増田善信の発言 (国土・環境委員会)
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○参考人(増田善信君) 増田でございます。気象研究者として地球温暖化対策の推進に関する法律案に対する意見を述べさせていただきます。
アラスカで氷河が解け浜名湖ほどの湖ができたと報じられ、ことしの異常気象も温暖化のせいではないかと地球の温暖化が心配されています。
国連の組織としてつくられている気候変動に関する政府間パネル、すなわちIPCCは一九九五年、既に地球温暖化の兆候はあらわれており、もしこのまま温室効果ガスを放出し続けるならば、二一〇〇年には地球全体の平均気温が現在より二度C上昇し、海面水位も平均で約五十センチ上昇するだろうと予測しています。そして、その結果、低い地域は水没するだけでなく、地球全体の生態系の変化、世界的な食糧難、猛烈な台風や洪水、風水害などの頻発、マラリアなどの熱帯、亜熱帯の疫病の多発などが懸念されるとし、CO2濃度を現在の水準で安定化するためには、その排出を直ちに五〇ないし七〇%削減し、その後もさらに削減する必要があると警告しています。
昨年十二月、気候変動に関する国際連合枠組条約第三回締結国会議、すなわちCOP3が京都で開かれました。そして、この会議では締結国全体の温室効果ガスの二〇一〇年の削減目標を一九九〇年比で五・二%にするという議定書を採択して終わりました。主な国では、日本六%、アメリカ七%、EUすなわち欧州連合八%です。日本のCO2の削減は当初の提案どおり、二・五%にとどまりました。
IPCCがCO2の排出量を直ちに五〇ないし七〇%削減する必要があると警告しているにもかかわらず、京都会議がこのような低い削減目標しか採択し得なかったことば極めて残念です。この京都会議に出席していた島国ミクロネシアのファルカム副大統領が、我々の島が温暖化の最初の犠牲者になるときには全世界にとってもう手おくれだと嘆いたと言われています。本当にそのとおりだと思います。
このように、地球温暖化は人類の死活にかかわることであるにもかかわらず、COP3で決められた削減量は極めて不十分なものでした。それでもそれを達成するためには大変な努力が要るのです。
お配りした資料を見ていただきたいと思いますけれども、いかにそのことが大変かを示させていただきたいと思います。
この図で、実線は日本のCO2の排出量の変化を示したものですが、日本の九五年度のCO2の排出量は九〇年比で既に八・三%もふえており、二〇〇〇年には一六・六%になると予想されます。したがって、日本のCO2の削減量が二・五%で済むとしても、二〇〇〇年以降のわずか十年間でCO2の排出を約一九%も減らさなければならないのです。
これは国際的にも言えることです。鎖線は、気候変動枠組条約事務局の資料からのものですが、温室効果ガスの世界全体の九五年の排出量は、旧ソ連、東欧の経済活動の停滞により九〇年比で四・八%減少しましたが、二〇〇〇年には四・八%増加する見通しです。したがって、COP3で決められた削減目標五・二%を達成しようとすると、二〇〇〇年からの十年間で一〇%も削減しなければなりません。本当に大変な削減量なのです。
温暖化を防ぐためには発生源である温室効果ガスを減らすことですが、その九四%が化石燃料から出るCO2です。したがって、化石燃料の使用量を減らすことが急務です。そのためには日常的な省エネが重要ですが、家庭からの排出量はせいぜい六%足らずです。エネルギー転換部門、すなわち火力発電所からのCO2の排出が最大で、実に三〇%に達しています。しかも、火力発電所では投入したエネルギーの三九%しか有効に利用されておりません。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンパインドサイクル発電や、発電と熱供給を同時に行うコージェネレーションなどの採用でエネルギー効率を高めれば、CO2を大幅に減らすことができます。
同様に、産業部門でも、むだに捨てられている熱エネルギーを電気に変えて利用する必要があります。運輸部門でも、路面電車の復活など公営交通体系を整備して車を減らせば大気汚染とともにCO2も減らすことが可能です。ところが、政府の地球温暖化防止行動計画に関する予算は十一兆七千億円ですが、渋滞解消の名目で八兆四千億円が道路整備費です。方向が逆ではないでしょうか。
クリーンエネルギーの使用も重要です。実は私は、自宅の屋根に太陽光発電を載せて三年半、毎月発電量と使用量を調べています。その結果、太陽光発電が我が家で使う電力の約半分を賄ってくれています。もし我が国のすべての家庭の屋根に太陽光発電をつければ、CO2の総排出量を一六%削減できると試算されています。太陽光発電そのものは出力が小さいので動力には不向きですが、太陽光発電で水を電気分解して水素をつくり燃料電池に使えばクリーンなエネルギーが得られます。
政府は、原発はクリーンだと称して、温暖化対策の名目で二〇一〇年までに二十基の原発の増設を計画しています。しかし、チェルノブイリを初め「もんじゅ」や動燃の再処理工場の事故で明らかなように、深刻な放射能汚染をもたらしかねません。それだけでなく、何千年も高レベル放射性廃棄物を安全に管理しなければなりません。そのために冷却、換気などで大量な電気が必要であり、CO2が多量に出ます。クリーンだとは言えないと思います。
私は、この八月末から九月の初めにかけてアメリカに行き、事故を起こして解体中のスリーマイルアイランド原発、高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究をしているヤッカマウンテン、そしてサクラメント電力公社を見学してまいりました。
特に興味深かったのはサクラメント電力公社で、この公社は一九八九年六月に稼働中の九十一万キロワットのランチョ・セコ原子力発電所を閉鎖し、それ以後は、水力、コージェネレーション、太陽光、風力、地熱、バイオマス、天然ガスなど、いわゆるクリーンエネルギーで約百十二万人のサクラメント市の電力をほぼ賄っています。原発をやめ、しかも採算を上げながら二十年間でCO2を三〇%も減らす計画を実施中です。
デンマークやドイツが温暖化防止のエネルギー対策で成果を上げていることはよく知られているように、技術的にはCO2を減らす方法はあるのです。問題は実行する意思があるかどうかです。
このように考えると、昨年のCOP3の温室効果ガスの削減目標は極めて不十分だと思いますが、その完全実施を目指して政府がいち早く地球温暖化対策の推進に関する法律案を国会に提出されたことには心から敬意を表します。しかし、率直に申し上げまして、この法律案では、ただでさえ不十分な温室効果ガスの削波目標さえ達成できないのではないかと危惧しています。その箇所を二、三述べさせていただきます。
まず第一は、法案の各所に用いられている「排出の抑制」という言葉です。これでは削減の緊急性が伝わらないように思えますので、はっきりと削減という言葉を使っていただければと思います。
第二は、第三条二項に「当該施策の目的の達成との調和を図りつつ」という言葉がありますが、「調和を図りつつ」という言葉が気になります。なぜかといいますと、一九六七年八月に施行された公害対策基本法に同じように「経済との調和を図りつつ」との文言があったため、実質的な施策が実施されず、この文言を削除するための国民的な大闘争が起こり、やっと一九七〇年十二月の公害国会で修正させたという苦い経験があるからです。
第三は、いずれも事業者に関係するところで、温室効果ガスの削減のための措置やその措置の実施状況などの公表が努力目標になっている点です。一九九〇年に地球温暖化防止行動計画が策定されながら、全く実質的な効果が上がらず、CO2の排出量が既に一九九〇年の水準の九・六%以上も増加しているのは、この行動計画が努力目標だけを羅列していたからだと思います。
今回の法案では「政府は、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、地球温暖化対策に関する基本方針を定めなければならない。」と規定し、基本方針には「国、地方公共団体、事業者及び国民のそれぞれが講ずべき温室効果ガスの排出の抑制等のための措置に関する基本的事項」が入っております。また、温室効果ガスの総排出量を含む実施の状況の公表を義務づけています。ところが、最大の排出者である事業者にはその公表が努力目標になっているのです。もし事業者が公表しなければ、総合的かつ計画的な推進を図るための基本計画そのものが策定できなくなり、総排出量さえ算定できなくなるのではないでしょうか。これでは再び一九九〇年の行動計画の轍を踏むことになるのではないかと危惧されます。
本委員会におかれましては、これらの問題を含めて慎重に御審議いただき、本当に実効性のある法律をつくっていただきたいと思います。
ケニアには、「地球を大切にしなさい。それは親からもらったものではなく子供たちから借りているものだから」ということわざがあるそうです。二十一世紀の子供たちに本当にすばらしい地球を譲り渡すために御尽力くださることをお願いいたしまして、発言を終えさせていただきます。
御清聴どうもありがとうございました。