山田昌弘の発言 (国民生活・経済に関する調査会)

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○参考人(山田昌弘君) 今御紹介にあずかりました東京学芸大学助教授の山田昌弘と申します。こういうところは初めてで非常に緊張しておりますので、もしかしたら失礼な発言をするかと思いますが、その際は御容赦ください。
 私がこういう場に呼ばれた理由というのは多分二点あると思います。一つは、私は現在四十一歳でございます。多分、若い人の意識や実態というものを調査等で知り得る立場だということが第一点だと思います。第二点は、私は社会学というのをやっておりまして、もともと家族の愛情とお金の関係について研究してきたものでございます。そのために、経済的な要因と心理的な要因の二つを絡めて考えることが必要なのではないかという点からもしかしたら貢献できるのかもしれません。
 きょうは「非婚化・晩婚化の経済的、社会的、心理的要因について」ということで、いわゆる少子化に係る非婚化、晩婚化、つまり結婚しない人がふえているというところに関する私の見解を述べさせていただきたいと思います。
 レジュメに従って御報告させていただきます。
 まず、未婚化、晩婚化の実態なのですが、少子化の直接要因の一つがいわゆる未婚化、晩婚化、つまり結婚をおくらせる人、しない人がふえているということであることは皆さん御存じの人も多いかと思いますが、実はその実態についてはかなり誤解が多いところがあります。
 まず第一点としては、日本の未婚者の大部分は親と同居している未婚者ということです。
 未婚者、結婚していない人、独身者というと普通はひとり暮らしを想像しますが、実はこれは日本だけの特徴でございます。二十歳から三十四歳の未婚者のうち、いわゆる結婚適齢期と言われる未婚者のうち、男性約六割、女性約八割が親同居未婚者です。その割合は近年増大しています。別冊の図表の方とあわせて見ていただけるとわかりやすいと思うのですが、図1に示しました。そして、私はこれをパラサイト・シングル、親に寄生して生きるシングルというふうに二年前に名づけたんですけれども、つまり親の豊かさに支えられてリッチな生活をしている人が非常に多い層なわけです。
 第二番目としては、いわゆる未婚にとどまる男女の属性が異なっていて、その両者が結婚する確率は非常に低いのではないかというふうに予測されるわけです。つまり、結婚難に陥っている人の属性は男女で非常に異なっています。
 まず、女性から先にいいますと、女性では、父親の経済力が高く親と同居する専業主婦志向の女性がむしろ結婚難に陥っているのではないかと私は推定します。キャリア志向、つまり仕事をしたいから結婚しないという人は確かにいるんですけれども、私の調査などでは、結婚をあきらめてまでしたい仕事をする、しているというふうに言う女性というのはむしろ非常に少なかったと分析しております。ということはどういうことかというと、結婚して主婦となったときに今の生活よりも低くなるような結婚はしない、そして苦労してまで両立させたいと思う仕事をしたいと思っている女性は少ないわけです。つまり、多くの女性は周縁労働をしているのであって、仕事が夢で、それで結婚しないという女性はむしろ少数派だと私は思います。
 男性の方は、むしろ経済力に自信のない男性に結婚難が起こっています。つまり、豊かな生活を一人の収入で支える自信のない男性というのは結婚をためらうそうです。
 結婚には相手がいます。つまり、自分がいいといっても相手がオーケーしなければだめですし、相手がいいといっても自分が嫌だといえば結婚は成り立たないわけです。つまり、男女において、結婚していない人の間でそういう意味での構造的ミスマッチが起こっているというところをまず事実として認識しなくてはいけないと思います。
 三番目は、経済の低成長化というところです。
 私は、女性の職場進出というものは未婚化の原因ではなくて結果であると解釈しております。図4を見ていただくとわかると思いますが、オイルショック以降、これは経済成長率と平均初婚年齢の経年変化を見てきたものですけれども、いわゆる高度成長時代は平均初婚年齢が低かった。しかし、オイルショック後、経済成長が鈍化するとともに男女とも平均初婚年齢の上昇が始まっております。
 次に、二番目として、未婚化、晩婚化の原因について述べさせていただきたいと思います。
 この実態を踏まえますと、未婚化、晩婚化、少子化の原因というのは三つに整理できると思います。
 一つは、息子や娘に苦労をさせたくないという親、子供のためにという意識が非常に強いところだと思います。つまり、子供のためにという意識は二通りの回路で未婚化、少子化をもたらします。
 まず一つは、いわゆるパラサイト・シングルをつくり出す。今言ったように、親が子供を自分のところに同居させ続けるという状況をつくり出すことです。つまり、結婚して独立した生活をすると生活水準が落ちるから結婚をおくらせます。女性は、男性もそうなんですけれども、親が基本的生活を保証してくれるから結婚しなくてもやっていけるわけです。つまり、女性は、社会進出が起こってひとりでもやっていけるから結婚をしないのではなくて、親元に住んでいて、親の不動産を相続できて、とりあえず親が家事をやってくれるとか、そういうふうにいい生活をしているからなかなか結婚をしないと私は分析いたします。
 逆に、欧米で結婚が多いのは、欧米は成人すれば親の家から追い出されてひとり暮らしが求められます。そうすると、結婚なり同棲なりを行ってカップルが一緒に住むことを選択し、一緒に住み始めると子供が産まれるという形になっていると思います。
 第二番目には、経済力がないと結婚し子供をつくることをためらうという傾向が非常に強いわけです。つまり、子供は自分が育った以上の豊かな環境で育てたいという意識が今の若者に強いわけです。今の二十代、三十代の若者というのは豊かな親のもとで育っていますから、自分は個室を与えられたとか、ピアノとかスポーツ教室に通わせてもらったというふうに、親からたくさんのいろいろなことを受けているわけです。それで、いざ自分が子供を産んだ際、親の収入が少ないと子供がかわいそうだとか、三歳まで専業主婦でいなければ子供がかわいそうだという意識が強過ぎるがゆえに子供を産むのをためらったり子供の数を少なくしたりするわけです。
 また、将来においては、高い大学の授業料を親が負担しているのは日本のみでございます。御存じのように、ヨーロッパは国が出していますし、アメリカは高い授業料を自分の働きやアルバイトや将来への奨学金で負担しております。つまり、高校を出れば、子供が独立して、別のところにやって、高等教育の費用も負担しないというふうな欧米であれば子供を産んでも将来の負担にはならないんですけれども、日本は、大学教育の費用どころか、結婚式やらそういう費用さえも親が負担しようとする意識が逆に子供の数を減らす要因になっているわけです。多分、韓国で今少子化が急速に進行しているというのは、日本と同じように、子供のために親は何でもするべきだという意識が強いところから来ているんだと私は判断いたします。
 第二番目には、専業主婦志向の強さです。
 ここで専業主婦志向と一応言いましたけれども、経済的に言えば、専業主婦とは夫の経済力に自分の生活水準が連動する存在というふうに私は定義しております。例えば、パートで年百万円稼いだところでそれほど収入、いわゆる生活の足しにしかならないわけで、つまり自分が生活水準を決められるのではなくて、例えば夫の収入が余りなければそこそこの生活、高ければ高い生活ができる存在であるわけです。つまり、同じ家事をするのでしたら夫の収入は高い方がいいわけです。
 となると、男女の相手の選び方というのは、やはり今でも違っております。つまり、女性にとって結婚というのは一種の生まれ変わりとなります。生まれ変わりというのは、親の家の経済水準から夫の家の経済水準へという形での移行なわけです。となりますと、女性はどうしても経済力のつきそうな夫を求める傾向が今でも非常に強く残っています。親の方も経済力の見通しがない男性との結婚には反対いたします。つまり、現在、低成長化になりまして、自分の父親よりも、もちろん今とは言いませんが、収入が高くなりそうな男性がなかなか見つからない状況に今あるというところが女性の結婚難なわけです。
 男性の方は、私は幾つか調査をいたしましたが、妻子を養って豊かな生活が送れるほどの収入になるまで結婚をおくらそうとする傾向があります。つまり、家事を手伝えと言われるような女性は嫌いだとか、育児を要求されるなら子供は要らないといったように、ただ単に男性が育児を手伝えば子供を産むかといったら、またそれは別の問題だと、もちろんそれは必要なことなんですけれども、それはまた別の問題だと私は思っております。
 そして、経済の低成長化が加わりまして、子供のためにという志向が非常に強過ぎること、専業主婦志向が非常に強過ぎること、そしてそれに経済の低成長化という条件が重なって、その組み合わせが日本における未婚化、少子化をもたらしたというふうに私は思っています。
 つまり、若い人は親元で豊かな生活を送っているわけです。そして、若い男性の収入では専業主婦のまま豊かな生活は送れない経済状況になっているわけです。すると、生活水準が高い豊かな生活をしているのに、結婚をしてわざわざ苦労して子供を育てるというような生活をしたくないというような若者の意識が結婚をためらわせているわけです。
 時間がないので三番に行かせていただきます。
 これを戦後の歴史に照らし合わせてみますと、経済の高度成長期、いわゆる一九五五年から一九七三年までは非常に結婚は容易でした。
 それは第一に、親が余り豊かでなかったからです。つまり、親元にいても余り生活は豊かでないし、地方から都会に出てきてひとり暮らしで生活が豊かではない。そうしますと、結婚しても生活水準が落ちなかったわけです。つまり、結婚をすれば生活水準が上昇する期待が持てた時代に高度成長はあったわけです。
 第二番目には、戦後の日本の高度成長期は専業主婦が普及した時代でございます。つまり、戦前までは農業社会でしたので、女性は皆外で農作業、自営業等で働いていました。そして、サラリーマン化が起こった時期に、農作業などで働かなくてもよい専業主婦になることは高度成長期の若い女性にとって夢で、あこがれであったわけです。そして、父親以上に経済力がつきそうな夫が容易に見つかったという点も大きいと思います。
 三番目に、もちろん経済の高度成長という条件が多いと思います。結婚して若いうちは貧しくても、徐々に社会が豊かになっていく、つまり若い男性の収入が上昇しましたので、今貧しくても将来の家庭生活に夢を見ることができた時代だということがあります。つまり、結婚や子育てが夢であったのは、結婚前の生活が貧しく、社会が豊かになりつつある時期だったからです。
 一九七〇年代の半ば、つまり経済の低成長化とともに一億総中流化が起きて、そこそこ豊かな社会が実現しました。年功序列も完成し、親の代の収入は高くなり、若者の収入が低くなりました。そして、都会で豊かに育った子、つまりサラリーマン・専業主婦の子が成長して結婚適齢期に達したときに未婚化が起きたわけです。つまり、若い男性一人の給料では結婚して専業主婦のまま豊かな生活を維持することができなくなった、そのために日本では未婚化、晩婚化が起きたと考えられます。つまり、男性の収入が高くなるまで親と同居して待つということが行われているわけです。
 欧米でも、一九六〇年代まではサラリーマン・専業主婦が主流でした。欧米で異なっていたのは、一九七〇年代の不況のときに専業主婦のままでは生活できない事態になったんですけれども、親からの独立を求められていましたので、男女二人の収入を合わせないとそこそこ豊かな生活は送れないということを覚悟したわけです。そのために、特にアメリカ、イギリス、北欧といった諸国では少子化というものは日本に比べれば影響は少なかったと考えられます。
 そこに「日本との違い」と書きましたけれども、子供は成人したら親から独立するという自立意識、そして女性労働が周縁労働ではなくて男性と対等に近い収入が得られた、この二つの条件があったために欧米では夫婦二人の収入で生活を支え、そこそこの豊かさの中子供を育てるということが実現したんだと思います。
 しかし、日本ではそうはなりませんでした。それは先ほど言ったように、パラサイト・シングル化ということが起きてきたからです。
 五ページの四番のところに移ってください。そして、図7というのをごらんください。
 その親同居未婚者というのは今、日本で一番豊かな層になっております。今、日本で一番豊かで小遣いを持っている層は何かといったら、親と同居している未婚者なのです。これは世論調査から出たものですけれども、一九九七年末のデータですけれども、生活に対する満足度で一番高いのは二十代女性、詳しいデータは私はもちろん手に入れられませんが、それも多分未婚女性がこれを高めているんだと思います。去年と比べた生活の向上感においても、この不況の中、五十代、六十代が低下していると答える中、唯一二十代若者、特に女性に向上している人が多くなっているわけです。
 私はそういう目的で親と同居する未婚者をここ数年間調査しているわけですけれども、同居の親に払うお金というのはせいぜい月に一万円から三万円。もちろん収入は働いて四、五年たてば手取りで十五万とかになりますので、つまり自由に使える小遣いが十万以上という人が、特に若い女性にざらにいるわけです。
 図8を見てください。
 さらに、未婚社会人の自由に使える小遣い額ですけれども、男性は六・九万円、女性は八万円。これが結婚すると同時に男性三・九万円、女性三・一万円に落ちてしまうわけです。そして、家事は事実上専業主婦の母親がやってくれています。私の調査でも、男性も女性も同じように親と同居する未婚者、働いている未婚者の八割はほとんど全く家事を行っていません。私がある調査をしたところ、未婚者は男性の方が家事をやっているという調査結果が出ました。それはなぜかといえば、男性の方がひとり暮らしをしている割合が多いので、結果的に男性の方が家事をやっている人が多くなってしまうわけです。
 これは実は経済的な影響もかなり及んでいると思います。つまり、パラサイト・シングル、いわゆる親と同居する未婚者で生活を親に支えてもらっている未婚者というものは、ぜいたく品消費やレジャーはするけれども、基礎的な消費はしません。親元に同居する限り住宅費、光熱費は要らないし、家電製品も共有できます。気に入ったものだけを消費して、好きな仕事だけをするという状況、親が生活を支えているからそういう状況にいるわけです。
 そして、この量を計算して私も驚いたのですが、二十歳から三十五歳まで人口は約二千五百万人います。そのうち親と同居する未婚者は男女五百万人ずつ、一千万人いるわけです。これほどの親同居未婚者がいる社会は史上世界的に初めてだと思います。この彼らがひとり暮らしを始めたり結婚して新たな世帯を持てば、住宅、家具とか家電製品とか需要が喚起されます。親元にとどまって生活する限りこれらの消費はふえないわけです。
 つまり、私は経済学においては素人なのですが、素人の目から見ても、いわゆる世帯分離が思ったように進まないことが日本社会の経済の有効需要というのを減退させています。もちろん、バブル期は買いかえ需要は喚起されますが、例えば一千万人の親元同居未婚者のうちの一割が独立してひとり暮らしを始めただけで住宅百万戸の需要が、アパート百万戸の需要が出ますし、その一割が結婚しただけで五十万戸の新居の需要が出るわけです。
 では、これが将来どうなるかというと、パラサイト・シングルの不良債権化と私は名づけたのですが、女性はいつか相対的に収入が高い男性があらわれて豊かな専業主婦生活が送れるという夢を抱いています。しかし、経済力に自信のない男性は、いつか収入が高くなって専業主婦を養い子供を豊かな環境で育てることができるという夢を抱いています。これが破綻するのは目に見えています。
 もう時間がなくなりましたので、「有効な少子化対策とは」というところで、私が思いつくことは余りないのですが、荒唐無稽というふうに笑われるかもしれませんが、三つのことを一応意見として述べたいと思います。
 一つは、成人した若者、特に娘なんですけれども、親から独立させるということ。そのためには、もちろん若者の自立支援の政策、つまり親に頼らなくてもそこそこ豊かな生活を送れるようにする、ひとり暮らしの若者や若いカップルを支援するということ、給与の年功序列をやめ、若者に手厚い配分、親から独立しながら自分の能力をつけられるシステムといったものが必要ではないかと思います。
 二番目は、多分実現は不可能だと思いますが、私はある雑誌で親同居税を提案したら、多分不可能だろうというふうに言われたんですけれども、親の経済負担を贈与とみなして贈与税をかけるということがもし可能なら対策にはなるのかなという気はいたしております。
 二番目には、専業主婦体制のリストラクチャリング、つまり夫婦二人で働いて、家事、育児を分担して、そこそこ豊かに生活できるシステムをつくる。これは多分舩橋先生の方から詳しく述べていただけると思いますので、詳しくは省略いたします。
 三番目は、「結婚、子育ては現実、各自が各自の夢を見つける社会へ」と書きましたが、最近、結婚、子育てに夢をというような言葉が躍っておりますが、私は、むしろ夢がないから結婚しないのではなくて、非現実的な夢、女性だったらいつか収入の高い彼があらわれて私を専業主婦にして豊かな生活になれるんじゃないか、男性でしたらいつか収入が高くなって専業主婦が得られるんじゃないかという夢を見続けているからこそ結婚をためらっているんではないかという気がいたします。
 どうも長い間ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 山田昌弘

speaker_id: 27219

日付: 1999-04-16

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済に関する調査会