小沢隆一の発言 (日米防衛協力のための指針に関する特別委員会)

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○小沢参考人 静岡大学人文学部で憲法学を専攻しております小沢です。
 本委員会に付託されている二法案と一協定案について、憲法学の観点から意見を述べさせていただきたいと思いますが、これらには、平和主義を初めとする憲法の諸原理に照らして、看過しがたい問題点が含まれていると思われます。
 まず最初に、周辺事態措置法案についてです。この法案については、四点意見を述べさせていただきます。
 まず第一点、周辺事態についてです。
 まず前置きとして、周辺事態の概念が地理的なものでなく事態の性質に応じるものであるという説明は、その際限のない拡大の懸念を禁じ得ません。ただし、ここでは、安保条約六条が定める「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」の合衆国軍隊の武力紛争への関与、これが同時に周辺事態となる場合を想定いたします。この想定は十分成り立ち得ると思います。なぜなら、去る三月三十一日と四月一日の本委員会での審議では、合衆国軍隊が日本周辺で武力紛争に関与している場合が周辺事態に該当する可能性が政府答弁によって確認されているからです。
 日本に対する武力攻撃がなされてはいない、このような場合を日本の平和と安全に重要な影響を与える事態と認定するのには、極東のある国あるいはそのある国とともに対処している合衆国と日本が集団的自衛の関係にあるとの前提が必要と思われます。しかし、このことは、集団的自衛権の行使は憲法に違反するとした従来からの政府見解と矛盾をいたします。また、いわゆる六条事態では日本は合衆国に対して基地を提供するのみであるという現行安保条約の枠組みからも逸脱することになります。
 法案が政府の従来からの憲法解釈と矛盾し、現行安保条約から逸脱するということは、そのことだけをもってしても法案の撤回の理由になると思われます。
 第二に、後方地域支援についてです。
 この概念をめぐっては、政府により、合衆国軍隊の武力行使と一体にならない、また、憲法が禁ずる武力の行使には当たらないとの説明がなされていますが、この説明は、憲法学の立場からすると理解に苦しみます。
 まず、国際的な武力紛争にあっては、戦闘行為も補給、輸送等の兵たん活動もひとしく軍事目標、すなわち攻撃対象となるというのが国際法のルールです。法案の言う後方地域支援活動というのは、あえてこれを正確に表現し直せば、後方地域における兵たん活動です。このことは、実は今回の改定ACSA案が何より物語っております。
 日米ACSAはもともと、一九九六年に、自衛隊と合衆国軍隊の共同訓練、PKO活動、人道的な国際救援活動、これらに必要な後方支援、ロジスティックサポート、すなわち兵たん支援、これのために締結され、今回の改定案でそれが、周辺事態での後方地域支援、リアエリアサポートなどにも適用されようとしています。
 九六年段階のロジスティックサポートは紛争相手国を想定しない活動に対するものであったのに対し、今回の案では、武力紛争のリアエリアでのロジスティックサポートを含むということになるわけですから、合衆国軍隊の紛争相手国から軍事目標とされる危険性があります。
 なお、兵たん活動の国際法的な合法性は、武力行使の合法性と関連をしております。政府は、周辺事態での合衆国の対処は合衆国自身が主体的に判断するとしていますから、後方地域支援の合法性の判断が挙げて合衆国にゆだねられているという問題もあろうかと思います。
 また、憲法第九条が国家に対して禁止しているのは、戦闘行為という狭い意味での武力行使だけではありません。憲法は、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすること」を求め、そして、それを踏まえて九条では「戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」をトータルに禁じています。憲法第九条に「武力の行使」の文言が入っているのは、正規の戦争ではない事実上の武力行使も含めてこれを禁じ、戦争放棄の趣旨を徹底するという趣旨から出たものであって、禁止の対象を戦闘行為に限定するという趣旨ではありません。
 九条は、戦争や武力行使を任務とする人的、物的組織体の活動を全体として禁じているものです。それゆえ、後方地域支援が狭い意味での武力の行使ではないということは、その合憲性の根拠にはなり得ないと思われます。
 三番目に、国会への事後報告の問題です。
 法案は、基本計画の決定と変更の場合における国会の関与を事後報告で済ませていますが、仮にも我が国の平和と安全に重要な影響を与えるとされる事態への対処手続としては、余りにも国民主権、議会制民主主義の原則を軽視するものと言わざるを得ません。何をもって周辺事態とするかの認定手続あるいは基準が定められていないことも、あわせて問題であります。
 この点に関連しては、政府は三つほど理由を挙げていまして、武力の行使を含むものでないこと、国民の権利義務に直接関係するものではないこと、迅速な対応の必要性を挙げています。しかし、それぞれ、武力の行使は先ほど申し述べたように狭く解し過ぎてはなりませんし、また、今回の法案は国民の生活と権利に重大な影響を与えることになります。また、現行の自衛隊法の七十六条と比較してさえも立憲的統制が後退しているなどという問題をここでは指摘しておきたいと思います。
 四番目に、武器の使用についてであります。
 法案で想定されている武器の使用は、武力の行使と区別をされております。しかし、ここで使用される武器の種類については特段の限定がなく、また、使用に際して上官の命令によることは当然とされ、そして自衛隊法九十五条の定める武器等の防護のための武器使用の適用も当然とされております。これらのことから、武力の行使との境界が著しくあいまいになっていることは否定できません。
 また、政府答弁によれば、後方地域支援活動の際に武力攻撃を受けた場合に、自衛権行使の三要件に該当すれば反撃も可能であるとされております。後方地域支援活動そのものには武器の使用が前提とされておりませんけれども、しかし、このような対応もあるとされております。これは、私の見るところによれば、集団的自衛権でしか説明のつかない後方地域支援活動を行いつつ、そして、もしその際に攻撃されれば、個別的自衛権、すなわち先ほどの三要件にかかわります個別的自衛権で反撃を正当化する、こういう論法でありまして、論の立て方が正しくないと考えております。
 いずれにせよ、この法案は、もし実際に実施に移されるならば、その武力行使の可能性は法案の文面を超えてはるかに大きいものであるということを指摘しておきたいと思います。
 次に、もう一つの法案であります自衛隊法の改正案についてであります。
 この案においては、外国における緊急事態に際しての自衛隊による輸送に新たに船舶等の使用と武器の使用が認められようとしております。しかし、国際慣習法やあるいはジュネーブ条約、シカゴ条約などの国際条約によって民間旅客船や旅客機については武力紛争時に保護がされますが、しかし、軍用機などにはその保護の適用がありません。軍用機による民間人の輸送は、非常な危険が伴うわけです。しかも、武器の携行とその使用は危険をさらに増幅させると思われます。
 また、武力を背景にしなければ経済活動あるいはその他の民間交流を進めることのできない国だという印象を国際社会に与えることは、日本に対する信頼を損ね、そしてまた海外の在外邦人の安全をかえって害することになりかねないと思います。本案は、国家と民間の双方のレベルでの外国との平和的な関係を突き崩すものとなる危険性を私は持っていると思います。
 総じて、現在付託されている法案と協定案は、二十一世紀に向けて日本が全世界の諸国民とともに平和的な国際社会を築く上で、礎となるよりもつまずきの石となり、戦後、曲がりなりにも戦争目的の海外派兵をしないことによって築き上げてきた日本への信頼を大きく損なうものであると言わざるを得ません。
 慎重な審議の上、これらをひとまず廃案とし、二十一世紀の平和保障のあり方を、日本国憲法の原点に立ち戻り、国民の英知を結集して構築することを国民代表府たる貴院に求めます。そしてまた、何よりも、二十一世紀を生きる日本と世界の若者たちの未来のための選択を誤ることのないよう求めて、私の参考人としての意見陳述を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 114504963X00619990407_008

発言者: 小沢隆一

speaker_id: 18885

日付: 1999-04-07

院: 衆議院

会議名: 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会