがなされましたし、企業本位か国民本位かといった選択問題とか、また、古典的な命題になりますけれども、バターか大砲かといった選択問題もあったわけであります。これらの特徴づけだとか選択問題に照らして旧来の構造を新しく切りかえるということであれば構造改革の名にふさわしいかと思いますけれども、必ずしもそういうことになっていなくて、構造そのものはそのままにしておいて、いわば守旧型の財政再建策になっている、これが第一の印象であります。例えば、後でも触れますけれども、公共事業優先型というのは基本的に変えられようとしておりません。ですから、これらを全体として見直すということが必要なのではないか、これが第一です。
 第二番目は、新聞報道によりますと、この法案の国会審議でもしばしば問題にされてきたと思いますが、今回の法案は、中期にわたって予算の枠組みだとかあるいは性格というものを拘束するために、憲法だとか財政法に基づくいわゆる予算の単年度主義、それから国会の予算審議権、こういうものから逸脱しているのではないか、これが第二番目の印象です。
 また、第三十五条を読みますと、自治体に対する国庫負担金だとか補助金について、各省庁ごとの合算額を約一割、集中期間、すなわち今後三年間にわたって削減するように義務づけております。補助金などの一括削減というのは、八〇年代の半ば、十年ほど前でありますけれども、このときにも問題になったことでありますが、国庫負担金だとか補助金というのは、一つ一つ、予算補助であれば予算の性格、それから個別法に基づいて審議すべきことで、これを上から一括削減の方向を出すというのは、やはり、補助金などのおよそ三分の二が社会保障や文教関係の予算で占められておりますから、国民生活から見て非常に大きな影響、ダメージを中期にわたって及ぼすというふうに思います。また、こういう動きは、他方で自治体に対する分権化策というのが打ち出されておりますけれども、その分権の精神に照らしてみてもおかしいのではないか。
 その上に、第三番目に、今回の法案といいますのは、社会保障や自治体財政に対しては今述べましたように冷たい一方で、財政再建策としても抜け穴を持っています。これは、例えば、防衛費の抑制からいわゆるSACOの部分の除外を含んでいるとか、あるいは公共事業関係の予算につきましても、よく知られておりますように、総額を圧縮するのではなくて計画期間の延長だけで済ませようとしている。これは総額は確保されるということでありますから、先ほど述べましたように、構造改革に当たらないのではないか、こういうことが全体にかかわる問題点だと思います。
 さて、次に、法案の内容にかかわる個別的な論点につきまして、これも同じように三点指摘したいと思います。
 まず第一番目は、財政再建に絞りましても、今回の財政危機の克服課題が、よく知られておりますように、何よりも赤字国債の依存からの脱却、ここに求められている。もちろん、赤字国債ゼロという目標それ自体が悪いというわけではありませんけれども、問題なのは、国の発行する赤字国債と、それから例の公共事業と結びついた建設国債との二つの国債のうち、ただ赤字国債だけを問題にして建設国債の発行については口を閉ざす。こういうことになりますと、国債のうち赤字国債は主に教育や社会保障や司法など、一連の経常的な一般歳出の経費に充てられておりますから、建設国債とは公共事業を担保にして発行されておりますから、この二つの国債のうち赤字国債だけを問題視することは、建設国債に関して口をつぐんだまま公共事業はどちらかといえば棚上げ、それから赤字国債の発行とリンクした教育や福祉などの関連予算を中心にして財政削減策が図られる。
 すなわち、赤字国債からの脱却というのは、事実上教育だとか社会保障の予算の見直し、この分野に集中してあらわれる、こういう構造を持っているということですね。そういう意味で、国民生活上この歳出削減の標的が社会保障に集中しがちだ、公共事業の見直しなどはどちらかといえば腰砕けに終わっておる、こういう印象が強いということですね。
 実際に法案を読んでみますと、財政構造改革のプランでは、道路や空港建設などの公共事業関係の長期計画は、財政規模を絶対的に削減するというのではなくて、予算総額は変えないままその計画期間だけを延長する、こういうことにとどまっておりますし、しかも、物流効率化の名前でもって、道路それから港湾、空港などの重点施策については別枠予算で確保する、こういう政策がとられようとしています。このことは、要するに、赤字国債からの脱却という名前でもって、主に教育、福祉、医療などの国民生活関連分野に集中的な見直しが進行する。だから、事実上旧来型の財政構造の上でスクラップアンドビルドが進行する、こういうことになるのではないかということ、これが第一番目であります。
 それから第二番目は、赤字国債からの脱却というのを最優先にいたしますと、しかも短期集中型の財政再建策を進行させようといたしますと、いわゆる財政支出の自然増部分にも容赦なくこれが降りかかってきます。財政支出の量的な抑制、削減というのが、社会保障を中心にした資金の量の削減だけではなくて、自然増を抑制するということになりますと、医療だとか社会保障の構造だとか質にかかわる変化を呼び起こす、これが見逃せない第二の問題点だと思います。
 いわば、資金の量的な抑制に基づく社会制度の質的な変化、こういうことが、特に高齢化の進行などを背景にして自然増加部分を多く抱える社会保障や福祉の領域、特に来年度以降は医療の分野において最も鋭くあらわれております。九月一日からの医療制度の改革によりまして既に深刻な影響があらわれておりますけれども、医療が、一種の財政的な兵糧攻めというふうに言ったらいいかと思いますが、そういう効果のもとにさらされようとしている、こういうことになります。ですから、昔から医は仁術というふうに言われてきましたけれども、このままいきますと、医は算術というふうに言わなければならないような事態が生み出されようとしている。
 実際に、今回の法案に描かれた社会保障関係の予算の姿を見てみますと、来年度予算では、よく知られておりますように、社会保障の自然増部分が約八千五百億円、そのうち三千億円の増加枠しかこの法案では認められないということになっておりますから、結果としておよそ五千五百億円の財政圧縮が予定されております。政府の説明によりますと、そのうち四千二百億円は医療関係の予算の削減で賄う、こういうふうにされておりますから、今回の法案は医療に対する、いわゆるカットマシンという言葉がありますけれども、そういう性格が強いというふうに言わなければいけない、こういうふうに思います。
 しかも、その上に、再来年度以降も社会保障の予算は二%の伸びにとどめる、こういうふうにされております。社会保障の予算に二%を掛けますと、事実上、将来三年間、毎年三千億円しかその増加が認められない、こういうことになりますから、これは比喩を使って申し上げますと、成長盛りの子供の背丈を小さくなった衣服に合わせて切り縮める、あるいは、よく知られている例のプロクルステスの寝台、こういった話に通じるのではないか、こういうことであります。
 最後に、第三点目の問題点として、法案の前段の方に書かれてありますけれども、財政改革の法案が、第六条におきまして、財政赤字を含む国民負担率を五〇%以下に抑える、こういうふうにしてあります。これは財政の赤字ということを考える場合に重要な視点ではあろうかと思いますけれども、国民負担率は、社会保障を抑制する際の方便といいますか、一種の切り札として従来からしばしば持ち出されてまいりました。今回も同じでありまして、財政構造改革会議の文章を読んでみますと、こういうふうに書かれてあります。「高齢化のピーク時においても財政構造改革五原則における国民負担率の目標に沿って、安定的に運営出来る社会保障制度を構築する」。だから、社会保障制度が事実上ターゲットになっているということですね。
 そういう意味で、再び強調することになりますけれども、国民負担率を振りかざして社会保障に中長期的にしわ寄せをするということは、今回の財政構造改革法案の国民生活から見た最大の問題点として見逃せないということを申し上げまして、私の意見にしたいと思います。(拍手)

発言情報

speech_id: 114104375X01119971030_008

発言者: 二宮厚美

speaker_id: 33046

日付: 1997-10-30

院: 衆議院

会議名: 財政構造改革の推進等に関する特別委員会