森英樹の発言 (日米防衛協力のための指針に関する特別委員会)

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○参考人(森英樹君) 名古屋大学の森でございます。
 私は、法律学、とりわけ憲法学を専門にする研究者としまして、本委員会で審議中の指針関連法案について、国民的な不安にも留意しつつ、専ら法的な観点から意見を申し述べます。
 本件につきましては、国際政治とか外交とかあるいは安全保障など、さまざまな観点からの議論が可能でありますが、何よりも国会が行う立法でございますので、最高法規たる憲法に違反しないか、あるいは手続、内容の両面で立憲主義、法治主義に背くことにならないかということが問われるわけであります。この点をおざなりにしたままでの国家意思決定は、それだけで立憲主義、法治主義に背くことになりまして、ひいては国際社会において名誉ある地位を占めるということから遠のきます。
 さて、最初に触れておきたいのは、衆議院でなされました修正可決の経過についてです。
 院の独自性ということからすれば、この参議院には関知しないところかもしれませんが、あの経過自身が指針関連法案の性格をある意味ではあらわしている、暗示しているように思えますので、一言最初に触れておきます。
 二点についてのみ触れます。
 一点は、一部政党によるいわゆる修正協議が最後の最後まで正規の委員会の外で非公式あるいは非公開で進められ、修正内容は、後述いたしますように、法案の根幹にかかわる変更を含んでいたにもかかわらず、その修正協議が整うや否や、正規の委員会審議はほとんど経ないまま、脱兎のごとく採決されたことであります。
 もとより、政党政治ですから政党間協議の存在意義は否定すべきではありません。しかし、法案審議自体は、あくまでも国会内で公式に国民に公開された形で行うのが国民代表議会制の最低限の要請であります。
 それからもう一点は、こうした慌ただしい修正になった背景に、四月二十九日からの首相訪米の手土産にしたいということが政府・与党筋からも公然と語られておりました。
 自然成立があり得る条約は別といたしまして、衆議院を通過しただけの法案がいわば手土産になるというのは、参議院制度を軽視するも甚だしい言い回しでありまして、本参議院からも抗議があってしかるべきであったと思いますが、一国の根幹にかかわる国内法審議日程が首相訪米日程なるもので左右されるというのも主権国家には恥ずべき振る舞いであります。
 以上の二点をあえて取り上げますのは、問題の対米軍事協力システムの発動が実はこういう形で進行するであろうということをはしなくも示したと思われるからであります。
 すなわち、第一点で見せました本来の国会審議よりも非公式、非公開の政党間折衝が重視されて、そこで決着すれば議会決定が即座にとられるというその姿には、指針関連法案審議の焦点とされておりました国会関与のその関与の実像をかいま見る思いがしますし、第二点で見せました対米配慮が国権の最高機関の審議日程さえも拘束するというその姿には、要するに対米配慮がすべてを凌駕することをかいま見せたように思われるからであります。これを見て国民的不安は一層増幅されたに違いありません。
 さて、周辺事態法案は、修正されたことにより法的な問題点をさらに深刻に示したと思われます。したがって、一層の審議が本院でも必要かと思います。
 第一に、自衛隊の行う船舶検査活動関連規定をすべて削除し、残った後方地域支援及び後方地域捜索救助活動の実施の可否についてはこれを国会承認事項とする修正を行ったため、法案の原案は、第七条を全文削除し、多くの条文で項、号、文言にわたる大幅な削除、変更がなされ、他方では新条項も新設され、条文も動くといったようなことが起こっておりまして、外見はもとより法案の構造そのものが大きく変わってしまいましたが、そうであるならば、編成し直された条項の相互関連も含めまして法的に厳密な審議を必要とするはずであります。
 それから第二に、周辺事態の定義にかかわりまして、第一条には「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」という例示文言と、日米安保条約の効果的な運用に寄与しとの文言を目的に挿入する修正がなされましたが、これは政府・自民党の従来の説明からしても、法案の建前を根本的に変えた可能性が強いと思われます。
 日本有事ではない周辺事態を準有事とみなしましてこの種の例示文言を挿入することは、かねて自由党の要求してきたことでありましたが、政府・自民党は審議過程でも、この要求をのめば集団的自衛権の行使は違憲とする従来の政府解釈に抵触するといたしまして、他国間の武力紛争である周辺事態に際しての米軍支援は自衛権行使の問題ではないとしつつ、この自由党の要求には法案の前提が崩れるとして拒否してきたという経過があります。したがいまして、この修正は政府解釈の従来の建前を崩したことを意味し、集団的自衛権の行使に法的筋道を開いたことになります。法文上でも、自衛隊法七十六条の防衛出動の要件である「外部からの武力攻撃のおそれ」とどのように峻別されるのでありましょうか。
 また、周辺事態法案は現行日米安保条約の枠組みさえも突破するという批判がありましたが、安保条約の効果的運用といった、政策文書の文言ならともかく、法的文書の文言としては極めて画定力の乏しい文言を目的に挿入することで、効果的運用のためには安保条約の枠組みを超えるということをはしなくも自己告白したに等しいと私には思われます。周辺事態措置法は、ますます安保条約の枠組みからさえも遠ざかる、あるいはそれを超える懸念を与えております。
 第三に、かねてから批判のあった脆弱な国会関与に関しましては、新たに第五条が置かれて、「自衛隊の部隊等が実施する後方地域支援又は後方地域捜索救助活動」は、その実施の可否のみが原則として国会の事前承認事項とされました。しかし、「緊急の必要がある場合」には、事後の速やかな国会承認、そして「不承認の議決があったとき」は速やかに終了させなければならないとしています。一見したところ、自衛隊法七十六条の防衛出動の国会承認制度に似ておりますが、自衛隊法上の場合は、ただし書きにおいて「特に緊急の必要がある場合」とされ、国会の事後承認も直ちにとされておりまして、「不承認の議決があったとき」も直ちに撤収とされておりまして、これら要件の強弱に微妙以上の差異があることは看過できません。
 なお、自衛隊法の防衛出動には、衆議院解散時の場合をも想定した参議院緊急集会での承認の制度が定められているのに、修正法案には同じような規定がありません。これはいわば法の欠缺ではないのでしょうか。いずれにせよ、このような修正がなされても、周辺事態が常に緊急の場合とされる可能性が強いことにかんがみますと、自衛隊出動自体への国会による事前統制は依然として脆弱なままであります。
 また、憲法の平和主義原則はもとより、地方自治や国民の権利義務にも重大な影響のある基本計画は、なおも国会の立憲的統制を受けることがないままにされています。国民的不安は何ら解消されていません。
 第四に、自衛隊の部隊等の自衛官による武器の使用につきましては、原案をむしろ拡大しまして、後方地域支援においても認める修正を行いました。後方地域支援は、戦闘地域と一線を画した後方地域であるがゆえに安全という論理から武器使用規定を置いてこなかったのですから、ここでも法案の前提が崩れたことになります。
 後方地域捜索救助活動は自衛官、自衛隊のみの活動ですから、武器使用によって防護すべき生命または身体の持ち主である「自己又は自己と共に当該職務に従事する者」とはともに自衛官でありましょうが、後方地域支援の場合は国家公務員、自治体職員、民間人の職務や業務も想定されておりますので、どこまでが「自己と共に当該職務に従事する者」なのかが新たに問われます。いずれにせよ、後方地域支援への武器使用規定の拡大は、さらに一気に国民の不安を高めることになりましょう。
 それにしましても、審議、解明すべきでありながら残されたままの問題点は余りにも多過ぎます。周辺事態概念の周辺について、提案者は地理的概念ではないという態度を維持したままで、自由党の見解とはずれがあるように見受けられます。さきの修正文言の含意につきましても三党間でずれがあるようですが、いずれにしましても軍事法の規定は、その性格上一義的に明確にしておかないと危険であるという常識からして、あいまいな規定が余りにも多過ぎます。
 あるいは、自衛隊による邦人等の輸送の強化を内容とする自衛隊法改定案というのは、船舶、ヘリの投入と武器使用規定の新設によりまして、地理的限定も、それから国会関与もない自衛隊の本格的な海外出動を可能とする改定案になっておりますが、その重大さに見合った審議がなされているのでありましょうか。
 また例えば、細かいことのようですけれども、指針では、日本有事には個別的自衛権発動としてのロジスティックサポートという用語を使ってこれを後方支援と訳し、しかし周辺事態には自衛権発動とは無縁の安全なリアエリアサポートという造語を当てましてこれを後方地域支援と呼びつつ、両者を厳格に使い分けておりましたし、その使い分け原則からしまして、周辺事態法案においても後方地域支援という用語しか当てておりませんが、この建前からしますと、日米ACSAは改定によって周辺事態に際しての後方支援における物品役務の相互提供ということを行うことになり、その論理的自己矛盾も放置されたままになっております。
 その後方地域支援を定めた周辺事態法案の審議では、当該支援が敵性を帯び、報復攻撃あるいはテロ攻撃を受けてもやむを得ない兵たん支援であることがようやく国民的に明らかになり始めたばかりであります。これとの関連で、国民の最大の関心事になりつつあります自治体協力、国民協力についても、その内容、手続ともに依然として不透明なままであります。
 四月二十三日でしたか、政府はようやく自治体、民間の具体的協力項目例というのを示しましたが、その審議も本院で行われなければならないはずです。参議院の審議は、これら積み残しの問題とそれから修正によって生じた問題によって衆議院を上回る審議をぜひとも必要とするはずであります。
 最後に、指針関連法案は、自衛隊をいわば米軍の兵たん部隊として組み込むだけでなく、自治体、民間協力と相まって、日本全土をいわば不沈空母化する方向に向かわしめます。空母は攻撃用艦船にほかならず、経済力と軍事力で世界第一位の米国と第二位の日本が一体化し、こうした軍事的プレゼンスでそれこそ周辺を威圧するシステムを構築することは、かえってアジアの緊張を高め、日本国憲法の目指す平和環境構築とは正反対の方向にかじを切ることを意味しております。
 仮に日本の平和と安全に重要な影響を与える事態に対する軍事的対処を構想するにしましても、提案者や修正者は、日本が官民挙げていわば不沈空母となる、場合によってはコソボ紛争のごとき事態にもなるというその覚悟を正面から国民に求めてその審判を仰ぐのが筋でありましょう。その意味では森本参考人がおっしゃった「今後の対応」の一のところと私はその趣旨において同じであります。
 参議院は、独自の院としまして、この法案のそうした深刻な意味をきちんと示すべきであります。そのためにも拙速を避け、良識の府、理性の府にふさわしい参議院独自の慎重審議を強く望みたいところであります。
 この参考人質疑のチャンスも決して通過儀式にはしないでいただきたいということを申し述べて、私の意見陳述を終わります。(拍手)

発言情報

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発言者: 森英樹

speaker_id: 4900

日付: 1999-05-13

院: 参議院

会議名: 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会