阿藤誠の発言 (厚生委員会)
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○阿藤参考人 国立社会保障・人口問題研究所で所長を務めております阿藤でございます。
私は、長い間人口問題の研究に携わってきた者でありまして、今回の児童手当法の改正に関連いたしまして、人口問題研究者の立場から、全般的な意見を申し述べたいと思います。
さて、今回の児童手当法の改正案は、その趣旨説明の中で、「総合的な少子化対策を推進する一環として」という説明がございます。そこで、今日の少子化現象につきまして、少し考えてみたいと思うわけであります。
日本における少子化、この少子化というのは必ずしも専門用語ではございませんが、意味するところは、人口置きかえ水準以下への出生率の低下による子供数の減少という意味だと思いますが、この少子化は七〇年代半ば以降の現象であります。この間、合計特殊出生率は、七三年—九八年の二十五年間に二・一四から一・三八まで、実に三六%低下しております。このような少子化というのは、程度の差こそあれ、他の先進諸国並びにアジアNIESにおおむね共通する現象でもあるわけであります。
既に日本で四半世紀続きました少子化現象のために、今後、少なくとも二十一世紀の前半については、生産年齢人口の大幅な減少、人口高齢化の急速な進展、さらには日本人口の減少が続くと見られております。このような日本人口の一大変化というものは、日本の経済社会に対して大変大きな影響を与えると見られておりますが、とりわけ、経済的にはおおむねマイナスの影響を及ぼすのではないかというふうに考えられております。
この少子化の人口学的な要因と申しますのは、主として、未婚化、すなわち未婚率の上昇、そしてその結果としての晩婚化、すなわち平均初婚年齢の上昇、さらには晩産化、すなわち平均出産年齢の上昇でありますが、最近になって、結婚後の出産にもおくれが見られ始めているというデータが出てきております。
日本は、この未婚化、晩婚化、晩産化の点では他の先進諸国と共通しておりますが、同棲、婚外子の少なさ、二十歳代前半の出生率の低さの点で、他の先進諸国とは大きく異なっております。
このような未婚化、晩婚化、晩産化、少子化の社会経済的背景は大変複雑でありますが、これについては四つほどの見方があると思われます。
第一に、未婚の男女のパートナーづくりがうまくいっていないということであります。私どもの調査によれば、異性の友達がいないと答えた二十代の未婚の男女は四割から五割に達します。
第二番目は、未婚の男女が親元を離れず独身生活をエンジョイし続けている、そういう見方であります。かつては独身貴族と言われておりましたが、近年ではパラサイトシングル、すなわち親に寄生する未婚者、こういうふうな言われ方もされております。
第三には、女性の社会進出の現象と、企業、家庭、制度、文化などの既存の社会システム、もう少し言えば男女役割分業型のシステムとのあつれきが生じ、仕事と家庭の両立の難しさが顕在化しているという見方であります。
第四番目は、子供は親にとって、かつては家の宝、経済学的にいいますと親にとっての生産財、資本財であったということでありましたが、近年、サラリーマン化社会になるにつれて、子供は親にとって消費財化あるいは消費財的な性格を強めている。そのため、親が子育てのコストに大変敏感になっている一方で、社会全体として、結婚し子供を持つことの必要性が弱まっている。そういうことも背景にあろうかと思います。
さて、政府による少子化現象への対応でありますが、何よりも、一九九四年のカイロ会議において国際的合意を得ましたリプロダクティブライツを含む人権の尊重ということが大前提であるべきであります。
リプロダクティブライツとは、子供を何人、いつ、どういう間隔で産むかを決めるのは個人並びにカップルの権利である、そういうものであります。それゆえ、少子化対策の名のもとで、独身税であるとか親子同居税であるとかというような懲罰的な税の導入をしたり、あるいは、近代的な避妊手段や人工妊娠中絶を制限するなどの施策は決してとるべきではないと考えております。
政府による少子化への対応策は、国際社会、とりわけ、同じような少子化現象を経験しております先進諸国に共通する普遍的な理念にかなうものであるべきであると考えます。
具体的には、第一に、女性の社会進出を前提にした男女共同参画社会の推進にかなう施策、すなわち、リプロダクティブヘルスの視点に立った教育、保健施策、育児休業制度、公的保育サービスの充実などであります。第二には、子供公共財的観点、すなわち子供は社会の宝という視点に立った、子育て環境の改善に資する施策ということでありまして、この二点が重要であると考えます。
この点で、昨年十二月十七日の少子化対策推進関係閣僚会議において少子化対策推進基本方針というものが出されましたが、この理念と内容というものは大変結構であると考えます。
すなわち、その中で少子化対策の具体的視点として、第一に、結婚や出産は当事者の自由な選択にゆだねられるべきである、第二に、男女共同参画社会の形成や、次代を担う子供が心身ともに健やかに育つことができる社会づくり、三点目に、社会全体の取り組みとして、国民的な理解と広がりを持って子育て家庭を支援することと定めておりますが、これは政策の方向性として正しいというふうに思います。
今回の児童手当法の改正案は、費用負担の点で従来の制度とやや整合性を欠くものとはいえ、支給対象年齢の拡大を図った点で、子供公共財的視点に立った、子育て環境の改善を目的とする経済的支援の強化策の一環と考えられ、政策の方向性としては理解できるものと考えます。
ただし、政府による子育ての経済的支援というものは、今回の児童手当法の改正では到底十分とは言えないと思います。先進諸国では、高齢化の進行とともに福祉施策の中心が高齢者に置かれ、子供あるいは子育て家庭が等閑視される傾向があるとも言われております。現に、日本でも一九七三年—九六年の二十三年間に、六十五歳以上人口一人当たりの高齢者関係の社会保障給付費は実質で五・八倍になっているのに対して、十五歳未満人口一人当たりの児童手当給付費は実質で一・三倍にしかなっていないというデータもございます。
今後、もう少し時間をかけて、児童手当、税制における扶養控除、奨学金制度、企業福祉としての扶養家族手当などを含めて、子育ての経済的支援を総合的に検討するとともに、その一層の充実を望むものであります。
以上です。(拍手)