松島悠佐の発言 (日米防衛協力のための指針に関する特別委員会公聴会)

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○松島公述人 私は、元自衛隊の指揮官でございました。そういう立場から、このガイドライン関係法案の審議に当たり、実際に行動を命じられる自衛隊が周辺事態の中で本当に動けるのか、与えられた任務を達成できるのか、こういう観点から意見を申し述べたいと思います。
 論点は二つに絞って申し上げます。一つは、自衛隊の行動上の問題です。ほかの一つは、自衛権の行使についてであります。
 自衛隊の行動上の問題点につきましては、後方地域の定義と指定の問題、それから武器使用の規定の問題、この二つでございます。
 後方地域は、現に戦闘行為が行われておらず、活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがない、そう認識される我が国の周辺の公海とその上空となっております。したがって、後方地域支援においては、武器使用を余儀なくされるような不測の事態も起こらないという前提の内容で法案が書かれております。
 我が国周辺の地域において、我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態が発生し、それを鎮静化するために米軍が作戦し、我が国がそれを支援しているという構図の中で、果たして定義されたような地域が存在するのだろうか、また、それを正しく指定できるのだろうかという疑問があります。
 これまでも時々議論になっておりますように、軍事行動をとっている米軍を支援することは、それが後方地域であっても、武器弾薬以外の輸送、補給であっても、米軍に対する作戦支援に変わりはありません。米軍と交戦中の相手国から見れば、日本も米軍と共同作戦を行っている敵対国であります。これは国際的に見ても軍事的な常識であります。
 したがって、たとえこちらが後方地域の支援であり、将来とも戦闘行為が起こらないだろうと想定しても、不意急襲的な航空攻撃やミサイル攻撃や、あるいは潜水艦によるゲリラ攻撃等、後方攪乱を目的とした攻撃は常に予期しておく必要があります。近代戦におけるこれも軍事的な常識でございます。
 これまでの政府の見解では、将来とも戦闘が起こらない後方地域は存在する、そして区域の指定もできるという判断ですから、本当にそんな地域があるのかないのか、区域指定ができるのかできないのか、これ以上申し上げるつもりはありません。
 ただ、実際の場面で、自衛隊の部隊に後方支援活動を命じ、活動区域を指定するに当たって、本格的な戦闘は起こらない地域であっても、後方攪乱を目的とした不意急襲的な攻撃は常に起こることを予測し、対処できる態勢だけはとらせてやっていただきたいと願うものであります。
 次に、武器の使用ですが、この周辺事態関連法の中では、後方地域捜索救助活動や船舶検査活動並びに邦人救出において、隊員の生命と安全を守るために必要最小限度の武器使用が認められております。しかし、これは、たびたび指摘がありますように、自己防護のための武器使用であり、あくまで個人を対象にした権限の行使であります。しかも、正当防衛、緊急避難以外には人に危害を加えてはならないという縛りがついております。
 これに対して、自衛隊は、常に組織として行動し、任務に従事しております。したがって、隊員個人に与えられる武器使用の権限では、組織として対応することができないというのが現実の問題であります。
 他方、我が方に武力を行使してくる相手は、米国と交戦中の軍隊か、ゲリラ、コマンドー等、いわゆる戦争法規で言う交戦者であり、組織的な戦闘行動を行うことが常態と考えておかなければなりません。
 この戦闘行動として組織的な武力を行使してくる相手に対して、我が方は、個人の権限を基本にした武器使用で、しかも正当防衛、緊急避難以外相手に危害を加えてはならないという権限の行使では、不測の事態に陥り交戦状態になった場合に、自衛隊が一方的な損害を受け、任務達成も不可能になることは必至であります。
 周辺事態における我が国の対処は、戦闘行動を目的としたものではありませんが、いかに後方地域における支援とはいっても、先ほど申し上げましたように、後方攪乱のための不意急襲的な攻撃の危険は常に存在するものであります。自衛のための戦闘は常に予期しておかなければなりません。
 もし、このような不測の事態になった場合には、ごく普通の軍事的常識からいえば、活動中の部隊は、艦艇、航空機を防護するための戦闘を行いながら、与えられた任務を達成しようと努力いたします。しかしながら、本法案では、この軍事的な常識が適用されない状態で自衛隊は活動をしなければなりません。
 したがって、実際の場面で活動を命じる自衛隊には、そのような不意急襲的な攻撃から部隊を守り、任務が達成できるような態勢を準備させ、最小限の自衛戦闘ができるような武力行使の権限を与えるなど、必要な措置をとることが求められてまいります。
 これが、部隊を運用する立場からの本法案に対する要望でございます。
 二つ目の自衛権の行使についてですが、では、どうしてこのような問題が出てきたのかということですが、それは自衛権の解釈の問題だろうと思います。
 申すまでもなく、個別的自衛権は我が国に急迫不正の侵害があった場合に限定されております。集団的自衛権は憲法上行使できないというのが政府の見解であります。このガイドラインの検討においても、この政府見解のもとで、周辺事態において自衛権の行使はできないことを前提としております。
 したがって、周辺事態において活動中の自衛隊に、先ほど申し述べましたような自衛のための戦闘を認可できず、PKO法案と同様に、個人の防護という自然権的な武器使用にとどめざるを得なかったものであります。そのために、活動地域も、この武器使用の権限に照らしてみずから限定し、自衛のための戦闘も起こらないような地域を想定し、後方地域として定義をした、言ってみれば、大変無理な論理構成になっております。
 本来、この周辺事態は、我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態ですから、もし対応を誤ると、我が国にとって大変危険な状態をつくり出すおそれがある事態と認識しておかなければなりません。したがって、これを早く鎮静化し、国益を損なわないようにすることが必要であります。この事態対処は国家防衛のための対処であり、自衛権の行使を前提に考えるべき性格のものではないかと思います。
 ただし、我が国の自衛権の行使には、申すまでもありません、憲法九条の規定からくる制約があります。我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどめるべきであるとする見解をとっています。したがいまして、周辺事態において自衛権を適用するとしても、直接的な武力行使はその範囲を超えるものであり、結局、米軍に依存するしか方法はありません。
 しかしながら、この法案に定められた程度の米軍に対する支援、すなわち、我が国の国益にかかわる事態を鎮静化するために、日米安保にのっとり作戦している米軍に対して、直接戦闘行動に至らない範囲で後方支援に限定して活動することは、国家固有の自己防衛のための機能であって、憲法に違反するような、自衛権を逸脱した行為ではないと思います。少なくとも、自衛隊の実際的な行動、すなわち、戦闘地域とは一線を画した後方地域で捜索救助や後方支援などの活動をしている間に、不意急襲的な攻撃を受けた場合にだけ、みずからの部隊を守り、艦艇や航空機を守るための最小限の自衛戦闘をするというような対応をするわけですから、これは必要最小限度の自衛権の行使であり、憲法に違反するようなものではないと確信いたします。
 法律の専門家でもない私が、このような意見を申し上げるのは適当でないかもしれませんが、例えば、集団的自衛権のうちのごく限られた一部を適用するとか、あるいは個別的自衛権を少し拡大して解釈するとか、いずれにしても、周辺事態検討の根底の問題として、自衛権解釈の見直しと周辺事態における自衛権の適用の是非をまず最初に論議するべきではなかったかと思います。そうすれば、今論点になっていることは全部解決するはずであります。
 すなわち、自衛権に基づく対応であれば、後方地域の定義も、より現実的な表現ができますし、それに対応して自衛隊の武力行使も、国際的な規則と慣例にのっとった、実態に適合したものに規定することができます。この場合、もちろん、国家の決定ですから、国会承認を義務づけるのは当然だと思います。
 他方、原案のように、憲法解釈に関する政府見解を変えないという前提にした場合は、この第十一条に記述された自己防護のための武器使用で対応できる程度の状態で活動するわけですから、これは平素から持っている武器等防護のための武器使用と余り変わらない権限でもあり、活動自体もふだんの災害派遣と余り変わらないような内容となります。当然ながら、国会の承認も必要としないと思われます。
 ただ、先ほども申し上げましたように、周辺事態の対処が本当にそのような安易な状況で終始するのかという疑問が残ります。実際はそのような安易な状態ではなく、いざというときには不測の自衛戦闘を強いられる事態が起こると予測されます。すなわち、政治が決断を避けて通った状態、法律が想定していない状態が起こったときにどうするのでしょうか。
 この法令で申し上げれば、隊員の自己防護のための武器使用では対応できない事態が起こったときにはどうするのでしょう。自己防護の武器使用すら想定していない後方支援活動で部隊が攻撃を受けたらどうするのでしょうか。結局、現場に立たされた指揮官が判断し、処置しなければならないんです。
 このことは、今回のガイドライン法案のみならず、現在の国際貢献活動における武器使用でも同じことであります。幸いにして、カンボジアへの派遣以来、現在のゴラン高原まで、武器使用に至る事態は発生しておりませんが、もしそういう事態が起こったときには、現地に派遣された自衛隊の指揮官は非常に難しい対応を迫られることになると思います。その悩みは、いざというときにかたくなに法を守れば任務が達成できないし、任務を達成しようとすれば法を曲げて対処しなければならないというジレンマであります。こういう最後の判断を現場の指揮官に押しつけてしまっているのが我が国の現状であります。
 シビリアンコントロールの原則は、申すまでもなく、政治判断が軍事判断に優先することであります。政治が判断すべきことを的確に判断し、明確に示してやることによってシビリアンコントロールは初めて正しく機能するものであります。
 そのような観点から本法案を見たときに、果たして正しい政治決断がされているのでしょうか。残念ながら、この法案は、最も安易な状態しか想定しておりません。したがって、これをそのまま履行すれば、不測の事態が起こったときに任務を達成できず、一方的に被害を受けるおそれがあります。つまり、隊員個人の自己防護のための武器使用だけでは、いざというときには隊員に無用の死傷者が出るでしょうし、艦船、航空機などの被害が出て任務達成が困難になる事態が生じます。
 結論を申し上げます。
 非常事態の法令は、最も厳しい状況になったときにどう対応するのかということを示してやることが必要であります。特に、武力行使に至るような事態は、すぐれて政治の判断すべきことであり、政治が決断して示してやるべきであります。
 周辺事態対処の基本は、自衛権に基づく防衛作戦の一環であると考えます。そういう政治判断のもとに、国益を守り、国の平和と安全が本当に保てるような、そしてそのために現場で任に当たる自衛官が迷うことなく十分にその使命を果たせるような法案をぜひつくっていただきたいと思います。かつて自衛隊に奉職し、国防の任についていた者の一人として、心からお願いを申し上げ、意見の陳述にいたします。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 114504964X00119990421_008

発言者: 松島悠佐

speaker_id: 5760

日付: 1999-04-21

院: 衆議院

会議名: 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会公聴会