逢見直人の発言 (法務委員会)
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○逢見参考人 おはようございます。連合で政策委員をしております逢見でございます。
司法制度改革審議会設置法案並びに本法案が目的とする司法制度改革について意見を申し述べます。お手元に資料を配付してございますので、それを参照しながら聞いていただきたいと思います。
まず、司法制度改革についての基本的な考え方でありますが、連合も、二十一世紀の日本を公正で活力のある社会とするためには、司法制度の拡充強化が必要であると考えております。
現在の司法制度は、残念ながら、国民の期待に十分にこたえているとは言えません。司法は社会の紛争を解決する機能を本来持っているはずですが、裁判が余りに長くかかり過ぎたり、費用が幾らかかるかわからないとか、行政機関が決めたことを不服だとして裁判に訴えても、裁判所はしょせん行政に甘いので、泣き寝入りするしかないのではないかといった問題を抱えており、制度改革は急務であると思います。
その意味で、今回の法律案は目的においては賛同すべきものであり、司法制度全般について、国民各層の参加を得て抜本改革を推進すべきであると考えます。
私は労働組合の役員として労働問題に携わっておりますが、ここで私は、セーフティーネットとしての司法の役割を強調したいと思います。
近年、経済のグローバル化、規制緩和の進展に伴い、企業や個人は、自己責任を原則として、透明なルールに従って行動することが求められるようになっております。この流れは否定できませんが、自己責任の徹底を叫ぶだけで、セーフティーネット、すなわち安全網の張りかえがなければ、個人や企業の不安が募るだけの社会になりかねません。
幾つかの例を申し上げます。
お手元に資料を配付してございますが、図一は、企業倒産件数、負債、倒産率の推移を見たものであります。
このグラフを見ていただきますとわかりますように、バブル崩壊後、企業倒産件数は増加の一途をたどっております。企業倒産には、任意整理など裁判所を通さないものもありますが、破産、和議、会社更生など裁判所の手続を通すものもふえております。企業倒産事件は、債権者の利害調整など複雑な問題もありますが、一方で、そこで働く従業員の立場からは、未払い賃金など労働債権の処理は早く進めてほしいのであります。
しかし、これは企業倒産法制の問題もあり、これにつきましては別途法制審議会で見直しの作業が進められておりますが、法曹人口の不足もまた大きな問題でございます。弁護士などが一部大都市に偏在しており、地方の中小企業の倒産事件などは、依頼する弁護士が非常に不足しているということから、スピーディーな解決が図れないという問題も生じております。
司法試験合格者の増加による法曹人口の増大を図る必要がありますが、それだけではなく、裁判官の任用についても、今日の経済社会問題を理解できる人を幅広く検討すべきでありますし、また、弁護士と公認会計士、税理士、弁理士、司法書士など、法律サービスと関連サービスを一体として提供できる総合的法律経済事務所を早期に認めるべきであります。
また、労働債権の先取特権を行使するための裁判所に対する差し押さえ手続の申立代理人などは、事態によっては大変急を要するものであり、弁護士以外に、例えば社会保険労務士でありますとか労働組合の専従役員を十年以上経験した者などにも認めるべきであります。
次に、個別的労使紛争の増加という問題に触れたいと思います。
近年、労使関係の安定により、労働争議や集団的労使紛争は減少傾向にありますが、個別的な雇用関係から生じる賃金、退職金、解雇、雇いどめ、配転、出向、労働条件の不利益変更などをめぐる事件や労働相談は増加傾向にあります。
お手元の資料の図二、これは裁判所で受理した労働関係事件の推移を見たものでありますが、これもまたバブル崩壊後の平成四年から急増傾向にあります。その多くは雇用関係の存否にかかわるもので、バブル破綻後の経済環境や雇用環境の悪化がこうした個別紛争の増加をもたらしたものと推察できます。雇用関係の存否などは労働者個人の生活にかかわるものであり、事件処理の長期化は避けるべきであります。
これは最近、新聞記事になった事件ですが、大手タイヤメーカーのブリヂストンの社長室で、リストラがきつ過ぎると、元社員が包丁で自殺するという事件がありました。自殺に至る前に、この訴えを聞いてあげる仕組みができなかったのかという思いを強くいたします。これなども、セーフティーネットが不十分であったために起こった不幸な事件と言えます。自己責任では片づけられない問題だと思います。
ところが、昨年の国会で司法試験法の改正が行われ、ここで法律選択科目が廃止され、労働法が司法試験からなくなってしまうということになりました。平成十二年の司法試験合格者からは、労働法を全く知らない弁護士や裁判官が生まれてくることになります。
労働法は、雇用労働者の働き方や生活を規律する重要な法律であるとともに、企業経営のあり方も規制する法律であります。実際、労働法は、採用から配置、賃金等の処遇、労働時間、人事異動、教育訓練、退職などのすべての働き方にかかわる法律であり、さらに、派遣、パートといった多様化する就業形態にも法的な整備がなされてきました。
労使紛争は、当事者で解決がつかない場合には、労働委員会や裁判所など第三者機関に解決をゆだねることになりますが、労働法を学んでいない法曹関係者が今後こうした問題の処理に当たることにつきまして一抹の不安を感じざるを得ません。
労働法については、司法試験の選択科目とすべきであります。しかし、平成十二年の司法試験には当座間に合いませんので、当面は司法研修の中で労働法のウエートを高めることを求めたいと思います。
お手元の表二は、諸外国の個別労使紛争処理システムを見たものですが、欧州では労働審判所ないし労働裁判所など、労働契約や労働協約などの紛争を処理するシステムが整備されていることがわかります。
日本においても個別労使紛争が増加したことは前述のとおりでございます。その内容を東京都の労政事務所に相談された項目で見ますと、これは前のページの表の一になりますが、解雇をめぐるトラブルが最も多いということがわかります。
個別的労使紛争については、裁判所において権利義務の判定や和解を行うほか、行政機関である労政事務所あるいは労働基準監督署、都道府県の女性少年室、さらに弁護士団体や私ども連合など労働団体が行う相談活動なども行っております。
しかし、総合的に見て、今後増加して複雑化していくと予想される個別的労使紛争処理システムが我が国において整備されているとは言えません。とりわけ司法分野での整備がおくれております。労働事件は権利紛争と利益紛争の両面を持ったものが多く、民事調停ではその機能が制限されております。しかし、これを裁判に持ち込むとなると、損害賠償請求額が少額であったり、裁判が長期化すると、事実上権利の回復がなされないなど、泣き寝入りせざるを得ないというのが実態であります。
市民が普通の言葉で相談し、紛争を即時に解決してもらえるシステムを、我が国においても欧州の労働裁判所などの例を参考にして整備すべきであります。
最後に、司法のあり方について一言申し述べたいと思います。
司法が果たす役割には法秩序の維持があります。これは法を犯した者に対して刑罰を科すということで、もちろんこうした法秩序の維持は重要なことでありますが、もう一つは、市民が法で保障されている権利を擁護して、何か問題があったときにその権利がいつでも行使できる、それを保障するのが司法の役割であると思います。
この後者の役割について、裁判所は今まではっきりした姿勢を示してこなかったのではないかと思います。裁判所は、一般市民にとって近寄りがたい、怖いところといったイメージになっているのではないでしょうか。裁判所のこうしたイメージの払拭が必要であります。裁判所は、市民が安心して暮らせるための法の番人であり、たとえ相手が行政であっても、市民が法によって保障されている権利を不当に侵している場合には、裁判所がきちんと判断を示すことが期待されていると思うのであります。
繰り返しになりますが、自己責任の社会、公正、透明なルールで運営する社会には、セーフティーネットとしての紛争処理システムが不可欠であり、相対的弱者である市民が泣き寝入りするということを放置しておくべきではありません。
司法制度改革審議会におきましては、国民各層の参加によって、二十一世紀のあるべき司法の姿、すなわち、基本理念がきちんと示されて、その合意の上に改革の設計図が描かれることを期待して、私の意見といたします。ありがとうございました。(拍手)