池本美香の発言 (厚生委員会)
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○池本参考人 さくら総合研究所の池本と申します。
主に諸外国の制度との比較によって、日本の少子化について調査研究をしております。その一環として、昨年、児童手当についてレポートをまとめましたので、本日は、その内容をもとに、児童手当の今後の方向について意見を述べさせていただきます。
欧州諸国の児童手当制度と比べまして、日本の児童手当は支給期間が非常に短く、さらに、支給に当たって所得制限が設けられています。このため、子供一人当たりの児童手当給付額の水準は欧州諸国と比べて非常に低くなっています。
お配りしました資料の図一は、欧州諸国との比較に当たりまして、高齢者一人当たりの年金給付額に対する子供一人当たりの児童手当の水準について見たものです。イギリスやスウェーデンなどでは児童手当の水準が年金の一〇%以上になっていますが、日本では一%に満たない水準です。そして、この年金給付水準に対する児童手当の水準と合計特殊出生率の関係を見ますと、大まかには、児童手当の水準が高い国では出生率も高い傾向にあることがうかがえるかと思います。
考えてみますと、年金がなければ、児童手当がなくても人々は老後の保障のために子供を持とうとします。ところが、公的年金が整備されて、子供がいなくても老後の生活が保障されるようになっていますので、子供を持つことは経済的には損になり、最近では産み損といった言葉も我々の間ではよく聞かれるようになっています。ですから、児童手当の額が諸外国と比べて低い点だけを取り出して議論するというよりは、年金の充実度合いに対して児童手当が十分なのかといった視点で議論する必要があると思います。
日本以外にもイタリアやスペインなど出生率が低い国では、年金に対する児童手当の水準も低い傾向がうかがえます。こうして見ますと、児童手当の水準の低さが少子化の一因となっている可能性が考えられます。ところが、年金の方が物価スライド制になっている一方で、児童手当はそのような仕組みにはなっていないために、ほうっておくと年金と児童手当の格差はさらに広がっていきます。
少子化に歯どめをかけるという意味からは、年金に対する児童手当の水準をイギリスやスウェーデン並みの水準まで引き上げ、さらに、物価スライドなども考慮して支給額を定期的に見直していくことが必要であると思われます。そのためには、財源の問題はありますが、現在検討されている就学前までではなく、欧州並みの十六歳や十八歳程度まで支給期間を延長することや、所得制限の廃止なども検討されるべきだと考えています。
児童手当を拡充することに対する反対意見としましては、ばらまきであるといった批判がありまして、また、現金給付よりも保育サービスの充実に力を入れた方が出生率の向上には効果的であるといった見方があります。これについては、昨年調査で訪れましたノルウェーやドイツの状況などを見ますと、児童手当は決してばらまきなのではなく、むしろ保育サービスにのみ補助することの問題について考える必要があると思います。
例えばノルウェーは、出生率が一・九程度と先進国の中では高い方に位置しますが、児童手当の支給期間が、この五月から十六歳から十八歳にさらに引き上げられることになっています。ドイツは、確かに児童手当の水準が高い割に出生率は依然として低いままですが、そういった状況の中でも児童手当の支給額はさらに引き上げられる予定になっていますし、また、児童手当の支給に所得制限を設ける案については、裁判所の方で、それは憲法違反であるという判決が出たという話も現地で聞いております。
両国とも、児童手当が、少子化対策としてではなく、社会保障制度の体系の中で、年金制度同様、普遍的な制度として位置づけられており、その水準も随時見直されている状況にあることがうかがえます。そもそも少子化対策、すなわち、出生率の向上を目的として施策を打つということは、人口爆発などの懸念もある国際社会においては議論のあるところだと思います。ですから、あくまで年金と児童手当のバランスが、子供を減らす方向ではなく、子供を持つことに関して中立的である状態を目指して、児童手当の充実を図っていくべきではないかと考えています。
児童手当よりも保育サービスの充実を図るべきという意見につきましては、子供を保育所に預けて働くという選択肢だけでなく、自分の手で子供を育てたいという選択肢についても公平に支援していくべきではないかと考えます。
ノルウェーでは、一九九八年から、一、二歳児の親を対象とした現金給付制度が児童手当とは別に導入されました。これは、保育所に出している国の補助金を、保育所を利用しないで自分で面倒を見る場合には親に対して現金で支給するというものです。また、ドイツのバイエルン州では、親が働いているか否かにかかわらず三歳までは児童手当とは別に養育手当を出し、逆に、保育所には補助を行っていません。どちらも、親が働いているかどうか、保育所を利用するかどうかで受けられる補助金の額が変わらない公平な仕組みになっています。
保育サービスといった現物給付ではなく、親に直接現金を給付することについては、保育所の整備をおくらせるといった批判や、女性を家に閉じ込めるものだといった批判も現地ではあったとのことですが、同時に、親に対して子供と一緒に過ごす時間を保障しようという考え方が支持されていて、親が働く、働かないにかかわらず公平に支援していく動きになっています。
日本では、実質的な現金給付である扶養控除は、高所得者ほど恩恵を受けるという側面があります。また、育児休業給付は、フルタイムで継続して働くごく限られた人対象の制度です。普遍的な児童手当の拡充には批判的な声が強い一方で、働く親のための育児休業給付を引き上げることについてはほとんど異論がないという状況については、個人的に非常に疑問を感じています。親に子育てをする権利を与える施策として、日本でも児童手当を初めとする現金給付をふやし、多様な子育てを公平に支援するという視点が求められていると考えています。
保育所の充実だけに力を入れれば、親が子供と一緒に過ごす時間は短くなり、親は労働力として期待される一方で、逆に子供を教育する力が奪われてしまう可能性もあります。保育所を整える方向は税金を納める人をふやすという声もありますが、少子化対策が経済対策の視点からだけ語られるべきではないと思います。
児童手当の拡充に反対するもう一つの意見として、出生率低下の原因は未婚率の上昇にあるので、児童手当は意味がないという批判があります。しかし、未婚化が進んでいるからこそ、むしろ児童手当が求められている側面もあると考えています。だれもが同じように子供を産むのであれば、児童手当の財源を負担する人も子供のいる人になって、負担する額と受け取る額が同じになり、制度としての意味は余りないとも言えます。ところが、子供のいない人が多くなれば、児童手当制度により、子供のいる人は自分が負担する額以上の恩恵を得ることができます。
現在、児童手当の財源については、事業主負担に対する反対の声が一部経営者団体などから上がっているようですが、確かに自分たちの年金を負担してくれる世代を世代全体で育てるという意味からすれば、今後は、むしろ個人負担、すなわち、被用者負担の導入も検討の余地があるものと思われます。
ところで、最近は出生率の低下に関する新しい動きとして、先ほど阿藤先生からもお話がありましたが、未婚化ではなく結婚したカップルが子供を持たない傾向が出てきていることが指摘されています。これについては、企業を取り巻く経済環境の大きな変化を踏まえ児童手当を考える必要があることを示唆していると考えます。
そもそも我が国において児童手当の導入が他の欧州諸国と比べてかなり遅く、また導入後もほとんど充実されなかった背景には、企業に家族手当があり、また終身雇用制や年功賃金のもとで、特に子育ての経済的負担が意識されなかった面もあったと思われます。
ところが、既に家族手当を支給する企業の割合は減っております。同時に、終身雇用や年功賃金といった安定的な職を得られる可能性も低くなっています。景気の低迷とともに、親の経済的理由で高校を中退した人がふえていると聞いています。若年層の失業率も高く、これまでは児童手当がなくても企業に就職して子供を持つ生活がイメージできましたが、それが困難な環境になる中、企業にかわって、これからは児童手当が子供を持つ生活を支えていく時代になりつつあるのだと思われます。
また、児童手当とあわせて、教育費の問題も議論すべきではないかと思います。
日本は、児童手当の水準が低いことに加えて、教育費の私費負担割合も諸外国と比べて大きくなっています。奨学金の充実を初め、私学助成のあり方、公費で運営されるチャータースクールの可能性など、教育の分野でも多様な選択肢を公平に支える仕組みが期待されるところです。
ノルウェーでは、児童手当は毎月原則として母親の口座に振り込まれると聞きました。子供を持つということと児童手当はほとんどセットで、人々の生活の中に位置づけられています。こうした現金給付は、税制の扶養控除と比べて目に見えやすく、子育てに対する社会の関心を示すものになっていると思います。ノルウェーでは、外国から養子縁組してまで子供を育てたいという人も多いと聞きましたが、そうした行動を支えている中心的な存在が児童手当であると言えます。
以上でございます。(拍手)