西尾勝の発言 (行政改革に関する特別委員会公聴会)

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○西尾公述人 地方分権推進委員会の委員を務めております西尾勝でございます。
 本年三月末日をもちまして、三十八年間奉職してまいりました東京大学を定年退職いたしまして、この四月より国際基督教大学に移籍をいたしました。
 議員各位には、常日ごろから、地方分権の推進につきまして格別の御支援を賜り、まことにありがとうございます。また、本日は、現在、貴委員会において御審議中の地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案につきまして、私に意見陳述の機会をお与えくださいましたことに深く感謝申し上げます。
 本日、私は、内閣提出の地方分権推進一括法案の内容に賛成し、その一日も早い可決成立を切望する立場から、意見を申し述べさせていただきます。
 去る五月二十八日の参考人質疑の場で、私どもの委員会の諸井委員長が既に同趣旨の陳述をしておられますが、その後の国会審議の状況を拝見しておりますと、審議は格段に深められ、かなり細目にわたる御論議が種々展開され、中には、原案を批判し、これに修正を求める御意見も出てきているようにお見受けいたします。
 そして、そうした御批判と修正意見の中には、地方分権推進委員会の行政関係検討グループの座長として、勧告原案の取りまとめに従事してまいりました私といたしましては、懸念を覚える点もございますので、地方分権推進委員会関係者として、改めて意見陳述の機会をお与えいただき、私どもの勧告がどのような調査審議方針のもとに作成されたのか、また、私どもの勧告と、政府の地方分権推進計画と、そして今回の地方分権推進一括法案の間の関係を私たちがどのように認識しているのかを御説明し、議員各位の御理解を得たいと念願している次第でございます。
 地方分権推進委員会は、地方分権推進法に基づいて設置され、私ども委員会の委員は、衆参両院の同意を得て任命されております。いわば国会の御意思に基づいて設置された審議機関でございます。したがって、私ども委員会は、国会の超党派の御賛同を得られるような勧告を作成するように努める責務を負っているというふうに考えてまいりました。
 しかし、それには、差し当たりまず、時の政府・与党の御理解が得られる勧告でなければなりませんが、委員会発足時から第四次勧告に至る時期は、自民、社民、さきがけの連立政権時代でございましたから、少なくとも、これら与党三党の御理解を得られる勧告でなければならないと考えてまいりました。
 ところで、今回の分権改革の柱の一つになっております機関委任事務制度につきましては、地方分権推進法の第五条には、機関委任事務の整理合理化その他所要の措置とあるのみでありまして、機関委任事務制度の全面廃止の勧告まで許容されているのか否かは、法文上に明記されておりませんでした。
 そこで、当初の段階では、私ども委員会が、この制度の全面廃止を目指して調査審議を進め、勧告を提出した場合、これが政府・与党によって、さらには国会によって受け入れられるのかどうかという点に大きな不安を抱いておりました。この点は、第一次勧告で同制度の廃止を提言しましたところ、その直後に、行政改革プログラムの中に書き込むという形で最大限尊重の閣議決定をしていただき、初めて安堵したというのが正直なところでございまして、今国会における審議では、機関委任事務制度の全面廃止を大前提にしてすべての論議がなされている状況を拝見いたしますにつけ、隔世の感を覚えます。
 第一次勧告提出直後の閣議決定で、機関委任事務制度の全面廃止を含む、勧告の最大限尊重の閣議決定をしていただいて以降は、関係法令を所管しておられる関係省庁の御理解を得ながら、従前の機関委任事務のすべてを今後どのように処理するかを一つ一つ確定させ、この制度の全面廃止を確実なものにするために膨大な時間とエネルギーが消費されることになりました。
 この作業には、大きく分けて二種類のものがございました。
 一つは、従来の機関委任事務制度にかわる新しい制度を設計する作業でありまして、自治事務と法定受託事務の区分、それぞれの事務に係る関与の基本類型の設定、関与の手続ルールの創設、関与をめぐる係争を処理する仕組みの創設など、各省庁横断的な共通制度の設計でございます。
 この種の制度設計事項につきましては、委員会側がまずたたき台を提示して関係省庁の御意見を伺い、次には第一次試案を提示して関係省庁の御意見を伺う、そして第二次試案を提示して再度関係省庁の御意見を伺うといった手続を繰り返し、これで大方の省庁のおおむねの御理解を得られたという心証を抱きました段階で、これを勧告事項に盛り込むという調査審議方針を採用いたしました。
 そこで、この種の事項につきましては、私ども委員会が勧告した段階では、大方の省庁のおおむねの御理解を得ていたにとどまるのでございまして、私どもの提案した新制度の細部に至る隅々まで、全省庁の全面的な賛成を得ていたのでは決してございません。また、私どもによる新制度の設計は、相当に詳細なものではありましたけれども、そのまま直ちに法律上の文章に採用できるほど十分に厳密な検討を加えたものではありませんでした。
 そこで、第一次勧告のとき以来、勧告のたびごとに、その末尾の「おわりに」の部分で、政府はこの勧告を受けて、法制的な検討を深めてほしい旨を付記してまいりました。そこで、この種の事項につきましては、その後の政府の地方分権推進計画上の表現が、勧告の表現とは若干異なるものになりましたり、さらに、今回の地方分権推進一括法案上の表現が、地方分権推進計画の表現とも若干違うものに変わっていたりするところがございますが、これは、事柄の性質上やむを得ないところであり、委員会としては初めから覚悟していたことであります。
 しかし、政府によるより厳密な検討の結果なるものが、私ども委員会の勧告の趣旨をゆがめるものであれば、これを許容するわけにはまいりませんので、その後の監視活動の一環といたしまして、地方分権推進計画の作成段階でも、また今回の地方分権推進一括法案の立案段階でも、その都度、政府側から御説明を求め、点検に努め、時には修正を求めてきたところでございます。
 そこで、法定受託事務の定義の変遷を初めといたしまして、国会審議で御論議の対象になっている数々の点につきましては、最終的な法文上の表現は、それぞれしかるべき正当な理由があって修正されてきたのでありまして、私どもの勧告の趣旨をゆがめるものでは決してないと理解しているところでございます。
 ところで、機関委任事務制度の全面廃止に伴うもう一つの作業は、各省庁所管の個別の機関委任事務を、関係各省庁との合意に基づき、一つ一つ、自治事務、法定受託事務、あるいは国の直接執行事務などに振り分けていくとともに、自治事務にどの程度まで基本類型以外の関与を許容するかを確定していく作業でございました。この種の作業の方は、俗にグループヒアリングと呼ばれていた方式で、関係省庁の担当部局との間で個別に進められました。
 このグループヒアリングでは、委員会は、国政選挙の選挙管理事務など、ごく少数の例外的な事務につきましては当初から法定受託事務にふさわしいものであると認定しておりましたけれども、それ以外の機関委任事務はすべて自治事務に変更可能なはずであるという推定で折衝に臨み、これは法定受託事務または国の直接執行事務でなければならないというのであれば、関係省庁の側がそのことを説得力のある論法で論証してみせるべきであるという方針を採用いたしました。
 こうして論議を何回も重ね、そのうちに、委員会側、私どもの側も、相手省庁の言い分をもっともだと認めるに至ったときに、それではこれは、そちらの御主張のように、法定受託事務なり国の直接執行事務なりに振り分けることにいたしましょうという合意をしていったのでございます。
 そこで、外部の方々がこの折衝の経過を外からごらんになりますと、初めは自治事務にすべきだと言っていた委員会側がだんだんに、関係省庁側の頑強な抵抗に直面し、あるいは関係省庁側からの強烈な反撃に論破され、次々に敗北し、譲歩を強いられ、法定受託事務または国の直接執行事務にせざるを得なくなったというように見えるのかもしれません。
 しかし、そのような見方は正しい見方ではございません。私どもは、すべて自治事務になり得るはずだという推定に立って議論を始めることによりまして、相手の論理にどれだけ確かな論拠があるのかを確認することができる、そして、この方法によることが最終的に最も妥当な結論に落ちつくことができると考えて、このような折衝方法を採用していたのでございまして、作業の結果は、まさにそのような妥当な結論に落ちついていると確信しております。
 第四次勧告までのグループヒアリングは、委員会側と関係省庁側の間の基本的な信頼関係のもとに進められたのでありまして、途中経過にはいろいろと厳しい論議のやりとりもございましたけれども、最後には、双方が完全に納得して、実に気持ちのよい雰囲気の中で合意に到達しているのでございます。この点をぜひとも御理解いただきたく存じます。
 法定受託事務に振り分けられたものの割合が多過ぎるという御批判がございますが、新しく創設した法定受託事務の性質に該当するものしか法定受託事務に振り分けてはいないはずであります。
 ただ、今回、法定受託事務に振り分けられた事務の中には、メルクマールの七に該当するもの、すなわち、都道府県、市町村が国の手足として事務のごく一部分のみを担わされているにすぎない事務、また都道府県、市町村が国への経由機関として使われているにすぎない事務が、私どもが当初予想していた以上に数多くございまして、これらが法定受託事務全体の三割方を占めているのでございますが、これらは、将来、事務事業の執行体制の仕組みそのものを改め、徐々に整理し、廃止していくべきものではないかと思われます。
 以上、機関委任事務制度の全面廃止に関連した作業を、各省庁横断的な共通制度の設計作業と、各省庁所管の個別の事務の振り分け作業とに分けて、それぞれの事項をどのような調査審議方法で処理してきたかを御説明してまいりましたが、いずれにも共通することとして、この一連の作業に初めから終わりまで終始一貫してかかわってまいりました当事者として、ぜひともこの機会に申し上げておきたいことが三点ございます。
 第一点は、地方分権推進委員会は、地方六団体から寄せられました改善要望事項を出発点にし、これらを極力実現することを目標にしながらも、勧告を実行可能なものにすることに最大限の配慮をし、関係省庁側の御理解を取りつけることに粘り強く努め、その結果として、関係省庁側が実行を確約してくださった事項のみを勧告したということであります。そこで、勧告事項はほぼ一〇〇%そのまま地方分権推進計画に盛り込まれ、さらに、それがほぼ一〇〇%忠実に今回の地方分権推進一括法案の法形式にまでまとめられているということでございます。勧告と、地方分権推進計画と、地方分権推進一括法案の間に見られる表現上のずれは、ごくわずかな範囲内にとどまっています。しかも、それらはいずれも、政府において慎重に法制的な検討を深めた結果でありまして、それぞれに正当な理由があってのことでございます。
 第二点は、機関委任事務制度を全面廃止することに伴い、これにかわるさまざまな新制度を設計し、これらの新制度を前提にして、従前の機関委任事務を新しい事務類型に振り分けているわけでありますが、これらは相互に密接に関連し合っております。それらは、一貫した思想と方針に基づいて設計され、振り分けられているのでありまして、それゆえにこそ関係省庁の御理解を得ているところでありまして、そのうちの一部分だけを取り出して、これに不用意な修正を加えますと、全体の体系が不調和なものになってしまうおそれが強いのであります。
 例えば、自治事務に対する是正の要求について、これを受けた地方公共団体は是正または改善のために必要な措置を講じなければならないとする義務がある旨を規定している点につきまして、種々疑問が提起されているとのことでございますが、この点は、新たに国地方係争処理制度を創設していることと密接に関連しているところでございまして、その相互関係を正確に御理解になった上で御判断いただきたいと存じます。
 第三点は、これまで地方事務官の方々が処理してこられた事務を初めとして、幾つかの事務をこの機会に国の直接執行事務に切りかえているという点につきましても、種々の疑問が提起されているとのことですが、委員会は、地方分権推進法第四条に定められておりますように、国と地方公共団体の役割分担を明確にするという観点に立ってこれらを御提案申し上げているのでありまして、これは、地方分権の推進と矛盾するものでもなく、また国と地方公共団体を通ずる行政のスリム化に反するものでもないと確信しております。
 最後に、以上に述べましたことを総括して私の結論を申し上げれば、今回の地方分権推進法案を、できるだけ原案どおりに、一日も早く可決成立させていただきたいということでございます。
 今回提案されている一連の分権改革は、現時点において、現在のさまざまな状況のもとで望み得る、直ちに実行可能な最善の改革案になっていると信じています。もちろん、今回の分権改革は、地方分権の推進方策として決して万全、完璧なものではありません。今後さらに検討を深め、改革を進めていくべき事項が多々残されていることは申すまでもないところでありますが、改革は一日にして成らずであります。制度改革にはさまざまな摩擦とあつれきを伴います。すべての課題を一挙に解決することには無理を伴います。課題を一つ一つ着実に解決し、その制度改革の定着状況を見ながら、次の課題の解決に向かうのが賢明な方策ではなかろうかと考えます。
 議員各位の御理解と御支援を切にお願いする次第であります。
 以上でございます。(拍手)

発言情報

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発言者: 西尾勝

speaker_id: 27858

日付: 1999-06-07

院: 衆議院

会議名: 行政改革に関する特別委員会公聴会