大淵寛の発言 (国民生活・経済に関する調査会)
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○参考人(大淵寛君) 中央大学の大淵です。御指名ですので、意見を申し上げます。
時間が限られておりますので、お手元にお配りいたしました資料のすべてにわたってこの時間内にお話しすることはできませんので、かいつまんで要点のみお話しいたしまして、それ以外の点については後ほど質疑の中でお話しいたしたいと思います。
まず、今問題になっております少子化ということの意味について少しく申し上げておきたいと思います。
少子化と申しますのは、一般的には出生率あるいは出生数の減少あるいは低下を意味することが多いのでありますが、多少専門的に申しますと、人口置きかえ水準以下への出生率の低下をいうというのが正確な意味合いであります。
この置きかえ水準と申しますのは、お手元の資料の一ページ目、図表1に図を挙げておきましたけれども、ある死亡率のもとで人口を増減のない状態に保つのに必要な出生率のことをいいます。
いわゆる合計特殊出生率、私はもう合計出生率と申しておりますが、これで表現いたしますと、現在の日本における死亡確率のもとで二・〇七に相当いたします。合計出生率といいますのは、一人の女性が生涯に産む平均的な子供数と近似的に言われているものであります。
少子化は、一九七〇年代の半ば、第一次石油危機後の低成長への転換と軌を一にして始まりまして、既に四半世紀を経過しております。したがいまして、少子化の人口的な影響は年齢で申しますと二十歳代の半ばまで及んでおりまして、若年層の人口は確実に減少を続けております。しかし、二十代半ば以上の人口は過去の比較的に高い出生率のために増加しておりまして、そのため全体としての日本人口は今なお若干の増加を続けております。
このように、少子化、つまり置きかえ水準以下の低出生率が四半世紀も続いているにもかかわらず日本人口はまだ減少しておりません。これは、人口増加に惰性、惰力とか慣性とも申しますが、これが働いているためでありますが、やがてその惰性も消滅して日本人口は減少局面を迎えるのであります。
少子化の人口的な帰結の第一はこのように人口の減少であります。これは図表3にありますとおり、国立社会保障・人口問題研究所、略して社人研と言っておりますが、この社人研の一九九七年の推計によりますと、日本人口のピークは二〇〇七年で、十年足らずでピークを迎え、その後持続的な減少が始まります。人口減少にも惰性が働きますので、出生率が近い将来に置きかえ水準を回復しそれを上回っても人口が反転増加するということはすぐにはないわけで、少なくとも数十年はかかるわけであります。したがって、現状では日本人口が二十一世紀を通じて減少し続ける、あるいは二十二世紀に入っても減少し続けるということはかなりの確度を持って言えるわけであります。
もう一つ、少子化がもたらす人口的な帰結は人口の高齢化であります。これは図表2と4にありますが、世界一のスピードで、しかも世界で最も高水準の高齢化が二十一世紀に到来することをその図表2などはよく示しております。
さて、図表1の一番最後の時点は一九九七年でありますが、このときの合計出生率は御承知のとおり史上最低の一・三九という水準でありました。昨年の数字はまだ発表されておりませんが、ほぼそれと同水準であると推定されます。戦前水準は合計出生率にして四から五の間でありました。戦後のベビーブーム時も同様であります。この一・三九というのはその三分の一かそれ以下であり、置きかえ水準の三分の二に相当いたします。
これが将来不変のまま続きますとどうなるか。五十一年、およそ半世紀で半減いたします。そして、百六十九年で十分の一になります。したがって、それが続きますと、およそ五百年で千分の一、千年で百万分の一になります。つまり、現在一億二千六百万の日本人口がわずか千年でおよそ百五十人ほどに減少してしまうわけであります。事実上、日本人は地球上から姿を消します。それほどに現在の日本の出生率は低いということでありまして、これはもちろん計算上のことではありますけれども、この低出生率の持続は日本の国と民族の生存にかかわる重大問題であると私は認識すべきだと考えております。
さて、この少子化の要因でありますが、これは人口学的には女性の晩婚化が唯一の要因だということがわかっております。
日本における出産の九九%が結婚の中で起こっております。逆に言えば、いわゆる婚外子はわずか一%にとどまっております。つまり、日本人は結婚しなければ子供を産まないわけであります。結婚が遅いために出産が遅くなる、晩婚化が晩産化を生み、それが少子化につながっているというのが現在の構図であります。結婚した女性の子供の産み方はほぼ一貫して変わっておりません。したがって、少子化というのはやや厳密さを欠くものでありまして、晩婚化が平均的な子供数を減らしているというのが実態であります。
さて、この少子化がどのような影響をもたらすか、これを若干経済的な側面から申し上げたいと思います。
まず、経済成長に対する影響でありますが、経済成長の要因は大きく分けて供給面と需要面に分かれます。
まず、供給面への影響として、労働供給、これは来世紀早々から減少を開始いたします。図表5と6に示されておりますが、その減少とともに女性化、高齢化も進展いたします。第二に資本供給、これは国内貯蓄が主な源泉でありますが、これも将来的には減少するであろう。当面は私の推定では減少しないということになっておりますけれども、将来はそうはいかない。資本供給も減少に転ずるだろうと思っております。第三に技術進歩でありますが、高齢化は特に技術の開発、応用、利用等に不利な影響を及ぼします。このように、成長要因のうち供給面ではいずれもマイナスの効果を持つと考えられます。
他方、需要面への影響でありますが、まず消費需要であります。人口の減少は、これは明白に市場規模を縮小いたします。これは図表8に示されております。また、投資需要は、消費の伸び悩みによって企業家の投資意欲がそがれることにより、これも減少いたします。現在の不況がこの要因によって起こっていることは御承知のとおりであります。
以上二つの側面は、いずれも国内的な要因でありまして、海外との関係を考慮しておりません。そこで、輸入輸出あるいは公的部門などを考えてみますと、労働供給については例えば外国人労働者を受け入れればいいではないかという考え方もありますが、これは景気のショックアブソーバーになりやすいこと、文化的な摩擦や犯罪の増大などを引き起こしかねないことなど問題も数多くあります。また、外資導入、資本の不足を外資によって補う、あるいは国内的な技術開発のおくれを技術導入によって賄うということも不安定要因につながる要素であります。また、国内需要の減少を輸出によって補うとすれば、これは直ちに貿易摩擦を引き起こすことになります。
したがいまして、国内的には低成長とはいえ十分な豊かさを保持するであろうと私は考えております。図表の9と10にそれが示されておりますが、したがってこれ以上それほど急速な成長を望む必要は少ないのではないか。他方、国際的には、日本は世界経済の牽引車的な役割を期待され、また内需主導型の経済成長を要請されておりますので、こうした国内外のジレンマが今後ますます難しい問題を引き起こすであろうと考えられるわけであります。
それから、社会保障に対する影響でありますが、急速な高齢化はよく知られているように年金、医療を中心に社会保障財政を破綻に導きます。これは図表11、12に示されます。また、医療、保健、福祉、介護需要の急増の一方でマンパワーの不足が激化するであろうことが懸念されます。これは図表13と14に推計が行われております。このような負の影響が非常に大きいであろうと思われますが、持続的な人口減少と急速な高齢化が今や不可避でありますから、これにどう対応するかということが次の大きな課題になります。
現在の経済社会システムはすべて過去の右肩上がりの時代に適合したものでありますが、来世紀の日本は近代化に入って初めて右肩下がりの時代を迎えます。異なるシステムを必要とするようになるわけであります。ここにいわゆる構造改革、構造調整、構造転換といったことが問題になります。行財政のスリム化、地方分権化、規制緩和、民間活力の活用といったこと、また新規産業、例えば情報、バイオ、シルバーなどの育成や高度情報化の促進、日本型雇用慣行の見直しや雇用形態の多様化、女性、高齢者、外国人労働者の活用、労働力の質的向上と流動化、技術開発の促進や国際競争力の強化といったことがこの人口減少社会への適応策として強く求められるのであります。
しかし、このような人口減少と高齢化に対応する構造調整だけでは実は不十分なのであります。現在の出生率は先ほど申し上げたとおり余りに低過ぎますので、やはりある程度は引き上げざるを得ないのであります。長期的には国家、民族の存亡にかかわる大問題だということもありますけれども、中期的にも出生率の回復が人口減少と高齢化の速度を緩める効果を持つからであります。人口減少にも惰性が働きますので出生率の回復が直ちに人口を制止させる、あるいは増加に結びつくわけではありませんが、若年労働力の補給、年金、医療財政の改善、消費需要の拡大などに貢献することが期待されます。
ただ、出生率の回復が必要だといっても、第二次大戦中のように産めよふやせよというのは余りに時代錯誤であります。民主国家日本として現在なし得ることは、産みたいけれども経済的その他の理由から欲するだけの子供を持てないでいる人々の制約条件を取り除くこと、つまり環境整備、障害の除去によってそれを改善する、そこに立法、行政の重要な役割があるであろう。
最後に、少子化対策について若干申し上げますと、もう時間がありませんのでこの表を後でごらんいただきたいのでありますが、五ページ、六ページにありますように大きくは制度改革と意識改革とに分かれる。制度だけを変えても、人の意識をきちっと改革していかなければやはりこの問題は解決しないであろうということを申し上げて、私の意見をとりあえず終わりといたします。
以上でございます。