橋本龍太郎の発言 (外交・防衛委員会)
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○国務大臣(橋本龍太郎君) 本日、参議院外交・防衛委員会が開催されるに当たり、先般のインド、パキスタン両国の核実験実施を受けた政府の基本的姿勢に関し所見を申し上げます。
我が国は、第二次大戦後、平和国家として歩み続けることを決意し、みずからは非核三原則、武器輸出三原則を初めとして世界に例がないほど徹底した平和的外交政策を追求するとともに、国際的な軍備管理・軍縮、核不拡散の推進に向けてさまざまな努力を積み重ねてまいりました。その一環として、特に核軍縮・不拡散の分野では、近年の核拡散防止条約の無期限延長、包括的核実験禁止条約の採択に際しても積極的な外交努力を行いました。これは、我が国が世界で唯一の被爆国であり、核の悲惨さをだれよりも強く認識していることに加え、核軍縮・不拡散の推進が世界の平和と安定のために望ましいものであるとの考えに基づくものであります。
先般のインド及びパキスタンによる核実験の実施は、みずから非核三原則を維持し、また国際的な核軍縮・不拡散を推進してきた我が国としては全く容認できないものであり、また、核兵器のない世界を目指す国際社会の努力に逆行する極めて遺憾な行為であります。両国による核実験は、国際的な核不拡散体制に対する挑戦であると同時に、南アジアを中心とした地域的な平和と安定を損ない得るという重大な影響を持つものであり、国際社会が一致してこの暴挙に厳格かつ的確に対処する必要があります。
我が国としては、これまで両国に厳しく抗議し、また経済協力面を中心に厳しい措置をとったところですが、引き続き核不拡散体制の堅持、強化及び南アジアを中心とした地域の平和と安定の維持のために積極的な役割を果たしていく所存です。
本日は、この外交・防衛委員会の場をおかりし、本件に関する我が国の基本姿勢を御説明し、あわせて委員各位の御理解と御支持を得たくお願い申し上げます。
まず、国際的な核不拡散体制の堅持、強化に向けた姿勢であります。
これについては、第一に、国際社会が一致してインド、パキスタン両国に対し核不拡散に向けた強い働きかけを継続すること、第二に、国際的な核不拡散体制の堅持、強化に向けて国際社会の努力を結集していくことという二つの視点が必要であります。
第一の核不拡散に向けたインド、パキスタン両国への働きかけという視点からは、国際社会が一致して両国の今回の行為を非難しつつ、両国に対して核実験の停止、核兵器及びその運搬手段たるミサイルの開発、配備の停止を求めること、並びにNPT及びCTBTの無条件の締結を求めることが必要です。それとともに、両国に対しカットオフ条約交渉への参加を求めていくことが重要です。
第二の国際的な核不拡散体制の堅持、強化という視点からは、国際社会が一致して核拡散の防止に取り組み、NPT及びCTBTを中心とした現行の核不拡散体制を支えていくことが重要であります。私が参加したバーミンガム・サミット、また、累次にわたる国連安保理での議論及び決議や先日の国連安保理常任理事国外相会合においても、現行の体制を堅持していくことの必要性が確記されております。現行の核不拡散体制は平和で安全な世界の実現に向けた戦後の国際社会の努力が結集されたものであります。世界の大多数の諸国の参加を得ているこの体制を国際社会が結束して堅持、強化していくべきであることを訴えたいと思います。
また、インド、パキスタン両国からの、あるいは両国への核及びミサイル関連物資・技術の移転を阻止することの重要性についても指摘したいと思います。特に、核兵器及びその運搬手段であるミサイルの不拡散を目的とする国際的な輸出管理体制である原子力供給国グループやミサイル輸出管理レジームに参加していない国に対して、不拡散に向けた取り組みを強化するよう訴えていきたいと考えます。
さらに、我々は、インド、パキスタン両国による核実験のごとき不拡散体制への挑戦が結局は大きな不利益が伴う選択であることを世界に明確に示す必要があります。そのためにも、両国が現行の体制上のいわば特別な地位を得ることにより両国に核実験の恩恵が与えられることはあってはならないと考えます。
今回の事態の原因をつくったのはインド、パキスタン両国であることは明白な事実ですが、その上で、次に、核兵器国による核軍縮の推進の必要性に言及したいと思います。
核軍縮の着実な進展はより安全な世界の実現にとり不可欠であります。我が国は、究極的に核兵器のない世界の実現を目指し、国際社会が具体的かつ現実的な措置を通じて核軍縮を一歩一歩着実に進める必要があることを訴え続けてまいりました。今後とも、明確に目に見える形での核軍縮の進展が求められており、具体的には我が国として、米ロ両国に対してはSTARTⅡの早期締結及びSTARTⅢの早期交渉開始を、米国、ロシア、中国に対してはCTBTの早期批准を、また米ロ以外の核兵器国に対しても、現在の核兵器をふやさず、さらにこれを削減するための努力を一層強化するよう求めているところであります。政府としては、かかる働きかけを今後とも粘り強く続けてまいる考えです。
以上述べた我が。国の基本的な考え方については、さきの国連安保理常任理事国、いわゆるP5の外務大臣会合に先立ち、各国に伝達いたしました。そこで得られた一連の成果は我が国の基本的立場と軌を一にするものであり、我が国としてもその成果を積極的に評価しております。
また、我が国としては、国連において独自のイニシアチブを発揮しました。すなわち、国連安保理において、国際的な核不拡散体制の堅持を確認し、南アジアその他の地域の平和と安全の維持に対する脅威に対処することなどを内容とする決議が全会一致で採択されました。この決議は、国際の平和と安全の維持に主要な責任を有する国連安保理が今回の危機に緊急に対処する必要があるとの認識のもとに、我が国が共同提案国としてその採択に至るまで主導的な役割を果たしてきたものであります。内容面でも、両国の核実験への非難と最大限の自制要請に始まり、いわば今次危機に直面しての国際社会全体の認識が表明されたものとなっております。
私としては、最も普遍的な国際機関である国連においてこのような明確な意思表明ができたことは極めて重要と考えております。今次危機への対処の一環として我が国の努力が結実したことは極めて喜ばしく、改めてその意義を強調したいと思います。
さらに、我が国として先般、日本国際問題研究所及び広島平和研究所などの協力により、内外の有識者の参加を得た国際的なプロジェクトとして、核軍縮・不拡散に関する緊急行動会議を発足させることを政府として明らかにしたところです。今後一年のうちに我が国で一連の会議を開催し、不拡散体制の堅持、強化及び核軍縮の促進につき世界に向けた提言を得たいと思っております。この我が国のイニシアチブに対する皆様方の御理解と御支援を賜りたく存じます。
次に、南アジア地域の平和と安定の維持に向けた取り組みであります。
我が国としては、インド、パキスタン両国の緊張の高まりは単に二国間の問題にとどまらず、南アジアの安全保障、さらには国際社会全体の平和と安定に影響を与える問題としてその推移に重大な懸念を抱いております。また、両国間の緊張が高まれば、南アジアの地域経済協力の推進をおくらせ、地域諸国の社会経済発展及び民生の向上に悪影響を与えかねません。こうした影響を回避する上でまず必要なことは、インド、パキスタン両国が真剣な対話を開始し、相互不信の増大を抑え、軍拡競争を防ぐべく努力することです。具体的には、両国が外務次官級協議の再開を模索するなど対話の糸を保つよう努力し、また、軍事面の透明性の向上などの信頼醸成措置をとることが大切でしょう。
今回の一連の事態は、独立以来の根深い両国の対立にその主たる要因を求めることができます。この両国の対立は双方の国家的威信や宗教、民族的要因も絡んでおり、これを解きほぐすのは容易な作業ではないでしょう。それでも、地域紛争の両当事国が核実験を行ったという新たな現実を前に、国際社会としても原点に立ち返り、カシミール問題を初めとする両国の対立の要因をなす諸問題に強い関心を持ち、南アジアの安全保障のあり方を考えていくこと、その上で、意味のある両国対話を慫慂していくことが必要となっていることを改めて訴えたいと思います。明日のG8外務大臣会合においても、G8として両国関係に関心を持ち、両国の緊張緩和に向けた対話を側面から支援していく必要があることを我が国から訴えたいと思います。
明十二日のロンドンにおけるG8外務大臣会合については、国会の御了承をいただき小渕外務大臣が出席いたします。国際社会をリードすべき立場にあるG8の外務大臣がその英知を結集し、今回の事態に対応することを期待しております。我が国としても、核軍縮・不拡散問題に関し、これまで率先して行ってきた取り組みと積み上げた経験を生かし、以上述べた基本的立場に基づき今後とも明確な主張を行ってまいりたいと考えます。
以上、インド、パキスタン両国の核実験の実施への対応に関する私の所見を申し述べてまいりました。本委員会におかれまして、今後とも有意義で建設的な議論が行われることを祈り、また、この問題への政府の取り組みに対する皆様方の御支持と御理解が得られるよう願いつつ、所見を締めくくらせていただきます。