明石康の発言 (外交・防衛委員会)
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○参考人(明石康君) 第二次世界大戦後の悲惨な記憶、その中でも広島、長崎における核被爆の耐えがたい経験は、当然のことでありますけれども戦後日本のあり方に大きな影響を持ってきております。核兵器のない世界を目指すこの日本の悲願が、先月のインドとパキスタンの相次ぐ核実験によって大きな衝撃を受けたのは言うまでもありません。NPTとCTBTから成る現在の体制は、大きなチャレンジにさらされております。核兵器が世界じゅうに拡散すればそれだけ核戦争の危険は深まることになり、したがって核不拡散の目的維持は極めて重要であります。
しかしながら、現在の体制は、核保有国による核の独占的な維持を許容するという消しがたい不平等性を含んでおります。また、冷戦時代には、矛盾をはらみながらも、それ以外に有効な安全保障の道がないということで核抑止の思想は是認されてきました。しかし、米国と旧ソ連を中心とする冷戦が終わりを告げた現在におきましては、むしろ中小国による地域紛争の可能性や開発途上国国内に頻発する民族的、宗教的対立や内戦が多数を占めております。そういったような状況における核兵器保有の意義については多大の疑問が抱かれます。また、そうした兵器が誤用されたり乱用されたりする危険についても大いに警戒しなければなりません。
インドやパキスタンに続いて核兵器を持とうとする国々が出る可能性も、すぐということではないにしろ考えておくべきでありましょう。国と国との間の紛争には事欠きませんし、現在の力関係に不満を持ち、また自国の安全に脅威を感じる国も後を絶っておりません。また、核兵器なしては主権国家としての威信を保てないと感じる国もなきにしもあらずであります。グローバリゼーションの波が国境の垣根を低くし、国家主権のあり方を問い直すことを余儀なくしておりますが、それと同時に、強烈なナショナリズムや原理主義も各地に根強くはびこっており、それを利用しようとする極右民族主義指導者もかなりおります。
言いかえますと、我々は今、五十年という極めて長い間ダモクレスの剣のもとに維持されてきた、不完全ではありましたけれども、ともかく全面戦争を回避することのできた戦後秩序への大きな挑戦を受けていると言えましょう。これを我々は正面から受けとめ、かつ対策を練ることが急務であります。
まず、短期的な対策といたしましては、インドとパキスタンによる核実験を踏まえまして、国際社会が、事情がどうあろうともそうした行為が決して許されないことを明確にし、両国が核兵器の実戦配備をしないように働きかけ、両国に対する関連軍事技術援助を停止し、また両国が誤解とか誤算によって核戦争に突入することがないように、アメリカとかロシアなどが中心に助言を呈すべきだと思います。
アメリカとロシアによる核対立に比べまして、中小国の場合は、偶発戦争勃発の危険と先制攻撃への誘惑は、特に核開発の初期において甚だしいものがあると思われます。しかし、インドとパキスタンの間には、その抜きがたい相互不信とともに、指導層がともに同じ言語を話し自由に交友するという特徴もありますから、外交面での率直な対話再開の可能性は十分にあるように思われます。
広瀬先生が御指摘のように、カシミール紛争の解決は至難であり、私もまた下手に手を出すとやけどをすると思いますけれども、イギリスとアイルランドが最近、北アイルランドに関してまとめた調停案などが印パに対してもあるいは参考になるのではないかというふうにも考えております。
中長期的な観点から申しますと、何といってもアメリカとロシアがそれぞれ所有する核兵器の数を急速にしかも大幅に減少する必要があります。既に締結されておりながらロシアがまだ批准していないSTARTⅡはもとより、STARTⅢ、STARTⅣを締結することによって核兵器を減少し、それを千個ないしはそれ以下に減少することが望まれます。それによって他の核保有国であります中国、フランス、イギリスなどを多角的核軍縮交渉に参加させるように努力すべきでありましょう。
この交渉は難しく、また、一たん同意された核兵器を破壊するのは、実施面で複雑な解体処理の問題や関係した研究者の再就職の問題などがあり、その解決は容易ではありません。これについては、我が国を含む国際的支援体制が維持され、さらに強化される必要があると思います。こうした核軍縮プログラムを真剣に行うことはNPT条約第六条に合致しておりますし、非核保有国の懸念とか不安を払拭するのに役立つことになるでありましょう。
CTBTに関しましても、未臨界核実験は条約で禁止されていないという解釈が有力でありますけれども、それが核兵力の質的向上につながる以上、核戦力の垂直的拡散ではないかという疑問にはっきり答えなくてはなりません。核軍縮が進むにつれて、その実施状況を見きわめる厳正な査察制度と、核実験を外から察知する手段をより一層完備することも望まれます。
非核保有国の核武装を思いとどまらせるためには、何といってもこれらの国々が直面しておる安全保障上の問題を無視することはできません。隣国との領土問題や民族自決の問題などを抱え、歴史的な深い不信感を抱いておる場合、核兵器及び化学・生物兵器など、大量破壊兵器を持とうとする衝動にかられることは理解できることです。そうした国は、資源の合理的な使い方からいってむだになると知っていても、どうしても国の存亡にかかわるならば核兵器を持つしかないと考える場合がございます。
パキスタンの場合がまさにそうだったのではないかと思います。堂ノ脇大使が今言われましたとおり、核保有に関してパキスタンはインドに比べてはるかに受け身でありました。インドの場合はこれと違いまして、むしろ北の中国との間の過去からの経緯とか大国としての誇りに根差し、右翼政党を中心とする連立政権の内政上の事情から核武装に走ったものと考えられます。
こうした場合、国際社会に必要なものは紛争解決のメカニズムを完備することでありますけれども、これは現在のところ関係国の同意を待って機能することがほとんどであります。カシミールや中東問題を見ればわかるように、そうした同意を取りつけるのは容易ではありません。こうした限界のもとでは、関係国が同意するならば地域的に非核兵器地帯をつくることが有益であります。これには核保有国の協力も欠かせないわけでありますけれども、ラテンアメリカに始まり、南太平洋、アフリカ、東南アジア等に広がった非核地帯は、詳細においては互いに異なっておりますけれども、核の拡散を防ぐ上である役割を果たしているということは言えましょう。
また、韓国、北朝鮮は、非核武装に関し一九九一年に合意に達しておりますけれども、それの実施を見守るための検証措置はできておりません。北東アジアのように核兵器を所有した国々が互いに接近している場合は、これらの国々の領土の全部ないしは一部を包含する非核兵器地帯でなければその効用はかなり限られてしまうことになるでありましょう。
私は、核の拡散を防ぐためには、非核保有国の安全保障について国際社会がより一層努力すべきであると考えます。これには、核保有国が非核保有国に対して核兵器を使用しないという消極的安全保障と、核兵器によって攻撃された場合これらの国々を守ってやるという積極的安全保障がございます。
しかし、これらの約束が説得力を持つためには法的拘束力を持たなくてはいけませんし、また現在のところ積極的安全保障は安保理事会の決定を待つものでありますから、大国の拒否権によってこれが阻まれることがございます。したがって、より信頼できる積極的安全保障対策というものについて、我々は真剣に考える必要があるのではないかと思われます。
一九四五年をもって人類は核兵器の時代に突入しました。それ以来、我々は核の悪夢にうなされて今日に至っております。核兵器の存在しない世界という我々の願望を達成する道程には幾つもの大きな障害が横たわっております。
科学技術がますますグローバルに浸透するに至った世界において、核の秘密を魔法の箱に閉じ込めることはもはや不可能になりました。CTBT、NPTを中心とする核の不拡散体制は、関連の科学技術の移転、輸出入、科学者や技術者の海外移動を含む包括的で精密なものになる必要がございます。それは高価なものになるでありましょう。しかし、核兵器製造にはある程度以上の施設が必要となるという点から申しますと、極めて簡単に実験室なんかでも製造できる化学兵器とか生物兵器の製造施設の検証よりは易しいと言えるかもしれません。
一度魔法の箱から出てしまった核の技術を再び箱に閉じ込めることが不可能であるとしましても、核兵器とその関連技術を究極的には一つの超国家的な国際機関に集中するという一九四六年の雄大なバルーク・プランなどを想起しながら、核軍縮の最終段階においては、現存する国家体制を超越する強力な取り組みを考える必要が出てくるでありましょう。
核軍縮プランは既に幾つか出されております。これらを冷静に批判的に吟味してみることも必要だと思われます。しかし、インドが求めるように、核廃絶のきちんとしたタイムリミットを今の段階で明確にすることは恐らく現実的ではありません。むしろ、そのプロセスを幾つかの段階に区切って、それぞれの段階での要件が満たされた時点で、より進んだ段階に進むという漸進的な方法が説得力を持つのではないかと思います。
しかし、このプロセスはかなり長期かつ複雑であるとともに、危険を内包しております。政府以外の非合法団体ないしはテロリストグループの手に核兵器が入る可能性にも配慮しておく必要があるのではないかと思います。
結論的に言いますと、核廃絶を目指す核軍縮と核不拡散は、世界の平和を守るために最も緊急の課題であると言えます。しかし、それに到達する道は複雑をきわめ、息の長い粘り強い努力が要請されます。
核兵器の洗礼を浴びた唯一の国として、我が国はこの目的を達成するため、世界の先頭を切って行動する権利とまた責務を負わされていると言えましょう。我々は、よく考え抜かれた提案を勇気を持って発信すべきであります。また、CTBTの査察やIAEAの検証制度などに既に利用されている日本の高度な科学技術は、国際的検証制度の一層の強化と完成に役立つに違いありません。
平和憲法を持ち、非核三原則を標榜し、核兵器の製造能力を持ちながらもそれを持つことをしない我が国の政治的決意は、国際的に評価されていると考えます。核軍縮のイバラの道を切り開くためには政府間の努力が不可欠でありますが、同時に、国際政治における新しいプレーヤーになったNGOや研究者団体などの活動も見逃せないものになっております。この点、昨年採択された対人地雷廃止条約の道程でNGOが果たした役割が想起されます。
終わりに、本日、参議院の外交・防衛委員会の委員長を初め皆様方が示された関心に敬意を表したいと存じます。
ありがとうございました。