小此木政夫の発言 (外交・防衛委員会)

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○参考人(小此木政夫君) 小此木でございます。
 国内情勢を中心に、首脳会談、日朝交渉等についてお話ししたいと思います。
 韓国、北朝鮮の国内情勢ですが、韓国に関しましては、御承知のように四月十三日に総選挙が行われました。これは、選挙の三日ほど前に南北首脳会談のニュースが公表されたということで、大変その影響等が注目された、そういう選挙でございました。
 選挙の分析をするのがこの趣旨ではないとは思いますが、簡単にそのあたりから始めたいと思います。今回、韓国での総選挙の一番の大きな特徴は、慶尚道と言われる地域、韓国の南東部の地域を基盤とするハンナラ党が非常に強い結束力を示したということではないかと思います。恐らく、その南北首脳会談のニュースもそういう意味では地域の結束力を高めたということが言えまして、与党にとってはプラスとマイナスと相殺されたようなところがございます。つまり、首都圏ではプラスに作用したけれども、野党の強い地域ではむしろ警戒心が高まり結束を促してしまったというようなところがございます。その結果、ハンナラ党が過半数に近い議席を確保することになりました。もちろん、与党の民主党も善戦いたしまして議席を大幅に伸ばしたわけで、全体としてはどうやら二大政党制に近いようなものが韓国の中に出現したような気がいたします。
 これがそのまま定着するかどうかに関しては、次の大統領選挙と次の総選挙ぐらいまで見てみないと何とも言えないのでありますが、しかし、私が漠然としたイメージで描いておりますのは、全羅道を中心とする民主党、これは革新色が強くて改革志向性の政党ですが、北朝鮮政策に関してはかなり穏健で柔軟である、大きな政府を志向するような、そういう政党になりつつある。他方、慶尚道を中心とするハンナラ党は、保守的で経済的には自由競争を信奉する、そして北朝鮮に対してはやや強硬である、小さな政府を志向する。ちょうどアメリカの民主党と共和党のような関係、そういう二大政党制のようなものが輪郭をあらわしてきた。ただ、韓国においてはやはり地域の要素というのが非常に大きくて、当分そこのところは変わらないだろう、こんな気がいたします。
 南北首脳会談関連のニュースですが、全般的には国民に歓迎されている、かなり歓迎されていると言っても間違いないと思います。ただ、総選挙となりますとそれとこれとは別というようなことで、そのことが票には直接結びつかなかったということではないかと思います。
 いま一つ、選挙の影響で次の大統領選挙の展望のようなものが、やはり輪郭だけですが、見えてまいりました。この選挙で勝利したと言っていいんでしょうが、このハンナラ党の総裁の李会昌さんが慶尚道の票を固めたことによって次の大統領候補の最も有力な候補として登場したということが言えるだろうと思います。また、民主党の側では、選挙対策委員長を務めた李仁済さんがやはり有力な候補として登場してきているように思います。二人だけということはなくて、またさらに何人かの人が出てくると思いますが、しかし、三金対立から二李対立へというような様相が出てきているということも御報告申し上げなければいけないと思います。
 国内の情勢から見ました場合に、今後の南北首脳会談に与える影響ですが、私は韓国政府には二つの制約があるというふうに見ております。
 まず第一は制度的な制約でございまして、これは野党のハンナラ党が百三十三という議席をとったことによって、やはり金大中大統領も野党の協力なしに南北の首脳会談及びその後の経済協力というものを進めることができにくくなってきたのではないかという気がいたします。
 当初は、首脳会談開催のニュースで、これを利用して民主党が圧勝するというようなそういう予想もございましたから、そういうふうになった場合と比べまして若干様相が違うのではないかという気がいたします。大規模な経済援助をやるということになれば予算上の措置が必要になるし、予算上の措置が必要になれば国会でやはり協力を得なければならない、こういう意味合いでございます。
 いま一つは、能力に関するものですが、選挙戦の最中に言われましたのは、中東特需に匹敵する、あるいはそれをはるかに上回るような北朝鮮特需がある、こういう言い方でございました。と申しますと、中東特需は韓国の場合約五十億ドルと言われておりましたから、それを上回るような経済交流が北朝鮮との間に生じる。それが政府支援によるものであれ民間の交流によるものであれ、そういうことになります。果たして今の韓国にそれだけの財政的な基盤があるのかということになってきますと、やや首をかしげるところもございます。それは韓国の幾つかの経済研究所等がそのことを既に指摘しております。そういったことであれば、やはり国際機関とかあるいは外国の協力も必要とする、そういう事態が出てくるのではないか。このあたりは日朝交渉等にも影響してくる部分ではないかというふうに見ております。
 さて、南北首脳会談でございますが、これにつきましては後ほど伊豆見先生から特に対外的な部分について十分な説明があるというふうに理解しております。
 北朝鮮の国内の事情だけ申し述べておきたいと思いますが、大ざっぱに申しまして、政治の面でも経済の面でも北朝鮮の指導部が最も苦しかったのは九五年、六年、七年のこの三年でございます。これが最悪の時期であったというふうに申し上げていいと思います。そして、立ち直りといいますか再出発、あるいは正常化という言葉を使ってもいいんですが、そういう現象が見られ始めましたのは九八年以後です。これは端的に言えば、テポドンが上がって、そして最高人民会議が開かれた、そのころから北朝鮮の立ち直りが見え始めた、こういうことです。
 また、外国の目も変わってまいりました。その間、北朝鮮の早期崩壊論とか、あるいはミサイルの開発能力を本当に持っているんだろうかとか、そもそも金正日総書記という指導者は本当に有能な指導者なんだろうかというような、こういう議論が随分ございまして、それがわかるまでは北と交渉してもしようがないじゃないかというような議論がかなり力を持っていたわけです。しかし、これ以後、どうも北朝鮮はそう簡単に崩壊しそうもない、ミサイルまで上げているじゃないか、あのミサイルは我々が想像していたよりずっと進んでいる、金正日さんもなかなかやるじゃないか、こういうことになってきたわけです。このことは、ただ単に対外的なイメージだけでなくて、やはり政治経済体制の正常化というような、北朝鮮なりの正常化と言ったらいいかもしれませんが、そういうものが進行していくきっかけになっております。
 九八年の最高人民会議で金正日の指導体制というものがはっきりと確立されて、その後、政府機構の正常化が進んでおりますし、経済の面でも財政計画が発表されるようになりましたし、どうも工場やあるいは管理部門でリストラが盛んに行われているように見えます。経済計画を発表したいというところまで来ているように思います。あとは、労働党の創立五十五周年という年に当たりますので、党機構を何とか正常化したいというのが今の北朝鮮指導部の考えではないかというふうに見ております。
 そういう形で体制は再整備されつつあるのですが、しかし政治よりはむしろ経済の方にずっと大きな問題がございまして、つまりこの最悪の三年間に北朝鮮の経済規模はほぼ二分の一以下に縮小されているわけです。これは予算の面から見ましてそのようなことが言えるわけであります。その後、底打ちはしたけれども経済はなかなか回復しない、つまり底ばいのような状態が続いておりまして、いつまでこういった状態が続くのだろうか。二〇〇二年の金正日総書記の還暦までには何とか経済を立て直さなきゃいけないということになりますと、もうそういうタイミングは来ているということでございます。
 つまり、外部から資本や技術の導入ということを考えると、今韓国以外にそれをやってくれるところはないじゃないかというのが今回の首脳会談受け入れの大きな動機になっていたというふうに理解しております。
 したがいまして、首脳会談を受け入れるという決定、これは北朝鮮側が主体的に戦略的な判断のもとで行ったものだというふうに私は見ております。そのほかの要素もいろいろございますが、外交的なものもございますし、あるいは総選挙というタイミングをねらったという部分もございまして、いろいろな要素があるわけですが、金正日総書記自身の主体的なそして戦略的な判断だということになりますと、戦術レベルでのトラブルがあったからといってこの会談が流れるということはないだろうというふうに私は見ております。よほどのことがない限り、会談自体は実行に移されると思いますし、それが実行に移されれば相当規模の経済協力がやはり約束されていくということだと思います。
 したがいまして、南北関係において何が変わるのかということになりますと、もちろん二人の最高指導者が一堂に会するということは、それ自体大変大きな歴史的出来事でございますが、その結果として南北関係のどこが変わるのかというと、やはり経済的な相互依存関係のようなものが将来的に予想できる、こういうことなんですね。
 つまり、大規模な経済支援が入れば、それは北朝鮮側からすればやはり撤収されては困るものでありまして、毎年必要になってくるわけでありますし、韓国としても、民間の資金まで入るでしょうから、一たんそれを行えば途中でやめるわけにいきません。そんなわけで、ポイント・オブ・ノーリターンを超えるといいましょうか、南北の分断の歴史に新しい章が開かれる、このあたりが大きなポイントではないかというふうに見ております。そういった経済的な相互依存関係というのは、当然政治や安全保障の面にも影響を及ぼしてくるだろうということになります。
 そういうふうに見ますと、北朝鮮側が行った決断というものは相当リスクを伴うものであったということが言えるわけです。長い目で見ると、韓国に依存するような体質というのはできているわけでありまして、それは北朝鮮の今の体制の変質というものを迫りはしないか、こういう疑問が当然あるわけでありまして、あえてそれを知りながら決断したということは、かなり大きなリスクを伴っているということが言えますし、また韓国側のねらいというのは平和的にそれを達成したいというところにあるわけであります。
 さて、私に許されている時間がそれほどございませんので、日朝関係について少し申し上げておきたいと思うのでありますが、仮に南北の首脳会談が順調に行われて経済支援が大規模なものが入っていくということになりますと、最前申し上げたように、韓国は独力だけでなくてやはり日本の力をかりたいというようなことになってくるかもしれません。また、北朝鮮としても、韓国の支援だけでは足りないということになってくるかもしれません。
 要するに、私が申し上げたいのは、日朝交渉を早期に妥結させたいという欲求は、北朝鮮側からだけでなくて韓国からも表明されてくる可能性があるということです。両国の最高指導者たちが口をそろえて日朝交渉を早く妥結してくれないだろうか、そうすれば南北関係もやりやすくなっていくんだ、これで朝鮮半島情勢も変わるじゃないかというような趣旨の発言というものが両国の指導者から出てくるということが将来的には十分に考えられるわけであります。
 また、北朝鮮側が首脳会談の後、日朝交渉でどういう態度を示すのか。次の日朝交渉は首脳会談の前のようでございますが、それにしましても首脳会談のニュースが発表された後、どういう態度を示し始めるだろうか、この辺もポイントだと思うんですね。これをよい機会だと思っていることは間違いないわけですが、それでは日本との関係も早期に正常化したい、そのために拉致疑惑あるいはミサイルの脅威の削減というような問題に関しても思い切った譲歩をしてくるんだろうか。もしそうであれば、日朝交渉はかなりスピードアップするということになるわけですが。
 しかし、そうでない可能性もございます。今のような北朝鮮に有利に見えるような情勢を利用して、拉致疑惑やミサイルの問題を棚上げしたまま、何とか早期に国交正常化して過去の清算だけを、つまり補償だけを早く受け取りたいというようなことであるとすれば、これは日本側としてはそれほど簡単に受け入れるわけにはいかない。日本の世論、そのあたりに関しては警戒心を持っているように私には見えるのであります。
 したがいまして、そのあたりの扱い方というのが難しいわけでございまして、日本政府は朝鮮半島の二つの国から早く交渉を進めてくれと要請されながら、他方、国内からは、いや拉致問題はきちっと清算しなきゃいかぬという反対の声もある、その間に挟まって立場が難しいというようなことになりはしないかと危惧しているわけです。
 私の個人的な意見としましては、これは北朝鮮側の出方によるところが大きいわけですが、拉致問題や核疑惑、どこまでどういうふうにやったら日本側は日朝交渉を進めていいのかというようなあたりを十分に議論していただきたいというふうに思うんです。つまり、七件十人以上の方が一遍に飛行機に乗って帰ってくるというようなことはなかなか想像しにくいわけですし、またテポドンからスカッドミサイルまで一斉に廃棄されるなんということも想像しにくいわけですから、まず日本側としては何を求めているのか、それが満たされれば交渉は先に進むんだろうか、どれが絶対に譲ってはいけないものなんだろうか、このあたりの議論が重要ではないかと思うんです。そして、ある種の原則を持ってできるだけ柔軟に対応していただければと、このように考えている次第でございます。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 小此木政夫

speaker_id: 23216

日付: 2000-04-20

院: 参議院

会議名: 外交・防衛委員会