森本敏の発言 (外交・防衛委員会)

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○参考人(森本敏君) 外交・防衛委員会に参考人としてお招きいただき大変光栄に存じます。またお礼も申し上げたいと思います。
 私は、本件、インド、パキスタンの核問題を特に安全保障上の側面から申し述べてみたいと思います。とりわけ我が国として安全保障上の見地からいかなる対応と措置があり得るのかということに焦点を絞ってお話をしたいのですが、その前提条件として、この問題をどう認識するかという基本的な考え方をまず申し述べ、しかる後に、我が国として対応すべき基本的な考え方について申し述べたいと思います。
 広瀬教授の御指摘のとおり、今回のインドとパキスタンの核開発は、ともに国内政治上の要因と国家の安全保障上の要因が含まれているという指摘どおりであると思います。
 国内政治上の要因については、広瀬先生がるる申し述べられましたので私は省略しますが、安全保障上の要因から見ますと、明らかにインドは、広瀬先生の御指摘のとおり、NPT体制の不平等性というものに対する批判として行ったものであり、さらに軍事的に言えば、従来から中国の核開発計画に大変大きな脅威を受けていたこと及びその中国が隣国パキスタンに核やミサイルの技術を供与していたことに対する反発として核開発を進めたというふうに考えられます。そしてパキスタンは、このインドの核能力に対応することをねらいとして行ったものというふうに考えられます。
 しかしながら、ここで果たしてインドはその本来のねらいが今回の核実験や従来から進めている核開発計画によってどれだけ達成できたのかということを考えてみますと、なかなか判断が難しいところであると考えます。
 特に、NPTが不平等であるということは、そもそも一九七〇年にこの条約が署名され発効されたときからわかっていたことであり、現在のNPT体制とは、そもそも五つの核兵器国のみの独占によるという不平等性はそれはそれとして、それよりもその他の国が核兵器国になること、すなわち核拡散が進むということを防ぐことの方がむしろ重要である。つまり、最善の策ではないが次善の策であるという認識に基づいて締結されたものであり、インドが今さらのごとくNPTが不平等であると言ってみても、そのこと自体余り説得力がないし、しかも核実験によってこの不平等性が是正されたのかということになりますと、いささか疑問とするところであります。
 もちろん、中国のパキスタンに対する核やミサイルの技術協力がインドの核実験によって阻止あるいは防止できたとも思えず、結局、インドの言い分はかなり言いわけじみたものであるというふうに考えられます。
 ただ、その中で最も率直に述べているのは、明らかにインドが従来から中国の核開発計画に大変大きな国家安全保障上の脅威を受けていた、これに対して、大国インドがどうしてもそれに対抗するに必要な核抑止力を持ちたいとして今回の核実験並びに核開発計画に進んだというのであれば、それなりにそこは理解できるということだろうと思います。
 さて、この両国の核開発計画によってNPT体制が崩壊したあるいは崩壊していないという議論は、そもそも余り意味がない議論であると思います。しかしながら、本来NPT体制は、先ほど申し述べたように、六〇年代当初に当時の核兵器国であった五つのたまたま国連の常任理事国のみに核兵器国としての地位をいわばとどめるという体制をすべての国が認め合ってつくった体制であります。今日、この五つの国以外に核兵器を保有したという宣言を行った国が厳然として出現したという事実を踏まえれば、現在まで国際社会が堅持してきたNPT体制は今や根本的な見直しを迫られていると判断せざるを得ないと思います。
 特に、インド、パキスタン両国が言葉による説得で核兵器国としての地位といいますか、あるいは持っておる核兵器を放棄したり廃棄したりすることは、現時点ではほとんど考えにくいわけで、しからばNPT体制の中に入れるのかというと、NPT体制の中で核兵器国としてこれを認知するということは到底できない話であります。同時に、それでは核兵器国でないのかというと、非核兵器国でもないというこの状態をいかようにして問題解決するかということが最も難問であると思います。
 総理大臣の御発言のように、インドとパキスタンをNPT体制のもとで核兵器国として特別なステータスを与えることはできないというのはまさにそのとおりであります。しかし、むしろインドとパキスタンが核開発を進めたことによってかえって強い核兵器の管理体制に組み入れられ、核開発を進めたことによって得られる利点をむしろ失うような立場に追い込む方法がないものかと思うわけです。
 すなわち、この両国に核兵器国でもないが非核兵器国でもないステータスを与える。例えば大変有名な会員制のゴルフクラブに入ってみた。しかし、入ってはみたものの会費もべらぼうに高く、かつ自分の資産も丸裸になって公開させられ、しかも十分にプレーもさせてくれない。ハンディキャップも低い。プレーのマナーも悪いとことごとく言われて、これだったら入らなかった方がよかったと後で思うような立場にどうやったら追い込めるのかということが、これからの人類の知恵というものなのではないかと考えるわけです。
 いずれにしろ重要なことは、繰り返して申し上げますが、NPT体制が崩壊しているあるいは崩壊していないとかという議論をすることは余り意味がなく、今までのNPT体制をもう一回根本に返って見直してみる必要があるのではないかと考えます。
 CTBTにつきましては、CTBTの中にインドとパキスタンを速やかに招き入れる必要があるという立場を米国や日本の政府はとっています。しかし、よく考えてみると、CTBTという枠組みの外で核実験に成功して核兵器国としての宣言をした国をCTBTの中に招き入れなければならないということは、CTBTの持っておる一つの内部矛盾であります。
 例えばこの部屋で、みんなが暴力を振るわないということを約束し合って署名捺印するときに、ある人が部屋の外にある人を連れ出して思い切り暴力を振るって、私はもうすべて気が済んだ、これでもうすっきりしました、それでは入りましょうといって部屋の中に入ってきて署名捺印する。これを歓迎することが果たして正しい道なのかどうかということは、大変私は疑問に思うわけです。しかもその国を入れないとこのCTBTが発効しないということは、そもそもCTBTの中に大きな矛盾というものがあったのではないかと思うわけです。
 今の状態ではCTBTに批准する国もこれ以上ふえそうになく、かつ厳然としてCTBTが発効しない状況が続く限り、CTBTの外で核実験をすることが国際法上違法でないという状況が続くということは決して望ましくなく、私はCTBTというものを速やかに発効させるよう、CTBTそのものを改正するための知恵というものを出す必要があるのではないかと考えます。
 カットオフ条約につきましては、もちろんこれを進めることが重要と考えますが、それ以外に今回、例えばパキスタンの核実験のデータなどがイスラム教国あるいは北朝鮮などに移転されるというふうなことがあったのでは、これはCTBTを幾ら発効させても実効上の意味がなくしたがって、このような事態に至った今、核実験データの移転を禁止する条約というものも早急に考えてみないといけないのではないかと考えます。
 さて最後に、核軍縮というものを進めるためには五つの核兵器国、特に中国の協力が不可欠であります。二十一世紀中ごろにはインドは中国の人口を抜き十五億を超える人口になり、アジアで中国とインドという計三十億の人口を抱える大国が今や核兵器国になったという現実を踏まえて、我々は、アジアと我が国の安全保障を考えるときに中国とインドの核の関係をどう考えるかということが極めて重要な問題であるというふうに思わざるを得ないわけです。
 以上の認識に立って、私は二、三点提言を申し述べたいと思います。
 第一は、総理の先ほどの御発言のごとく、このような状況に至った今、NPTやCTBT体制を含む核軍縮や核軍備管理、あるいは核抑止の理論のあり方について再検討を行うための国際会議を開く必要があり、そのことは、ここに御同席の明石所長の御尽力によって、今後日本がこの種のプログラムやプロジェクトを進めることによって国際社会全体の専門家の知恵を結集し、今後行われる国連総会あるいはジュネーブの軍縮会議、あるいは今後行われる軍縮特別総会などに具体的な提言をまとめていく必要があると思います。
 さらに御案内のとおり、アメリカはことしの春先から、一九九四年に既に明らかにしていたニュークリア・ポスチャー・レビューという核体制の見直し政策をさらに見直して、冷戦後の核抑止理論をどのようにして再構築するかという作業を進めていた矢先に今回のインドとパキスタンの核実験が行われたことにかんがみれば、アメリカの核政策を修正するまでに我が国が特に緊密な日米協議を進めることが必要であると考えます。
 さらに、先ほど申し上げましたように、インドの核開発は結局のところ中国の核開発計画というものに大きく依拠しているということを前提に考えれば、この問題に関する日中協議も特別に必要であると考えます。
 さらにARFにおいては、特にパキスタンや北朝鮮を今後ARFのメンバーあるいはオブザーバーとして加えることによって、これらの問題すなわち核問題や南西アジアの地域問題をARFの議題としていくということも必要であると思います。
 委員長、最後に私は特に本委員会で申し上げたいことがあります。それは、我が国のTMD計画についてです。
 間もなく日米両国はTMDの共同技術研究を開始するとも伝えられておりますが、この研究結果の結論を速やかに出すことによって我が国としてはTMD計画を促進する必要があると思います。
 しかるに、このTMD計画については中国が極めて強い反対をしていることは御案内のとおりであります。私は先週、カナダにおける国際会議に出席しておりましたが、中国外務省の担当官が日本のTMD計画について、これはアジアにおける軍拡競争を再燃させ、そしてアメリカのシステムの中にTMDを組み入れ、防御兵器と言いながら攻撃兵器に使うこのようなプログラムはアジアを極めて不安定にするという、やや事実認識において誤りのある極めて強い批判を我が方にしてきたわけですが、このことは今に限ったことではなく、過去二年にわたって国際会議でことごとくこの種の経験をしております。
 中国の本音は、日本のTMD配備が中国のIRBMという中距離弾道ミサイルを無力化させ、さらに日本がTMDを配備しやがて台湾がTMDを配備すれば、アメリカの早期警戒システムの中にアメリカ、日本、台湾という防衛システムが組み入れられることは中国にとって受け入れざるものであると考えているのではないかと思います。そのことは、日米防衛協力のガイドラインや周辺事態法とは次元の違う大きな懸念を中国が持っていることは明らかであると思います。
 しからば、TMDをそれほど中国が懸念しているということなのであれば、それはTMDの配備が効果があるということを意味するものであり、我が国としてはぜひともこれを進める必要がある。
 といいますのは、一九七九年、当時NATOは二重決定というものを行って、ソ連のSS20の脅威に対抗するために、アメリカがパーシングⅡと地上発射の巡航ミサイルを欧州に配備することによってこれに対抗しようとしたわけです。もちろんソ連は、一九八一年レーガン大統領第一期政権のときの米ソの軍備管理交渉からINFを配備するときにウオークアウトして、後にこの交渉に返ってきて、結果として一九八七年にグローバルゼロが達成できた。この経験をアジアに持ち込んでみた場合、日本としては、TMDの配備を決定し、このことをてこに中国を米国やロシアのみならず五つの核保有国の軍備管理交渉に招き入れる必要があるのではないかと思います。
 このことは、日本や台湾のTMD配備を中止することの見返りに中国が持っておるIRBMのゼロ配備というものを求める大変大きなてこになり、もしそれが達成できればインドとしてはこれ以上の核開発を進める必要がないという意味において、大変大きな言いわけあるいはメンツを与えることができる。したがって、TMDの計画というのは、我が国の安全保障のみならずグローバルな軍備管理交渉のてことなり得、同時に南西アジア、特に中国とインドの核開発の抑制に大きな貢献をすることができると考えます。もし、それができなくても、最低限我が国の安全保障に貢献するということになると思います。
 したがって、我が国としては、これからTMDの配備計画というものにグローバルな戦略的思考を持ち込んで進めていくという必要があるのではないかと思います。
 以上が私の存念でございます。
 委員長、ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 114213949X02119980611_007

発言者: 森本敏

speaker_id: 34495

日付: 1998-06-11

院: 参議院

会議名: 外交・防衛委員会