富田俊基の発言 (行財政改革・税制等に関する特別委員会)
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○参考人(富田俊基君) 御指名をいただきました野村総合研究所の富田俊基でございます。
国と地方の借金残高が国内総生産を超えるという事態を迎えた我が国経済と財政運営のあり方について、意見を申し述べさせていただきます。
昨年来に銀行と証券会社が相次いで破綻し、アジアの国々で通貨・経済危機が深刻化いたしました。戦後の我が国が経験したことのなかった悪条件が内外で重なって起こったため、ビジネスマインドは萎縮し、個人消費も落ち込みました。これに対処しようとするために、財政構造改革法が改正され、十六兆円の景気対策が発動されようとしております。
だが、こうした伝統的な景気対策は今回でもう打ちどめにしなければならないと思います。冷戦後に世界レベルで進行している産業構造の歴史的な大変化に我が国も積極的に対応を進めねばならないからであります。そして、政府の債務残高が本年度当初予算の段階でGDPを上回るという新しい事態を迎えたからであります。
合計四兆円の特別減税では不十分なので、レーガンの大規模減税に倣ってそれを恒久化すべきだという主張が散見されます。しかし、八一年のレーガン大規模減税によって財政赤字が巨額になり、金利が高騰し、八〇年代のアメリカ産業界が大きな打撃をこうむったことを忘れてはなりません。
この反省から、第二期レーガン政権は八六年に課税ベースを広げ、所得税と法人税の最高税率を引き下げるという税収中立の税制改正を行いました。だが、八一年大規模減税のもたらした負の遺産は極めて大きく、九〇年にブッシュ大統領が、そして九三年にクリントン大統領がそれぞれ増税を行わざるを得なくなりました。この八一年のレーガン減税の教訓は、減税がもたらす税収増は減税規模にはるかに及ばないこと、このためにやがて増税が必要になるということであります。
現在のアメリカの好景気は、レーガン減税がもたらしたものでは全くありません。企業の事業再構築と情報通信技術の積極活用、そしてそれらを容易にしたカーター政権から今日に至るまで継続しております息の長い規制緩和によるものであります。企業は大胆なリストラクチャリングを実施し、労働インセンティブを高めながら雇用コストを抑制いたしました。そして、柔軟な労働市場が産業構造の転換を円滑にしたのであります。
我が国の財政構造改革法もアメリカに倣って弾力化すべきであるということになりました。確かに、アメリカのOBRAには、戦争と低成長の場合、歳出拡大や減税でキャップを超えても一律削減は行わないという弾力条項があります。だが、アメリカでは弾力条項を発動したことはありません。
OBRAの歳出一律削減の停止要件は、二四半期連続して見通しがマイナスあるいは実績が一%未満の成長の場合です。この停止要件を満たすという報告が九〇年十一月のOBRA導入時点から九一年七-九月までの間に三回行われました。しかし、三回とも財政健全化が優先されるべきだとして、上院で圧倒的多数で否決されました。また、下院では一度も採決が行われておりません。弾力条項は発動されなかったのであります。アメリカに見習うべきはこの点にあると私は思います。
ヨーロッパ通貨統合の参加国にも、財政赤字をGDP比で三%以下にするという基準があります。それを守らないと制裁を受けます。制裁が免除されますのは、その年の実質経済成長率がマイナス二%以下という厳しい弾力条項であります。
こうした欧米主要国に照らして考えますと、今後我が国で経済成長率がプラス一%未満が半年続いた、あるいは続きそうだということで安易に弾力条項を発動するとなると、日本はGDPまでPKOする国なのかと、市場経済の基本原則まで問われることになりはしないだろうか。さらに、景気が少しでも後退すれば政府が公共投資や減税を行ってくれるということでは、国民、企業の行政依存心を助長し、古い産業構造が温存され、我が国経済は活力を本当に失ってしまうことになりかねません。
既に、国と地方の債務残高は一〇〇%を超えました。政府債務が高い水準で国債を増発すると予期せざる現象が発生することがあります。景気対策が将来に対するコンフィデンスを悪化させ、逆に景気後退を深刻化させるという危険な現象が発生することが知られております。これは非ケインズ効果、ノンケインジアン・エフェクトとして知られております。九一年から九四年のスウェーデンでは、減税によって逆に景気後退が深刻化しました。八九年から九三年のイタリアでは、歳出拡大が持続的に行われたことで九三年に深刻な景気後退に見舞われました。
政府債務が巨額に達しているのに、国債を増発して恒久的な減税をすると、きょうの減税はあすの悪いニュースだという予想が国民の間に広がります。国債の負担が将来世代にではなく、みずからに増税として降りかかってくることを国民が悟るようになります。つまり、最後の審判の日が近づいたと感じる。このために、消費が抑制されるという非ケインズ効果があらわれることになります。
逆に、持続的な歳出削減を行うと景気拡大につながる可能性があります。政府の債務残高対GDP比が上昇から下降に転じ、その持続性が確信されますと、将来増税されるであろうという国民の不安感が軽減されるためと考えられます。八三年から八六年のデンマーク、そして八七年から八九年のアイルランドがこの事例であります。
日本には巨額の貯蓄があるから、まだまだ国債を発行しても大丈夫だという主張があります。しかし、貯蓄は個人の私有財産であって、国債の償還財源ではありません。国債は我々が自分から借金をするという不思議な政策手段であります。しかし、その本質は将来の税負担の現在価値であるということであります。国債の負債としての側面を無視して、国債の増発と減税は歓迎などというのは、国という共同体を忘れた身勝手で無責任きわまりない主張というふうに私は思います。
今後の我が国の経済・財政運営は、政府債務が先進国ではまれに見る高水準に達したことを踏まえたものでなければなりません。右肩上がりやバブルの時代が終わったのであるから、規制緩和と構造政策によって民間経済の持てるダイナミズムを最大限に引き出し、持続可能な成長を促進していくことが必要であります。
九二年から九五年までと同様に、景気が後退したからといっては安易にカンフル的景気対策を累次にわたって繰り返し、将来の税負担をふやすことは今後はできないと考えられます。将来の国民負担率を五〇%以下に抑えるという財政構造改革法の根本を遵守し、粛々と財政の健全化を進めるべきであります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)