森本敏の発言 (日米防衛協力のための指針に関する特別委員会)
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○参考人(森本敏君) 本日は、当特別委員会にお招きをいただき、大変光栄に思います。また、お礼も申し上げたいと思います。
本日は、当特別委員会において御審議いただいているガイドライン関係法、とりわけ周辺事態安全確保法について、参考人として所見を申し上げたいと思います。
御案内のとおり、我々は現在冷戦後の世界に住んでおりますが、冷戦期に構築をした同盟関係を冷戦後の世界にどのようにして役立てるのか、同盟の意義とは何であるのかということについて、九二年から九四年ぐらいまで随分と関係諸国で審議も行われ、議論も行われたと考えています。大体九四年の末ごろまでに、冷戦時代に構築した同盟をどのようにするのかということについては、冷戦期に築き上げた同盟をいわばもう一度冷戦後の安全保障環境の中で再構築をして、できれば強化をして、新しい国際秩序ができるまでの間、これで切り抜けていくという考え方についてコンセンサスが得られたのではないかと思います。
それが欧州においてはNATOのパートナーシップ・フォー・ピース、やがてそれはNATOの東方拡大、そして現在のユーゴ作戦といった、同盟が生き残りを図るための熾烈な作戦を行っていると考えていいと思います。
一方、ヨーロッパのもう一つの正面であるアジア太平洋においては、ソ連の崩壊はもちろん、旧ソ連軍の軍事的な脅威のいわば劇的な低下という安全保障環境の変化を招きましたが、依然として南シナ海あるいは朝鮮半島、中国と台湾の関係、その他この地域における非常に不安定な状況にどのように対応していくのかということについて日米間で同盟の再定義の作業が行われ、その結果が一九九四年の四月、日米共同宣言という形で作業の結論が出たことは御案内のとおりであると思います。
この共同宣言に基づいて、いわばガイドラインの見直し、あるいは沖縄問題の解決、あるいはTMDの共同研究等いろいろな課題に日米両国で取り組むことになりました。とりわけこのガイドラインというのは、今後のアジア太平洋における不安定な状況に、日米が冷戦期に構築をした同盟をもう一度再構築をして、いわば強化をできるだけして、日米防衛協力をいろいろな分野においてもう一度見直し、必要なことを、やるべきことをやるという、つまり日米両方がお互いに何をすべきなのかということの分野と程度を明らかにすることによって、今後アジア太平洋における同盟を強化するというプロセスを我々は踏んでいるのではないかと思います。
その意味において、このガイドラインに基づく必要な法整備というものは、今後アジア太平洋において日米同盟が強化され、そしてこの日米同盟を軸としてこの地域の平和と安定を維持するために不可欠の作業であると考えます。その意味において、この二年の間、国会や各政党を通じて御議論いただいた成果は大変重要なプロセスであり、できるだけ速やかにこのガイドライン関係法を国会で御採決いただき、これを実施に運ぶためのいろいろなプロセスを今後進める必要があると考えます。
しかるに、一方、日本の国内を見ますと、日本の国民は何かしらの非常に不安感に今取りつかれていると思います。この数年、我々が経験した今までにないいろいろな事件や事案というものは、何かしら日本の周辺あるいは日本の国内における不安定な状況に、国民の平和だとか安定というものが維持できるのかどうかということについて素朴な疑問が国民の中に出ていると思います。その意味において、このガイドラインはいわば国内法でありますが、これをめぐる議論は、さきの大戦以後国内に全く見られなかった新しい安全保障論議を沸き起こしておると思います。
昨年四月の末、現在の法案の原案が閣議で了承され、一年にわたって国内で議論しているわけですが、この一年は決してむだな一年ではなく、今後我が国が必要な安全保障政策を進めていく上において非常に大事な、かつどうしても通らなければならなかった重要なプロセスであったのではないかと思います。
今ごろになって衆議院を通過しました法案のどこをどのように修正すべきなどということを細かく申し上げることは、これは私自身の考えですが、専門家としては余り建設的なやり方ではない。専門家というのは、常に、いかようにすればよりよい状態になり、そのことによって国民と国家の安定が維持されるのかという観点に基づいて建設的、生産的な意見を述べるのが我々の役目であると考えます。
かかる観点から、現在御審議いただいておる法案について二、三点、私の所感がもしあるとすれば、それは次に申し上げるとおりです。
一つは、第一条「目的」という衆議院において修正された法案の内容についてです。
言うまでもなく、第一条の「目的」という文章は、前半に定義について述べ、後半に周辺事態法の目的について言及していると考えますが、前半の定義のところで、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」という言葉を周辺事態の定義として例示的に挙げたことは、この周辺事態がどういうものであるのかということについて国民に必ずしもよくわからなかった過去一年にわたる議論をわかりやすくしたということになると思います。その点について、私はこの新しい修正はそれなりに意味があるのではないかと考えます。
しかし、一つだけ私が懸念することは、例示とはいえ、我が国周辺に起こる事態で、我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態の中にかかる例示を入れたことによって、かねてより政府の方からお示しの幾つかのシナリオあるいはケースというものの中で例を引けば、我が国周辺で大変多量の難民が出る、あるいはある特定の国の内政や社会に非常に大きな混乱が生じて、そのことによって周辺事態と認定し必要な措置をとらなければならないような事態になったときに、かかる第一条の冒頭にある修正をそのまま読むと、仮にいかように多量の難民が出ても、それを放置しても我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれがある事態とは考えにくいようなケースがあった場合、一体周辺事態というものをこのように例示することによって、いわば幾つかのこれからのシナリオのうち排除されるものがあり得るのではないかということにいささかの懸念を持つわけです。
もちろん、これは法の解釈としては、例示的に入れたものでありますので、本来の第一条の定義については定義そのものに変更をもたらさないということはそれはそれとして、この第一条の解釈をめぐって今後いろいろな議論が起こり得るということがあるとすれば、当初の目標どおり、わかりやすくするためにこの条文の修正を入れたことが適当であったかどうかという問題が起こり得るのではないかと考えます。
第一条の後半に日米安保条約の効果的な運用に寄与するという条文の修正が入れられたことは、この全体の法律が日米防衛協力に基づく日米協力を行うものであるという趣旨にかんがみれば適切な修正であったと考えますが、しからば、例えば捜索救助活動で、日米安保条約の枠内ではとらえられない米軍人以外の戦闘員に対する捜索救助をどのように法的に担保していくのかということは、残された課題なのではないかと思います。
その他、この現在の修正された法案についていろいろな所感があるわけでありますが、むしろ個々の問題について細かく触れるより、今後この法案を我が国としてどのようにとらえ、どのように扱っていくのかということが、今後の大きな課題であると思います。その点について三つ申し上げたいと思います。
第一は、できるだけこの法案を速やかに成立させ、その後、この法案の趣旨、内容、そして地方公共団体や一般の我々国民がいかような協力や支援を求められるのかということについては、必ずしもまだ国民の中に浸透しているわけではありませんので、この点について広く国民にわかりやすく、一般の地方公共団体や国民がこの法律に基づいていかなる支援や協力を求められることになるのかということについては十分な説明も行い、地方議会にも十分な説明が行われ、場合によってはどこかでモデルケースの演習をして、一般の国民にもう少しわかりやすく、広くこの法律に基づく国民の協力と支援が求められる必要があると考えます。
これが第一の点であります。
第二は、この法案はガイドラインを実施するためのいわば前段部分でありまして、周辺事態の法整備はこれでようやく終結を迎えるとしても、問題の日本に対する直接の武力攻撃があった場合の日米協力は、いわばこの法整備の中の奥の院ともいう中核的な問題で、余り言葉が適当とは思いませんが、有事法制あるいは領域警備といった分野の法整備をできるだけ早く着手し、これを速やかに成立させるということが、次の段階として重要なのではないかと考えます。
最後に、この法案の中で、いわば残された船舶検査については、今後いろいろなまだ議論が残っていると思います。
そもそも船舶検査とはいかなる活動をいうのか、あるいは国連決議や旗国主義との関係においてこれをどう考えるのか、あるいはこの船舶検査の際の武器の使用等いろいろな問題については、法理論上のみならず実態として、このようないわば日米協力というものからやや離れて、広い意味での国連協力というものを実際の法律としてどのような形でつくり上げていくのかということが、もう一つの大きな課題であります。
日米防衛協力というコンテキストでもともとの法案に入っていた船舶検査を外すことによって、日米協力というよりむしろ広い意味での国際協力あるいは国連協力というコンテキストでこの法律が、実態として我が国の船舶検査活動に意味のある貢献ができるよう法整備が進められることがぜひとも必要であると考えます。
以上がこの周辺事態安全確保法に関する私の所感でございます。
ありがとうございます。(拍手)